第九話 いつもと違う街の雰囲気
孤児院を出るまで大変だった。
サキが「普段通りにしてください、してくれなければ居づらいので出て行きます」と言うまで、崇められることを止めることはなかった。
若干、崇められつつ孤児院を出たサキは、冒険者ギルドへ向かう途中で、人が集まる市場、商店街、大通りで、甲冑を着た兵士が警戒した表情で巡回している様子を見ていた。
何かあったのかなと考えているうちに、冒険者ギルドに到着すると中には冒険者はおらず、サキを見つけた受付嬢が駆け寄ってくるなりギルド長室へ案内された。
「おお、よく来てくれたのじゃ」
受付嬢の様子に戸惑いながらも、ギルド長室に入るなり、両手を広げたダングルフに歓迎されたけど、わたしには歓迎される覚えはない。
「えーと、今日はギルド長に聞きたいことがあって来ました」
「やはりか!騒ぎを聞きつけて来てくれたんじゃな」
……騒ぎ? あー、街中に甲冑を着た人がいたけどそれが関係しているのかな。でも、わたしが来た理由は騒ぎとは関係ないよ。
「いいえ、冒険者ギルド前で屋台を出したくて、問題や手続きが必要なのかを聞きたいのですが」
ガクリと首を落として落胆するダングルフに、わたしは意味がわからず首を傾げる。
「あのー、屋台を出すのは難しいのですか?」
「屋台は土地の権利者からの許可があれば問題ないのじゃ」
……なんだ、それなら最初に問題ないって言ってよね。
「では、ダングルフさん出店の許可をお願いします」
「それは構わんが、おまえさんが店に立つのか?」
「わたしも顔出す予定ですが、孤児院の子供たちにやってもらいます」
……最初は調理方法も教えないとだし、孤児院だけで稼げるように、子供たちにも頑張ってもらわないとね。
「孤児院か、おまえさんの服装と関係しているのか」
「ええ、孤児院に泊まることで知ったのですが、寄付金が減っていて食事量も少ないので、子供たちで稼げる手段を作りたいのですよ」
「なら、市場や広場と賑わっている所の方がよいじゃろ?」
……ダングルフが言うことは理解できるが、子供たちだけの出店は危険なのよね。
「そうなのですが、子供たちだけなので不安を感じるのですよ」
「ふむ、護衛も兼ねての冒険者ギルドか…」
「それもありますが、新鮮な魔物の肉も調達できるかなと思いまして」
「なるほどのう。出店は許可するし、魔物の肉についてもわかったのじゃ」
……よしよし、あとは出店の準備だけだね。
サキは順調に話が進んだことに、ニコニコして開店するまでの準備を考えていたのだが、ダングルフは顔色をうたがうようにして、口を開く。
「おまいさんに、頼みたいことがあるのじゃが…」
「はい、魔物の肉は適正価格で買いますよ?」
「いや違うのじゃ」
……あれ? 違ったらしい。なんだろう?
「では、なんですか?」
「魔物の群れ討伐する、指名依頼を受けてほしいのじゃ」
「魔物の群れですか?」
ダングルフからの説明はこんな感じだ。
・ルマン大森林から氾濫した魔物の群れが、街に向かっている。
・領主軍の精鋭と冒険者は協力して、討伐しに向かった。
・魔物の数は数百規模で、討伐しきれずに押されている。
・街の中にいる領主軍は新人で、戦力外の治安活動要員。
……子供たちは畑に向かっているし、魔物の群れなんか知らないから危険じゃない!?
サキはマップを拡大表示して、畑のある場所を確認すれば、青色が赤色に囲まれていた。
「大変!!」
声を上げながら立ち上がり、子供たちの安否による不安で身を震わす。
「ど、どうしたのじゃ!」
「わたしの土地で畑を耕している子供たちが、魔物に囲まれています!!」
「なんじゃと!」
……ダメ、これ以上、話していられないよ。
サキは席を立つなり瞬時に魔法で身体強化しては、窓から飛び出し、屋根の上を走り飛びながら子供たちの元へ向かう。
「ああ、神様、どうか子供たちをお守りください…」
読んでいただきありがとうございます。