第11話:巨城アヅチの落成と、次なる覇道の海
これまでの圧倒的なスケールと、史実の家臣団の因縁をファンタジー世界で昇華させた熱い展開を引き継ぎ、第11話を執筆いたしました。
今回は、大陸統一を果たした信長が築き上げる新時代の象徴「巨城アヅチ」の落成と、最強の家臣団が一堂に会する壮大な祝宴、そして次なる未知の領域(海と新兵器)へと野望を広げる、大ボリュームのエピソードをお楽しみください。
# 第11話:巨城アヅチの落成と、次なる覇道の海
東の覇者、獣人連邦カイザーの三万に及ぶ騎馬軍団が壊滅した翌日。
荒野に築かれた尾張軍の本陣にて、血と泥に塗れた獣人の将たちが、一列に並んで土下座をしていた。
その先頭でギリッと牙を噛み締めているのは、前日の戦いで右腕を失った総大将、獅子獣人のライオネルである。
「……我ら獣人連邦は、力こそ絶対の掟。俺の首を刎ね、連邦の領土と民を好きにするがいい」
玉座代わりの床几に腰掛ける織田信長は、鼻で笑った。
「貴様の首など獲って何になる。力こそ掟と言うならば、俺という絶対的な『理』の下で、その残った左腕と牙を振るい続けろ」
「な……、俺たちを、殺さぬと……?」
「俺は使える者は殺さん。獣人どもよ、貴様らの俊敏さと風の魔法は、まだ使い道がある。今日から貴様らは『大日本』の尖兵だ。飯を食わせ、武具を与えてやる。その代わり、生涯俺のために戦え」
圧倒的な力でねじ伏せながらも、敗者に未来と居場所を与える君主。
ライオネルは、目の前の十五歳の少年の背後に、巨大な竜のような幻影を見た気がした。彼は深く、額を地面に擦り付けて臣従を誓った。
こうして、北のルミナ神聖帝国、南の自由都市サカイウス、そして東の獣人連邦カイザーという大陸の三大勢力は、すべて織田信長の手によって完全に平定された。
異世界転生からわずか数年。
魔法を科学として再定義し、経済と情報の価値を誰よりも重んじた第六天魔王は、ここに事実上の「大陸統一(天下布武)」を成し遂げたのである。
* * *
それから半年後。
大陸の中央、かつて国境の緩衝地帯と呼ばれた広大な盆地に、世界中の民が息を呑むほどの巨大な建造物がそびえ立っていた。
新帝都にして、大日本の中枢――『巨城アヅチ』。
それは、ただの石の城ではなかった。
大陸最大の霊脈(マナの奔流)の上に建造され、五郎左が造り上げた巨大な『魔導機関』を地下に備えている。外壁は漆黒の特殊合金と純白の大理石で彩られ、夜になれば佐吉の設計した魔力光のイルミネーションが、城下町全体を不夜城のように照らし出す。
そして何より、城の最上層にあたる『天主』は、金柑ことルーギスの完璧な美的センスによって設計された、空に浮かぶ黄金の空中庭園であった。
「……信じられん。設計図を引いた私自身が言うのも何ですが、この規模の都市をたった半年で完成させるとは」
黄金の天主のバルコニーから、活気に満ちたアヅチの城下町を見下ろし、ルーギスが感嘆の溜め息を漏らす。
「フン。猿の馬鹿げた物資調達力と、権六たちオークの筋力、それに私の無駄のない土木魔法陣の計算が完璧に噛み合った結果です。当然の帰結ですよ」
傍らで分厚い決算書を捲りながら、佐吉が淡々と答えた。
「ああ、お前たち二人には最高の仕事環境を与えた甲斐があったというものだ」
背後から、豪奢な漆黒のマントを羽織った信長が歩み出る。
かつての尾張で築いた安土城すらも遥かに凌駕する、この世界の魔法技術と己の合理主義の結晶。信長の顔には、深い満足感が漂っていた。
「御館様。本日の大陸統一を祝う大宴会、準備が整いましてございます」
音もなく現れた蘭丸が、恭しく一礼する。
「よし。世界を平定した俺の最強の家臣たちだ。今宵は無礼講で存分に労ってやろう」
* * *
アヅチ城、大広間。
天井には無数の光霊石がシャンデリアのように輝き、床には希少な魔獣の毛皮が敷き詰められている。長大なテーブルには、サカイウスから取り寄せられた世界中の美酒と、魔の森の極上肉のローストが山のように並べられていた。
「ガハハハハ! 飲め飲めェ! 今日は御館様の奢りだ! 樽ごと空にしろォ!」
ドワーフの市松が、自分の背丈ほどある酒樽を持ち上げてラッパ飲みし、虎獣人の虎と豪快に肩を組んで騒いでいる。
「おい若造ども、俺の肉まで食う気か! 魔の森の開拓で一番汗をかいたのは俺たちオークだぞ!」
「権六のオヤジ、堅いこと言うなよ! 肉ならいくらでもあるぜェ!」
権六と又左の古参武将組も、若手たちと入り混じって豪快な宴会を繰り広げている。
「あーもう、お前ら少しは静かに飲みやがれ! せっかくの高級ワインが台無しだろうが!」
猿が、酔っ払った筋肉ダルマたちを必死に宥めようと右往左往しているが、まったく効果はない。
その喧騒から少し離れた窓辺の席。
