第十話 魔物の氾濫 その1
子供たちが見えてくると、ゴブリンの死骸が3体転がっており、付近には狼、猪、熊型の魔物だけではなくオークやトロールまでいた。
ゲルトとレオンは鍬を構えて、女の子たちを背に庇うように立っており、マリとリアは座り込んで血だらけで青白い顔のカミアを見ながら泣いている。
カミアの姿を見たわたしは、大きく目を見開いた。
「カミア?」
一瞬で全身が怒りに染まり、力が全身を満ちて行く。体が沸騰するほどの熱さを感じるが、不思議なことに頭の中は冷静だった。
サキはストレージから弓矢を取り出して、今にも襲いかかって来そうな魔物の頭に狙いを付けた矢を放っていく。ヘッドショットを受けた魔物はその場で崩れ落ちる。
子供たち付近の安全を確認してからカミアのそばへ駆けよると、ストレージから上級回復薬を取り出しては、カミアへ薬を振りかけた後に、叫んだ。
「ゲルト! レオン! わたしの後ろまで下がりなさい!」
サキの怒鳴り声を聞いたゲルトとレオンは何も言わずに、サキの後ろまで走ってくる。
……許さない。 孤児院の子供を傷つける者は、絶対に許さないよ!
マップを確認すれば、広範囲からわたしが居る場所に向かって100体近くの魔物が接近してくることが分かる。弓矢で殲滅するのは簡単だが、これ以上、子供たちに魔物を見せたくはなかった。
わたしは思い描くは《マップ上の敵を、喰らい尽くす雷撃》魔法が発動すれば、晴天だった空に暗雲が垂れ込めば、雷鳴が鳴り響き、閃光と轟音と共に雷撃が暴れ狂う。
雷撃による衝撃波には攻撃力はないが、子供たちは悲鳴を上げる。
数分経てば雷鳴は鳴らなくなり、暗雲は消え去り晴天へ戻った。
サキはマップを確認して、敵の殲滅を確認した所で、カミアの容態を確認する。
わたしは、生活魔法の『ウォッシュ』で、カミアの体を洗浄してから状態を確認する。
上級回復薬を使用したが、血を流しすぎたカミアの顔色は悪く体中に傷跡が残っている。
……女の子なのに、傷跡が残っては可哀そうだよね。
わたしは思い描くは《細胞分裂を促し、肉体は癒される》魔法が発動すれば、眩い光がカミアの体を包み込み、光が消えれば傷跡は綺麗に消えている。
……あれ? 傷跡は消えたけどゲームだと光らなかったよね?
光ったことに疑問を感じるが、カミアの穏やかな寝息を聞いて安堵していると、追いかけてきたのかダングルフの声が聞こえてくる。
「いくらなんでも、一人じゃ無謀なのじゃ!」
「目視できる範囲の魔物はすでに倒しましたよ」
本当はマップ内に表示されていた魔物を討伐済みなのだが、ダングルフは、辺りに無数に存在する魔物の死骸を見るなり、安堵したような絶望したような表情をする。
……なんでそんな表情をするのかな? 子供たちが無事だったのだから素直に喜ぶべきじゃない。
わたしは、むぅっと、眉を寄せてダングルフへ問いかける。
「子供たちは無事でしたし、良かったじゃないですか」
「じゃが、魔物の群れは街に迫ってきているのじゃ。だが、先ほどの雷鳴は大規模魔法じゃろうし、討伐するだけの体力は残ってはおらぬだろう?」
先ほどの表情は、わたしのMPが尽きて魔物の群れを討伐するのに影響がでると思っているらしいけど、MPは全然余裕で1割も消費してないよ。
それよりも、はやく子供たちを安全な場所に避難させたいなと思いながら、子供たちへ顔を向ければ、話を聞いていた、マリとリアは不安な眼差しでサキを見つめており、ゲルトとレオンは鍬を強く握り直す。
……ちょっと、そこ! なに戦おうとしているのよ!
「体力には問題はありませんけど、早急に子供たちを安全な場所へ退避させたいのですが…」
「なんじゃと! あれほどの大規模魔法を使ってもか!?」
ダングルフはサキの言葉が信じられないという表情をしている。
戦おうとしていた、ゲルトとレオンは、しょんぼりするが気にしないよ。
……鍬は武器じゃなくて農具だよ。
「余裕ですよ。ですが、再び魔物が出たら危険なので、子供たちを退避させるために、失礼しますね」
「いやいや。わしが送っていくのじゃ。おまえさんは、討伐に向かってくれ」
ダングルフはそう言うなり、カミアをお姫様抱っこして、子供たちを連れて孤児院へ歩き出していた。
……討伐隊は戦闘経験や装備もあるし、魔物回収してからでも平気だよね。
わたしは指名依頼を受領してないのだけど…。と、思いつつも、ダングルフを見送って、殲滅した魔物をストレージに収納してからマップを開いて討伐隊が居る場所へ向かった。
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