第87話:運命の歯車(正史)と、第六天魔王の『事業計画(エゴ)』
第87話:運命の歯車(正史)と、第六天魔王の『事業計画』
地球・西暦1582年6月2日。
燃え盛る本能寺の境内は、かつての凄惨なクーデターの舞台から、大宇宙の存亡を懸けた時空を超越する特異点へと変貌していた。
全次元を平定し、大宇宙の完全独占を果たした大日本・多元宇宙商会の代表取締役、第六天魔王・織田信長。
そして、その「特異点」を消去すべく、歴史の絶対修正力のシステムをその身に宿した運命の代行者――【クロノス・光秀】。
『……信長様。貴方の「野心」という名のバグが、大宇宙のシステムをどれほど乱したか、ご理解いただきたい』
右目から不気味な赤いデータ光を漏らし、顔の半分を機械の歯車に侵食された明智光秀が、無機質な声で宣告する。
『人は決められた歴史の上を歩み、決められた場所で死ぬ。それが宇宙の平穏を保つための最も合理的なシステムです。……貴方はここで死に、本能寺の灰となる。それが絶対に覆らない【正史】なのです』
「フン。正史だの、システムだの。てめェは昔から、理屈をこね回して頭でっかちになる癖があったな、十兵衛」
信長は、愛用の『魔力火縄銃』を肩に担ぎ、燃え落ちる御殿の炎を背にして極悪な笑みを浮かべた。
「決められたレールを歩くのがお利口な社員だって言うなら、俺は最初からそんな会社には就職しねェ。……俺は俺の書いた『事業計画』でしか動かねェんだよ!」
絶対死の因果律
『……交渉決裂です。ならば、強制的に運命の帳尻を合わせるまで』
クロノス・光秀が、冷徹に右腕を振り上げた。
その瞬間、本能寺の上空を覆っていた「無数の巨大な歯車」がギシギシと逆回転を始め、空間の因果律そのものが物理的に歪み始めた。
『歴史修正プログラム起動――【絶対死の因果律】』
光秀の周囲に展開していた数万の「運命の執行兵」たちが、一斉に槍と鉄砲を構えて信長と蘭丸に殺到する。
だが、それはただの一斉攻撃ではなかった。放たれた凶弾と刃の軌道が、空間を無視して【信長の急所】へと強制的に書き換えられていくのだ。
避けることも、防ぐこともできない。「信長がここで致命傷を負う」という結果(歴史)だけが先に確定し、攻撃が後から吸い込まれていく理不尽極まる因果律攻撃。
「御館様! 空間の法則が狂っています! 刃の軌道が、あり得ない角度から……!」
蘭丸が『天叢雲』を構え、主君の前に立ち塞がる。
『無駄です、蘭丸。お前もまた、ここで主君を庇って死ぬのが「正しい歴史」なのですから』
光秀が冷酷に告げる。因果律の槍が、蘭丸の心臓と信長の首筋へ向けて、空間を「スキップ」して直接現れた。
しかし。
「……舐めるなよ、十兵衛」
信長の全身から、時空の歪みすらも焼き焦がす【漆黒の覇王色】が爆発的に噴出した。
「てめェらが書いた『過去の決算書(正史)』なんざ、俺の野心の前じゃあただの不良債権だ!!」
ガキィィィィィィンッ!!!!!
