予想外の出来事
お気に入り、ありがとうございます。二日に一回は更新できるよう、がんばろうと思います。
私は何故か、オルフェ達と中世ヨーロッパ風の城にいる。
王子であるレーヴェが王城に戻るのは解る。側近で護衛騎士であるテオも、戻るのは解る。だが、何故、どうして、私が王城にいるんだ!?
オルフェ達も不思議な顔をして、立派としか形容出来ない王城の廊下を歩いている。
あ、龍皇を描いた絵画がある。龍の姿がどどーんと、迫力満点に描いているなー。作者だれだろう。お、こっちには初代聖王と猊下かな? お髭が似合うダンディなおじさん達だー。
ちょっと、好みかもしれない・・・じゃなくて!!
物珍しさに意識が周囲にいってしまった。いかん、いかん。しっかりしろ、私!
自分の世界に入っている間に、謁見の間についちゃったじゃないか!! ああもう、本当にどうして、私がここにいるのかな? 誰か懇切丁寧に教えてっ!!
白銀の髪をした私が王城にいるだけで、居心地が悪いのにっ!!!!!
・・・・・・・・・・・・嘆いても仕方ない、か。腹を括ろう。
でも、命の危険を感じたら逃げます。聖王様の前だろうが、逃走させていただきます。命、大事!!
頭を下げながら、ばれないようにガクブルガクブルしていると、おどおどした気弱さを滲ませる声が聞こえた。・・・・・・ん?
「ご、御苦労さまでした、レーヴェ。テオドールも、よく一人でも、持ちこたえてくれた」
そろりと眼だけを上げて王座を見れば、レーヴェと同じ髪色をした、けれどレーヴェと異なって細身で我の弱さを感じる青年がいた。
あれ、聖王様は?
「兄として、かか、か、感謝をする。あああああ、ありがとう、テオドール」
「勿体なきお言葉。ありがとうございます、ラルフレア陛下」
らるふれあ・・・?
・・・ああ! 気弱で意思も弱く、王位をレーヴェに譲って趣味の遺跡調査をするのが夢だとか設定資料に載っていた、あのラルフレアかー。確かに設定資料通り、気弱そうだ。声とか覇気がないよ。言葉もどもりすぎだし、オドオドしすぎ!
何が怖いのか、ビクビクしている姿も、オロオロと彷徨う視点も、全部が全部、聖王様としての威厳がない。ゼロだ、ゼロ!
それでいいのか、聖王国・王冠。
この人が王位でいいのか?!
・・・近い未来に国が滅びそうだ。溜まらず、不吉な予感を抱く程に、不安を覚える人物だな。ラルフレア!!
ん? でもラルフレアは陛下ではなくて、第一皇子のままだったはず。聖王様は、父親はどこに行った! 逝去したなんて話、私は聞いていないけど?!
私が一人、脳内会議をしている間にもサクサクと会話は続いていた。
「――――頼みたいのだが、い、いいだろうか?」
・・・・・・話を聞いてなかったから、脈略が解らない! 自業自得だけど。
誰に話しているのか解らないけれど、ラルフレアの視線は私・・・に一応は向いていて、レーヴェやテオ、他の騎士達の視線も私にある。
やめて! こっち見ないで!!
そもそも、何のお願いなのか解らないから叶えようがない。・・・まさか、死んでくれ。なんてことじゃないよね。流石に考えすぎだよねー!
どうしよう、逃げていいかな?
「壊れた結界石の変わりを作って欲しいのだが、頼めるか?」
冷や汗を大量に流し、沈黙する私に片眼鏡をかけた男性が軽い口調で告げた。
よかったー! 戦略的撤退、使わなくて良かったー! なんだ、それならもっと早く、簡単に、軽い口調で告げてくれたって・・・って、あれ?
私は無言で頷きながらも、視線は男性に釘付けになっていた。
黒に赤いメッシュが入った、軟派な印象を抱かせる笑み。あれは間違いない。ラルフレアの親友――カリステゥス・レグ!
おお、ゲーム通りに歴史書を持っている! いつも持っているのかな? 設定資料だとそう書いてあったけど。設定資料と言えば・・・隠れマッチョ! あの一見、細く見える身体は着痩せで、隠れマッチョと言うのも事実なのだろうか?
やばい、気になる!
「では、頼みます」
「え、あ、はい」
カルステゥスは気がつけば眼の前にいて、白く輝く宝玉を手渡された。・・・ゲームでよく見かける宝玉だ! 軽く感動しているが、思考を振り払うように頭を横に振る。
受け取ったはいいけれど・・・・・・・・・これ、どうしたらいいのかな?
時折角度を変えながら、宝玉をマジマジと見る。・・・光に輝いて、綺麗だなー。なんてやっている場合じゃない。本気で、どうすれば・・・。
結界術と同じ要領でいいのかな?
失敗したら笑って流してください、後生ですから!
