北の直虎 第一話 +浪岡城絵図
……蝦夷荒に伴う津軽の動揺は、もちろん南部氏にも届いた。大浦氏は南部家臣であるが、一度逆らったお家柄。力が弱まるのは大歓迎。逆にここらで大浦家に滅んでもらった方がいい。さして助けることはせず、浪岡代官のほうでも静観の方針を取った。
ただし南部家中にどうしてもこの事態を見過ごせない者がいた。彼女の名は尼の妙誓という。油川明行寺(後の弘前円明寺)の女住職で、油川城主奥瀬善九郎の妹だ。明行寺は真宗なので、同じ真宗(本願寺)を名乗る角兵衛という他国者がエゾ村を襲ったことが蝦夷荒という混乱のきっかけだと聞いて、とてつもなく憤慨した。女がてら気の強い彼女は、かつては近隣の領主に嫁いでいたが、三行半を突き付けられた出戻り。周りが宥めても、信じた道を突き進むのが彼女の性格……。どうにかして角兵衛をこの手で罰したいと思った。襲われたエゾ衆の悲惨さ。いまだ他国者はエゾ村の土地を狙っていると聞くし、大浦家は何も有効な手立てを打ち出せずにいる。……いやいや、明らかに悪いのは他国者であって、そのきっかけを作った角兵衛ではないか……。他国者らにいくら訳があろうとも、罰せずして事がおさまるか。そして御仏の心に叶うはずがない。
さて妙誓は出立の願いを出すべく、油川城へと上がった。日の蔭る涼しい頃合い。特に事前の断りもなく、ズガズガと兄のいる住まいへ。奥瀬はあきれた素振りで、そんな妹に “座れ” と一言。
「はあっ……お前も四十路になったというに、その性は治らないの……」
妙誓は笑顔で答えてやった。
「はい。でなければ、私は私でありませぬ。」
……しかし思い起こすと、妹のおかげで油川が平和になったこともある。滝本重行の一件の時、民衆を扇動して彼を追い出したのは妹だ。言っても聞かぬは変わらぬし、仏門の身なれば念仏でも唱えて大浦領内に入ればよろしい。もう兄は投げやりだ。
浪岡城絵図
https://18782.mitemin.net/i410960/
2018/02/15 挿絵に関して
出典元:特集 津軽古城址
http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/castle.html
鰺ヶ沢町教育委員会 教育課 中田様のご厚意に与りまして掲載が許されております。小説家になろうの運営様にも、本文以外でのURL明記の許可を得ております。
光信公の館
〒038-2725
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字種里町字大柳90
http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/
TEL 0173-79-2535
鰺ヶ沢町教育委員会 教育課
〒038-2792
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字本町209-2
TEL 0173-72-2111(内線431・433)




