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グレア・デストロイ②

試験あったせいでちょっと投稿遅れました。グレア編はこれで終わりですね。

 3日間はあっという間に過ぎた。今俺は、円形の闘技場の真ん中で、少し距離を置いてグレア様と向き合っている。


「逃げずにやって来たか。その度胸だけは褒めてやるよ」


「俺には、逃げられない理由がありますから⋯⋯!」


 少し視線を上に向けると、ちょうど俺の正面の観客席には、魔王様がグラス片手にこちらを見ている。その隣に居るのは、勿論秘書のライム様。


 そして、魔王様の後ろの席には、俺とグレア様を除いた現四天王の2人も居る。


 金髪碧眼、小柄な美少女といった見た目でありながら、肌の色は真っ白で生気がなく、スカートと靴下の間に僅かに見える膝は、人形のような球体関節。

 ”智”のマリー・ゴールド様は、『殺戮人形(デス・ドール)』と呼ばれる人形の姿をした魔物だ。しかし、あくまでこの姿は仮のモノであり、人形を操っている本体は別に存在するらしい。マリー様は四天王の中でもかなり謎の多い人物だ。


 ”技”のパフェット・スパイダー様は、アラクネ族と呼ばれる、蜘蛛の胴体を持った魔物だ。無表情なマリー様とは対称的に、パフェット様はそのピンクのツインテールとフリルをふんだんにあしらった可愛らしい衣装をフリフリと揺らしながら観客席に座る魔物たちに愛想を振りまいている。


 そう、グレア様の独断によって急遽行われることになったこの決闘だったが、魔王様の放送により一大イベントに仕立て上げられてしまった。闘技場の外では賭けまで行われていた。ちなみにぱっと見俺の方に賭けている魔族は1人しか居なかった。圧倒的不人気である。まあ大穴を狙うにしても程があるからな。誰だってそうする。俺もそうする。


 正直、ここまで大勢の魔族が集まるとは思っていなかったので少し緊張している。ただ、魔王様が見ている前で負ける訳にはいかない。俺は気合いを入れ直し、そして今日の決闘の要である、ククルに貰った魔術具の状態を確かめる。⋯⋯うん、問題なさそうだ。


「さて、そろそろ始めようぜ! アタイは早くお前をぶん殴りたくてウズウズしてるんだよぉ!!」


 グレア様は牙を剥き出しにしてグオォォ!! と吠える。流石鬼族、それだけで迫力が凄い。グレア様も黙っていれば凄く美人なんだけれどなぁ。スタイルもいいし。腹筋も凄いし。おっぱいは小さいけれど。


「こちらももう準備は出来てます⋯⋯! いつでも始めていいですよ!!」


 ついつい腹筋に見とれてしまっていたが、気持ちを切り替えて表情を引き締める。そして、俺の言葉を合図に、審判役も務めている魔王様が立ち上がり決闘開始の宣言をした。


「それでは、決闘開始~!!」


 そして、魔王様のその開始宣言と同時に、ドスン!! という轟音が闘技場内に響いた。それは、グレア様が地面を踏みしめた音。その音が聞こえたと思った直後、グレア様の拳は俺のすぐ目の前まで迫っていた。


 ただ、その行動は予想通りだ。


「なんだって!?」


 グレア様の驚いた声が聞こえる。それもそうだろう。何故なら、俺の身体はグレア様の拳が当たる寸前で、急激に真横へと吹き飛んだからだ。グレア様からすれば俺が目の前で急に消えたように見えたことだろう。


 俺の身体は、グレア様からだいぶ離れたところで、これまた急激にその動きを止める。それと同時にかなり強い反動が俺を襲うが、グレア様のあのパンチを食らうよりは遙かにマシだ。


 勿論、ただのゴブリンにこんな規格外の動きは出来ない。さっきの動きを可能にしたのは、手足に取り付けた、ククルから貰った魔術具だ。そして、俺は先程と同じように足の魔術具に触れ、ただでさえ少ない魔力を惜しむことなく流し込む。すると、ギュルルルという起動音と共に、魔術具は勢いよく風を吹き出し、俺の身体は再び超高速で吹き飛んでいく。しかし、今度は逃げるためではなく、攻撃に転じるための急加速だ。


