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眼覚めた悪夢 灰燼

悪夢のターンなのに、今まで以上に動いていない灰燼。現れただけで終わった。終わってしまった・・・。すいません。

<あんたが死ぬのは、必定であり必然だった>


 ふいに、刈り取る者の声が聞こえてきた。

 辺りを見渡すけれど、その姿は見えない。怪訝な顔をする私を、刈り取る者が実に愉快だと言わんばかりに笑った。ふわりと、肩に重みが加わる。背後を見た。誰もいない。なのに、誰かが押しかかってくるような感覚がある。

 気味が悪い。堪らず、顔をしかめた。

<あんた達が母体と呼ぶ存在に、雪の乙女の魂を定着させることは出来た。けど、そいつには雪の乙女の力は何一つ継承されなかった>

 私の感情を無視して、刈り取る者が話し始める。

 相変わらず、姿は見えない。耳元で震える空気に、背筋が震える。無論――嫌悪で。


<だから、力を継承できる存在を探した。母体の魂を半分にし、様々な世界へ飛んで適応するか試した。何百と言う失敗の果てに、俺はあんたに・・・いや、あんたの前世に辿り着いた>

 すぅっと、刈り取る者の腕が視界の端に現れた。ちらりと後ろを見れば、見知った白い仮面が背後にある。ホラーだ。なんて、思えるうちはまだ余裕だな。自嘲する。

 視線を前に戻した。

 シメロン達の姿が、綺麗に消えていた。これは、かつて琥珀の遺跡で体験した現象と似ている。とすれば、ここは刈り取る者が作りだした領域なのかもしれない。存在するのは刈り取る者と、私と、異世界(こちら)の私だけ。

 熱く、滑った物が耳に触れた。こ、コイツ・・・舐めやがった! 悪寒に身体を震わせながら、刈り取る者の足を狙って踏み・・・つけられなかった。逃げるなよ。

<鍵穴に鍵がはまる様に、綺麗に定着した魂は十六年と言う月日を過ごした>

 十六歳・・・。

 女子高校生(むかし)の私が死んだ歳だ。

<あちらでこちらと似た世界がゲームとしてあるのは、嬉しい想定外だった。おかげで、あんたの魂を入れる人間を簡単に決めることが出来た>

「・・・」

<一度、理不尽な死を経験した人間は二度もごめんと躍起になる。だから、ルキア・クルーニクスの身体に定着させた。ゲームと同じ展開になるように、三歳児を連れ出すのは骨が折れたがな>

 聖王国・王冠レアーメへ行ったのは、お前が原因か。

 つくづく、腹が立つ(やつ)だ。舌打ちをして、刈り取る者の右腕を強く抓った。痛みに呻くことなく、逆に猫に引っかかれたようだと笑う刈り取る者に苛立ちが湧く。


 刈り取る者はさらに続ける。

 私の記憶を呼び起させるタイミングや、初めての邂逅で、ゲームとは違うことを知らせるタイミングを図っていたことを。ああ、不愉快だ。エステルが死んだのも、機械王が死んだのも、知識でのみ知るキャラクターの死も全て、刈り取る者が私に死を恐怖させるために企てた、必然だと言う。


 ――もう、黙れ

 

「煩い」

 私の人生だと思って歩んでいた物が、実は刈り取る者が定めて敷いたレールだった事実が気に食わない。自分で決めていたはずなのに、すでに定められた結果だったのが嫌だ。むかむかとした、黒い塊が胸中に渦巻く。

