交わした約束
もう一話、更新できました。でも、燃え尽きたので次の更新は暫し待ってください。気力注入してきます。
パジャマから普段着に着替え、メイドさんが用意してくれたご飯を食べる。
テーブル一杯に並べられた料理に、目眩がした。だってさ・・・多いでしょ、これは。ソファに座った私は思わず、逃げ腰になった。両隣にロイドとレーヴェがいなきゃ、絶対にこの場所から逃走する程の量。・・・肥えさせるつもりなのかな?
「沢山食べろよ」
いや、食べられないから。と、思いつつ渋々と手渡された具沢山のサンドウィッチを食べた。うん・・・美味しい。咀嚼しながら、テーブルに並ぶ料理を見やる。手前にあるのは胃に優しそうな野菜のスープ。その隣にはサラダ。視線を右にずらせば、今食べているサンドウィッチとは違う種類のそれ。皿にどどーんと乗っているそれに、食欲が失せた。逃げるように視線をさらに右へ動かせば、デザートの山を眼にする。プリンにケーキ、クッキーにマフィン・・・。見ているだけで、お腹一杯だ。
だと言うのに、メイドさんは足りるのか心配したようで・・・。もっと持ってこようとしていた。必死に止めたけど。一食抜いたけど、そんなに入らないから。胃袋大きくないから。え、成長期? 大きくならないからって、いや、いいです。横に大きくなるのが眼に見えているからって、あの、何故に胸に視線が? いやー、憐れまないで!
「紅茶もどうぞ」
ロイドに手渡された紅茶を飲む。・・・レモンティで、気持ちを落ち着かせよう。
「――ルキアとあの男が本当に兄妹か、調べる必要があるな」
もそもそと食事を続ける私を見ながら、レーヴェが口を開く。
やめろ、見るな。
「調べるって言っても、どうやってするつもり?」
「機械神へ行く」
食べる手が止まった。
「あそこなら、技術的に可能だろう」
「まぁ・・・確かに」
まさか、これがきっかけで機械神に行くとは・・・。運命って皮肉で出来ているんだ。
ゲームで初めて行く場所が機械神だったけど、血縁関係を確かめるために行くのって・・・。いや、ある意味ゲームの筋書き通りなんだろうけど。深く考えないでおこう。
「ついでに、兄上から機械王と謁見するように言われている」
逆! ついでじゃないからそれは!! 普通、ついでが血縁関係だからね?! 何言ってんのさレーヴェ。ほら、メイドさんだって呆れ・・・・・・聞こえないふりの我関せずだ。わー、流石はプロ。
思わず項垂れた私は、悪くない。
「気分でも悪いのか、ルキア」
「そうじゃなくて・・・・・・・・・。何時の間にいたの、お兄ちゃん?」
手前のソファで優雅に足を組んで座るシメロンに、脱力した。本当、何時の間に? まさかとは思うけど、空間転移を使った? 固有スキルをこんなことで使った?
――馬鹿じゃないの?
「ルキアがいないことにはすぐに気づいたんだが、いかんせん場所がな。それにあの二人が邪魔をしてな。やむを得ず、スキルを使うはめになった」
・・・それは、ごめん。私が悪い訳じゃないけど、申し訳ないです。
「心配したぞ、ルキア」
「あ・・・ごめん」
「いや、いい。こうして見つけられたからな」
キラキラした笑顔で微笑むシメロンから、思わず視線を逸らした。ちょ、直視できない。くそう、これだからイケメンはっ! 眼の保養だけどさ。これは、これはないっっ。
実の(?)妹に向ける笑顔じゃないから、それ!
