第五十話 宣誓布告
さらに2カ月過ぎたころ、戦地から離れているセラト街の様子にも変化した。
先制布告した側のベリエ王国の戦況は悪く、王都周辺の街が陥落して王都周辺にまでヴィエルジ王国の兵士が迫っていた。そして、戦火から戦争奴隷から逃げるようにやってきたベリエ王国民がセラト街に押し寄せてきたのである。
逃げてきた者は多い。とても、セラト街に収容できる人数ではなく街周辺の治安は悪化の一途を辿っている。逃げることに必死になって十分な食料を持っていない者たちが飢えて、セラト街周辺の畑から農作物を盗み出したことにより、セラト街の備蓄も底が見えてきた。
しかし、サキが管理する農地は被害を受けてはいない。サキとサクラにて農地全体に幻惑魔法が掛かっており、遠目には荒れ地に見え、近づけば避けたい感じを受けるようになっている。また、収穫物を狙って襲われる可能性も考えられるので、農地管理はストレージが使えるサキとサクラだけで行っている。
販売数を限定していないアルテミスの食事処の売上は伸び続けている。購入するだけの金を持たない者は、涎を垂らしながら見つめるしかできない。なぜならば、無銭飲食すれば、冒険者ギルドを敵に回すことになるからだ。
それにしても、王都周辺にまで攻め込まれているのに、負けを認めないバモカノには腹が立ってたまらない。
このまま籠城戦を始められたら、セラト街も備蓄が尽きれば飢えに苦しんだ住民が暴動や略奪をする可能性は十分考えられる。そうなったら孤児院にも被害が及ぶかもしれない。
飛空艇を作製しようにも、セラト街周辺は避難民が占拠しているために、建造地の確保もできない。
どうしようとカフェのテーブルの上で手を突っぱねて項垂れていると声を掛けられた。
「おまえがサキであるか」
顔だけ上げて声がした方を見れば、まるまると太ったオークが立っていた。
オークの知り合いなんて居ないので、顔を下げて思考の続きに入る。
街の周辺を探索して、飛空艇の建造に適した場所を探すのもありかもしれない。
わたしが居ない間もサクラが居れば孤児院を任せることができる。
「其方…」
思考しているとマルクスから声を掛けられた。
ベリエ王国が原因で悩んでいたわたしは、マルクスを睨む。まぁ八つ当たりも兼ねていた。
「うっ…なぜ睨むのだ!?」
「ベリエ王国のせいで、セラト街の治安が悪化してきたからですよ!」
わたしは目でさっさと敗北宣言しろと訴える。
「貴様、俺様を無視するとは良い度胸だな」
「オークの知り合いなんていませんよ。討伐されたいのですか?」
「なっ!?」
わたしがそう言い放てば、オークは顔を赤くして怒りに染まった。
「時期国王の俺様に向かって、失礼であろうが!」
なんとオークは次期国王のバモカノだった。
まぁ、オークから求婚されても断るよね。
「で、下らない理由で戦争を始めた時期国王が、何故この街に居るのですか?」
王都が囲まれようとしている時期にセラト街まで来ている理由は分からない。さっさと、ヴィエルジ王国の兵士に捕まれば良いのに。
「下らないとは何だ!! 俺様の婚約を断った愚かな国を攻め滅ぼそうとして、なにが悪い」
愚か者は、お前だろうと目を細めてバモカノを見る。
「はぁ……。で、時期国王が、ここに居る理由は何ですか?」
「ふん! 貴様を俺様の騎士にしてやる。光栄だと喜ぶが良い!!」
意味のわからないことを言いだしたバモカノ。わたしはマルクスに説明を求める視線を送るも目を逸らされてしまった。
「なにが悲しくてオークの騎士にならないといけないのですか?」
罰ゲーム過ぎて喜べるはずがない。
怒りを通り過ごして呆れてくる。
「時期国王の俺様をバカにするのもいい加減にしろ!!」
「オークが、大和連邦国、大和国のわたしに向かってその態度は何ですか? オークの国は我国へ宣戦布告でもするのですか?」
「ふん! そんな国など聞いたことが無い。どうせ出まかせだろうが!」
マルクスに視線を送っても、また逸らされてしまった。
「マルクスさん。なんで、目を逸らすのですか?」
「……」
返事もないわたしはある決意をして上空に魔法を放つ。放たれた魔法は、ドォーンと破裂音を鳴り響かせた後、赤い煙を残す。
「貴様、我が領土で何をする! 攻撃とみなして取っ捕まえるぞ!!」
バモカノは激昂して唾を飛ばして怒鳴るが、わたしは見えない障壁を張りながら無視する。
数分も経たないうちに、農地管理していたサクラがわたしの元へ到着する。
「ご主人様! 開戦の狼煙を見ましたが、どうゆうことですのっ」
「オーク国、いえ、ベリエ王国の時期国王から侮辱と辱める要請を受けました。宣誓布告の意思を確認した上で、我が大和連邦国はベリエ王国へ宣誓布告します」
「わかりましたのっ」
わたしが宣誓布告を伝えると、サクラは目をギラギラと輝かせる。
「其方!! 宣誓布告を取り下げてくれ!!」
「あら、無視し続けていたマルクスさんじゃないですか。取り下げを願う前に、そこの愚か者を止めれば良かったのですよ」
ヴィエルジ王国しかり、大和連邦国にしても、身内の王族が止めれば済んだ問題である。
わたしは、国家戦争を取り下げるつもりはない。
「サクラ。わたしが保護する者へ、戦闘妖精を付けて下さい。ベリエ王城を攻め滅ぼしに行きますよ!!」
「はいですのっ」
わたしを引き留めようとするマルクスを弾き飛ばし、呆けているバモカノには魔法で魔力ビーコンを仕込んだのち、国家戦争装備に着替えるために孤児院へ向かった。
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