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閑話 対立する組織と空白の3日間

この作品はAIによる文章生成を使用しています。

アグニの本社最上階。重厚なマホガニーのデスクを挟み、烈華(れっか)は父と対峙していた。


普段、自分を溺愛する「優しい父親」の影はない。そこにいたのは、巨大製薬会社を隠れ蓑に世界の理を弄ぶ、冷徹な組織のボスとしての姿だった。


「烈華よ。お前には急だが、仕事を手伝ってもらいたい。……今回は、嫌でもやってもらうぞ」


父が差し出した一枚の写真。そこに写っていたのは、どこにでもいる平凡な高校生――佐藤幸太だった。


「佐藤幸太……。この男が、天才糖の『原液』を摂取したとの情報が入った。我が組織に迎え入れるため、お前には彼と同じ高校へ転校し、勧誘を行ってもらいたい」



父は淡々と告げたが、その詳細――アグニのスパイが政府から原液を盗み出し、それをさらに下っ端構成員が奪って逃走した末の事故であること――は、意図して伏せられた。国宝級の物質を盗み出すなどという暴挙は、いくら父の「仕事」を理解している烈華であっても、正気を疑いかねないからだ。


烈華は、わずかに肩の力を抜いた。父の放つ威圧感に身を構えていたが、その内容は拍子抜けするほど他愛ないものに思えた。


天才糖。アグニをここまで押し上げ、今の地位を盤石にしている奇跡の物質。烈華自身も適合率の高い選ばれし人間であり、その証である目尻の赤いアイライン――鋭くも美しい紅の紋様――は、彼女の何よりの誇りだった。


「そんなこと? でも、それならアグニの構成員を使って、脅迫でも誘拐でもすればいいじゃない」


父がこれまで積み上げてきた「薄暗い功績」を、烈華は否定しない。むしろ、自分たちを守るための必要な暴力だと肯定すらしている。だが、父は首を横に振った。




「……今回はそうもいかないのだ」




父は椅子に深く背を預け、天井を仰いだ。その瞳は濁り、娘である烈華を通り越して、もっと遠くにある「何か」を追いかけているようだった。


「政府の犬ども……IAが、血眼になって『原液』を狙っている。奴らは、我々が少しでも強硬手段に出れば、それを口実にアグニへ強制捜査のメスを入れるだろう。……ああ、忌々しい。知性の欠片もない連中に、我々の至宝を汚させるわけにはいかない」




父は机の上に置かれた『ラムネ』の特殊物質容器から一粒を取り出し、愛おしそうに眺めてから口に放り込んだ。


ボリ、ボリ。


静かな部屋に、天才糖が砕ける無機質な音が響く。その音が、烈華には骨を噛み砕く音のように聞こえて、背筋に冷たいものが走った。




「だからこそ、これは『偶然』でなければならない。私の愛娘が、たまたま転校した先で、一目惚れした少年を、たまたま家に連れてくる……。これならば、IAも手出しはできん。国家権力といえど、乙女の恋路を阻む大義名分など持ち合わせていないからな」




烈華は、父の言葉に含まれた不純な意図を察し、眉をひそめた。




「……要するに、パパは私を『餌』にして、その佐藤幸太って男を釣ってこいって言いたいの?」




「言い方が悪いな。私はお前の『美貌』と『適合率』という最強の武器を信じているだけだ。いいか烈華。その少年は我らの地位をさらに盤石にする鍵だ。この仕事は、最も信頼する我が娘にしかできない」




父は再び身を乗り出し、低い声で念を押した。その瞳の奥には、父親としての情愛など欠片も残っておらず、代わりにどろりとした薄暗い狂気の光が灯っていた。だが、自信家である烈華は、自分が父にとっての「最愛の娘」であることに疑いを持っておらず、その光が自分を単なる道具として見定めているものであることには気づかなかった。




「どんな手段を使っても構わん。彼をアグニの……いや、お前の『所有物』にしろ。それが、お前に課せられた最初の、そして最大の任務だ」




烈華は鼻で笑い、髪を乱暴にかき上げた。




「ふん、いいわよ。男なんて、あたしがちょっと微笑めばみんな跪くんだから。その佐藤幸太だか砂糖中毒シュガー・ジャンキーだか知らないけど、三日で落としてみせるわ」




自信満々に部屋を去る娘の背中を見送りながら、父は再びラムネを口に放り込んだ。組織の発展も一族の繁栄も、もはやどうでもいい。彼はただ、『原液』という至高の果実に魅せられていただけだった。娘のプライドすらも目的を達するための「便利な駒」として消費する。その思考は、天才糖によって冷酷に最適化されていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




一方、政府直属機関『IA』の極秘ブリーフィングルーム。


銀髪を揺らし、無機質な表情で直立不動の姿勢をとるのは、銀城氷雨(ぎんじょうひさめ)。彼女の視線の先には、かつて一つの森の姿が変わった「白い結晶の森」のホログラムが静かに回転していた。