 なんて――――理不尽。

「煩いよ・・・」

<認めるのが嫌か? 継承者>

「私はまだ、何も継承してない」

<いいや、いいや>

 刈り取る者が楽しげな声で、笑う。

<魂を継承した。あの母体は時期に朽ちる。その時こそ、あんたが魂を継承し、役目を思い出す瞬間>

「・・・」

<もう、逃げられない>

 その言葉に、鼻で笑ってしまった。

 逃げられない? 逃がす気がない癖に、よく言う。

 自嘲する私の耳元に、熱を含んだ息がかかる。気持ち悪いと身じろげば、背後で愉快そうに笑う声がした。悪趣味だな、こいつ。

悪夢(オッセッスィオーネ)と遭いたくないなら、この場所から離れろ。あと、あの母体は処分しろ。でないと、器として使われるかもな>

 視線を一瞥、異世界(こちら)の私に向けてすぐに戻した。

<ああ、そうだ。もう、気づいているんだろう――――?>

 視界から、刈り取る者の腕が消える。気配も、霞みのように薄れていく。

<灰燼と女王が同時に眼覚めた気配に>

 その言葉に、私は返答せず顔を伏せた。


 周りから、音が聞こえた。どうやら、刈り取る者は完全に姿を消したらしい。伏せた顔を上げて、視界に先程までいなかったシメロン達を映した。

 滑稽すぎて、泣けやしない。自嘲して、肺が空になるほど息を吐きだした。吸って、浅く吐く。それを数度繰り返して、こぼれそうな涙を堪える。私に、泣く権利なんてない。


「『魔女は妖精の炎が作った災厄の灰を空へ撒き、夜を生み出した』」

「ルキア?」

 知らず、口に出していた言葉をシメロンが拾ったようだ。気にせず、視線を異世界(こちら)の私に向けて動かさない。

 眼を伏せて、まるで眠っているような異世界(こちら)の私。

 でも、その身体は確かに朽ちている。指先から、足先から、砂上の城が壊れるように儚く崩れた。奇妙なことに、肉片ではなく灰となって消える身体。随分と前に、死んでいたからだろうか? だとしても、不思議なものだ。

 シメロン達は、異世界(こちら)の私の様子に気づいた気配がない。不可解に、私を見ている。嘲笑しようとして、止めた。嘲笑う資格も、ない気がした。

「『濁った夜に歪な月を浮かべ、魔女は妖精と悪魔と暗闇とでかつてこの世に君臨した女王を復活させた。女王は焔でも解けない雪を操り、世界を極寒へと変えてしまった』」

 言い終えて、ふと視線をシメロン達に向ければ奇妙な眼で私を見ていた。まぁ、当然か・・・。いきなり、黙示録(アポカリッセ)を口ずさめばそんな眼差しを向けてもおかしくないわな。

 ふるりと頭を振って、息をついた。


「どうしたんだ、ルキア」

 シメロンが心配げに私に近づき、肩に触れようと手を伸ばす。その手を払いのけて、私はたぶん、冷めた眼を向けたんだと思う。シメロンが身体を硬直させ、困惑を顔一杯に浮かべているから。

 何かもう、疲れたよ。

 このまま、何もせずに眠っていたい。知らないふりをして、過ごせたらどんなに楽か。

 だからと言って、全てを投げ捨てることなんて出来ないんだから人生とはままならない。内心で笑って、眼を伏せる。


「母体がっ!」

 ルカがの叫びに、硬直が解けたのかシメロンが弾かれたように振り返った。今頃、気づいたのか。

 異世界(こちら)の私の身体は、半分も残っていない。上半身だけを残した異世界(こちら)の私の身体が、ゆっくりと消えていく。灰となって、水の中を漂っている。ぽとりと落ちた眼球が形を成していたのは一瞬で、すぐに灰となった。

「そんな・・・どうしていきなりっ」

 絶望したように、顔色を悪くさせるノアに私が答えた。

「残っていた魂の半分が、消えたからだよ」

「ルキア・・・?」

「役割を終えた存在を、刈り取る者が残しておくはずがない。判らなかったの、お兄ちゃん?」

 馬鹿にしたような言い方だが、正直な気持なので仕方がない。他意はないよ、たぶん。愕然とするシメロンから眼を逸らし、唖然とするノアとルカからも視線を外す。

 一歩、後ろに下がった。耳を押さえて、眼を硬く閉ざす。

 耳奥で、木霊するように鐘音が聞こえる。清浄な音色とは言い難い、不協和音は聞いているだけで頭が痛い。

 その音が何を意味しているのか、考えるのも億劫だ。答えなんて解りきっているから、尚更に。息を吐き出す。ゆるりと緩慢に眼を開けて、異世界(こちら)の私を静かに眺めた。


