気づいた世界は
ノリと勢いでやってます。
世界樹に支えられた、硝子の球体世界。
枝分かれし、それぞれの球体世界で暮らしていた種族達はしかし、一つの種族によって同じ世界で過ごすこととなる。かの種族の名は龍。
世界を統一した存在を、畏怖と尊敬をこめて龍皇と呼ばれた。
その世界は龍皇亡き後も分かたれることはなく、しかし、同じ世界でそれぞれ国を作った。かつて、自分たちが暮らしていた世界を再現するように。
光り輝く、天空に住まう神族の国――空中要塞・第七天国
地上に在りながらも、常に闇に支配された魔族の国――魔都・伏魔殿。
海底深くに住まう、水棲種族の国――海洋都市・海霧。
人造人間が創造した、自律型機械人形と住まう国――機械神。
四人の吸血鬼が治め、召使いが支える夜の国――常夜の都・不死鳥。
エルフと有翼人が住まう、偉大なる龍皇の躯を護る国――神域。
獣人とドワーフが暮らす、水源と緑多き森の国――百獣。
信仰深い人間が暮らす、聖王と猊下に護られた国――聖王都・王冠。
一年中吹雪に覆われた、龍と人が暮らす国――白の都・永久凍土。
それぞれをの国を作ったからと言ってこれと言った争いはなく、敵対種族である神族と魔族以外、比較的平和に過ごしていた。かと言って交流が盛んと言う訳でもなく、過度もなく適度な距離を持って互いに共存していた。
誰もが龍皇の存在を忘れ、伝説となった頃。
皮肉にも、龍皇の千回目の生誕祭でそれは起こってしまった。
忘れられた悪夢が、姿を現したのだ――。
それに、何気ないふとした瞬間に気付いた。
「・・・あれ?」
私、ルキア・クルーニクスは眼の前で元気に木刀を振う幼馴染達を見て、首を傾げた。見なれているはずの幼馴染達の姿が、成長して見えた(・・・・・・・)から。
慌てて眼をこすれば、そこにいるのは十代前半の、私が知っている幼馴染の姿で安堵する。
はて、先程のは何だったんだろうか?
場所は今と同じ、古びた教会の裏手。人気のない場所で鍛錬に励む男三人と、一人の女性。あの姿は数年後の幼馴染達の姿に似ていて、どうしても気になってしまう。
さっきの映像が今の光景に似ているから、余計に。
まさかの白昼夢? と疑問に思って、また気づく。
「あれ・・・?」
視界に入る、白銀の髪に触れる。肩にかかる程長い髪を指に巻きつけ、さらに首を傾げた。巻きつけた髪を放し、右手で口元を隠す。
おかしいな。
私の髪は日本人特有の、よくある黒髪だったはずなのに。髪の毛染めた覚えはないよ。いやいや、そもそもルキア・クルーニクスって誰? 私の名前はそんなのじゃなくて・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あれ?
