第49話 (最終話)人生に幸運を
「申し訳ありませんが、前主人のそう言った狂言には、付き合えませ——」
「本当よ!!」
バリウスは、東堂麗華の言葉に遮られる。
「本当よ、スタインはこの世全てから魂ごと消えるの。彼、2つめの禁忌魔法の代償として、次の主人の願いを全て叶えた後に、消えることになっているのよ」
「待って…なぜ東堂さんがそのことを知っているの?スタインの主人は私だったのよ!東堂さんは、もう何も関係ないじゃない!」
花蓮の声は、言葉じりに向かってどんどんと大きくなる。
「そうよ、でもね、1つめの禁忌魔法を使用して私を騙したあと、楽器の国の王が私の前に現れて謝罪をしたのよ。そのときには、スタインは既に2つめの禁忌を使用したあとだったから、2つめの禁忌を犯したその代償について、古代書に書いてあったという内容を、私に話してくれたのよ、それで納得してもらえないか、とね」
「そんな……」
「スタインも知っていたはずよ。古代書を読んでいたなら、使用すればどうなるのか。…ムカつくけれど、それを知っていて尚、あなたにもう一度会いたかったんでしょうね」
「うそっ……スタイン……!!!」
泣き崩れる花蓮をバリウスが、そっと抱きしめる。すると、花蓮のそばに誰かが跪いた。花蓮が視線をあげると、それは涼太だった。
「泣くな。まだやれることはあるだろ?」
「…やれること……?」
「そうだ。俺の3つめの願いを使えよ」
「…なに…を言ってるの?そうしたら……!」
涙で顔がぐちゃぐちゃの花蓮は混乱しながら、至近距離のバリウスの顔を見つめる。
すると、バリウスは小さく微笑む。
「主人である涼太様の願いであれば、私はそれを叶えるだけです」
「でもっ…でもっ…そうしたら、バリウスもいなくなっちゃう…!」
「楽器の国に戻ることになります。ですが、僕は花蓮様を、これからも…永遠にずっと見続けています」
(昔と同じように……)
バリウスはスタインが楽器の国に拘束されているときに、花蓮の存在を教えてもらってから、実はずっと花蓮のことを想い続けていた。
スタインと共に花蓮を見続けているうちに、徐々に花蓮への片思いを募らせていったのだ。
「涼太様」
バリウスが涼太を見ると、涼太は静かに願いを口にする。
「3つめの願いは、スタインの復活を願う」
すると、バリウスは涼太を真っ直ぐ見つめたまま微笑み、小さく頷いた。
「バリウス。短い間だったが、ありがとう。予定より早い別れになったが、もっと互いのことを知りたかったな」
涼太の話している間にも、バリウスはどんどんと薄くなる。
「涼太様が主人で、僕は幸運でした。願いを全て人のために使える涼太様は、これからの人生で多くの幸運が待ち受けているでしょう。それから、花蓮様」
バリウスは優しい眼差しで、花蓮を見つめる。
「楽器の国に戻ったのち、スタインと2人で、ずっと花蓮様のことを見守っております。末永く、幸せに暮らしていけますよう…」
すると、バリウスの姿がパッと消え、その場には花蓮とスタインの2人だけになった。
「…みんな…消えちゃった…」
「…ああ。でも、俺たちがピアノとヴァイオリンを続けている限り、あの2人とは繋がっていられるだろ。そうすればこの先、もしかしたら…いつかまた会えるかもしれない」
「……うん…また2人に会いたいな…」
ゆっくりと頬を伝う雫はそのままに、花蓮は綺麗な青色の空を眩しそうに見上げるのだった。