 鐘音がいっそう、激しく音を鳴らす。

 まるで警告のようだと、笑いたくなった。いやいや、事実はもっと別で、世界が神々に送るSOSなんだけど。それが解る時点で、私はもう・・・人間ではないのだろう。

 あ、違う。元から、人間じゃないや。

 ホムンクルスだった。同じだと、思うのは彼らに失礼じゃないか。自嘲がこぼれる。

 いっそもう、精神が狂えば楽になれるんだろな。ならないけど。また、自嘲。

「ほら」

 私は腕を伸ばし、人差し指を異世界(こちら)の私へ向けた。

 シメロン達の視線が、つられるようにそちらへ向く。

「灰燼が眼覚めた。女王も、別の場所で眼覚めたよ」

 顔だけを残した異世界(こちら)の私に、何か、入り込むのが視認出来た。

 灰色の人魂と、言ってしまえばいいのか、それとも泥と言えばいいのか。どちらにしろ、(アルバ)の名に相応しくない存在が異世界(こちら)の私の口から、鼻から、耳から、空洞の眼から入り込んだ。びくりと、残った頭部が痙攣をおこす。 ああ、気味が悪い。

 口から唾液を、鼻と耳から血を、空洞の眼から涙を流す。本当に、気味が悪い。


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・変化は、眼に見えて解った。

 明らかに女性の身体だったのに顔立ちは中性的になり、失った身体が泥によって造りだされる。そこに、女性特有の胸はない。真っ平らだ。

 長さをそのままに、黒髪が鳶色へと変わり、消えた眼球が現れて淡白で温かみのない色を表す。すっと伸ばされた腕が、水槽のような物に触れた。途端に響く、硝子が割れる音。

 あれは硝子で出来ていたのか。なんて、どうでもいいことを考える。余裕だな、自分。


 ぐらりと、身体が前に倒れ込む。止めていた液体が、一斉に外へ出る。変な臭いがした。

「・・・」

 身体を水で濡らしながら、まるで生まれたての子牛のように四肢を振わせる灰燼。どうやら、上手く身体を操れないらしい。

 寝転がったままの灰燼が、首を動かして目線を上げた。

 揺れる視線。定まらない焦点。何も見ていないはずなのに、楽しげに笑みを刻んだ口。

「みぃつけたぁ」

 掠れた声で告げる灰燼の腕を動かし、床を這う。

「ひめの器ぁ・・・。探した、探したよ。おれたちと一緒に、いこうぉ?」

 ずり、ずりと蛇のように動く灰燼に不思議なことに恐怖を感じない。

 おかしいな。今まで悪夢と遭遇したら少なくとも、恐れを抱いていたはずなのに。目まぐるしく変化した展開と現状に、精神が異常をきたしたか。阿呆なことを考えて、胡乱に灰燼を見た。



