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【12/1書籍②発売】異世界で、夫の愛は重いけど可愛い子どもをほのぼの楽しく育てたい  作者: サイ
外伝 アルロ・ペンシルニア・ブラントネル

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43.急報、そして、決裂

 複数人の騒々しい足音が聞こえる。

 王家の中庭であるここを走るような不届き物は、普通いない。

 嫌な予感がしてシンシアはアルロとマリーヴェルと目を見合わせた。

 走って来たのはエイダンだった。騎士詰所から休みなく走って来たのだろうか。息を切らしている。

「どうしたの」

「ブラントネルから、急報」

 アルロの顔にさっと緊張が走る。

「詳細は分からない。首都のあの湖底から、正体不明の魔物のようなものが出現したらしい」

「魔物……?」

「湖には、ペンシルニアからの調査団が行ってるんじゃ」

「調査団にも、随行の騎士にも複数の怪我人が出ている。まだ全貌は見えていないけど、恐ろしく大きくて長い何かだって。鋭い刃物のようなもので切り裂かれた者、激流に呑まれた者、魔力の濃さに立ち上がれない者も多い」

 一気にしゃべって、はあ、とエイダンは緊張した息をついた。

「——これ、リヴァイアサンのようなのじゃ、ないよね」

 アルロがブラントネルを発ってから7日。

 アルロがここにいるのに、瘴気が満ちるようなことはないはずだ。アイラも何も言っていなかった。

 瘴気を発するのは闇の力。闇の魔力はヘルムトの死後、ブラントネルでもアルロが唯一の闇の使い手のはずだ。

 けれど、未知の事の多いブラントネルだから、何が起きるか分からない。

「奥様」

 アルロが素早く反応した。シンシアも頷く。

「ええ、急ぎなさい」

 アルロはマリーヴェルに向き直り、胸に手を当てた。

「姫様。行ってまいります」

 ここまで固唾を飲んで聞いていたマリーヴェルが青い顔のまま手を握りしめた。

「危険、なんじゃ……」

 でも、行かないといけない。言いたいほとんどの言葉を、ぐっと飲み込んだ。

「一番前で戦うなんてことないよね。アルロは国王なんだから」

 アルロはふっと笑った。

「心配しないでください。ブラントネルの兵士はスタンレー将軍を筆頭に、とても強くなったんです。僕がいなくてもきっと大丈夫だと思います」

「じゃあ——」

「けれど……ブラントネルは、この数年、やっとの思いで復興したんです。国民は、まだ平和に慣れていない。やっと復興した街のすぐそばで魔物が出たら——きっと、とても不安になっているはずです。だから、心配はいらないと、言ってあげたいんです」

 アルロは既に国王の顔に戻っていた。

 不安な人々が、きっとこのアルロの姿を見るだけで安心するだろう。アルロもそれが分かっているから、何を置いてもすぐに駆け付けねばと言っている。

 引き止められない。

 マリーヴェルはたくさんの言葉を飲み込んだ。

「気を付けてね。少しの怪我もしないで」

「かすり傷でも負えば、帰ってきます」

 何度も言われた台詞を言って、アルロは頭を下げた。

 出立の準備に駆け出すアルロを、皆が黙って見送った。




 急ぎ用意を整えてオルティメティらにも挨拶を済ませ、アルロは馬を待たせている場所に向かった。すぐに出られるように、城の出口付近に用意をしてくれている。

 マリーヴェルは城門で見送ると言っていたから、ここには馬を曵いて来た者しかいない。

「ありがとう」

 そっとお礼を言って手綱を受け取った時。

 その横に、エイダンが立っていた。

「エイダン様?」

 しかも、旅装だ。

「僕も行くよ」

「え……」

 エイダンはにっと笑い、自分の愛馬の首筋を叩いた。

「僕は以前、リヴァイアサンを見たことがある。あれは、とても人の敵うものではなかった。あれと同じようなものだとしたら。ワイバーンの比じゃない。国が滅びるかもしれない」