一つ違和感に気づけば、次々と疑問が浮かび上がった。自問自答を、心の中で行う。嫌な汗が、背中を流れる。
彼らは誰? ――私の幼馴染で、大切な家族。
日本人って何? ――私がいた国の名前が、日本で。
彼らに見覚えがあるのは何故? ――彼らが幼馴染だから・・・。
黒髪って何? ――私が持っていた髪の色で。
説明できないほど、彼らを知っているのは? ――私が彼らの未来を知っているから。
未来って何? ――この先で起こる、彼らの物語。
ルキア・クルーニクスって? ――私の名前ではない、誰か(・・)の名前で。
ならば、私は誰? ――私は私でしかない。
そもそもここはどこだ? ――世界樹に支えられた球体世界。
ここは日本じゃないの? ――聖王と猊下が治める国だから、違う。
私はなんで、ここにいるの? ――死んだから。
車にはねられる、セーラー服を着た女子高校生の姿が脳裏に浮かんだ。
本能的に察する。――アレは、私だ。
もう一度、幼馴染達を見た。
どうしようもない、既視感を抱く。
ノイズがはしる脳裏に映った、とあるゲームのオープニング。女子高校生だった私が、好きでプレイしていたゲーム。キャラクター設定も、物語設定も、世界設定も、次々と頭の中に映像として浮かんで、映写機のように回る。
警報が聞こえた。
それに呼応するよう、オープニングが鮮明に蘇り、脳裏に流れる。
雪の大地で剣を構え、黒い何かと戦うキャラクターたち。剣戟を繰り返し、舞う様に剣を振う姿。場面は変わって、教会の近くで木刀を振う子供の姿が見えた。
どうしてだろうか。
そのキャラクター達に、幼馴染が似ている、気がした。
「え? あれ? なんで・・・?」
ぐるぐると廻る、知らないはずなのに知っている記憶。
女子高校生だった私と、今の私が知らない経験が、知識が頭の中を駆け巡って頭痛が酷い。吐き気がした。溜まらずしゃがみこみ、両手で口元を覆う。
ああ、そうだ。
私は知っている。――彼らが英雄となることを。
私は識っている。――彼らが歩む未来を。
私は知った。――友と、最愛の人と共に苦難を乗り越える先を。
私は識った。――彼らが語られる物語を。
私は、思い出した。
「っ!!!!!!!!」
その瞬間に頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われ、目眩がした。早鐘を打つ鼓動が煩い。脂汗が額や背中から流れる。呼吸が知らず、荒くなった。
ああ、どうしてだろう。
思いださなければ、まだ幸せだった。
私が何か、したのだろうか。
神様にでも、嫌われているのだろうか?
だったら私も嫌ってやる、神様なんて嫌いだ。
滅びろ!!
「ルキア?」
幼馴染の一人、黒髪をしたオルフェウス・ネロが不思議そうに隻眼で私を見る。左眼に覆われた眼帯は、別に意味なんてない。本人曰く、片目でも剣が使えるようになりたいと言う、子供特有の憧れからだ。――否、そうではなく。
私は、彼を知っている。
「ねぇ、どうかしたの? ルキア、顔色悪いよ?」
もう一人の幼馴染、灰色の髪をしたロイド・シュバイカーが心配げに私を見つめる。左の前髪だけヘアピンで留めた、独特の髪型は個性を出したかったからだそうだが。――だから、そうじゃなくて。
私は、彼も知っている。
「ルキアちゃん、具合悪いのー?」
優しく尋ねるのは、桃色の髪をした幼馴染のアーシェリカ・ヘイネル。常に笑顔を浮かべる表情は泣きそうに歪み、ただでさえ可愛らしい容貌なのに庇護欲も抱かせるとは。今でも恐ろしいのに、将来が怖くて仕方がない。――でもなくて。
私は、彼女も知っている。
「おい、大丈夫なのか?」
普段は落ち着きをはらった静かな声が、不安に揺れて頼りない金髪の幼馴染、レオンハルト・シビル・アウラディアの声音。不敵を浮かべる碧眼は常になく揺らめき、困惑が見て取れる。そんな姿すら絵になるのだから、美形って得だ。――と眼福している場合ではなくて。
私は彼らを、知っていた。
幼馴染だから当たり前だと言われたら仕方がないが、違う。違うのだ。これからどう成長し、どんな大人になるのかを、知識とて知っている。――だってこの世界は、某RPGなのだから!!
気づいた瞬間、世界が回った。
なんてことはない。私が眼を回し、気を失ったのだ。
薄れゆく意識の中、焦ったように私の名を呼ぶ幼馴染の声が聞こえた。
ああ、どうしよう。
どうやって、彼らと縁を切れるだろうか。
どうしたら、この世界で生きていられるだろうか。
何をして、生きていけばいいだろうか。
薄れる意識で考えるのは、これからの身の振り方。
場違いだと笑うならば笑えばいい。だが私にとっては、とても重大で、死活問題どころか生死にかかわる。
何故ならば――――。
ルキア・クルーニクスは十五歳で死亡するのだから。
ありきたりな話ですが、興味を持っていただければ幸いです。