機械の乙女
もう一話、更新できました。でも、明日はできるかわかりません。
※誤字を訂正しました。
翌日――。
空は雲一つない快晴。ロイドの言葉が当たったと驚くべきか、戦くべきか悩む私に誰も気づかず、転送陣がある部屋へ向かう。
部屋へ向かうメンバー紹介!
先頭を無表情のレーヴェと笑顔のテオドール。その隣に絶望した顔のラルフレアと爆笑するカリステゥス。・・・対照的な兄弟だ。傍らに控える二人は笑顔の質が違うだけで、同じなだけに、兄弟の対比が凄い。特にラルフレア。
この世の終わりみたいな顔をしているよ・・・。
――で、真ん中。
私と手を繋いでご機嫌なシメロン。その後ろを歩くのは不機嫌丸出しなアーシェと、恨みがましい眼をシメロンに向けるピセル。その二人に怯えるロイドと口を一文字に紡いで沈黙したままのオルフェ。
以上、テンションを上げてご紹介しました!!
・・・チームワーク、悪そうなメンバーだな。主にシメロンに対して。
あと、兄弟関係で。
「ここに、転送陣がある」
おっと、いつの間にか部屋に辿り着いていたらしい。視線を向ければ、頑丈な扉が視界に飛び込む。
テオドールが扉を開け、カリステゥスがレーヴェとラルフレアを先に通す。その後を追い、部屋に入ればゲームで見た光景が飛び込んできた。うわ・・・魔法陣が凄い。複雑な紋様を描く魔法陣が一、二、三、四・・・・・・数えて六つ。
中心部には淡い光を放つ宝玉が、独りでに宙へ浮いている。
これはゲームに忠実なのか。誰にともなく悪態をついて、私はシメロンを仰ぎ見た。昨日はあんなに逃げることを急かしていたのに、今日は何も言ってこない。何を考えているんだろう・・・?
「俺の顔に何かついているか?」
「何も」
「ふぅん・・・。なら、俺に見惚れてた?」
何を馬鹿なことを言い出すんですか、お兄ちゃん。思わず白い眼を向けてしまったじゃないか。馬鹿か、馬鹿なんですか?
にやにやと笑うシメロンの右足を踏みつけ、私は頭痛を堪えた。
「転送陣を起動させる。こっちに来てくれ」
宝玉の傍にいるレーヴェに促され、近くに寄る。魔法陣が妖しく光って、身体が竦んでしまった。それを目聡くシメロンが気づき、安心させるように私の頭を撫でる。
うぬぬ・・・何か、複雑だ。
「いい加減に諦めて、兄上も手伝ってください」
「ううううう・・・。レーヴェの卑怯者ぉぉぉぉ」
「何とでも。ほら、手伝う」
・・・どっちが兄なのか解らない会話だ。
なんか、怯えたのが馬鹿らしくなってきた。肩の力を抜いて、息を吐き出す。ふいに、耳に馴染んだ声が私の名を呼ぶ。振り返れば、オルフェと眼が合った。
何か用事だろうか・・・? 首を傾げつつ、オルフェの言葉を待つ。
「反対の手、出して」
「・・・?」
「俺もルキアと手を繋ぎたいから」
いつも、無断で手を繋いでいるよね? 今更、許可を得る必要あるの? やっぱり、昨日から変だ。いやいやいや、待てよ私。今までがおかしいだけで、本来、これが正しいのでは? あ、駄目だ。昨日から頭が上手く回らない。
やめよう。これ以上、頭を痛くしたくない。うん、そうしよう。
「いいよ」
「ありがとう」
後ろでアーシェが何か叫んでいるけど、気にしないでおこう。隣でシメロンが複雑な顔をしているのも、きっと気のせい。
――なんて考えている間に、景色が変わって外にいた。
わぁお、流石は転送陣。一瞬で機械神の国境近くですか。ゲーム画面で見覚えのある光景に、私は乾いた笑みを浮かべる。ここって確か・・・やたら機械仕掛けの魔物が多いエリアだよね?