静かに杯を傾けながら、魔法で作られた盤面の上でチェスのような遊戯に興じている二人の男がいた。劇薬の軍師・官兵衛と、風の軍師・半兵衛である。
「……王手です、官兵衛殿。あなたの『歩兵を囮にして中央を突破する』という非情な手、完全に読ませていただきましたよ」
半兵衛が、盤上の風の駒を優雅に動かして微笑む。
「チッ……。相変わらず、私の嫌がる手を的確に突いてくる。光の軍師殿のその人畜無害な笑顔の下には、どんな悪魔が潜んでいるのやら」
官兵衛は隻眼を細め、曲がった足を撫でながら苦々しく笑った。
「お二人とも、遊戯の計算に脳の魔力を無駄遣いするのは非効率ですよ。明日の新法案の精査が終わっていないはずですが?」
そこに佐吉がやってきて、冷ややかに小言を言う。
「佐吉殿は堅物すぎますね。勝利の美酒くらい、素直に味わえばいいものを」と半兵衛が笑い、官兵衛が「全くだ」と同意する。
性格も、種族も、生まれも全く違う異形の者たち。
かつては敵同士だったり、迫害されたりしていた彼らが、今や「大日本の最強家臣団」として一つにまとまり、同じ酒を飲んでいる。
一段高い玉座からその光景を見下ろしていた信長の脳裏に、ふと、前世の記憶が蘇った。
(……あの時も、こうして皆で天下の平定を祝うはずだった。だが、俺は己の器量不足で十兵衛を追い詰め、すべてを炎で失った)
信長は、傍らで静かにワインを飲んでいる金柑に視線を向けた。
「金柑。今の環境に不満はないか?」
「不満? 冗談を。世界で最も完璧な法と秩序を構築できるこのアヅチは、私にとって天国ですよ、御館様」
ルーギスは、忠誠心と敬愛に満ちた、淀みのない美しい笑みを浮かべて一礼した。
信長は深く息を吐き、そして不敵に笑った。
(もう二度と間違えん。俺は、この完璧な家臣団と共に、真の永遠を創り上げる)
「皆の者、聞け!!」
信長が立ち上がり、声を張り上げると、あれほど騒がしかった大広間が、一瞬にして水を打ったように静まり返った。
誰もが、絶対的な君主の次なる言葉を待ち望んでいた。
「大陸は統一された! 北の雪原も、南の海も、東の荒野も、西の魔の森も、すべて我ら大日本の領土である! 貴様らの働き、見事であった!」
「「「おおおおおッッ!!!」」」
鼓膜が破れんばかりの歓声がアヅチの城を揺らす。
しかし、信長は両手を広げ、歓声を制した。
「だが、天下布武はこれで終わりではない」
信長の背後の巨大な壁面に、ルーギスが用意した巨大なプロジェクション(幻影魔法による大陸地図)が投影される。
そこには、彼らが制覇した巨大な大陸が描かれているが――信長が手にした杖で指し示したのは、大陸の『西の果て』、未だ詳細な地図が存在しない、真っ黒に塗りつぶされた広大な『海』であった。
「西の果てに広がる『奈落の海』。その向こうには、かつて権六たちオークを追い出した真の魔の根源……『魔王の大陸』が存在するという伝承がある」
信長の言葉に、古参の権六がゴクリと唾を飲み込んだ。
「世界は広い。俺が手に入れたこの大陸など、世界全体から見ればほんのちっぽけな島に過ぎんやもしれん。ならば、すべてを俺の目で見て、すべてを俺の理で塗り潰さねば気が済まん」
信長は、口の端を吊り上げて凶悪な覇王の笑みを浮かべた。
「五郎左! 佐吉! 金柑!」
「「「ははッ!!」」」
名指しされた三人の頭脳が、即座に平伏する。
「貴様ら三人の知恵と技術をすべて注ぎ込み、俺のために『船』を造れ。波を砕き、嵐をねじ伏せ、海魔の群れを筒の雨で粉砕する、浮沈の鋼鉄要塞……『魔導鉄甲船』だ!」
歴史上、毛利水軍を打ち破るために信長が建造させたという、伝説の巨大黒船。
それを、この異世界の魔法技術と融合させ、未知の大洋を制覇するための超兵器として生み出すというのだ。
「フハハ! 御館様の無茶振りには慣れっこでさぁ! 世界で一番デカくて硬い船、俺の金槌で打ってやらぁ!」
五郎左が鍛冶屋の血を沸騰させて叫ぶ。
「流体力学と魔力推進器の計算式は、すでに私の頭の中にあります」と佐吉が算盤を弾き、「船内の居住区画と法整備は私が完璧に仕上げましょう」とルーギスが優雅に微笑む。
「官兵衛、半兵衛! 貴様らは次なる海戦の陣形を練れ! 猿は造船の資材をかき集め、又左、権六、虎、市松は、海の上でも戦えるように己の肉体を鍛え直しておけ!」
「「「御意ッ!!!」」」
燃え上がるような家臣たちの返答が、アヅチの夜空に響き渡る。
本能寺の変という運命を完全に乗り越え、無敵の帝国を築き上げた織田信長。彼の燃え盛るような野望は、大陸の枠すらも飛び越え、いよいよ未知なる「海」と、その先の「新世界」へと向けられた。
巨城アヅチの黄金の光が、遥か西の暗い海を照らし出す。
第六天魔王と最強の異形家臣団による、世界を呑み込む新しき航海が、今、始まろうとしていた。
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