「けど、あまり長居をしている時間はない。行こう、ルキア」
「はい、ストップ」
私に手を伸ばすシメロンに、ロイドがまったをかける。
にこりと笑っているのに、怖いよロイド。
「勝手にルキアを連れて行こうとしないでくれる?」
「長くとどまればルキアの命も危ないのにか?」
「貴方がいなくても、僕達がルキアを護るから大丈夫。むしろ貴方はどこかに消えてくれていいよ。今までだって――傍にいなかったんだから」
陰険な空気が・・・っ。いや、それ以前にロイドが毒を吐くなんて、珍しすぎて怖い。おおう、身体がガクブルする。思わずレーヴェに縋りついちゃったよ。
さり気なく身体を抱き寄せるな、レーヴェ。いや、先に抱きついたのは私だけど。困惑に視線を彷徨わせていると、メイドさんがすっと扉から離れた。
・・・あれ? また、爆走が聞こえる。と、言うことは。
「ルキア!」
「ルキアちゃん!!」
扉を壊して現れたのは、予想通りのオルフェとアーシェ。
全速力で駆けてきたのか、肩が上下している。汗もびっしょりだし・・・。そんなに急がなくてもよかったんじゃ。いや、二人にしてみればいきなり姿を消したシメロンが、何処に行ったかが問題だったんだね。
「よ、よかったよー! あの自称・兄がいきなり消えるから、ルキアちゃんの危機だって、おも、思ったらぁぁぁあああぁ」
よしよし、泣かないで。てか、レーヴェやロイドもいるのに、危機って。
それ以前に、アーシェ的に自称・兄であるシメロンが妹に何をするの? ねぇ、何を想像したのさ。
床にへたり込んで泣くアーシェを、メイドさんが慰めている。なんか・・・メイドさんに申し訳がない。すいません、このお礼はいつか必ず。・・・・・・いつ、果たせるんだろう? そもそも私は生き残れるのかな? 悪夢に狙われている以上、今まで以上に・・・命の危機だ。
どれだけ死亡フラグを折れば、私は平凡に生きられるんだろう。途方にくれそうだ。
「ルキア」
「オルフェ・・・?」
名前を呼ばれて視線を向ければ、泣きそうなオルフェがいた。・・・何で?
「俺は――」
「はい、それじゃあ皆でこれからのことを話そうか。オルフェはここに座って」
ロイドが大きな声と拍手をして、意識を自分に向けさせた。私の隣から立ちあがり、オルフェに座るよう促してからシメロンの隣に移動する。・・・いや、別にいいけどさ。
それよりも、さっきのロイドの行動はどうにもわざとらしい。
思わず探るように見るけれど、真意は解らない。気のせい・・・なのかな?
「アーシェは・・・」
「私はその男の隣に座りますー。ルキアちゃんに何かしたらすぐに、制裁を加えられるように」
ドスの利いた声が怖い。てか、そんな声が出せたのね、アーシェ。私、冷や汗が止まらないよ。
「まず、機械神へ行ってルキアとこの人・・・。の、前に自己紹介をしようか。僕はロイド。貴方は?」
「シメロンだ」
「溜息混じりにありがとう。隣に座って君の足を踏んでいるのがアーシェリカ」
「愛称で呼んだら、即、水死ですよー」
「はいはい、妙に良い笑顔で言わないの。で、ルキアの右隣がレオンハルト。この国の第二王子なので、扱いは丁寧に」
「その説明、何だか嫌だ」
「事実でしょう? で、逆隣がオルフェウス。ルキアと一番付き合いの長いのが、彼だよ」
うん、色々ツッコみたいことはあるけど、スルーしよう。唯一まともなのがオルフェだけっていうのもアレだけど・・・。いやいやいや、スルーするんだ私!
「さて、話を戻そう。機械神へ行って、シメロンさんとルキアが血縁者か調べるんだろうんだけど、オルフェとアーシェは異存ない?」
二人は無言で頷いた。
「そう。で、ついでにレーヴェの用事も済ませる。移動手段だけど・・・徒歩だと時間がかかる上に危険だよね。どうしようか、レーヴェ」
「機械神の国境付近まで、転送陣を使って移動する」
あ、確かルーラー的な物だよね。よくゲームで使ったよ。主に、面倒な移動で。
でもあれさー・・・。一度行った国じゃないと、国境付近までしか飛んでくれないんだよね。まぁ、徒歩に比べれば確実に移動は楽なんだけど。雑魚敵と遭遇しないし。
レベルアップと小銭稼ぎをしたいなら、徒歩が一番なんだけどね。
「転送陣で国に入ったら、流石に密入国だから出来ないか」
国境付近までしか飛ばないのは、そう言う理由があってか。
さくさくと進む会話の中に、オルフェの声がない。
アーシェはシメロンを威嚇するのに忙しく、発言がないのは解る。けど、どうしてオルフェはさっきから何も喋らないんだろう? それ以前に、なんでそんなに隅っこに座っているのさ? いつもなら密着するくらい、近くにいるのに・・・。
そんな私の視線に気づいたのか、オルフェがおずおずと私の手を握り締める。本当にどうした、オルフェ? いつもの勢いはどこに行った?!