ゼンマイの体躯を持ったキマイラとか、時計が体内に入ったスライムとか、武道家ひつじとか・・・。あ、最後のは機械仕掛けじゃないや。でも、面倒な魔物なのは確か。このエリアの敵は、やたら防御面が強固で面倒だったな。
おっとまずい。ついつい、過去に逃避してしまった。
いや、だってさ・・・。
機械神に向かう道すがら、魔物とエンカウントするが半ば八つ当たりに近いラルフレア・アーシェ・ピセルの息が合った攻撃によって撃破される。この状況を見て、あの魔物ってあんなに弱かったかと驚いて逃避する以外、私に何ができる。あ、一つあった。
・・・安らかに眠れ。
うん、これだ。無双状態の、かなり一方的な状態には、流石に魔物が哀れに思えて手を合わせたくなるよ。誰だって、たぶん。
それ以外、特に変わったこともなく平原を歩いた。聖王国・王冠にはない花や木々があったけど、それは全て女子高校生の私が知っている植物だ。特に懐かし以外の情はない。オルフェの隣を歩くロイドが、何やら感動したような眼をしているが・・・。
アレだ。両親が花好きだったからだろう。うん、そうだ。
「あれ?」
そのロイドが、不思議そうな声を出した。
「あそこ・・・誰かいない?」
その台詞が、私の琴線に振れる。・・・ゲームで合った、ような。
恐る恐るロイドが視線を向ける方へ顔を動かせば、茂みに足だけを出した、何とも不様な格好の・・・・・・・・・誰? 首を傾げて、瞬いた。
いや、あんな登場するキャラはいなかったよ?
「大丈夫ですかー?」
あ、ちょっとアーシェ。そんな不用意に近づいたら危ないよ。危険人物だったらどうするのさ。例えば・・・露出狂とか。
「えー? なんですかー? 聞こえないんで、ちょっと足、引っ張りますねー」
わ、行動早い。
謎の人物の足を掴み、引っ張ろうとするアーシェに加勢するように、テオが動いた。おおう! ヘタレがここで男気を見せるのか? まさか・・・ポイント稼ぎ?
思わず疑いの眼を向けつつ、言い方はあれだが、アーシェとテオの共同作業を見守る。
「よいしょー、よいしょーって、わぁ?!」
いきなり、アーシェが後ろに倒れた。だが、テオがアーシェを支えたおかげで転倒は間逃れる。・・・テオの顔が噴火しそうなほどに赤いけど。照れているのか、お前。この程度で、照れるのか? 流石に引くぞ・・・。
オルフェとロイドがそんなテオの様子に、心底、呆れた顔をしているのが見物だけど。
それはともかく――。
茂みから、深海を連想させる青い短髪の女性が現れました。
額には幾何学模様の刺青があって、着ている服は男物でありながらどこか幼さを感じる代物で・・・。はて、物凄く覚えがある。
よくよく観察して見れば、女性の右足に何かが見えて・・・。あー、解った。この人誰だか解ったわ。あの右足に書かれた文字は、付け根部分にある文字と合わせれば、と言うより、私の記憶を頑張って蘇らせれば、[E-B0099]と言う製造番号だ。
機械神の創造主たる機械王に作られた、第五期の機械人形――エステル・ブレイク。
ついでに、製造されて21年経過していると言う、どうでもいい情報まで思い出す。
機械人形と言っても種類は多く、一般的に知られているのが看護型機械人形と戦闘型機械人形だろう。その中から更に分類を分ければ、看護型機械人形と医療型機械人形。戦闘型機械人形と支援型機械人形。もっと細かく分けることも出来るが、数が多くなるし覚えてもあまり意味がないのでここで終了する。
私自身、覚えていないと言うのが本音だけどね。
で、だ。
エステルをこれで分類すると、また複雑なんだよ。エステルは一方の面で見れば間違いなく、戦闘型機械人形だろう。けどもう一つ、看護型機械人形と言う面も持っているため・・・うん、説明が苦しい。だから敢えて、私はこう言おう。
万能型機械人形――と。
いや、だってこれ以外の表現が見つからないし。他のプレイヤーだって「エステルはこれしかないよ。うん、万能型」って言っていたし。制作者サイドも否定しなかったし。有耶無耶のうちに、万能型機械人形が固定してたっけ。
本物の神様であるゼウスは、けっして万能ではないんだけどね。
余談だった。
「う、うううぅぅん? あれ・・・ここは」
眼を覚ましたエステルは、実にテンプレ的な台詞を口にする。
「ああ、そうです。ちょっとした手違いで飛んだのでした」
「どんな手違いで飛ぶの?!」
おっと、私の心境をロイドが叫んでくれた。ありがとう。
「えぇと・・・」
エステルは実におっとりと、時間をかけて喋る。
「新薬を開発している横で、思考錯誤中の遠距離の方とお話しできる代物を作っていたのです」
遠距離の方・・・電話かな?
