第四十話 手段を選ばない指名依頼
「教会騎士団が全滅したのじゃ!!」
そう言葉にするダングルフは、切羽詰まった顔をしていた。
「準備しておいた布石は、無駄になったのですね…」
詐欺師たちが神の名を語れないように布石を打っていた。それなのに、教会騎士団は全滅したらしい。むしろ、日頃の行いで神罰を受けたと言える。
「教会騎士団が全滅したのですか!?」
「でもよ。貴族の貢物で、良い装備をしてたんだろ」
「魔物の氾濫の時もよ、騎士たちは良い装備だったしな」
わたしを追いかけて来ていたのだろうか、二クラス、スヴェン、クラウスが、ダングルフへ質問する。
「おぬしたちが、何故ここに居るのじゃ」
ダングルフにも認識されているってことは、実力を備えた冒険者なのだろう。
「とある条件として、農地で手伝いをしてもらっていたのですよ」
本当は、サキの身代りとしてダンジョン攻略できるように支援しただけである。
「ふむ。それでじゃ……」
「わたしは、受けませんからね」
「まだ、何も言っていないのじゃ」
言葉にせずともダングルフの顔を見れば言いたい事が書いてあるのだ。
わたしが口をへの字にしてそっぽ向けば、ダングルフはクラウスへ声を掛ける。
「おぬしたちは引き受けてくれるか」
「ちょっと待って下さい。教会騎士団が全滅したんですよね!?」
全滅した教会騎士団は30名いた。3人だけのパーティでは死んでこいと言われているようなものだ。
「じゃが、この街の一大事。いや、ベリエ王国の危機になるかもしれんのじゃ」
「なら、俺たち冒険者じゃなくて王国が動くべきでしょうが!!」
クラウスが言うことは尤もだ。国の危機になるなら、国が対処すべき問題だと思われる。
「クラウスさんの言う通り、ベリエ王国の危機になるなら国が対処すべきしょう」
わたしがクラウスを支持すれば、ダングルフは俯いてしまった。
「魔物の氾濫時でもそうであったが、騎士団は信用ならんのじゃ」
「どこら辺が信用できないのですか」
「……この街の冒険者より弱いのじゃ……」
確かに、魔物の氾濫時に最前線を維持していたのはクラウスのパーティだった。まぁ、装備が良いだけで地力がないのであろう。
「おまえさん。どんな手段を使っても良いから頼むのじゃ」
ダングルフは、その場で土下座して懇願してきた。その姿は冒険者ギルド長としての威厳も尊厳ない。それを見た、クラウスたちは無言のまま、わたしを見つめる。
「本当に、どんな手段を使っても良いのですね? 念書も書いていただきますよ」
何となく悪者扱いされたような気がして、念書を書くのならばと承諾する。なのに、顔を上げたダングルフの顔色はすぐれなかった。
「今日は日が暮れるので、明日、ダンジョンの位置を書きしるした地図と念書を持って孤児院まで来ていただけますか。それとルマン大森林に立ち入らないように封鎖しておいてください」
「わかったのじゃ。おまえさんには、感謝しきれないのじゃ」
ダングルフは、ルマン大森林の封鎖をするべく、踵を翻して帰っていく。
わたしも孤児院へ帰るかと歩きだした所で、クラウスから声を掛けられた。
「サキさん…あの弓を使われるのですか」
「ええ。ダンジョンごと崩落させるほどの一撃を叩きこむ予定ですよ」
そう答えれば、クラウスだけはなく、二クラス、スヴェンも目を見開いて固まっていたが、夕食に遅れてはいけないと放置して孤児院へ帰宅した。
翌朝、朝食を終えてから、わたしは魔物の氾濫時に装備した、国家戦争用の装備に着替える。だが、追加して装備した物がある。
それは、背中に装備した真っ白な羽だ。ダンジョン上空から一撃を与える予定なので、飛翔用の魔道具を装備したのだ。
着替えている間にダングルフは孤児院に到着していたようで、食堂で座っていた。そして、わたしの姿を見たマリアはスッと跪き、ダングルフは口をパクパクとさせる。
「マリアさん跪かないで! それと、ダングルフさん約束の物は持ってきましたか」
わたしがそう言うなり、マリアは立ち上がるも尊崇の眼差しで見つめてくる。
「あ…。ああ、持ってきているのじゃ」
ダングルフはテーブルの上に、地図と念書を出す。
地図を見ればマップにダンジョンの位置が追加される。そして、念書の内容にも確認して全ての責任をダングルフが負うと書かれている事を確認してストレージへ保管する。
「問題なさそうですね。あと、報酬はいくらでしょう?」
タダ働きをする気はないので報酬を確認しておく。
「うっ。大金貨30枚で勘弁してほしいのじゃ」
ニーズヘッグ時よりも安かったが、承諾する。報酬があれば金額は気にないからだ。
「わかりました。では、さっそくダンジョンを叩きつぶしてきますね」
孤児院から出たわたしは、飛翔の魔道具を使って空を駆け上がっていく。そして、金色の光を纏いながらダンジョンの上空まで向かう。
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