 残り僅かとなった魔力を限界まで手にはめた魔術具に流し込みながら、俺はククルにこの魔術具を渡された時言われたことを思い出していた。




「はい、頼まれていたもの出来たよ。ただ⋯⋯シルバ君の魔力量的に、これを使えるチャンスは1回しかないと思う」


「1回だけでもあるなら十分だ。ククルが映像記録用魔術具で見せてくれた訓練場でのグレア様の戦闘映像はこの3日で飽きるほどみたから、どのタイミングで使えばいいかは分かってる。⋯⋯狙うなら、グレア様の最初の一撃。過去の戦闘映像を見たら、グレア様は初手は必ず超速で突進してからの右パンチだった。そのパンチをかわして、反撃する。チャンスは、そこしかない!!」



 

 俺は、この3日間ククルに魔術具の依頼を任せただけで何もしていたわけではない。グレア様が訓練場でしょっちゅう魔王軍の兵士たちと戦闘訓練をしているということは風の噂で聞いていた。さらに、戦闘を振り返るために訓練場に映像記録用の魔術具が備え付けられていたことも知っていた。

 

 そこで、俺は日課の魔界ニンジンの栽培に加えてこの3日間、ひたすらにグレア様の戦闘スタイルを研究していたのだ。その結果、分かったことは、グレア様の最初にとる行動は必ず決まっているということ。しかも、ほぼ全ての試合がその一撃で勝負が決まっていた。それ以外の試合でも、初手で必ず相手に大ダメージを与えている。この人の強さはバケモノじみていると再認識した。


 しかし、だからこそ、グレア様の心のどこかには、「これをよける奴はいない」という慢心があるはずだ。しかも、その相手が俺みたいな弱そうなゴブリンならばなおさら。



 まあ、何度もリハーサルはしたけれど実際にやる時は滅茶苦茶怖かったよね! 実際こうしてよけれたからいいものの、耳の側をブオン! って猛スピードでかすめる音聞こえたから。


 手に付けた魔術具の効果により、右腕が大きく膨れあがると同時に、青い炎を纏う。原理はよく分かっていないが、ククル曰く身体強化魔術と火炎魔術の合成魔術を使用しているらしい。グレア様は、俺がすぐ目の前まで迫っていることにようやく気づき、目を見開いた。慌てて腕を交差させて防御体勢を取るが、少し遅い。


 俺は、グレア様の見事に割れた腹筋に、渾身の一撃を叩き込んだ。



 ――その直後、俺はあまりの手応えのなさに絶望した。グレア様は少し後ずさりした程度で、全くダメージを食らった様子はない。それに対して俺の方は、魔力を使い果たしたことで既にヘロヘロ。先程の魔術具の影響で右腕は焼けただれ満身創痍だ。


 ゴスッ! という鈍い音と共に、グレア様が俺の腹に膝蹴りを食らわす。大して力を込めた様子でなかったにも関わらず、それだけで血反吐を吐きながら天高く打ち上げられてしまう。


 空中で身動きできない俺に対し、グレア様は地面を蹴り俺と同じ高さまで軽々と跳躍してみせた。一瞬グレア様と目が合う。その瞳は、激しい闘志でギラギラと輝いていた。


 あ、ヤバい。この人、本気(マジ)だ。


 グレア様は、俺の身体をがっしりと両手で抱え込む。そして、一声雄叫びを上げ、空中で回転を加えながら、地面に向かい急降下していく。このまま地面に激突すれば間違いなく死ぬ。朦朧とする意識の中で、俺は両手を口に当てて何かを叫んでいるククルの姿を見た。



「⋯⋯そうだよな。こんなところじゃ死ねない」


 

 どうせ何もしなければ死ぬのだ。俺は、死ぬ気で魔力を捻りだし、地面に激突する直前でなんとか足に付けた魔術具を発動することに成功した。その結果、衝撃は食らったものの、何とか即死だけは免れることが出来たようだ。


 ただし、もう魔力は全く残っていないし、先程の衝撃で足の骨が折れてしまったらしく、立ち上がることが出来ない。そんな俺を見て勝利を確信したグレア様は、観客席に向けてガッツポーズをしていた。


 湧き上がる観客席。後は、審判である魔王様が終了の合図を出せば、グレア様の勝利で決闘は終わる。この闘技場にいるほぼ全ての魔族が、魔王様のその声を待ち望んでいることだろう。