「馬鹿馬鹿しい」

「なぁんでぇ・・・?」

 呟いた言葉に、灰燼が反応した。

 返答は求めてないから、気にせず口を動かす。

「自分が何かを忘れながらも、役目を果たそうと行動して」

 シメロンが何か言ったような気がする。でも、耳に聞こえない。

「植えつけられた、偽りの感情に支配されて」

 ノアが何かを叫んだ気がした。でも、耳に入らない。

「誰の、とは言わないけど・・・。掌で転がされていることにも気づかないなんて、本当に・・・馬鹿らしい」

 ルカが私の右肩に手を置いた。鬱陶しげに見上げれば、怪訝な顔で私を見ている。

 もうさ・・・。こんな喜劇を見る気力、ないんだよね。

 かと言って、刹那的になった訳ではない。

 なんでもかんでも、投げだせるほど軽い物を背負っていないんだ。本当、刈り取る者を一発か二発、殴りたいわ。・・・よし。次にあったら、殴ろう。


 肩に置かれてルカの手を払いのけ、私は薄く笑った。

 今、私を動かすのはたった一つの願いだけ。どうしようもなく願う、渇望。


「君達には絶対に、世界を壊させない」

「ひめの器ぁ・・・?」

「君達が壊したらもう、治すことは出来ないからね」

 魔に堕ちたとは言え、元は神の眷属。

 そんな奴らに世界を壊されたら、いくら神様でも世界を治せない。それでは駄目だ。意味がない。私が一番と望むのは――オルフェ達が生きる未来なのだから。

 それ以外はいらない。

 簡単に切り捨てられたことに、笑えてくる。何ともまぁ、世界に対して薄情だ。

 

 訳が解らずに固まる灰燼を冷やかに見下ろし、シメロンの名を呼んだ。挙動不審に返事をし、ぎくしゃくとした動きで私に近づいてくる。私が怖いのか。

 今まで、妹だ何だと言っていたのに、態度を一変させるのか。別にいいけどね。

 そう考えて、はたと気づく。

 何故だろう。刈り取る者と会話してから感情や思考と言う物が、ごっそりと抜け落ちた気がした。これは、神の魂を継承したからなのか。それとも別の何かが要因か。

 考えるのも面倒だ。・・・私はこんなに、面倒くさがりだっただろうか。やっぱり、頭も変だ。思考を切り捨てるように、ゆるりと首を横に振った。どうしてだが、行動一つ一つが億劫でならない。

 口を開くのも、怠惰と思ってしまう。

 形容しがたい気だるさを感じながら、私は口を動かした。ああ、面倒だ。

「空間転移」

「へ?」

「あれの相手をしたいの?」

 視線だけで灰燼を示せば、真顔で納得された。


神霊術(アルカナ)も、戦略技能(タクティクス・スキル)も効かない相手とまともにやり合うだけ時間の無駄」

「そう・・・ですね」

 私が言いたいことを正確に読み取ったのか、ノアが同意した。

「戦う術を奪われた私達では、簡単に殺されてしまいますからね」

 さらりと無力であることを告げたな、ノア。まぁ、状況を正しく理解してくれたようで何よりだ。面倒な説明をしなくていいし。

 ・・・だから、何でそんなに怠惰なのさ、私。

「ルカ・・・。ここから一番近くて、安全な場所は何処ですか?」

「聖王国・王冠・・・かな?」

 自信なさそうに告げたルカの頭部を、ノアが力一杯叩いた。そして始まる、説教。今、そう言うのはいいから。

 溜息が出た。

あー、灰燼が動き出した。仕方がない、結界術を張って時間を稼ぐか。小さな声で「かごめ」と呟いた。物凄く、眠たくなってきたよ。

 なんか、身体が異変すぎて駄目だ。思考も纏まらない。ダルイ。

 結界術の中で、灰燼が暴れまくる。が、結界を壊すまでには至らないようだ。あ・・・いや、ヒビがあることを考えれば、壊れるのも時間の問題か。

 まぁ、時間を稼ぐのが目的だから別にいいんだけど。


 結界の中で我武者羅に暴れる灰燼を見ていると、声をかけられた。

「ルキア」

 隣に立ったシメロンに、億劫に視線を向けた。すれば真剣な顔をしたシメロンが、私を見下ろしているではないか。その双眸に、先程の挙動不審は見つけられない。

 何、この変わりよう。短時間で何があった? 疑問を抱くが、すぐに思考を放棄した。だって、面倒だし・・・。

「俺はルキアの兄だ」

 知っているよ。

「でも、俺はルキアに兄らしいことを何一つ出来ていない」

 そうかもしれないね。

 兄妹と言う者をよく知らないから、解らないけど。

「それでも俺は、ルキアの兄でいたい。ルキアを護りたい」

 へぇー、そうなんだ。

「例え、ルキアがどんなに変わっても」

 ・・・私は何か、変わったんだろうか? 首を傾げながら、話に耳を傾ける。

「俺はルキアの味方だ」

「私もよ」

「俺も」

 何故か、ノアとルカまで加わった。真剣な顔で頷く三人に、何をどう言えばいいのか解らない。と言うかこれ、どう言う展開? もういいよ。面倒くさい。

 実際、別に味方じゃなくてもいいし。敵として眼の前に出なきゃ・・・って、これ何フラグ? あーもう、死亡フラグじゃなきゃいいや。思考を動かすのがもう、面倒くさくて、面倒くさくて・・・。眠い。どうしようもなく、眠い。睡魔が半端ないんだけど。

 え、本当。何でこんなに眠いのかな・・・?