 瘴気だとかそういう事なら、アイラでないと手には負えない。必要とあれば万全を期してアイラがブラントネルへ来られるよう、手筈は整えてある。それまで保たせればいい。

 報告を聞いた時の様子から、これがただ事ではないと察したのだろう。アルロの力だけでは心配で。

「でしたら尚更、エイダン様に来ていただくわけにはいきません」

「なんでだよ、僕を頼りなよ」

 昔なら、許可されなかった。

 だから革命の時も、何もすることができなかったんだ。あの時、どれほど側で一緒に戦いたかった事か。

 でも今は違う。成人して、一人前になって、自分で判断が許される。

 ついて行って助けることができる。

「さすがに急だったから、僕一人だけど。友軍としては、百人力だろ?」

「でも、エイダン様は、ペンシルニアの大切な後継です。おいそれと——」

「おいそれとじゃないだろ?アルロの一大事——アルロが大切にしている国の大事じゃないか」

 アルロは首を振った。

「これ以上お世話になるわけにはいきません」

「大丈夫だって。僕が強いの知ってるでしょう」

 聞く気が無いようで、エイダンは馬を引いて乗ろうとする。その手を、アルロは止めた。

「エイダン様。いけません」

 その目が本気で止めようとしてるのを察して、エイダンは止まった。

「おっしゃる通り、本当に、危険かもしれません。ブラントネルには未知の場所が多いのです。これまで知られていなかった、魔力に関わる——」

 マリーヴェルには言わなかったが、危険性が分からない。古代、魔力が発生した場所と言われている地だからこそ。

「だったら尚更、一人では難しいかもしれないじゃないか」

「一人ではありません」

「こう言っちゃなんだけど、僕、ブラントネル兵士百人分くらいの働きはできると思うんだけど」

「分かってます。エイダン様は僕より強い。けれど、リヴァイアサンの魔力の質は、通常の魔物とも桁違いだったんですよね」

 世界が滅びる規模のものだった。欠伸一つで都市が一つ壊滅しそうな。——そう聞いている。

「アルロのその能力だって、古代の魔物に通じるかどうかも分からないだろう?」

「僕が確認して、必要であれば、その時は正式に支援を要請します」

 それはきっと、国家の危機として。

 エイダンはむっとした。

「それじゃ遅いだろう?」

「いいえ」

 アルロは引かなかった。

 明確な線引きをされている。エイダンも、少しは断られるかと思ったが、まさかここまで頑なに拒まれるとは思っていなかった。

「本気で?僕が、自分の意思で決めているのに」

「でしたら、僕も、ブラントネル国王としてお断りします」

「はあ?」

 普段のエイダンからは、聞いたこともないような低い声だ。

「お気持ちだけ、ありがたく受け取ります」

 ペンシルニアの人々の事を思うと。その人々の大切なエイダンを危険に晒すようなことは、アルロには絶対にできなかった。そんな、恩をあだで返すような真似は。

 エイダンが明らかに怒りをたたえた表情に変わっていった。けれど、アルロは引かない。

「なんだよそれ。アルロにとって、僕は一体何なんだよ」

「エイダンさ——」

「アルロのそういうところ、僕は嫌いだ」

 ガシャン!!——大きな音がした。

 荷物が投げ捨てられている。馬が驚いて鼻を鳴らした。

「——勝手にしろよ。わかった。余計な事して悪かったね。僕はもう、知らないからな!」

「あ——」

 ものすごい勢いで走り去ってしまった。

 この短時間で支度を整え、調整をして——騎士団長としての職務を考えると相当大変だっただろう。それでもなんとかして、ついてくると言ってくれたのに。その思いを無下にしてしまった。

 申し訳なさでいっぱいになったが、やはり、エイダンを危険に晒すわけにはいかない。

「すみません……」

 もう姿も見えなくなったけれど、謝らずにはおれなかった。

 エイダンからここまで剥き出しに怒られるのは初めての事だった。

 馬に乗り、出立した後も、胸にぽっかりと穴が開いたような、後味の悪さがずっと残った。

はじめての喧嘩

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― 新着の感想 ―
急転直下の展開、ここで調査団の伏線回収 アルロとエルダンのここまでの感情的な衝突は初めてか どっちも頑固な性格だし若さ故の融通のきかなさですかね ここが大人へ成長する試練かな?
誰かさん(w)と違ってちゃんと事前に調整かけて国王のお許しも得て(許可の強奪かもしれないけれど)手順を踏んで力になろうとしているのにね でも、手放しで嬉しく思うだけではいけない立場なのもね 良かれと思…
優しさのすれ違い。切ない。
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