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動乱の刻―歪む運命『一輪の花』

世界は、静かに脈打っている――

芽吹き、歪み、そして命は交差する。

今、ひとつの「刻」が動き出す。


『一輪の花』


昨夜は車体と焚火を望める場所に、シートを引いて転がる九尾の隣りで眠りに付いた。

思いの外、長話をしてしまったので…少し寝不足だったが、昨夜の白夜の独り言が気になり、まだ眠っている九尾を起こさぬように気をつけながら、焚火の側に向かう。

焚火は、まだ赤々と炎を揺らめかせている。どうやら、白夜が夜通し火の番をしていたようだ。


白夜が歩み寄る私に気が付くと、にっこりと微笑みながら、指先を私に向けた。

懐いていない猫に指先を向けると、匂いを嗅ぎに側に寄ってきてくれる…アレだ。

白夜の微笑みは、優しく穏やかで、暖かみを感じる。昨夜の、あの高飛車な様子から思うと…まるで別人のようだ。

私は、白夜の指先の匂いを嗅ぐ。

別にかぎたい訳じゃないけど、猫の本能には逆らえないんだよね…。

匂いを嗅ぎ終えると、白夜の顔を仰ぎ見る。綺麗だなぁ…と素直に思った。

天使もめちゃくちゃ美少女だけど、白夜は系統が違う美しさだ。


儚げで、ふんわりしてて、穏やかな笑みの天使。透き通る程の白い肌に、銀色に微かに緑がかった、潤んだ大きな瞳。形の良い唇は、桜色で柔らかそうだ。雰囲気で伝えるならば、天使は春の陽だまり。暖かくて、包み込むような優しい光と風。


白夜といえば、凛とした佇まいに、意識の強そうなキリっとした眉。少し吊り目だけど、薄茶色の瞳は光の加減で金にも見えそうだ。

天使よりは気持ち厚めの唇は、桃色で華やか。とても健康的に見える。

天使が春ならば、白夜は冬の晴れた朝。冷たいけど、清々しいまでに澄んだ空気と綺麗な空。


「貴女は大人しいのねぇ?九尾様に抱っこされて…羨ましいわ。」

白夜が私の頭を撫でながら、そう呟く。あれ?…もしかして、白夜は、私が本当の猫だと思ってる?

「私は、駄目ね…どうしても、反感を買ってしまうような事しか出来ないわ…。九尾様に嫌われても、仕方ないわよね。」

白夜が悲しそうに瞳を伏せた。

「どうすれば、素直になれるのかしら…。私は、九尾様を諦める事なんて…出来ないわ。嫌われたとしても…お側に居たいのに…。」

その囁きは消え入りそうで、白夜の本心だろうと思われる。切なさやもどかしさを十二分に含んでいて、恋する乙女の囁きだった。

白夜は…家とか親とか関係なく、本当に九尾を慕って、許嫁になりたいんだ。…恋だね、恋。

でも、素直になれないから…親が決めたから!とか、家の後継として!とかしか言えないんだ。


「九尾に、好きだって言えば?自分の意思で一緒に居たいって伝えなくちゃ…九尾だって、頭ごなしに許嫁だからって言われるより、気持ちを話された方が真剣に対応してくれると思うよ?」

私は、恋する白夜を応援したくなって、顔を見上げながら声を掛けた。

白夜は、驚いたように眼を見開く。

「猫が…喋った!?」

あ、白夜はびっくりお眼目になると、ちょっと幼く見えるな。可愛いじゃないか…。

「輪って名前だ。それ、猫だけど精霊の祝福を受けて話せるんだよ。思考もオレ達と同じで、賢いんだ。」

欠伸をしながら、現れた魔剣が説明をする。

異世界から召喚どうのこうの…って話して聞かせても、混乱するだけで意味はないだろう。

猫は精霊に祝福され、知能を得て喋るようになった!って、設定にしようと、旅に出る前に皆で決めてあったのだ。

「まぁ!精霊様の祝福を受けられのですか…それは、素晴らしいですわね!」

白夜が魔剣の説明に納得したような素振りを見せて、私を抱き上げる。

魔剣はそんな様子の私達を横目に、湖へ向かって歩き出した。さっきの白夜の独り言は、魔剣には聞こえないみたいだな。

「あの…先程の独り言は、内密にして頂けますか?」

魔剣に聞こえぬように、小声で私の耳元に囁く。

白夜の頬が、薄っすらと桃色に色付く。恥ずかしいのかな。

「いいよ。ちゃんと、九尾に気持ちを伝えて話し合いをするんだよ?大丈夫。九尾、満更でも無かったみたいだから…。」

白夜の顔に擦り寄りようにしながら、白夜に耳打ちしてみる。

素直になれないツンデレの白夜。

私はそんな白夜を可愛いと思った。

頑張れ、白夜。私は恋する乙女を応援するからね!