「・・・かごめ」
誰にも聞こえないよう、小さな声で呟いて、意識を宝玉へ集中させる。
うう、これでいいのか本当に解らないよ。誰か、誰か変わっておくれ!! ・・・誰も出来ないから、私がやっているのか。成程なーって、感心している場合かっ!
「ほぉ・・・。宝玉の色が変わるのか。これは凄いな」
カルステゥスが感心したように言うけれど、色、変わっている? 私には相変わらず白いままに見えるんだけれども。
「・・・まるで月のような輝きだ」
あ、ラルフレアも変わって見えるんだね。
じゃあ、一応は成功・・・なのかな?
額から汗が滲み、疲労に眼が霞んできた所で宝玉に力を注ぐのを止めた。じっと宝玉を見れば、確かに月のように輝いている。原理は何だ?
軽く息を整えながら、近くにいるカリステゥスへ宝玉を渡そうと立ちあがった。
「あ・・・れ?」
足に力が入らず、身体が傾く。
ラルフレアが驚愕の表情のまま、王座から立ちあがった。カルステゥスが慌てて私に手を伸ばそうとする。レーヴェが私に駆けよる姿が見えたけど、それより先にオルフェが私の身体を抱きとめた。
軽い目眩を感じながら、両手にしっかりと持った宝玉の存在を確かめる。よかった・・・床に落とさなかった。安堵して、オルフェを見上げる。
感謝を口にしようとする私を遮って、オルフェが私の額を軽く小突いた。何で?!
「力の使いすぎだ」
オルフェが顔をしかめ、私を窘めた。
確かに・・・今を合わせて三回、結界術を発動させた。どうりで疲労感が半端ない訳だ。言われて気づくなんて、どれだけ気を張っていたんだ私。
反省しよう。
「ごめん、ありがとう」
オルフェに支えられたままお礼を言ってから、私はカリステゥスに宝玉を返した。
「これで大丈夫かは不安ですが・・・どうぞ」
「無理をさせてすいません。大切に使用させていただきます」
速攻で使うんですね。
当然か、今のこの国は魔物の被害に遭っている訳だし・・・。早く結界を張って、安心して夜を寝たいよね。私も寝たい。
ラルフレアが王座から立ちあがり、深々と頭を下げた。それに倣い、宰相や騎士、文官と言った謁見の間にいた人間が一斉に、私に頭を下げる。
怖い怖い! 怖いからやめて!!
「ありがとう」
怯える私を無視して、ラルフレアは言った。
「君のおかげで国が滅びずに済んだ。感謝してもしきれない」
どもらないでも喋れるんですね!
いや、それよりも一国の王子・・・じゃなくて陛下が一般人に、それも白い髪をした人間に頭を下げるのはどうかと思いますっ!! 改めよ! むしろ改めて!!
私、こんな態度とられたことないからどうすればいいのか判らないよ。・・・ああ、罵倒や暴力に慣れすぎたせいか。
「そ、そんな・・・私に頭をさげないでください。私、ほら! 不吉の証だし、禍だし・・・。髪の白い人間に、そんな感謝をしないで」
「ルキア!」
あう、レーヴェに怒鳴られた。
卑下しすぎだって? いやいや、当然のことだと思うけれど。眼の前にいるのは王族で、周りは騎士。私より身分は上だよ? 卑下せずにどうしろと?!
それに何より、私の髪が白銀なのは事実だ。
きっと、街の人間同様にこの城にいる人間は皆、私を嫌悪しているに違いない。何人か、侮蔑の色が宿った瞳で私を見ているからね! 考えすぎなんてことはない。
ラルフレアが頭を下げたから、仕方なく、嫌々と頭を下げただけだ。
事実、私の言葉に晴れやかな表情で頭を上げ、見下した眼で私を見る人間がいる。ラルフレアやカリステゥスはまだ、頭を下げているのに、だ。
あ・・・よくよく見ればまだ下げている人がいた。律儀だ・・・じゃなくて、頭を上げて!
「・・・カリス。国の救世主に愚弄する者を排除しろ」
え? 何でそんなに怒っているの、ラルフレア?
「はい、よろこんで」
待って、どうしてそんなに輝かしい笑顔なのカリステゥス!
いやいや、それよりも救世主って何?! 唖然としている間に、カリステゥスが同じように頭を下げていた騎士に命じ、私を憎悪の眼で見ていた人間・・・騎士、文官はともかく、宰相まで連れて行かれた。
「これで、この国も少しは綺麗になるな」
カリステゥスが晴れやかな表情で、清々しく言葉を吐き出した。
・・・くだけた口調になっていますよ、カリステゥスさん。そして何の意味でもって、私に近づく? オルフェが警戒にカリステゥスを見るけれど、意に関した様子はない。
平然と私に近づいて、私の手を取るとにこやかに微笑んだ。
宝玉はどこに行った?! あ、床に置いたんだ。何時の間に!!?
カリステゥスが私の手の甲に唇を寄せた。何故にキス! オルフェが眼を見開き、アーシェが喜色ばんだ悲鳴を上げた声が聞こえた。
慌てた様子のオルフェがカリステゥスから私を遠ざけ、唇が触れた手の甲を一生懸命に拭っている。痛い、摩擦熱が痛い!
