蝦夷荒 第三話
エゾ村の頭たちは、城内の大広間に通された。ただし上座には誰もおらず、対面して武門の男一人と落ち着いた色の絹を着た男……深みのある茶色……正確には朽れた葉の色と紺色の帯。歳相応に皺を持つ穏やかな老人が待ち構えていた。
隣の武門の男より、あたかも権力を持つのはこの老人のようにも思える。そしてその二人に侍るは通辞。エゾ村と津軽衆は違う言葉を持つ集団だが、さすがに同じ土地に暮らす者同士であるので、若干のイントネーションは判る。だがこの場合は無駄な誤解を避けるため、大浦家側で用意したという。
さて、武門の男が第一声。
「私、大浦家臣で譜代の兼平綱則と申す。」
次に横を見やり、続けて話す。
「そしてこちらにいるのは、商家ながら昔より当家に並々ならぬ貢献をしておらす。鯵ヶ沢の長谷川理右衛門殿です。
理右衛門は穏やかにエゾ衆へ会釈をした。エゾ衆もつられて頭を下げる。兼平は長谷川の化け面を少し見て……さてと再びエゾ衆へ顔を向けた。
「話は事前に承っておる。この度の主犯もすでに知れた。この理右衛門の嫡男は三郎兵衛殿と申し、浪岡で分家し商売してなさる。そこでお抱えの生玉角兵衛という浪人が率いる集団がしでかしたと聞いた。」
そこでエゾ衆の頭の一人は “こちらに彼らの身柄を引き渡してほしい” と伝えるが……
「ところが角兵衛が申すに、大浦領内のエゾ村に盗賊が逃げ込んだらしい。我らはそれを追っていたが、エゾ村の者は彼らを匿ってしまった。公然と刃を向けてきたので、わが身の危険を感じ、争うに至った。そこ過程で火が村についてしまったことは申し訳ないと。」
……そのような話は聞かぬ。誰も申していない。エゾ衆の頭たちはその場に立ちあがり抗議した。だが兼平は……浮かぬ表情をしたまま。目を合わせようとしない。