信長が愛刀『宗三左文字』を抜き放ち、因果律を無視して首筋に現れた槍の穂先を、純粋な「反応速度」と「覇王色の圧力」だけで強引に弾き飛ばした。
「馬鹿な……!? 結果が確定している運命の攻撃を、個人の膂力と覇気で……弾き返しただと!?」
システムと同化しているはずの光秀の顔に、初めて「驚愕」という人間らしい表情が浮かぶ。
「過去のトラウマに怯える俺たちだとでも思ったか! 俺たちは全次元を平定し、神々すらも『下請け』にしてきた大日本商会のトップだぞ!」
信長と背中合わせに立つ蘭丸もまた、白銀の神速の剣閃で、自身に迫る不可避の凶弾をすべて空間ごと叩き斬っていた。
「私の剣は、もはや過去の悲劇を繰り返すような鈍らではない! 我が主君の未来を阻むものは、運命であろうとすべて斬り捨てる!!」
蘭丸が、絶対の忠誠と剣気をもって、殺到する執行兵の群れを次々と光の塵へと変えていく。
過去(負債)の強制一括返済
『エラー……! 特異点の出力が、因果律の補正上限を突破……!』
クロノス・光秀の右目の赤い光が激しく明滅し、歯車から黒煙が上がり始める。
「どうした、十兵衛。運命の強制力が聞いて呆れるぜ」
信長は、宗三左文字の血振るい(光の粒子を払う動作)をし、再び『魔力火縄銃』を構えた。
「てめェは歴史の維持だの何だのと立派なことを言ってるが、要するに『過去のデータ』に縋りついているだけのポンコツ管理職だ」
信長の銃口の奥で、時空の穴の向こう側――真・戦国宇宙で稼働し続ける究極の永久機関・アザトスの無限資本が、極限まで圧縮されていく。
「会社ってのはな、常に『未来』へ向かって投資しなきゃあ、デカくならねェんだよ!」
『させません! 歴史の修正力よ、この時代(1582年)の全質量を圧縮し、奴らを押し潰せ!』
光秀が両腕を突き出すと、本能寺の炎、瓦礫、さらには周囲の空間そのものが【絶対的な歴史の重圧】となって信長にのしかかる。
「なら、その『過去の重圧(負債)』、俺の資本で一括返済してやるよ!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長が引き金を引いた。
放たれたのは、過去の因果律や歴史の重圧を「大日本商会の無限の資金力」で強引に買い取り、未来への投資エネルギーへと強制変換する【超絶・不良債権一括買収覇王弾】。
極太の黄金の閃光が、光秀の放った歴史の重圧を物理的に粉砕し、そのまま光秀の身体を真っ向から撃ち抜いた。
『ガ、アァァァァァァァァァッ!? 我ガ……歴史ノ修正力ガ……ただの「金貨」に、書キ換エラレテイクゥゥゥッ!?』
光秀を侵食していた機械の歯車とシステムが、大日本の『新・永楽銭』の刻印に上書きされ、ボロボロと崩れ落ちていく。
戦国事象の体現者
黄金の光が収束し、本能寺を覆っていた因果律の圧力が完全に消え去った。
だが、倒れ伏した明智光秀の身体から、突如として赤黒いノイズが噴き出し始めた。
「……チィッ。まだ残業が残ってやがるか」
信長が、火縄銃の硝煙を吹き消して舌打ちする。
『……警告。ターミナル(明智光秀)の完全破壊を確認。……これより、歴史の修正システムは、局所的な干渉を放棄し、【戦国時代そのもの】を素体とした最終フォーマットへと移行します』
光秀の身体から噴き出したノイズが、本能寺の炎だけでなく、京都の大地、さらにはこの時代の「戦国」という概念そのものを吸い上げ、天を突くほどの超巨大な機械仕掛けの魔神――【戦国事象の体現者】へと変貌を遂げた。
その巨体は、鎧兜と歯車が融合した悍ましい姿をしており、両手には「歴史の断頭台」を思わせる巨大な大鎌を握っている。
『織田信長。貴様の存在は、もはや大宇宙の存亡に関わる最大のウイルス。……この時代の歴史すべてを犠牲にしてでも、ここで貴様を完全に削除する』
「御館様! 奴はもはや、光秀という個人の枠を捨てました! この『1582年の地球の歴史』そのものをバケモノに変えて、我々にぶつけてくる気です!」
蘭丸が、空を覆い尽くす超巨体を見上げて叫ぶ。
「フハハハハ! 歴史そのものが束になってかかってくるか! 上等じゃねェか!」
だが、信長の眼には、かつて戦国時代を駆け抜けた頃の「純粋な戦狂い」の光と、全次元を支配する魔王としての「底知れぬ余裕」が同居していた。
「てめェらが歴史ごと俺を消すって言うなら、俺はてめェらの歴史ごと、俺の会社で【完全買収(乗っ取り)】してやるよ!!」
信長は、右手に『宗三左文字』、左手に『魔力火縄銃』を構え、戦国時代のすべてを飲み込んだ超巨大な歴史の魔神へと真っ直ぐに矛先を向けた。
全100話の完結へ向けて。己の原点たる「本能寺」と「戦国の歴史」そのものとの、時空を超えた究極の最終決戦がいよいよクライマックスへと突入していくのであった。
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