最後のギャンブル
朝帰りした俺は、高級ホテルの屋上で計画を練っていた。さんざんな夜だったが、うっかり女にならなかっただけ良しとしよう。今頃は、最高級娼館サキュバスの楽園のスイートルームには、氷漬けにされた絶世の美女?が飾られている。
プライドとか吐かす割に、雑な仕事をされて、ゲンナリだ。いや、待てよ。もしかしかすると脅されていたのかもしれない。真実を究明しようとする愚かな警官は消される。深入りするな。
この街には長くいられない。しかし、尻尾を巻いて逃げ出すわけにはいかない。
遊び人としての仕事が、まだ残っているからだ。それは、カジノの制圧。タイムリミットは、氷の牢獄が溶けるまで。
金には、困っていない。つまり、換金出来なくてもいい。カジノで大勝ちして、オーナーを泣かしたらミッションクリアだ。
残ったギャンブルは、すべてトランプだ。ポーカー、ブラックジャック、バカラ。順々に消化して、顔も名前も知らないオーナーを泣かす。時間は、ギリギリだが間に合うだろう。
しかしながら、前回のカジノで、1つだけ反省点があった。俺は学習する男だ。徒歩で行くのは駄目らしい。だけど、俺より足の遅い動物はちょっと乗りたくない。だから、ドラゴンに乗る。
ピュィィ
俺ほどになると口笛1つで友達みたいなのが来てくれる。高級ホテルの屋上で、のんびりと待つ。寝れる椅子とパラソルも出してくれて、リゾート気分だ。サングラスをして寝転びながら、フルーツがいっぱい刺さったイケてるドリンクを飲みながら時間を潰す。
ばっさ、ばっさ。
巨大な影が、ホテルの屋上に降りてきた。なかなかに、早いお着きだ。
「あの影は、なんだ?」
「空を飛ぶ影。こっち来てないか?」
「わぁぁ、エンシェントドラゴンだ。」
「ヤバイ、逃げろ!」
「お前さん、人気者なんだよな。いつも、周りが、うるさいんだよ。」
「ピュイ、ピュイイ。」
「はは、何言ってるか、分かんねぇよ。」
エンシェントドラゴンは、俺に顔を擦り付けてくる。艶めく金属のような鱗を撫でる。冷たくて気持ちいい。コイツも喜んでるWin-Winの関係だ。
「さて、カジノまで行きたいんだ。乗せてってくれ。」
「ピュイ。」
エンシェントドラゴンは、かなり高位な生き物だ。ごろごろ履いて捨てる程いる人間なんかとは格が違う。
歳を重ねると、人化まで出来る。コイツは若い雌の龍だ。人化したコイツの親が言うには、俺に惚れてるらしい。
人化すれば、人の域を超えた美女になるのは約束されている。俺は、魔物にも偏見は無い心の広い男だ。美女ならウエルカム。
だがよ、何年待てばいい?100年か、1000年か?もう少しで人化を覚えられるらしいが、時間の感覚が違うから、全然あてにならない。
さっき、友達みたいなって言ったが、認識に違いがあるんだ。俺は友達、コイツは恋人きどりみたいな。
空を飛ぶのは、気持ちがいい。人は本来、空を飛べないからな。魔法でも飛ぶ魔法はイメージしずらいのか珍しい。
人が、豆粒のようだ。それに、手を振って応えてみる。
「ふふっ、楽しいな。」
「キュイ、キュイ。」
「そうか、お前も楽しいか。よしよし。」
ひんやりとした鱗を撫でる。コイツも俺も気持ちいい。しかし、早く人化しねぇかな。そうすりゃ結婚したい。大本命だ。まっ、生きてる内に覚えるかは宝くじみたいな確率だろう。
退廃都市の中央のカジノが見えた。この世の全ての富を集めたかのような綺羅びやかな見た目。
重厚な入口付近で、何台も待機していた高そうな馬車が、俺らを見るなり、キャーッという歓声を上げながら道を開けてくれる。
屈強なドアマンが、俺に気付くなり、ドアを全開で開けて、平伏している。おいおい、俺は、ハイローラーだが、遊び人だぜ?分かってるのか。
カジノの入口に、着陸した。圧倒的な強者、龍を統べる龍、エンシェントドラゴン。観客の歓声は最高潮に到達し、馬は興奮して嘶き、本能のまま駆け出す。俺は、静かに、ひらり、と舞い降りて友達の鱗を撫でた。
「おっ、タクシーありがと。またな。」
「キュイ、キュイキュイ。」
「何言ってるか分かんないけど、お前、店に入れ無いじゃん。」
その言葉に納得しなかったエンシェントドラゴンが、くぉぉぉっと溜めを作る。マズイ、ブレスの予兆だ。
入口をブレスで壊して、拡げる気なのかもしれないが、このままでは、カジノが、物理的に潰れてしまう。そういうオーナーの泣かせ方は、希望してない。それなら、勇者でも出来るからだ。遊び人になった俺は、それを許容出来ない。
首をひょいと捻る。
ゴォォォォ!!!!!!
狙いがそれたブレスは、近くにあった魔王城の方向に飛んだ。超常のエネルギーの奔流は、結界を簡単に破り、魔王城にある天辺の2本の角の内の1本を消滅させた。
エネルギーの残留が、飛行機雲のように、空に残る。キラキラと残るその粒は、数時間で消えてしまうが、とても綺麗だ。
カジノの消滅を防げた。
「危ないだろ、めっ。」
「キュイ。」
「また、遊んでやるから。」
鱗にキスする。嬉しそうに、エンシェントドラゴンは、大空へ帰っていった。正攻法でカジノに挑む、また一つ、遊び人の道へと進んだ。
全開に開いたドアから、悠々とカジノに入った。「最後のギャンブル」を始めよう。いざ、決戦。