「そしたら、何がどうなったのか爆発して、気が付いたら空を飛んでいました。綺麗でしたよ、空」
のんびりと話すエステルに、ロイドは脱力している。けど、話の要領は得たのか噛み砕いて解っていないオルフェ達に話ている。私は解ったから、聞く必要はない。ので、シメロンとオルフェから逃れ、エステルに近づく。
後ろで残念そうなシメロンの声も、オルフェの物言いたげな視線も知らないふり。
エステルに腕を伸ばせば触れられる、ぎりぎりの位置で立ち止まる。これ以上は・・・人間不信な彼女には無理だ。私の足も動かないし。
「私はルキア。ルキア・クルーニクス。貴方は機械人形?」
「はぁい、私は機械人形のエステル・ブレイクです」
にっこりと笑うエステルに、私は内心で力強く頷く。この人なら――ロイドの嫁に相応しいかもしれない。
いや、だって、エステルはロイドの嫁候補の一人だし。実際、他の嫁候補より好きだよ。人外だけど。でもでも、他のロイドの嫁候補も似たようなものだし・・・。何でロイドだけ、人じゃないんだろう? いや、別にいいんだけどね。
エステルが立ち上がり、服についた葉っぱや土埃を払いた。それが終わると周囲を見渡し、何とも言えない愛嬌のある笑顔で笑う。
「機械神はあっちですね」
いえ、その真逆です。
指差した方向は見事に機械神とは違う場所を示し、エステルは何の確信を持ってかそちらへ行こうと足を動かす。慌てたよ。ゲームで方向音痴だって知っていても、これはない。
よく見て、エステル。君が行こうとした先には、大きな川があるよ。数百キロ先に行っても橋はないよ。ゲーム画面で確認したから、確かとは言えないけど。でも、視認できる位置に橋がないことに気づいて!!
「早く帰らないと、主様を心配させてしまいますね」
「いや、だからそっちは駄目だって」
おお、ロイド。早速、エステルと絡むか。よしよし、そのまま結婚フラグを結んでおくれ。そして結婚式! ウエディングドレスを着たエステルが見たいです。
「何か、面白い人だねー」
傍目から見ればね、アーシェ。
「ロイドがルキア以外で、あんなに積極的になるとは・・・」
比べる対象がおかしいよ、レーヴェ。
「ロイドにも春が来たんですね」
しみじみ言うな、テオ。
「機械人形と言うわりに、人間味があるわね」
第五期機械人形はそう設計されているみたいだよ、ピセル。
「可愛いけど、何か抜けてるなー」
ロイドの嫁は渡さないぞ、カリステゥス。
「ううう・・・逃げていいかな?」
ここまで来たんだから諦めろ、ラルフレア。
「どうでもいいが、早く行くぞ」
もっともな意見が、オルフェから出た。
それに同意するように、シメロンが頷く。
「そのお嬢さんも一緒に、機械神へ行けばいいだろう。俺はさっさと用事を済ませて、お前達とお別れしたんだが?」
「なら、いますぐにしろ。ただし――ルキアは連れて行くなよ」
あの・・・二人とも? 気配もなく私に近づくのをやめてくれない? 断りもなく抱きしめるなよ、シメロン。対抗してオルフェも抱きつかないで。アーシェが見ているよ。君の嫁が見ているから!! ああもう、どうしてここにシメロンの嫁がいない!
へるぷみー、ノア! 君の夫がここにいるよ、早く来ておくれー!!
