新たな決意 -1-
Ⅲ
「はぁ~~……」
同時刻、三〇二号室でイルフは盛大な溜息を吐いていた。
今、宿泊部屋の構図はこうだ。
三〇一号室の宿泊者はユザミ。今日から三〇三号室の宿泊者であるリトが三〇一号室で過ごすことになり、三〇三号室は空き部屋となる。
三〇二号室の宿泊者はイルフとミーシャ。三〇三号室で五人に軋轢が生まれた結果、三〇四号室にセシアとリンが入ったことで、三〇二号室で泊まるしかなかった。
「毎日ベッドを占領するのやめてもらえますか?」
「……」
「……」
視界の先——部屋の両端にあるベッド。右のベッドではリンが、左のベッドではセシアが、それぞれうつ伏せで寝転がっていた。
この状況は寝泊まり当番がなくなってから毎日続いていた。セシアとリンがフラッとやってきては何も言わず、うつ伏せでベッドに寝転がる。そして不動。
イルフとミーシャがそれに強く言わないのは放心状態の二人の心境を考慮しているからだ。
「昼頃は二人で街に出てご飯食べて眼帯買って商家見て楽しそうにしてたみたいね」
「そして夜は部屋でご飯を食べて部屋にずっといるみたいだ。何をしているのだろうか」
ボソッと早口で呟く二人にイルフとミーシャは顔を合わせる。
「なんで知ってるの?」
「どうせアンタのチビゴーレムが監視してると思ったから、宿に帰ってきたところを捕まえたのよ」
「何から何までジェスチャーで伝えさせるのは苦労した。謝っておいてもらえると助かる」
ミーシャは魔導書を開いてチビゴーレムを召喚する。
『んごっ!?』
チビゴーレムは部屋にセシアとリンがいるのを知ると、急いでミーシャの足元をよじ登って腕と腹の間に隠れる。チビゴーレムは泣いていた。
「かわいそう……」
チビゴーレムの頭を撫でるミーシャ。チビゴーレムが受けたセシアとリンからの尋問は脅迫に近かったのは言うまでもない。
「とりあえず帰ってもらえます? あなた達がいるとこっちまで悲しい気持ちになるので」
「嫌よ」
「断る」
即答の拒否。この流れも毎日変わっていない。
「あー、もう! 嫌、嫌、嫌! あの女と一緒にいるって考えるだけで嫌!」
「ぐううぅぅぅぅぅぅぅ……」
足をバタバタとさせながら心境を口に出すリンと、不動ながらも不満を表現するように唸り続けるセシア。
それを意に介さないようにしながら椅子に座るイルフとミーシャ。二人はここ数日で不満を爆発させる二人に慣れていた。
「どうして、こうなっちゃったのかしら」
後悔を感じさせる切ない独り言。それに応じる声はない。
どうしてこうなったのか、それを全員理解している。
ユザミの殺人衝動が抑えられないものだということも、リオが救おうとしてしまうことも。セシアとリンが救うことに反対した結果、離れなくてはいけない道理も理解している。
理解していても、すんなり受け入れられるほど彼女達の想いは小さいものではなかった。