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追放された特異点:意識を失うと最強の神の力が俺を支配する。誰も知らない、この体こそが世界を救う鍵であることを  作者: Sayu
第一章 ヘブリー星の王女を救おうとしたら、なぜか異世界に飛ばされて記憶まで失っていた件
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エピローグ

夕暮れの風が、巨大な木々の合間をかすかに吹き抜ける。湿った土の匂いと、戦いの残滓だけが静かに漂っていた。


俺はその場に立ち尽くしていた。


つい先ほどまでの混乱が嘘のように消え去り、訪れた静寂が、むしろ異様なものに思える。


――カラン、カラン。


金属鎧が触れ合う重々しい音。


続いて響く、馬の蹄の音。


その規則正しい響きに、俺は反射的に顔を上げた。


薄い霧の向こうから、二十騎ほどの騎兵隊が整然とした隊列を組みながらこちらへ近づいてくる。


その先頭に立つのは、一頭の白馬に跨ったひとりの女性だった。


俺の世界が、一瞬だけ止まった。


風になびく純白のドレス。


その上から身を守る銀の鎧。


春の若葉を思わせる美しい緑のグラデーションを帯びた長い髪。


あまりにも神々しいその姿に、鈍いオタクである俺の頭に浮かんだ言葉は、ただひとつ。


――女神。


彼女は俺の姿を見つけた瞬間、馬の速度を上げた。


貴族らしい傲慢な眼差しではない。


その美しい顔には、言葉にできないほど深い安堵と感情が浮かんでいた。


瞳は潤み、まるで失われた宝物をようやく見つけたかのように、俺を見つめている。


……誰なんだ、この人は。どうしてそんな目で俺を見る?


