第3話:魔の森の三段撃ちと、算盤弾く狼
第3話となるプロットをご提示いたします。
今回は、いよいよ「魔の森」への逆侵攻が始まり、信長の代名詞とも言える**「三段撃ち」のファンタジー世界での実践**、そして新たな家臣(前田利家、石田三成に相当する亜人)との出会いを、圧倒的なスケールと詳細な描写で描き出します。
# 第3話:魔の森の三段撃ちと、算盤弾く狼
陽の光すら届かぬ鬱蒼とした巨木群。むせ返るような腐葉土の匂いと、大気中に澱む紫色の靄――「瘴気」が、侵入者の肺をじわじわと侵す。
北の広大な未踏領域、「魔の森」。
そこは本来、人間が軍を率いて足を踏み入れるような場所ではない。
「ひぃッ……気味が悪い。いつ魔獣が飛び出してくるか……」
「馬鹿野郎、前を見ろ! 新領主様が一番前を歩いておられるんだぞ!」
およそ二百の農民兵たちは、恐怖に歯の根を鳴らしながらも、必死に行軍を続けていた。
彼らの視線の先、軍の最前列には、馬の代わりにオークの巨兵が担ぐ輿に片膝を立てて座る十五歳の少年、織田信長の姿があった。
「ほう。この靄、ただの毒ガスかと思えば違うな」
信長は、周囲を漂う紫色の瘴気を手で掬うようにして目を細めた。
「大気中に満ちたマナが、循環せずに滞留し、腐敗しているだけだ。いわば『魔力の淀み』。ならば、風の通り道を作って吹き飛ばせば済む話よ。……権六!」
「ははッ!」
信長の声に、先鋒を任されたオークの巨鬼、権六が戦斧を掲げて応える。
「貴様らオークの筋力で、前方の巨木を片っ端から切り倒せ! 道を開き、淀んだ空気を循環させろ。木材は帰りに猿の部隊が回収して城の修繕に使う!」
「承知いたしました! 野郎ども、御館様の命だ! 道を切り拓けぇ!」
権六率いるオークの重装歩兵たちが咆哮を上げ、大人十人がかりでも抱えきれない巨木を次々と戦斧で伐採していく。ドスーン、ドスーンと地響きを立てて森が切り開かれ、そこに新鮮な風が流れ込むと、あれほど濃かった瘴気が嘘のように晴れていった。
「へっへへ、こりゃあいい! 上質な魔の森の木材がタダで手に入りまさぁ!」
後方では、輜重部隊を任された猿人(マカク族)の猿が、農民たちに指示を出して次々と木材を荷車に積み込ませていた。
防衛ではなく、魔王領の開拓と資源の略奪。
圧倒的な合理性に裏打ちされた信長の軍略は、恐怖に縛られていた農民兵たちに「この方についていけば勝てる」という強烈な熱狂を生み出しつつあった。
だが、魔王領はただ黙って侵略を許すほど甘くはない。
『――アォォォォォォォォンッ!!』
突如、森の奥深くから空気を震わせるような遠吠えが響き渡った。
バキバキと枝が折れる音と共に、木々の陰から無数の赤い眼光が浮かび上がる。
「グルルルル……。臭いと思えば、下劣な豚どもが、さらに下等な人間を連れて我らの縄張りに踏み入ったか」
茂みから姿を現したのは、灰色の毛並みを持つ二足歩行の狼たち――ライカンスロープ(狼獣人)の群れだった。