「決意してすぐにこれか。我ながら、情けない」
意味が解らない。
「何でもない。ルキアは気にしないでくれ」
そう言うなら・・・気にしないでおこう。そっとしておくのも、優しさだよね。
部屋の向こうから、聞き覚えのある驚いた声が聞こえた。
「え、何ですかこれは?」
「あらあら・・・見事に壊れて。修理費かさむわね」
視線を向ければ、テオとピセルが並んで立っている。
そう言えば、レーヴェの傍にテオの姿がなかったっけ。ピセルは仕事で忙しいと思っていたけど・・・。そうか、一緒に行動していたんだ。
「ラルフレア様より、転送陣の許可を頂きました」
「国の護りもいっそう、強固にしました。なので我々がいなくとも、そう容易く攻め落とされることはないでしょう」
えっと、つまり・・・・・・テオとピセルがパーティに加わった! みたいな?
「そうか、御苦労。それとテオドール」
「ご安心を。カリスに協力してもらい、ラルフレア様も共に行くことになりました」
ごめん、話についていけない。何でそこで、ラルフレアの名前が?
聖王様が国を離れていいの? 駄目じゃない?
「よくやった。ふ・・・兄上もこれで諦めるだろう。あわよくば、機械神で俺が聖王だと認識させるつもりだったようだが、冗談じゃない。聖王は兄上だ。俺は絶対にごめんだ」
本音、本音が出ているよ。
真黒いモノも一緒に出てるよ、レーヴェ!
レーヴェの背後にあるモノに戦々恐々しているさなか、ふいにピセルが動いた。
ピセルが妙に良い笑顔でシメロンに近づき、手を差し伸べた。傍目から見れば握手を求めているように見えるけど・・・。どうしてだろう、うすら寒く感じるのは。
あ、ピセルがシメロンの頬を叩いた。良い音がしたなー・・・痛そう。
「私の可愛妹を攫おうとした罰よ」
「君のではなく、俺のだ」
頬を赤くさせたまま、何事もなく否定したシメロンにピセルの眉がぴくりと動く。
「君達がいくら否定しても、俺とルキアは兄妹であることは真実だ」
「私は認めませんー!!」
「私も認めないわ!」
同じタイミングで叫ぶ、アーシェとピセル。君達の方がよっぽと、姉妹みたいだよ・・・。
「それでは、私はラルフレア様の逃走を防ぐために行動しようと思います」
「ああ。絶対に、兄上を逃がすな。カリステゥスと協力・・・だけじゃ不安だな。ピセル!」
レーヴェがシメロンに喰ってかかるピセルを呼べば、ピセルは一瞬で臣下の礼を取る。早業だね。思わず拍手を送っちゃったよ。
「二人に手を貸してくれ」
「承知しました」
言って、ピセルはテオより早く部屋から出て行った。その後を慌てて追いかけるテオは名残惜しげにアーシェを見て、頬を赤く染めていた。
どこに頬を赤らめる要因がある? まさかテオは・・・いやいやい、そんな馬鹿な。頭を振って、浮かんだ考えを即座に滅却する。迂闊なことは考えないでおこう。私の精神安定のために。
ふいに飛び込んできた光景に、声がこぼれた。
「あ・・・」
私の声につられてか、オルフェが首を傾げた。
「どうした?」
「雨、降って来た」
最初は弱かった雨脚も、数分が経てばバケツをひっくり返したように激しくなった。雨粒が窓を叩く音が、やけに大きく聞こえた。遠くで雷が響く。
「しまったな」
レーヴェが困ったように告げる。
「天候が悪いと、転送陣が使えない」