俺は身体を強張らせたまま動けなかった。


彼女は馬が完全に止まる前に飛び降りる。


そして駆け寄ってきた。


両腕を広げ、今にも俺を抱きしめようとしている。


だが、俺は反射的に一歩後ずさった。


触れられる寸前、その腕をそっと押し返してしまう。


気まずい沈黙。


彼女の表情が大きく揺れた。


信じられないものを見るような目。


押し返された自分の腕を見つめ、それから再び俺を見上げる。


「リュウ……やっと見つけた……」


震える声。


今にも涙が零れそうだった。


俺は後頭部を掻いた。


なぜ俺のことを知っているんだ。


彼女はもう一歩近づく。


今度の瞳には、心からの心配が宿っていた。


「リュウ……何があったの?」


俺はゆっくり首を横に振る。


何かを思い出そうとすると、胸の奥が重く締め付けられる。


視線を後ろへ向けた。


そこには悲痛な表情を浮かべる人々の姿がある。


「……わかりません。ですが……その前に、皆を安全な場所へ連れて行ってください。それと……あの女性を埋葬してあげてください」


頭を下げる。


心の底からの願いだった。


しかし、その言葉は彼女を激しく動揺させた。


「……あなた?」


信じられないというように、彼女はその言葉を繰り返した。


まるで俺が敬語を使ったこと自体が、彼女にとって耐え難い出来事だったかのように。


長い沈黙。


彼女は俺の目を見つめ続けた。


けれど、その瞳の奥にあるのは空白だけ。


やがて彼女はゆっくりと息を吐いた。


「……わかったわ」


短い返事。


だがその声音には強い威厳が宿っている。


彼女が優雅に手を振る。


すると待機していた兵士たちが一斉に動き出した。


泣き崩れている人々へ駆け寄り、救助を始める。


俺は視線を地面へ落とした。


赤いドレスを纏った女性が、静かに横たわっている。


エリシア。


特徴的な丸い帽子は傍らに落ち、泣きじゃくる少年少女たちがそれを抱えていた。


美しかった銀白色の髪は土の上に広がり、もう二度と輝くことはない。


胸が痛む。


理由はわからない。


だが胸の奥が酷く苦しい。


俺は目を閉じた。


言葉にできない罪悪感が胸を締め付ける。


避難は静かに進んでいった。


王国兵たちはエリシアの亡骸を丁重に運び、人々も『失われた現実の次元』から生還した者たちを支えながら歩いていく。


すすり泣きが風の中に消えていく。


俺の前に立つ白いドレスの女性。


まるで本物の姫君だ。


そして何より。


彼女の顔が――どうしようもなく懐かしい。


あの笑顔。


あの瞳。


どこかで見たはずなのに。


思い出せない。


何もかもが闇の中だった。


彼女は生存者たちを先に王国へ送るよう命じた。


エリシアの遺体は一頭の馬に丁重に乗せられ、兵士が支える。


住民たちも王国兵と相乗りしながら出発していった。


高くそびえる木々の間を抜け、人類の王国へ向かって。


俺も後を追おうとした、その時。


柔らかい手が俺の手首を掴んだ。


「リュウ……何があったの?」


先ほどとは違う声。


命令ではない。


心が壊れそうなほどの悲しみを含んでいた。


俺は振り返る。


美しい青い瞳。


涙を湛えたその瞳が、俺を見つめていた。


夕風が彼女の前髪を揺らす。


その姿は驚くほど儚い。


俺は視線を逸らした。


「……俺は……どう説明すればいいのかわかりません。でも……全部忘れてしまったんです」


喉が震える。


「……記憶を失いました」


――ドクン。


空気が凍りついた。


彼女の表情から、希望が消える。


驚愕。


悲しみ。


絶望。


まるで世界そのものが崩れ落ちたようだった。


「……記憶喪失……?」


震える声。


「じゃあ……私のことも覚えていないの……?」


その眼差しは、見る者の胸を締め付けるほど痛々しかった。


俺は必死に記憶を探る。


だが何もない。


頭が割れそうになるだけだ。


自分自身のことすらわからないのに、誰かを思い出せるはずがない。


俺はゆっくり首を横に振った。


彼女の瞳が震える。


涙が浮かぶ。


だが彼女は泣かなかった。


唇を噛みしめ、震える肩を必死に抑え込んでいる。


その姿を見ているだけで胸が痛い。


どうして俺はこんなに苦しいんだ……?


俺は首を傾げる。


「……俺たちは、どんな関係だったんですか?」


恐る恐る尋ねた。


「友達……だったんですか?」


その言葉が最後の一撃だった。


彼女は泣きそうな顔をしながら、それでも微笑んだ。


今にも崩れそうな笑顔。


俺が今まで見た中で、一番悲しい笑顔だった。


彼女は顎に手を添え、震える唇を隠しながら小さく頷く。


「……たぶん」


かすれた声。


「……そうなんですね」


何と言えばいいかわからなかった。


胸の居心地の悪さだけが増していく。


彼女は涙を拭う。


そして無理やり笑顔を作った。


「……行きましょう。Abberentsが現れる前に」


明るく振る舞おうとしている。


けれど、その声には悲しみが残っていた。


「詳しい話は王国で聞かせて」


そう言うと、彼女は俺の手を握った。


腕の鎧は冷たい。


だが、その手は驚くほど温かい。


不思議だった。


先ほどまで感じていた警戒心が消えている。


俺の心は彼女の手を拒まない。


まるで、この手に握られることをずっと知っていたかのように。


――ドクン。


心臓が強く脈打った。


……なんだ、この感覚。


俺は繋がれた手を見る。


俺たちは本当はどんな関係だったんだ……?