その先頭に立つのは、一際美しい銀色の毛並みを持ち、身の丈を優に超える「十文字の長槍」を軽々と構えた屈強な狼の戦士である。名を、マティアスと言った。
「マティアス……! 北の森を縄張りとする、誇り高き狼の族長か」
オークの権六が、戦斧を構えながら呻いた。
「堕ちたなゴルグ。力こそすべてと嘯いていた貴様らが、毛も生え揃わぬ人間のガキの足舐めになり下がるとは。その醜い命ごと、我らの森の養分となるがいい!」
マティアスが槍を振り下ろすのを合図に、数十匹の狼獣人たちが四つん這いになり、木々を蹴って恐るべき速度で襲いかかってきた。オークの巨体では追いつけないほどの俊敏な動きによる奇襲。
農民兵たちがパニックに陥りかけたその時、輿の上の信長がスッと立ち上がった。
「五郎左の筒を持った者、前へ。陣形は横一列、三段に連なれ」
静かだが、戦場の喧騒を切り裂くような絶対的な声。
訓練通り、農民兵たちは一斉に前に進み出て、三列の横隊を組んだ。その手には、ドワーフの五郎左が徹夜で打ち上げた強靭な黒鉄の筒――『魔力火縄銃(量産型)』が握られている。
「よく聞け。貴様らの体内の魔力は微弱だ。一度撃てば、次弾を放つためのマナを練り上げるのに時間がかかるだろう」
信長は、迫り来る狼の群れを一瞥だにせず、ただ己の兵たちにのみ語りかけた。
「ゆえに、交代で撃つ。一列目が撃ち終えれば後列へ下がり、二列目が前に出る。それを三列で回せば、途切れることのない『死の雨』が完成する。――恐怖を捨てろ。ただ己のマナを筒に込め、俺の号令に合わせて火種を点けろ!」
狼の群れが、農民兵の喉笛に喰らいつこうと跳躍した、その瞬間。
「第一陣、放てッ!!」
――ズドォォォォォンッ!!!
数十本の黒鉄の筒から、一斉に高圧縮された青白い魔力弾が射出された。
その威力は、凄まじいものだった。空中にいた狼獣人たちは回避することすらできず、魔力の弾丸に胴体を撃ち抜かれ、血飛沫を上げて次々と吹き飛んでいく。
「な、なんだあの魔法は……!? 人間どもが、無詠唱で一斉に……!」
驚愕に目を見開くマティアス。しかし、彼の絶望はまだ終わらない。
「第一陣退け。第二陣、前へ! 放てッ!」
――ズドォォォォォンッ!!!
間髪入れずに放たれた二度目の斉射。先ほどの攻撃を辛くも躱し、態勢を立て直そうとしていた狼たちが、容赦ない魔力の暴力によって文字通り粉砕されていく。
「第三陣、放てッ!」
三度目の轟音。魔法使いの長い詠唱の隙を突くのが狼獣人の得意戦術であったが、その「常識」は信長の『三段撃ち』の前には完全な無意味であった。
ただただ一方的な蹂躙。農民が指を引くだけで、誇り高き獣の戦士が虫けらのように死んでいく。
「おのれぇぇッ! ならば、その元凶の首を貰うッ!!」
仲間を殺された怒りで目を血走らせたマティアスは、雨霰と降り注ぐ魔力弾の軌道を野生の勘で神がかり的に潜り抜け、信長のいる本陣へと単騎で突撃を仕掛けた。
その踏み込みの鋭さ、十文字槍の美しい刺突の軌道は、まさに達人の領域であった。
だが。
「――不甲斐ない狼だ。御館様への殺気が丸見えだぞ」
キンッッ!!!