そう言えば、ゲームでも天候が悪いと転送陣が使えなかったな。正確には使えるけど、どこに行くか解らない。大丈夫だろうと高をくくった結果、下手な所に転送されて、レベルの差で負ける。なんてことが幾度も合って、多くのプレイヤーが悔し涙を流したことか。だからまぁ、私も転送陣を使う時は天候に気をつけたさ。
天候に左右される移動手段と言うのも、あれだけどね。
「悪いが、機械神に行くのは晴れてからだ」
「それじゃあ遅い。俺達は一刻も早く」
「大丈夫だよ」
ロイドがやけに静かな声で告げる。
「明日には晴れるから」
「確証は?」
シメロンの言葉に肩を竦め、ロイドは悪戯っぽく笑った。
「君がルキアを妹と言うのと同じだけど?」
否定し辛い言葉ですね、ロイドさん。
「なら、明日に備えよう」
オルフェが私の手を握ったまま立ち上がり、部屋を出ようとする。シメロンが背後で何か言っているが、気にもとめていない。振り返ってシメロンを見れば、ソファからぴくりとも動いていない。・・・シメロンが追ってこないのは、アーシェが何かしているからか? ありえて怖い。
部屋を出ても、オルフェは何も話さない。意味があるのか廊下を当てもなく歩き、階段を下り、オルフェはただ歩く。目的地は・・・ないのかな? 適当に歩いている様子からして・・・ないな。絶対にない。
いったい、どこまで歩くんだろう? 私は若干の呆れを浮かべつつ、オルフェについて行った。
無言のまま歩いて数分――。
昨日、ロイドと来た中庭に辿り着いた。景色は昨日となんら変わりはないのに、変化を感じるのは私の精神が不安定だからだろうか?
小降りの雨が、身体を濡らしていく。
「俺は弱い」
オルフェが唐突に口を開いた。
「ルキアを護るって言っておきながら、結局護れなくて・・・。口約束だけだ」
「・・・」
「肝心な時に何もできなかった」
ゲームで彼女の墓前で言った台詞と同じって、縁起でもない。
それ以前に何故今、その話をするんだろう? 困惑する私にオルフェが自嘲した。けれどそれも一瞬で、哀しげな顔をする。
握った手に力を少しこめて、弱弱しく私を見た。・・・これは、本当にオルフェなんだろうか? 些細な疑問を抱く。
「俺はまだ、ルキアの傍にいていいのかな・・・?」
随分と、オルフェらしくない弱気な言葉。
「なんて――考えもしたけど、俺の答えは変わらないんだよな」
自己完結ですか。なら聞くなよ。
これを聞く限り、間違いなく本物のオルフェだ。けど、本当にさっきのはなんだったんなろう? らしくない姿に、こちらが動揺してしまう。
オルフェが私に向き直り、握った手を持ち上げた。両手で私の手を包み、そっと眼を伏せる。なんてことのない動作なのに、恥ずかしい。
「約束したからじゃない。俺は、俺の意思でルキアの傍にいたい。例え、ルキアが嫌がっても・・・」
「オルフェ・・・」
「俺だけじゃ、ルキアを護れないならレーヴェ達の手も借りる。だから」
言葉を切って、伏せた眼を上げた。
私を見つめる瞳に、迷いは見られない。
「勝手にいなくなるなよ、ルキア」
「・・・わかった」
真剣なその声に、拒否は言えない。
仕方ないから、私も君達から逃げることを止めるよ。代わりに、私が隠していることは何も話さない。それが条件だから、卑怯だとは言わせない。
口に出さないで、私の中で決めた交換条件。
だから一方的なモノ。理不尽だと、後で怒られるだろうか・・・? でも、言えないんだから仕方がない。
この秘密は、墓場まで持っていくことにしたんだから諦めて?
「君達が嫌だと口にするまで、傍にいるよ」
私は上手く、笑えているだろうか――――?