「行かせない、行かせないぃ」

 灰燼がずるずると、這って近づいてくる。けど、結界が邪魔をしてそれ以上、先へは来られない。

「ひめの器はぁ、おれたちと一緒にあるんだぁ!」

 叫ぶ灰燼の眼から、止めどなく涙があふれ出ている。浮かぶ感情は果たして何か。いや、本当に考えるのが億劫だ。やめよう。

「シメロン」

 ノアが名を呼べば、シメロンが私の身体を抱きしめた。意味が解らないが、人肌の温もりに睡魔が刺激されてどうしようもない。

 このまま寝て、良いだろうか? あ、駄目?

「ひめを、放せぇぇぇええぇぇぇぇえぇぇぇぇええええぇぇぇぇ」

 灰燼の叫びに共鳴するように、周囲が変質した。いや、正確に言えば無に帰ったと言うべきか。もっと簡単に言えば、消滅しました。結界術すら、消されたよ。

 わー、流石は灰燼。

 跡形もなく消したな。建物の影も形もないよ。

 何気なく上を仰いだ。木漏れ日から見える日差しが、眼に痛い。うう・・・やめよう。頭も痛い。


 灰燼の身体からぶわり、と泥が溢れる。それは意思を持ったように蠢き、私達に迫ってくる。どうあっても、私達を・・・私を行かせたくないらしい。はた迷惑だ。

 シメロンがノアとルカを傍らに呼び寄せ、迫る泥を冷やかに凝視した。

「悪いが」

 絶対零度に近い声で、シメロンが告げる。

「妹は諦めろ。しつこい奴は嫌われるだけだ」


 ・・・カッコいいことを言っているが、妹馬鹿(シスコン)が言う台詞じゃない気がする。


 ぐらりと、視界がぶれる。

 迫った泥が、鋭利な何かに斬られたように嫌な音を立てて千切れた。泥の中から赤黒い液体が流れている。気色悪い。しかも異臭がする。

 ノアが顔をしかめ、ルカが鼻をつまんだのが視界に入る。だよねー。そうなるよねー。

 灰燼が何かを喚いているようだが、生憎と空間転移が始まって聞き取れない。いや、聞きたくもないんだけどね。読唇術が使えるらしいルカが、呆れたように「愛しい姫」やら「俺達を見捨てないで」やら「置いていかないでくれ」やらと言葉にして教えてくれる。

 いらないよ、そんな情報。

 ゴミ箱に捨てて、熱却処分してしまえ。塵も残すな。

 ノアが呆れた顔をして、私をいたわりだした。やめて、惨めな気持ちになるからやめて。そして頭を撫でないで。眠くなるから。今だって頑張って、眠気と戦っているんだよ?

 白旗を上げさせないでおくれ・・・・・・。駄目だ、眠い。


 重くなった瞼を開けていることが出来ず、逆らうことなく眼を閉ざした。シメロンが耳元で、「お休み」と言ったようだが・・・そこで喋るな。やめろ、本当。すぐに殴る音が聞こえたから、ノアかルカがやってくれたんだろう。

 ありがとう。なんとなく、お礼を心の中で呟いてみる。


 ふわりと、意識が遠くへ行く感覚がした。浮遊したような、不安定な気分だ。ああ・・・もう、思考が・・・・・・うまくまとまらない。うごかない。はたらかない。


 あ、そう言えば・・・。

 女王って何処で眼覚めたんだろう?

 そう疑問に思ったのを最後に、私は眠りに落ちた。



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