選ばれしものの証。後篇
お久しぶりです…!
色々リアルがバタバタして中々書き出せずに...
今日からまた投稿していければと思います!
地面を蹴る音が響いた。
「え――」
考えるよりも早く、椿の姿が目の前から消えた。
次の瞬間、桜のすぐ横を巨大な刃が通り過ぎる。
「きゃっ……!」
桜は慌ててその場から飛び退いた。
椿の振り下ろした大太刀が地面へ突き刺さり、土埃が舞い上がる。
「ほらほら! 逃げてるだけじゃ終わらねぇぞ!」
「そんなこと言われても……!」
桜はただ逃げることしかできなかった。
大太刀を振るう椿。
いつの間にか背後へ回り込む小梅。
何が起きているのか理解する余裕すらない。
(無理……! こんなの、勝てるわけない……!)
逃げ場を探しながら、桜は無意識に左手首を押さえた。
母の形見。
このブレスレットだけは、絶対に渡したくない。
「……もう、やめて!」
桜は二人へ叫ぶ。
「私はあなたたちと戦いたいわけじゃない!」
「だろうな」
椿が大太刀を肩に担ぐ。
「でもな。戦いたくなくても戦わなきゃならねぇ時ってのはあるんだよ!」
再び、椿が迫る。
巨大な刃が桜へ振り下ろされた。
(怖い……!)
逃げたい。
助けてほしい。
何でもいいから、この状況から逃げ出したい。
≪……情けないわね≫
「……え?」
突然、頭の奥で女の声が響いた。
≪逃げてばかり。そんなあなたが私を使おうとしているの?≫
「だ、誰……?」
≪母親とは違う気配がすると思ったら。まさか何も知らない子供だったなんてね≫
桜の視線が、自分の手首へ落ちる。
淡い桜色のブレスレットが、かすかに光っていた。
「あなたが……?」
≪私の名前は桔梗。そう呼びなさい≫
「桔梗……」
≪それで。あなたは何のために私を使うつもり?≫
何のために。
その言葉に、桜は答えられなかった。
自分を守るため?
逃げるため?
違う。
桜はブレスレットを強く握り締める。
「……取られたくない」
震える声で呟いた。
「これは、お母さんが残してくれたものだから」
椿の大太刀が迫る。
「だから……誰にも奪わせたくない!」
その瞬間、ブレスレットが強く光った。
光は桜の右手へと集まり、細く長い形を作っていく。
次の瞬間。
桜の手には、一振りの刀が握られていた。
澄んだ銀色の刀身。
鍔には花弁を広げた桜の花があしらわれ、淡い薄桃色の柄は、不思議なほど桜の手になじんだ。
まるで最初から、この手に握られるために存在していたかのように。
「……え?」
「おいおい……!」
椿の顔が一気に明るくなる。
「マジで顕現させやがった!」
「椿、少し落ち着きなさい」
「落ち着いてられるかよ!」
椿は嬉しそうに大太刀を握り直す。
「いいねぇ! だったらもう少し見せてみろよ!」
「え、ちょっと待っ――」
椿が地面を蹴る。
桜は慌てて刀を構えた。
キィィンッ!
金属音と共に、桜の両腕へ凄まじい衝撃が走る。
「うわっ……!」
「おお! 受け止めたじゃねぇか!」
「何なんですか、この人……!」
桜は必死に刀を握る。
しかし、戦い方を知らない。
どう振ればいいのかも分からない。
椿の一撃を受けるたび、身体が大きく揺れる。
≪だから言ったでしょう≫
桔梗の声が響く。
≪私はあなたの武器じゃない≫
「そんなこと言われても……!」
一瞬の迷い。
その隙を、椿は見逃さなかった。
「甘い!」
大太刀が桜の刀を弾き飛ばす。
「きゃっ!」
手の中から刀が離れ、淡い光と共に消えていく。
次の瞬間、椿の姿が目の前に迫った。
「まだ終わりじゃねぇぞ!」
「椿! やりすぎ――」
小梅の声。
そして。
大きな衝撃が桜の身体を襲った。
視界が大きく揺れる。
身体が宙に浮く感覚。
「……っ」
何かを言おうとした。
けれど、声は出なかった。
≪……本当に無茶をする子ね≫
遠くで、桔梗の声が聞こえた気がした。
次第に視界が暗くなっていく。
「お、おい……。ちょっとやりすぎたか……?」
椿の声が遠くに聞こえる。
その声を最後に。
桜の意識は、深い闇の中へと沈んでいった。