「……これが、42%の高濃度摂取者が怪物に捕食された末路、ですか」




感情を排した氷雨の声が室内に響く。モニターに映し出されたのは、かつての精鋭部隊の無残な記録映像だ。管理官は忌々しそうに視線を逸らし、手元の資料を閉じた。




「左様。過去、我々の組織で最も優れた部隊員に高濃度摂取させた事例がある。だが、その結末は最悪の……文字通り、この世の地獄となった。中濃度以上に、高濃度摂取者は怪物を強く引き寄せる。それは想定内だったが、計算外だったのは、高濃度に至った個体は自ら体内で『天才糖』を精製する能力を有してしまう点だ」




管理官の指が、デスクを苛立たしげに叩く。




「実験体となった部隊員は特殊物質製のシェルターに軟禁され、研究対象となった。だが、人知を超えた知能を檻に閉じ込めることなど不可能だったのだ。彼は強化された異能と演算能力を駆使して脱走。追手の部隊すらも、まるで未来を予知しているかのように完封し、甚大な被害をもたらした」




管理官の脳裏には、当時の阿鼻叫喚が蘇っていた。




「逃走開始から5日後。現れたのは、後にも先にもこの時しか観測されていない特級個体――仮称『アンノウン』だ。異界から呼び寄せられたその怪物に、彼は捕食された。直後、怪物は過剰なエネルギーを制御できずオーバーフローを起こして自爆……。その際に形成されたのが、現在の【白い森】だ」




管理官は震える手で、衛星写真をスライドさせた。




「直径8km。 その範囲内に存在したあらゆる有機物が、一瞬にして白い塩の結晶へと変質した。……いいか、氷雨。これは部隊員との連戦を行い、逃走による極限の消耗状態で食われた際の結果だ。もし、【原液】の保持者が、十全な状態で怪物に取り込まれるような事態になれば……。 その被害はもはや想定すらできない。一国、あるいは大陸そのものが結晶化してもおかしくはないのだ」




管理官は、目の前の少女――15歳という若さで飛び級し、実戦部隊のトップに君臨する天才児を、射抜くような目で見つめた。




「佐藤幸太は【原液】そのものだ。異能の出力も、万が一捕食された際の被害も、前回とは比較にならない。銀城氷雨、君に与える任務は、佐藤幸太の監視・護衛、及び『懐柔』だ。――なお、対象の警戒心を煽るリスクを最小限に抑えるため、現場への投入人員は貴官、ただ一人とする」




「……了解しました」




氷雨は短く応じ、自身の鎖骨付近を無意識に指先でなぞった。制服の隙間に隠された、高適合者の証――雪のように白い、小さな「ひし形」の紋様。それが、彼女が国家の盾として選ばれた理由そのものだった。




氷雨は脳内で自身の異能――『風』の特性を再確認する。


空気を操る彼女の力は、汎用性が極めて高い。音を遮断し、匂いを消し、高速移動さえ可能にする隠密の極致。戦闘においても、出力こそ爆発力に欠けるが、燃費の良さは群を抜いている。短時間の交戦であれば、ラムネによる外部補給を必要とせず、自身の生命活動のみで異能の「発現」を維持できる。




(単独任務、隠密、護衛、そして懐柔……。一人で全てを完遂するには、対象との物理的距離の短縮が不可欠。……幸い、私の異能は気配を殺すことにも、あるいは『密着』することにも適しています)




氷雨の超合理的な脳細胞は、管理官の意図を超え、瞬時に独自の論理へとデコードした。




(……懐柔。対象は16歳の男子高校生。私の容姿、年齢、及び身体的特徴をリソースとして活用した場合の最大効率とは何か。統計データによれば、それは視覚的、及び触覚的な『肉体的接触』。ドーパミンとオキシトシンを強制的に分泌させ、脳を私への依存状態に書き換える……。これこそが、最悪のシナリオを回避し、彼を繋ぎ止める最も理に適った手法です)




氷雨は微塵の揺らぎもない声で返答した。




「了解しました。あらゆる肉体的・精神的アプローチを標準任務行程(SOP)として組み込みます」




「……いや、そこまで言ったつもりは――」




「ご懸念には及びません。佐藤くんを解析し、私なしではいられないほど、彼の脳を私という情報で満たしてみせます。……これが、私に導き出された『最適解』です」




15歳の少女は、真面目すぎる瞳で、とんでもない決意を固めていた。彼女にとってそれは、国家の消滅を防ぐための、極めてクリーンで事務的な「作業」に過ぎなかった。……今は、まだ。




赤いアイラインを引いた猛火の少女。


鎖骨に白い紋章を刻んだ静風の少女。




欲望に狂った父と、恐怖に震える国家。




二つの組織が放った「最適解」が、一人の少年の平穏を食い破るまで、あと三日。

取り合えず毎日更新はここまで。

読んでくださる方がいるようでしたら続きも投稿していきます。

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