その時。


彼女の首元に視線が止まった。


高い襟元の奥。


星形のペンダントが揺れている。


俺は息を呑んだ。


反射的に自分の首元へ手を伸ばす。


服の下。


そこにも同じ星のペンダントがあった。


まったく同じ。


――お揃いのネックレス。


友達同士でこんなものを身につけるだろうか。


彼女は何も言わない。


ただ俺を馬へ導いていく。


危険なこの場所で話したくないのだろう。


俺たちは同じ白馬に乗った。


馬は小さくいななき、ゆっくりと歩き始める。


俺が答えを求める場所。


人類の王国へ向かって。



---


第三者視点


夕暮れの風が、別の森を冷たく吹き抜けていた。


リュウたちのいる場所から遠くない。


だが、まるで別世界だった。


木々の奥。


そこには濃密な闇が支配している。


湿った土の上。


一人の女性が動かぬまま横たわっていた。


ヴォラ。


かつて美しかったドレスは裂け、乾き始めた血で染まっている。


胸には深い刺し傷。


S級Abberentsによる無数の攻撃の痕跡だった。


その遺体の傍らに立つ女。


ヴェリスタ・セレスティア。


彼女の顔に悲しみはない。


驚きもない。


ただ冷たい瞳でヴォラの遺体を見つめている。


やがて唇に薄い笑みが浮かんだ。


「まさか、こんなに早く逝ってしまうなんてね、ヴォラ」


感情のない声。


風の中へ溶けていく。


彼女は近づき、まるで荷物を持ち上げるようにヴォラの身体を担いだ。


「はぁ……重いなぁ、あなた」


不機嫌そうに眉をひそめる。


友人の死体を担いでいるとは思えない態度だった。


次の瞬間。


ヴェリスタとヴォラの姿が薄れていく。


そして消えた。


辿り着いた先は、文明から隔絶された廃城。


HeavLyの誰もその存在を知らない場所。


崩壊した宮殿。


苔むした巨大な柱。


積もる埃。


冷たい空気。


ヴェリスタは開いた石棺へ向かい、ヴォラの遺体を寄りかからせる。


だがその時。


――コツ、コツ、コツ。


静かな足音。


ヴェリスタの瞳が細くなる。


巨大な鎌がその手に現れた。


「やあ、ヴェリスタ」


暗闇から女性の声が響く。


現れたのは、ユカリ・クロツキ。


漆黒のポニーテール。


宇宙の軌道を思わせる銀のティアラ。


紫の瞳。


夜のような黒いドレス。


その存在だけで空気が重くなる。


「ユカリ」


ヴェリスタは妖しく微笑む。


「ヴォラは死んだのね」


ユカリの声には感情がない。


二人の女は遺体を挟んで向かい合う。


「それで、これからどうするの?」


ユカリは腕を組んだ。


「あなたの人形は死んだのでしょう?」


ヴェリスタは小さく笑う。


「永遠なんてないもの。人形はいつか壊れる。ひとつ失えば、またひとつ作ればいい」


彼女はユカリの背後へ回る。


囁くような声。


「……そうでしょう、ユカリ?」


「つまり、今度は私を使うつもり?」


「正解」


ヴェリスタは彼女の顎を掴む。


ユカリは冷たい目でその手を払い除けた。


その瞬間。


空気が変わった。


ヴェリスタの瞳が鋭く細まる。


――通信。


神に等しい存在だけが行える精神交信。


時間が止まる。


舞う塵。


吹く風。


すべてが静止する。


彼女の意識は、巨大な存在へ繋がった。


Celestial Judgment。


銀河を裁く審判者。


星々の運命を決める超越存在。


「偉大なる銀河の支配者ヴェリスタ・セレスティア様。われらは太陽系付近へ到達しました。HeavLyを滅ぼす準備を開始しますか?」


宇宙そのものが鳴動するような声。


無限の闇。


巨大なMonolith艦隊。


恒星すら小さく見えるほどの戦艦。


数えきれない艦隊。


惑星サイズの兵器。


ヴェリスタは静かに微笑んだ。


「いいえ。まだよ」


冷たい声。


「滅ぼす前に楽しみたいの」


「彼らがどれだけ抗えるのか見たいのよ」


「Starlight-2のような未来を防げるのかどうか」


Celestial Judgmentは答える。


「Starlight-2の人類はCalibratorsへ進化しました。彼らは神に匹敵する力を持っています。HeavLyの文明を早期に滅ぼせば、未来を変えられる可能性があります」


ヴェリスタは笑う。


「だからこそ観察するの」


「今回は別の時間軸を見たい」


「何が違うのかをね」


しばしの沈黙。


「承知しました」


通信は消えた。


時間が再び流れ出す。


ユカリは首を傾げる。


「何かあったの?」


ヴェリスタは振り返る。


「ユカリ」


その声は冷たい。


「人類同士を争わせなさい」


「恐怖を植え付けなさい」


「疑念を植え付けなさい」


「互いに殺し合うまで」


彼女は続ける。


「人間は善人のふりをする」


「愛や正義を語る」


「でも、その仮面の下にあるのは、嫉妬、欲望、憎悪、そして血への渇望」


「彼らはリュウ・セレスティアを英雄と呼ぶ。でも心の中では恐れている。憎んでいる。呪っている」


ヴェリスタは嗤った。


「いずれ彼を裏切るわ」


「だから仮面を剥がしてやりなさい」


彼女はユカリへ近づく。


「優しい人間になりなさい」


「味方になりなさい」


「恋人になりなさい」


「英雄になりなさい」


「そして毒を流し込むの」


「ゆっくりと」


「気づかれないように」


「私はリュウに見せたいのよ」


「あの弱い私に」


「人間の本当の姿を」


ユカリは無言だった。


拒否はできない。


彼女の力もまたヴェリスタによるものだからだ。


「いい子ね」


ヴェリスタは微笑む。


「その日が来る前に――存分に楽しみましょう」


彼女は遠くを見る。


まるでHeavLyの終焉を見つめているかのように。


「もうひとりの私……リュウ」


「あなたは私を止められるのかしら?」


「――はははははははっ!!」


狂気の笑い声。


廃城全体を揺るがす魔女の哄笑。


その声は闇の中へ響き渡る。


闇はすでに目覚めていた。


そしてHeavLyは、ゆっくりと滅びへ向かっていた。

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