 しかし、そんなのごめんだ。俺は、まだ負けていない。


「⋯⋯おい、お前、一体なんの真似だ?」


 手だけで這い寄って、グレア様の足にポカリと拳を叩き込んだ俺に対し、グレア様は困惑した様子で問いかける。俺は、その問いかけには答えることなく、無理矢理笑みを浮かべ、再びポカリと足を殴りつけた。


「ええい、鬱陶しい!!」


 顔を思いっきり蹴られ、地面をバウンドしながら転がっていく。歯が折れたみたいだ。凄く痛い。でも、まだ動ける。俺は、再び手だけを動かしてグレア様へと這い寄っていく。


 いつしか、先程まで湧き上がっていた観客席が静まりかえっていた。グレア様が俺を蹴り飛ばす音と、俺の血肉が爆ぜる音だけが、闘技場内に静かに木霊する。




 どれくらい時間が経っただろうか。俺はもう、何故自分が手を動かしているのかも分からないまま、グレア様の元へと這い寄り、その度に蹴られを繰り返していた。しかし、グレア様の蹴りがふいに止まった。不思議に思い、ゆっくりと視線を上に上げると、そこにはどこか呆れた様子のグレア様が両手を挙げていた。


「⋯⋯アンタ、なかなか根性あるじゃねえか。ここまでボロボロになってもまだ食い下がる奴、アタイは初めて見たよ。これ以上やっても、どうせアンタ死ぬまで負けを認めねえだろ? だから、降参する。アタイの負けでいいよ」


 そう言って、グレア様は観客席の魔王様に視線を送る。それを受け、魔王様がよく響く声で宣言した。


「グレア・デストロイの降参により、この決闘⋯⋯ゴブリン族のシルバの勝ち!!」


 再び一気に湧き上がる観客席。俺の名前を叫びながら駆け寄って来るククルの姿をぼんやりと眺めながら、俺の意識はそこで途切れたのだった。




 

 目が覚めると、俺は病室のベッドの上で寝ていた。身体を起こそうとして、全身に激痛が走り断念する。何とか動かせる首だけ動かして横を見ると、ククルが椅子に座ってすやすやと寝息を立てていた。


「そいつに感謝するこったな。さっきまで、アンタのことを必死で治療してたんだぜ?」


 そう声をかけられ、そちらに視線を向けると、そこには入り口のドアにもたれかかるようにして立っているグレア様が居た。俺がグレア様を見たことに気付くと、よっ! と手を挙げてフランクに挨拶してくる。とりあえず俺は動かせる範囲で頭を下げることにした。


「それにしても、魔王軍きっての天才と呼ばれるあの『神童』ククルが、まさかアンタをここまで気にかけるとはな。一体どういう関係なんだ?」


「ただの幼なじみですよ。⋯⋯それより、グレア様は何故ここに?」


「なんだ、同僚の見舞いに来ちゃあいけねぇって言うのか?」


 いや、そもそもこの怪我は貴女のせいなんですけれど⋯⋯などとはとても言い返せず、何故かえらく上機嫌なグレア様はさらにこう続けた。


「アタイは、アンタのことを気に入った。アンタほど根性がある奴、他に見たことねぇしな。呼び方もグレア様とかじゃなくて呼び捨てでいいぜ? 立場的には同じなわけだしな」


「いや、流石にそういうわけには⋯⋯」


「ああ!? アタイが呼び捨てで良いって言ってるんだ。文句言うならぶっ飛ばすぞ」


 重傷の怪我人に向けていい暴言じゃないと思う。しかし、ここでまた変に遠慮するのはかえって失礼だ。覚悟を決め、呼び捨てで名前を呼んでみる。


「じゃあ⋯⋯グレア。お見舞い来てくれてありがとな」


「へへ、どういたしまして。この礼は、今度特訓に付き合って貰うことでチャラにしてやるよ。アンタは弱いが根性あるし、戦い方もなかなか面白いからな」


 そして、この時の約束通り、後日怪我が治った俺は、割と頻繁にグレア様の訓練に付き合わされることになる。その度に病室送りになってはククルに看病してもらう訳だが、そのおかげというべきか、グレア様とは友人と呼べる関係になれたのであった。



四天王の1人を無事攻略。果たして次に攻略するのは一体誰か⋯⋯!?

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