元凶であるカリステゥスを睨めば、満足げに笑っていた。
「くだらない戯言を信じる人間は総じて、国の害だからな。掃除も出来るなんて、本当に貴方は救世主だ。ありがとう、お嬢さん」
私はダシに使われたのか? いやいや、それ以前にくだらない戯言を信じる=国の害って。考えすぎじゃないか? 思わず疑ってかかれば、ラルフレアが慌てたように訂正をいれる。
「き、君に感謝をしているのは本当だよ! 賄賂や売春、麻薬と言った犯罪に手を染るどころかいらぬ進言をして政をめちゃくちゃにする、あの使えない馬鹿で、阿呆で、無能で、無知な奴らを排除したかったのも本当だけれど」
後半が本音に聞こえるんだけれど。てか、酷い言われようだな。まぁ、色々やっているみたいだし、当然と言えば当然か。
「あ、えっと、違わないけれども違うくて!」
自分の言葉に気づいたのか、ラルフレアはワタワタと無意味に手を動かしながら言葉を続けた。
「他の皆も、君には感謝をしている。だ、だだだだだだから、髪の色は気にしないで欲しい! わ、私達は姫を悪だとは思っていない!! むしろ、救いの聖女と思っているんだ!!」
聖女発言はともかく。
・・・レーヴェと同じ、と判断していいのだろうか? 私は探るようにラルフレアを、そしてカリステゥスを見た。判断材料が少なくて、判らない。
同じように謁見の間に残った人間を見て、考えを保留することにした。
今日、色々あってキャパシティーが限界です。頭痛がする。
「兄上、ルキアが警戒している」
レーヴェが兄であるラルフレアを呆れた眼で見てから、ゆっくりと私達に視線を向けた。
「疲れただろう、ルキア。応接間を容易させるから、少し休んで行ってくれ」
「・・・でも」
「気づいてないようだが、顔色が悪いぞ」
渋る私に、レーヴェが言う。
「慣れないことの連続で、疲れたんだろう。歩くのも億劫なら、抱えていくが?」
「!?」
何を言い出すんですかレーヴェさん!
確かに疲れて、眼を閉じたらそのまま寝そうだし、歩くのもダルイって思っているのもまた事実だけれども! 抱えるって・・・何を言うんだ!!
そう言うのは嫁候補にしろ!! 断じて、私に言う台詞じゃない。しようとするな! 拒否です。断固拒否しますっ!
首を激しく横に振って拒絶を示せば、レーヴェが残念そうに肩を竦める。残念がるな!
「へあ?!」
浮遊感が一瞬。
気がつけば私はオルフェに姫抱っこされていました。唐突のことに吃驚して、変な声を出したのが恥ずかしかったです。・・・日記か!!
「お、おおおおおオルフェ?!?」
「俺が連れていくから、レーヴェは案内をしてくれ」
「降ろして、降ろして、歩ける、歩けるから」
「暴れないで、大人しくしててくれ。大丈夫、怖くない」
いや、怖いから。展開が怖いから。
あ、でもオルフェって以外に逞しい身体だったんだね。私を支える腕の筋肉に、手を添えた胸板の厚さにドキドキ・・・違う!! 落ち着け、私。現実逃避に変なことを考えるな。
くーるだうん、くーるだうんだよ私。
はい、息を吸ってー。吐いてー、吸ってー・・・よし、落ち着いた。
「ずるい・・・」
はっ! アーシェが恨みがましい声を出している。
あわわわわわわっ。ど、どうしよう。正ヒロインを差し置いて姫抱きなんて。恐れ多い。恐怖で寿命が縮みそうだ。だから降ろせ。降ろしてくださいオルフェさん!
私の身を案じてくれるならば、早々に、降ろしてっっっ!!
「私だって、ルキアちゃんを抱っこしたいのにー」
聞き間違いかな? アーシェが変なことを言った気がする。
レーヴェの案内の元、オルフェが私を抱えたまま歩きだす。
抵抗しようにも、思っていた以上に疲労した身体では何もできず。持ち前の諦観が、現状を受け入れると訴えた。
ああ、この羞恥プレイを早々に終わらせたい。レーヴェ、早く応接間に連れていて。心臓に悪い。寿命が縮む。
いや、それよりも廊下で逢う人、逢う人、微笑ましい眼で見てくるから居た堪れない。恥ずかしいわっ!
顔を両手で覆い、羞恥に悶えた。ああもう、絶対に顔が赤い。心臓が痛いくらい煩くて、本当、止まりそうで怖い。
私は布団で永眠したいの。オルフェの腕の中で死にたくない!!
こんなフラグ、いらないのにっ!
――誰の策略だ!!
タイトルを運命の日にするか悩んだ結果、変えました。
戦闘シーンがないと、こうも楽にキャラクターを動かせるんだとしみじみと実感しています。執筆速度をはやくしたい。