「じゃあ、皆で仲良く機械神へ行きましょう。あっちですね」
そっちの方角は、記憶が確かなら聖王国・王冠です。
何かもう・・・疲れた。あ、ロイドがしゃがみこんで頭を抱えている。凄いな、エステル。ロイドにあんな態度を取らせるなんて・・・。
「さぁ、さぁ、行きましょう! 私の主様もご紹介しますね」
これ、何のフラグ・・・?
そもそも、エステルの主って誰? ゲームで出ていないから、私は知らない。あーもー、いいや。深く考えないでおこう。もう、頭痛は当分いいや。
先頭を歩こうとするエステルを制し、ロイドが前に出た。その傍らに並び立つエステルに、私は人知れず頷く。うむ、並んでも遜色ないほどに似合っている二人だ。お似合いだ。そのまま結ばれろ。そして結婚式!!
おっと、欲望が出てしまう。
おかしな方角へ進もうとするエステルに振り回されるロイドを見ながら、私は思う。
こんな平穏が、長く続けばいいのに。悪夢なんて現れないで、ずっとこのまま・・・。そう思うことは、悪いことなんだろうか? 平和を望んで、何がいけないんだろうか。――すでに動き出した物語に、文句を言いたくなる。
両隣に並ぶ二人に気づかれないよう、溜息をついた。
気を抜くと、暗く淀んだ気持ちに心が支配される。駄目だと解っていても、闇に感情が引きずり込まれそうだ。嫌だ、嫌だ。
空を仰ぎ見る。
太陽の眩しさに、眼を細めた。
次に眼覚める悪夢は、決まっている。頭の中に、黙示録が蘇った。
『次に現れたのは悪魔だった。悪魔は風を操り、すべてを切り刻み吹き飛ばした』
・・・ヴェントと呼ばれる悪魔が、来る。
ゲーム画面で見た悪魔の姿が、脳裏をよぎった。茶色のありふれた髪を三つ編みにした、暗闇と同じく狂気を抱く青年。・・・少年の姿にもなれる彼は、まさしく悪魔に相応しい所業をゲームで行った。私はそれを、ゲームではなく現実で見るのか? 耐えられるだろうか? ・・・無理だ。
あの、精巧な人形を思わせる精悍な顔立ちと、残虐無慈悲な行為を思い出して身震いする。
現実で悪夢達と遭うのが、とてつもなく怖い。狙われているから、さらに恐怖は倍増する。連鎖反応が増幅させ、魂に刻みこまれそうなレベルだ。
ちらりと、前を見る。
機械神が近づいて来たのか、ゲームで良き見た巨大な塔が見える。あれは確か、機械王がいる――所謂、王城的な代物。
正式な名前はない。
プレイヤー達が勝手につけた名は、安置所。嫌な名前だ。けど、その名前もしっくりくるほど、あの塔は静かで不気味だ。それにあそこには、起動していない機械人形が数多く存在する。だから、安置所と名付けたのも納得できた。
あと少しで、機械神へ入国する。
嫌だと、足を止めてもいいだろうか? なんて馬鹿なことを考えて、失笑。
いつの間にか、私の手を握るシメロンとオルフェを交互に見やる。どちらも、私の視線に気づいていない。前を見て、ロイドとエステルの様子を笑っている。
私も、笑えたらよかったのに・・・。これからの起こるであろう出来事を想像すると、それすら不可能だ。溜息をつく。
願わくば――悪夢に見つからないで終わればいい。
それを、心の中で呟いて自嘲。馬鹿馬鹿しい。神様を散々否定して、都合のいい時にだけ頼るのか。ああ、情けない。
頭を振って、思考を払う。
賑やかなメンバーから逃げるように、そっと眼を閉じた。聞こえてくる声に、耳も塞ぎたくなった。けど、出来ないままに私はまた自嘲する。
こんなに弱くて、死亡フラグを回避できるか!
渇をいれて、気分を一掃させる。うじうじと、まだ起きてもいないことを考えるのは止めよう。悩むのは、後でいくらでもできる。ただ、後悔だけしないように気をつければいい。
私は私として、行動するだけなんだから――。




