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EP 25

ルミナス帝都での喧騒から数日後。

良樹たち一行は、立派な装飾が施された馬車(リリアーナからの就任祝い)に揺られ、帝都の北に位置する『アルデン領』へと足を踏み入れていた。

そこは、つい先日彼らが古竜エンシェント・ドラゴンを討伐した黒鉄連峰の麓に広がる、豊かな自然に囲まれた美しい村々である。

「フッフッフ……まさか拙者が、一国一城の主(ブラック企業のエリアマネージャー)になるとは。人生、何が起こるか分からないものでござるな」

良樹は、馬車の窓から広大な畑や森を見下ろし、中二病の眼帯をクイッと押し上げて尊大に頷いた。

「なにがエリアマネージャーよ。ただの男爵(ポテトチップス勘違い)のくせに、すっかり貴族気取りね」

ルナが、良樹の隣で呆れたようにため息をつく。

しかし、彼女の瞳もまた、初めて見る「自分たちの領地」という響きに、隠しきれない期待でキラキラと輝いていた。

「ガハハ! まぁ良いじゃねぇか。これでアタイらも、宿代や屋台の場所代を気にせず、デカい顔して飯が食えるってことだ!」

モウラが、馬車の向かいの席で豪快に足を組み、斧を膝に乗せて笑う。

「左様ですな。ワイらもすっかり、ヨシキはんの『丼』の虜(社畜)になってしもうたからな。骨を埋めるには悪うない土地でっせ」

ロードも、馬車の屋根の上で心地よさそうに風を受けていた。

やがて馬車は、アルデン領の中心に位置する、こぢんまりとしているが品格のある石造りの屋敷に到着した。

門の前では、一人の初老の男性が、背筋をピンと伸ばして一行を待ち構えていた。

「ようこそおいで下さいました、ヨシキ様。私、このアルデン領の館で代々執事を務めさせていただいております、マルセルと申します」

銀髪をオールバックに撫でつけ、パリッとした燕尾服に身を包んだマルセルが、完璧な角度で一礼する。その所作には、長年貴族に仕えてきた者特有の洗練された空気が漂っていた。

「よ、よろしくでござる……マルセル殿」

良樹は、本物の執事の威圧感に気圧され、中二病のポーズも忘れ、牛丼屋の新人研修のようなカチコチのお辞儀で返した。

屋敷の中に案内されると、高い天井のホールや、丁寧に磨かれた調度品が一行を出迎えた。

帝都のリリアーナの屋敷ほど豪奢ではないが、生活するには十分すぎるほど広く、清潔感に溢れている。

「本当に、私たちがここを治めるのね……」

ルナが、ホールの中心でぐるりと見回し、信じられないというように呟いた。

「おぅ。で、これからどうするんだ? ヨシキ男爵様よ。アタイらは戦うことと食うことしか知らねぇぜ?」

モウラが、良樹の肩にドスンと腕を乗せて凄む。

「そうですなぁ。まずは、このアルデン領がどんな場所で、領民たちが何を求めているのか……それを知らんことには、領地経営(店舗運営)なんて分かりはしませぇんで」

ロードが、屋敷の窓から外を眺めながら、的確な意見を述べる。

「そうでござるな。まずは『現場視察』からでござる!」

良樹が、力強く頷いた。

「マルセル殿! 拙者たちに、このアルデン領を案内してほしいでござる!」

「はい、承知いたしました。ヨシキ様。では、さっそく領地をご案内させていただきます」

マルセルが恭しく一礼し、一行の先導を始めた。

アルデン領の視察は、良樹にとって驚きの連続だった。

黒鉄連峰の雪解け水が流れる清らかな川、肥沃な大地に広がる麦畑。そして何より、古竜の脅威から解放された領民たちの、明るく活気に満ちた笑顔。

「ヨシキ様! ドラゴンを倒してくださって、本当にありがとうございます!」

「これ、うちの畑で採れた野菜です! どうか受け取ってください!」

村を歩くたびに、領民たちが良樹たちに感謝の言葉を投げかけ、新鮮な食材を差し出してくる。

(これが……領主(店長)というものでござるか。深夜のワンオペで酔っ払いに絡まれるのとは、雲泥の差でござる……!)

良樹の心に、これまで感じたことのない温かい感情がじんわりと広がっていく。

そして、マルセルに案内されて村の外れ、小さな水車小屋の近くまで来た時のことだった。

カァンッ! カァンッ!

静かな村には似つかわしくない、重々しい鉄を打つ音が響いてきた。

「む? この音は……」

良樹が不思議そうに首を傾げると、水車小屋の中から、煤にまみれた見覚えのあるずんぐりとしたシルエットが現れた。

「よぉ、アンちゃん。随分と出世したじゃねぇか」

「ド、ドンガフ殿!?」

良樹の右眼(眼帯)が、驚愕に見開かれた。

そこに立っていたのは、帝都の路地裏に工房を構えていたはずの偏屈なドワーフの魔工鍛冶師、ドンガフだったのだ。

「なんでドンガフ殿が、こんな田舎(領地)にいるでござるか!?」

ドンガフは、手にしたハンマーを肩に担ぎ、ニヤリと剛毛の髭を歪めて笑った。

「いやな、あのリリアーナ嬢ちゃんからの頼みでな。アンちゃんが領主になったってんで、『ここで新しい魔工鍛冶場を作って、ヨシキ様(と私のランダムボックスのガラクタ)の力になってやってくれ』って、莫大な資金と一緒に丸め込まれちまったのさ」

ドンガフが、水車小屋の奥に設置された、帝都の工房よりもさらに巨大な溶鉱炉を指差す。

「帝都の貴族どもの相手はもうウンザリしてたところだ。ここで、アンちゃんが使うイカれた兵器(ロマン砲)や、お嬢ちゃんの持ってくる異世界のガラクタを、好きなだけ弄らせてもらうぜ」

「そうでござったでござるか……! リリアーナたん、何から何まで……!」

良樹は、帝都に残してきた麗しき伯爵令嬢の、先を見据えた(そして良樹をサポートしようとする)深い愛情と手回しの良さに、胸を熱くした。

「よろしく頼むでござる、ドンガフ殿! これから、このアルデン領で、拙者たちの新しい伝説(社畜生活・第二章)を始めるでござるよ!」

良樹が、ドンガフに向かって力強く右手を差し出す。

「おう。また3分チャージのポンコツで、俺を笑わせてくれや」

ドンガフが、そのゴツゴツとした厚い手で、良樹のひ弱な手をガッチリと握り返した。

ルナが優しく微笑み、モウラが豪快に笑い、ロードが空高く咆哮を上げる。

そして、良樹の頭上では、女神ルチアナのシステムウィンドウが、新たなミッションの始まりを告げるように、静かに青白い光を放っていた。

深夜の牛丼屋から異世界へと放り込まれ、ただ逃げ回るだけだった小心者の青年は。

最強の仲間たちと、究極の『丼』の力を武器に、今、一人の領主(男爵)として、新たな大地にしっかりと足を踏みしめたのである。

【第二章 ――完――】

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