第22話 バンド顔合わせ前夜にわかったこと
なんとか22話まできました。
私は長い話が苦手なので、この物語もあと数話で終わらせるつもりです。
高校生の恋愛話は大好物ですけどね。
あと少しお付き合いください。
さて、雅人がネットで知り合った高校生とバンドをするという日の前日の夜。
つまり土曜日である。
智花のアパートには俊樹が遊びに来ていた。
これは、めずらしいことだった。
俊樹は智花のつくったケーキを頬張っている。
いつもは智花が俊樹の部屋に遊びに来るパターンが多い。
それは、智花が毎日俊樹の家で夕食を食べるので当然といえば当然である。
でも、夕食後、智花が自分のアパートの部屋に来ないかと誘ってくることもあるのだ。
いつも俊樹はうまくそれを断っていた。
俊樹は智花の部屋に行くと、自分の理性を保つ自信がなかった。
自分の家なら保てる性欲のブレーキが効かなくなることを恐れた。
また、智花の部屋は引越からしばらく経つと、パステルカラー系統の女の子らしい可愛いグッズでいっぱいになり、香水のような甘い香りが部屋を満たすようになった。
つまり、いかにも女の子っぽい部屋になっていて、俊樹はなんとなく落ち着かなかった。
とはいえ、今日は智花がケーキを作ったので、食べに来て欲しいとねだられ、仕方なく来たのである。
相変わらず、智花はミニスカを履いている。
普通の外出のときはパンツ系ファッションか長めのスカートを履いているようだし、
家にいるときはルームウエアを着ているようなのだが、
俊樹と二人きりになる機会があるときは、決まってミニスカートである。
だから、部屋で二人っきりでいるとしばしばパンチラも見てしまう。
今夜は真っ白なパンツを何度も目に焼き付けてしまった。
また、胸の形がはっきりわかるような、体にぴったりとした服も来ていた。
(こいつ、俺を誘惑してるんじゃないか?
押し倒したくなっちゃうぞ。
もう、好きだっていっちゃおうかなあ。
それでオッケーなら、何をしてもいいわけだし。
いやっ、だめだ、だめだ。
なんか、今、告白したら誘惑に負けて、性欲のために言い出したようで嫌だ。
大体、本当に好きなのかよくわからないんだ。
大事な存在だし、親友だっていうことは事実だけど。
うーん、むずかしい。
ちゃんと、自分の気持ちを整理してからにしたい。)
一方、智花のほうは、
(あっ、俊樹ったら私のパンツしっかり見てた。
さっきは胸もじっと見てたし。
やっぱり男の子だよね。うふっ♡
でも、冷静さを保っている。すごいっ!
性欲あるはずなのに、襲ってこないんだ。
俊樹もいろいろ悩んでるんだろうなあ。
私みたいな、TS女子と恋人になるなんて、
ちょっとまずいと思ってるのかもしれない。
でも、私を大事にしてくれているのはなんとなくわかる。
慌てないようにしよう。
でも、ミニスカで誘惑するのはやめない!
だって、面白いんだもん。
たまに勃起しているのわかっちゃう♡)
と観察、分析していた。
勃起までわかっちゃうのは元男子ならではである。
ふと、俊樹が口を開く。
「そういえば、明日バンド活動するって言っておいたよな?」
「うん、聞いてた。
やっぱ学校でやるの?」
「いや、明日は、東京のレンタルスタジオだよ。
ネットで知り合った同い年の奴と会って、セッションだ。
ウチのバンドからは、前に話した子、ボーカルの双葉を連れていく。
あっちは、ドラムでやはり同じ学校でバンド組んでいるベース担当を連れてくるみたいだ。
4人で、あらかじめ決めておいた課題曲を演奏してみる。」
「へえーっ、双葉あやめちゃんだっけ?
可愛い子なんでしょ?会ってみたいな。」
智花は意地悪っぽくコメントした。
俊樹はちょっと慌てた。
「勘違いするなよ。双葉の告白はちゃんと断ったんだから。
バンドの仲間としての行動だ。それ以外にないっ。」
「ふふっ。わかってるって!
ちょっとからかってみたいと思っただけ。
でも、ちょっと会ってみたいな。
そのうちライブに見にいくから紹介してね。」
「い、いいけど。」
「あれっ?ネットで知り合った子とバンドをやる?
どこかで聞いた話だなあ。
・・・・・・
あ、思い出したっ!なんですぐ気付かなかったんだろう。
もしかしたら、相手の高校生って雅人っていう子じゃない?」
「えっ、ネットでのつきあいだけだから、 MASAっていうニックネームしかしらないけど。」
「じゃっ、スタジオはもしかして、渋谷のストーム?」
「えっ、なんでそんなこと知ってるんだ?どういうことだ。」
「実はね、・・・・」
智花は、鈴音から聴いている話と、雅人の行動をチェックするために、スタジオの近くのカフェから観察する計画まで全部話してしまった。
「す、すげえ偶然だ。その鈴音っていう子の幼馴染みの雅人くんで間違いなさそうだ。
それにしても、聞いといてよかったのかな?
