第25話 楽器の国の王
「大丈夫かな…」
花蓮は座席に座り、不安そうに窓の外を見つめる。進行方向前方の空は真っ暗で、よく見ると雲が渦を巻いているようにも見える。
「この列車は、毎日何回もここを運行しているんだ。対応も慣れてるだろうし、心配いらないだろ」
そう言って花蓮の不安を和らげようとする涼太だったが、口とは裏腹に自身の両手はキツく握り拳になっていた。
「そうだよね…」
花蓮は不安な顔でスタインとバリウスを見ると、2人は心中穏やかではないような顔で、ときどき互いに目を合わせていた。
「どうかしたの、2人とも…?」
「え?」
駅のホームぶりに話しかけられたスタインが、驚いたような、それでいて嬉しそうな表情で花蓮を見る。
「なんか、スタインとバリウスの2人とも目配せして、なんか意味あり気じゃない…?」
「いや、そんなことないよ。別に…」
スタインは、視線を左側にしてキョロキョロと落ち着かない。
「うそ。なんか隠してる」
「え…あー…いや…確実じゃないからな…」
「なに?確実じゃなくてもいいから教えて」
スタインはバリウスと目を合わせると、バリウスはゆっくりと頷く。
「スタイン、僕もスタインと同じことを考えています。あの空の様子を見る限り、おそらくほぼ確実かと…」
「そうすると、相当なお怒りってわけだ、我らの王は」
スタインがニヒルに笑い、わけが分からない花蓮はスタインとバリウスの顔を交互に見る。
「王…?王って誰のこと?」
「俺とバリウスのいる、楽器の国の王のことだよ。簡単に言うと、楽器の国の王子を取りまとめる1番えらい人って感じかな」
「そうなんだ、王様がいるんだ…そうだよね、だって王子様がいるんだもん、王様だっているよね…。えっ、でも、お怒りって…?」
「あの前方の空を、あんな風に真っ暗の嵐にしてんのは、おそらく俺らの王が怒ってやってんじゃないかなーって」
「えっ!?なんで!?こっちの世界に怒ってるの…!?それに、楽器の国の人なのに、私達の世界の天候を変えたりできるの!?別の世界の人でしょ!?」
「そうなんだけど、まあ王は俺ら王子とは違って、主人とかに拘ることなく、広い範囲に影響を及ぼす力を持ってるから」
花蓮とスタインの会話を黙って聞いているバリウスは、小さく溜息をつく。
「まあ、怒っているのはおそらくスタインに対してなんだろうけど。息子が勝手に行動すれば、父親が怒るのは仕方がないことだよ」
「バリウス!お前、それを言う——」
「えっ!?王が…スタインのお父さん!?」
「ああ、まあそうなんだけどさ」
「えっ!すご〜い!!会ってみたい!」
「いやいや、あんな気難しい親父には会う必要ないって。それに、花蓮みたいな可愛い子は、俺だけが知っていればいいなって」
「えっ…そんな、私別に可愛くないよ、普通だから…」
「いや、俺にとっては世界一可愛い」
スタインから向けられる熱のこもった視線に、花蓮は心臓の鼓動が早くなる。
「はいはいはい、お取り込み中悪いが、そのスタインの偉大なるお父上がつくった嵐が、すぐそこまで近づいてるぞ」
涼太の指さす方を見ると、真っ暗な雲に、ときどき光る雷が、進行方向を変えたはずの列車のすぐ目の前に近づいてきていた。




