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芽吹きの刻-猫が見た世界『輪』

※この話は過去投稿の改訂・加筆版です。初見の方も安心してどうぞ!

『輪』


魔剣がふらりと戻って来たので、

質疑応答を開始する事になった。

雫はまだ眠そうで、可哀想な気持ちもするが…雫抜きでは進まないだろうから、仕方ない。

会議室へ移動かとも思ったが、九尾の体調を鑑みて、このまま雫の部屋で良いだろうとの事だった。


白帝城の従者である、マヤという少年は腰に短剣を携えて姿勢良く、入り口のドア前に立つ。

年齢的には雫と同じくらいだろうか…薄茶の髪と瞳が綺麗な少年だ。


雫の専用メイドのマリンも同席する事になった。

カウチソファーに座る、雫の後ろに控えている。雫の隣りには天使が座る。

カウチソファーの前には、木材で作られたカントリー風のテーブルと、同じ素材の長椅子も運び込まれている。

これらの家具が何処から運んできたのかは不明だが、マリンが1人で運び入れてたのには驚いた。

テーブルとか、木目が綺麗な1枚板だから…めちゃくちゃ重いと思うのだけど…。


マリンさんは決してマッチョな女性ではなく、とてもスレンダーな体型。

切れ長のグリーングレーの瞳が素敵な、クールビューティータイプ。

髪は、白と緑のツートンカラーを、高い位置で結びポニーテールにしている。

何か…時代劇で見た、くの一みたいなイメージだな…

着物じゃなくて、メイド服だけど。


魔剣と白帝城が長椅子に座り、

もともと部屋にあった1人掛けの椅子に九尾が座る。

私はベッドから九尾に抱かれてきたので、そのまま九尾の膝の上にいる。


「君は雫の召喚に応じて顕現した人物…猫、と理解しているのだか…。

どういった経緯で此処に来てくれたのか、分かる範囲で構わないので説明して貰えると助かるのだが…」

白帝城が何だか、歯切れ悪く言う。

「白帝城は、お前が本当に雫が召喚した猫なのか、確信が欲しいんだろ。」

魔剣が、九尾の膝に居る私を指差し話す。指を出されると…猫の本能が…くんくん…匂いを嗅いでしまう。


「確信…と言うか。羽根がある猫なんて聞いたことも無いから、違う世界にはそんな生物がいるのかと…。」

「召喚は、人に対してだけ有効な術式を作った!姿を得るまでは、女の人だった…何で、猫になったか…分からないけど…。」

雫が、白帝城に食い気味に反論する。失敗した…召喚者を間違えた…そう言われた気がしたのかも知れない。

まぁ、私が助けになるかって言うと

ムムムだけれど…。


下を向いて、何か悔しそうに見える雫の名誉挽回とばかりに、召喚されたと思われる日の朝を、此処に来て見た事を語り出した…。


お行儀は悪いけど、テーブルの上にお座りして語る間。誰も口を挟まずに、話を聞いてくれた。

「…と言う感じで、気が付いたら猫になってました。」

と、話を締めくくる。

「その、枝に吸い込まれた時に聞こえた声って、姿とかは見えなかった?」

雫がそう尋ねてくる。

「ハッキリとは見えなくて…眩しいっていうか、霞んでるって言うか…なんか人っぽい姿はぼんやり見えたような…うーん…?」

「ん…クスノキの精霊かも?」

「精霊…いるの?」

「いや、そっちの世界は居ないのかよ!」

魔剣が突っ込んでくる。

「居るかも知れない…けど、見た事ないし、御伽噺的な感じになるね。文明も科学も発展してるし。」

「で、クスノキの精霊が、何で異世界人を猫にするのか…だな。」

九尾が、尻尾をふわふわさせながら話す。

「そうですね…猫さんが、精霊様に何を言われたのか…思い出せれば意味が繋がる…かもですね。」

天使が手を伸ばして、私の頭を撫でてくれる。

「…撫でるより、叩いたら思い出すかもな。」

魔剣が酷い事を言う!


叩かれては堪らない…テーブルからひらりと飛び降りる。と、視野にキラリと何かが反射して見えた。

何だろ…探すと、部屋の隅にある棚の上に円形の置き鏡を発見した。

鏡!自分の姿が見える!

私はダッシュで棚に向かい、軽くジャンプして棚に乗る。視野にマリンが追いかけてくる姿が見えたが、気にせずに鏡を覗き込んだ。


茶色の下地に、焦げ茶が混ざり。

額にはM字模様。

白でアイシャドウをしている様な柄。

アーモンド型の目。翡翠の瞳。

鼻は薄茶、髭は白。

先っちょだけ黒が入る、尖った大きな耳。


日本猫…キジ猫が鏡に映っている。

呆然としていると、マリンに抱きかかえられて戻され、テーブルの上に着地。

「鏡が見たかったのか?」

白帝城が尋ねていたが、答えられなかった。頭の中が…鏡に映った姿が…。

「どうした?」

しょんぼりと耳を伏せて、項垂れている私に、魔剣が優しく撫でながら声をかけてくれる。


「…輪…」

輪だった。鏡の中の猫にそっくりな

私が飼っていた、猫の名前。

「輪?」

あ、そういえば…あの時。そうだ、言ってた様な…。

『…在るべき時、有るべき姿を

汝が望むまま…』

とか何とか…

あーあ。この前後が思い出せない。

スッキリしないっ!


「輪!私の名前は、輪。」

猫もどき呼ばわりは終了にしよう。

クスノキの精霊…かも知れない人…長いな、クスノキさんと呼ぼう。


クスノキさんが、『在る時』とは、多分この世界。

『有る姿』は多分、此処に居る間の姿。『汝の望み』が多分、猫になりたいって…常々思ってたから、願いを叶えてくれた!んだろう…きっと。


私のいきなり名前宣言に、白帝城は

「?」って感じで、キョトンとして。

「名前か…好きにすればいい。」

と魔剣が、先程の優しい感じは何処へ消えたっ!って思うくらい素っ気なく。

「輪ちゃん…可愛い…」

と、天使が眩しいくらいに綺麗に微笑んで。

「輪さん?」

雫ちゃんは、さん付けで呼んでくれるのかぁ〜!そうそう、それが正解の呼び方なんだよ!と嬉しく思い。

「輪…ねぇ?」

九尾は、ニヤリと何かを含んで笑った…何か、お見通しなんだよ。って言われてる様で、怖いな。

「それでは、これより、輪様とお呼び致します。」

マリンさんが、恭しくお辞儀をし、

「では、自分も輪様と!」

マヤ少年が胸を張って宣言する。ちょっと甲高い声だけど、少年らしくて良いね。


輪さん。私、異世界で「輪」になっちゃったよ!

頭の中で、飼い猫の輪さんが

「にゃはは〜」と笑った。


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