もし香耶って子が来たら三角関係っぽい話を聞いちゃってるから、あした妙に意識しちゃうぞ。
何とか演奏に集中するようにするけど。」
「私は知ってよかったよ。
だって、あした、いきなり、俊樹を見かけたらびっくりするもん。
もし、向こうの雅人くんが香耶ちゃん連れて来たらダブルデートっぽくなるし。
あ、そういうことだから、向かいのカフェから観察されていることに気づいても、気づかないふりしてね。
鈴音に悪いもん。乱入するようなことは絶対しないから。っていうかさせないから。
それにしても、私はあやめちゃんの実物が見れる。ちょっと楽しみ。」
「わかった。気づかないふりするよ。
でも、純粋にバンド活動を楽しむんだから、じゃまはするなよ。特にその鈴音って子が嫉妬で変な行動をおこさないようにコントロール頼むぞ。
とにかくこれはデートなんかじゃないからな。」
「了解。」
そこで、智花は俊樹の隣にいきなりやってきて、腕をからませた。
俊樹の腕に胸が当たる。
「おっ、おい、何するんだ。」
「あした、私が嫉妬しないようにするためのおまじないっ!」
「ええっ?(これって、困る。俺の性欲、収まってくれ。
キスだけでもしちゃいたいよっ。
でも、でも、がまん、がまん。)
大丈夫だから。俺、あしたはどんな可愛い子が何百人現れても、
女の子に気をとられることないから。
(あれっ?俺っ、智花と正式に恋人になってないのに、変な言い訳してる?)」
「はいはいっ。(俊樹ったら、私と恋人になったわけじゃないのに言い訳してる。
面白いっ。
でも、そのうち、私たち、ちゃんと関係性決めないといけないのかな?
俊樹から言わせるのか、私から言うのか。
うーん、むずかしいっ。)」
そのころ、日曜日のセッションに誘われてオッケーを出した双葉あやめも
ちょっとした緊張に襲われていた。
理由はいくつもあった。
まずは、他校のバンドとのセッションが単純に怖かった。
なにせ、あやめはバンドのボーカルを初めて間がない。
いわば初心者である。
いい声をしていると褒められることはあるが、技術的に未熟であることはやはり指摘されるし、
自分でもわかる。
同い年とはいえ、技量や性格のよくわからない相手といきなりバンドをやるというのは
ハードルが高かった。
面白そうと思って、気軽にオッケーを出したのだが、あとでちょっと後悔した。
(相手が上級者で、私のこと下手くそっていってきたらどうしよう?
こんなへたっぴだとは思わなかったなんて言われたらどうしよう?
もし、そうなったら、立花くんにカバーしてもらわなきゃ。誘った張本人だからね。
あいつは緊張しないの?
知らない人間とバンドやるのに。)
そして、悩むのは服装だった。
バンドのボーカルってどんなファッションがいいのかなあ?
やっぱりかっこいい感じ?
とんがってる感じ?メイクは?髪型は?
悩んでいるうちに部屋の中が、ファッション雑誌と手持ちの服で散らかしっぱなしになった。
最後は「ふーっ、やはりこれが無難ね。」とため息をもらす。
黒のパンツにTシャツ、そして細身のジャケット。
ヒールは歌っている間に疲れそうということで、スニーカー。
髪はサイドのポニーテール。
「メイクはするけど、奇抜なのはやめておこう。慣れないことはだめだっ。」
そして、最後にもう一つの悩みである。
「私って、小学校卒業後、学校以外で男の子と二人で歩いたことってないんだよなあ。」
そう、スタジオまでの道のりも帰りも、俊樹と一緒に行動するのである。
同じ年頃の若い男女が一緒に電車にのって、一緒に都会に行く。そして一緒に帰ってくるというのは
ちょっと恥ずかしい。
俊樹への恋心はもう、消し去ったあやめではあったが、
(これってデートみたいっ)と思わずにいられなかった。
(まあっ、将来、彼氏ができたら、当たり前になることだから、男の子と歩くくらい慣れとかないとね。
でも、緊張するなあっ。)
いろいろな思いが頭をめぐり、なかなか寝付けないあやめであった。
本作品はもう少し続きますが、次回作の宣伝をします。
次回作は、社会人のTSをテーマにしたお話です。
もう準備しています。
今の作品より、もっとリアルなTSの悩みについて描こうと思っていますが、
どうなるかわかりません。
真面目で、不器用なTSの恋をテーマにすることは決めています。
さて、本作の次回更新は3月13日の日曜日を予定しています。
宜しくお願いします。午前1話、午後1話。2話更新予定です。
あと少しで終わります。