白夜が顔を赤らめて頷くと、横から好奇心で眼をキラキラさせたラプティスのポノが覗き込んできた。

4匹の中で一番小柄とはいえ、馬並みの身体の大きさはある。

愛嬌はある…とは思うけど、デカいトカゲだよね。白夜は息を呑んでから、堪らず悲鳴を上げた。

その悲鳴を聞きつけて、他の3匹も集まってきてしまった。

耳元で叫ばれた私とポノは眼を白黒させてると、

「どうしたの?」と言わんばかりに

「キュイ?」と鳴き、ラプちゃんが小首を傾げて、顔を近づけて様子を探ってくる。

それに、白夜は震え上がった。

「な、な、何なんですかっ!このトカゲ共はっ。き、気持ち悪いわっ!」

そう叫ぶと、私を抱きしめてしゃがみこんでしまった。

キツく抱きしめられて、グエッ!てなるけど…言わねば。

「ラプティスって名前の…南国生まれのトカゲさん。馬みたいに乗れるし、車体も引ける…言葉も理解出来て、大人しい人懐っこい子達だよ。

…苦しいっ!」

潰れそうになりながら喋ると、白夜の力がフッと抜けた。


「…言葉を理解する?」

白夜は恐る恐る顔を上げて、自分を囲んでいるラプティス達を見上げた。

さっきまで好奇心にキラキラしていた瞳に翳りが見える。それは、気持ち悪いと罵られたせいかも知れない。

「わ、私は、悪くないですわっ!気持ち悪いって正直に言っただけで…。」

白夜は、ラプティスに囲まれてながら、必死に自分を正当化しようと言葉を紡ぐ。

でも、私には伝わってしまった。

白夜は、ラプティスを傷つけてしまうような言葉を発した自分を責めている…とても悔やんでいるって。

その証拠に、白夜はそれ以上は語ろとはせずに、俯きながら唇を噛み締めていた。


さて…何て言葉をかけようか。…そう考えていると、ポノがいきなり

「キュッ!」と鳴き、走り出した。

その姿を目で追うと、湖近くの草むらにしゃがみこんで、何やらゴソゴソとやっている。

太く長い尻尾をブンブン振って、何か楽しそうに見えた。

「…?」

白夜もポノを見つめて、首を微かに傾げている。何してるんだろう?

ポノはすぐさま立つ上がると、こちらに戻ってきた。

小さく器用な両手に、湖畔に咲く可愛い黄色の花を握り締めていた。

私は、思わず笑ってしまった。ポノは一体何をしているのかと思ったら、楽しげに花を摘んでいたのか!

「キュイ〜?」

ポノがその黄色の花を、白夜に差し出した。白夜は眼を見開き、ポノと花を交互に見る。

「コレを上げるから、元気を出して?」

何となく…ポノの気持ちだろうと思い、白夜に伝えると、ポノが「キュ!」と鳴きながら頷く。

「…この花を、私に?」

白夜が差し出された花を、そっと受け取った。

「酷い事を言ったのに…」

そう言った白夜の瞳は、涙を滲ませ潤んでいる。

ポノは小首を傾げて

「そうだっけ?」みたいな雰囲気で尻尾をブンと振ってみせた。

「ポノは白夜と仲良くなりたいんだよ。」


私は力の抜けた白夜の腕からすりぬて、地面に着地した。

いや、さっきは潰されるかと思ったよ。白夜は、なかなか力があるみたいだ。

「キュッ、キュッ、キュイ!」

ポノが楽しげに鳴き、尻尾をブンブン振りながら、白夜を誘う。「遊ぼ!」って言ってるみたいだな。

そんな仕草に、白夜は思わず笑ってしまう。ポノがくれた花を大事に握り締めて。

「トカゲのくせに、私と仲良くしたいのですか。良いでしょう…でも、貢ぎ物が、こんな花一輪では足りないのでは無くて?」

白夜が意地悪そうにニヤリとしながら、そう言うと…ポノがピタリと尾の振りを止めた。

「ギュッ?」

ポノが慌てて走りだし、また湖畔にしゃがみ込んで花を摘み出した。

一輪で足りないなら、いっぱい摘めば良いんだ!って感じかな。

私と白夜は顔を見合わせて、笑い転げた。


そんな私と白夜を、他の仲間は遠巻きにして眺めている。

気持ち悪いと言われて、ポノが虐められてるのかも!と案じたティスが、九尾に知らせに走って居たのだ。

ティスが何か伝えてる?何だ、どうした?と、皆が集まり様子を見ていると…。

ポノが両手いっぱいに花を摘んで、白夜に差し出していた。白夜はそれを受け取りると、黄色の花を胸に抱え、涙目になりながら、私と一緒に笑い転げている。

…何か、よく分からないけど。

ポノはご機嫌。

白夜と輪は笑い転げてて、とても楽しそうだ…。

何だ、仲良くなれたじゃないか。

と、暖かく見守っていたらしい。


そんな話しを後から聞いて…。

白夜と私は顔を真っ赤にしたのだった。

…猫だから、顔が赤くなっても分からないと思うけどさっ!


「読んでくださり、ありがとうございました。」

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