金属が甲高く鳴る音。マティアスの渾身の一撃は、信長の直前で立ち塞がった一人の美少年の剣によって、軽々と弾き返されていた。
「なっ……!?」
「御館様の御前に、獣の分際で土足で踏み入るな」
森蘭丸。その手にある剣の刀身には、超高密度に圧縮された魔力が青白い炎のように纏わりつき、ヴィィィンと空間を歪めるほどの振動を発していた。魔法を剣術に応用した絶対の刃、『魔刃』である。
「おおおおッ!」
マティアスは怒涛の連続突きを放つが、蘭丸はそのすべてを最小限の動きで弾き落とし、あっという間にマティアスの懐へ入り込むと、柄頭で狼獣人の鳩尾を強かに打ち据えた。
「がはッ……!」
たまらず膝をつき、槍を取り落とすマティアス。蘭丸がその首を刎ねようと刃を振り上げた時だった。
「待て、蘭丸」
「御館様?」
信長はゆっくりと輿から降り、膝をつく銀狼の前に立った。
「……殺せ。誇り高き狼は、人間に尻尾は振らん」
血を吐きながら睨みつけるマティアス。しかし信長の目は、彼の首ではなく、腰からぶら下がっている「奇妙な木の板」に向けられていた。
それは、複数の木の実を通した紐が幾重にも張られた、原始的な計算道具――『算盤』のようなものだった。
「貴様、槍の腕もさることながら……群れの兵糧や、魔石の数を計算して管理しているな?」
「……それがどうした。我らとて、ただ狩りをするだけの野蛮な獣ではない。冬を越すための備蓄を計算するのは当然だ」
その言葉に、信長はニヤリと笑みを深めた。
(武に秀で、さらに算盤を弾ける頭の良さがあるとは。情に熱く不器用そうだが、これは見事な『又左』ではないか)
「よし、気に入った。貴様は今日から『犬』だ。いや……『又左』と名乗れ」
「は……? 何を言って……」
「貴様らの群れが隠し持っている魔石や鉱石をすべて尾張に差し出せ。その代わり、この森の開拓の利権と、俺が創り出す新たな商売の流通を貴様らに任せてやる。飢えに怯える冬など、俺が永遠に終わらせてやろう」
それは、敗者への慈悲というより、冷徹な取引だった。しかし、信長の目に見える「圧倒的な豊かさへの確信」は、マティアスの心を強く揺さぶった。彼は自らの群れを飢えさせないため、ゆっくりと頭を下げた。
* * *
「御館様ァ! 大豊作でさぁ!」
戦の事後処理が終わった頃、狼たちの巣穴を漁っていた猿が、大声で駆け寄ってきた。
「狼どもが溜め込んでいた上質な魔石や希少金属もごっそり見つかりましたが……それより、こんな『拾い物』をしやしたぜ!」
猿が乱暴に引きずってきたのは、両手両足を鎖で縛られた小柄な少年だった。
尖った耳。色素の薄い銀髪。ルミナ神聖帝国から異端として追放され、魔の森で奴隷同然に売り飛ばされていた『ハーフエルフ』の少年である。
「おい貴様、御館様の御前だぞ!」
猿が頭を押さえつけようとするが、少年はそれを冷たく振り払い、信長の後ろに並べられている「魔力火縄銃」の筒をジッと見つめて口を開いた。
「……信じられない。先ほどの戦闘の魔力痕跡を分析しましたが、あの筒の魔力変換効率はおよそ『40%』しかない。内側に螺旋状の魔法陣を刻み込めば、魔力のロスを減らし、射程と威力をあと『60%』は向上させられるはずだ。なぜあのような非効率な使い方をしているのですか?」
「なっ、貴様! 御館様の戦術にケチをつける気か!」
蘭丸が激昂して剣に手をかける。
だが、信長は――腹の底から、愉快そうに大笑いした。
「フハハハハハ!! 見事だ! 魔法を神秘だ神仏だのと言い訳せず、純粋な『数字』と『効率』で語る奴が、この世界にもいたとはな!」
信長は少年の前にしゃがみ込み、その顔を覗き込んだ。感情の起伏に乏しく、ただ純粋な「理」だけを追求する冷徹な瞳。
「貴様、名はなんという」
「イシオン。……それ以上の価値はない、ただの奴隷です」
「ならば、今日から『佐吉』だ」
信長は、イシオンを縛っていた鎖を、指先から放つ微小な魔力弾でいとも容易く切断した。
「俺の軍の魔法理論と、兵站のシステムを構築し直せ。貴様のその異常なまでの計算能力、余すことなく俺の天下布武のために使わせてやる」
「……計算、能力。私が、役に立つと?」
イシオン――佐吉の瞳に、初めて微かな光が宿った。
豪快な武の狼「又左」と、冷徹な理の半妖「佐吉」。
後に信長の手足となって異世界を席巻する将たちが、この灰の森で集い始めていた。
信長は背後に広がる広大な魔王領を見据え、マントを翻した。
「さあ、進軍を再開する! この森のすべてを尾張の富に変え、大陸全土に俺たちの名を知らしめてやるわ!」
魔力火縄の硝煙と、新しい時代の産声が、魔の森に深く響き渡った。
空想なので石田三成が信長に知られているくだりは無視してください┏○ペコッ




