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みんな中学生なりに考えていた。それが正しいのかはわからない、今でもわからない。

8.理由

「そういえば、吉田先生ってなんで今が4年生なの?」

すでに良い感じにできあがっている森先生が実習生の個人情報をチャンスとばかりに聞いてきた。

「そうだ、鵜飼先生と同級生なら院生か社会人2年目だよね?」

小島先生も同じように酔いが回っているのか陽気な感じで軽く重いことを聞いてくる。

「そうですね、ブラブラとして・・・・・・」

「えっ?留年?」

小島先生と森先生がほぼ同時に同じ言葉を俺に発した。

「えーっと、正確には休学です、で、今ごろ4年生やってます」

「休学かぁ、必ずいるけど、勇気もいるな、その先の就職とかに影響がないとはいえないし」

森先生のいう通りだ、休学にしても留年にしても、理由やその時間を費やした成果をどう評価されるか、その不安がないとはいえない。

「でも圭太、よく2年も休学できたな、やっぱり圭太は勇者だよ、念願かなって国立に入って、それで留年かよ、圭太らしいな」

隼人は偉そうに言ってきた。その言い方は中学生の頃の隼人を思い出させる。俺は隼人に中学卒業以来会っていないが、俺が国立志望で、“念願叶って”合格したことをはおそらく大樹の母親ルートあたりで知っていたのだろう。

「休学だって」

俺はつい言葉を荒げてしまった。

「国立って休学した場合は学費を納めなくていいってきくから、経済的に問題なければ2年くらいって思う学生多いんじゃない?」

山本先生がその場を取りなすように俺に聞いてきた。

「そうですねぇ、僕のまわりにも理由は色々ですけど、けっこういますね」

「へー、吉田先生って国立なんだ」

森先生の意外そうな言い方をした。

「そうそう、吉田君は本田先生の後輩だよ」

「えー、山本先生、よく知ってるね~」

「吉田先生が実習に来る前に本田と副校長に呼ばれて話したからな、俺と本田とどっちのクラスで実習させるかって」

「あっ、確かに理科だしね」

森先生は今度は本田先生の方をみた。

「山本のクラスも落ち着いているから良いんじゃないかって主任の意見もあったんだ」

本田先生が森先生に説明をすると、それを受けたように山本先生が言った。

「でも3年だとお勉強のことが中心で終わるし、2年はまだまだ学級活動とかあって、教科だけでない実習ができるってことで、本田君、よろしくね、ってことになった訳」

「なるほど」

2人からの説明に森先生は深く頷いた。

「その時に本田の後輩だっていう情報をゲットしたって訳」

「ふんふん」

俺は森先生が2人を交互に見ながら話を聞いている姿がおかしかった、そしてなにより山本先生と本田先生がお互いを名字呼びしていることに、同僚というだけではない2人の関係性を垣間見た。

「実習生にはできるだけお手本とするような教師像を見てもらわないといけないし、人望ある本田君は適任者、さらに本田は都立トップ校からの国立現役合格、進路に悩む生徒の見本でもあるわけだ」

山本先生は本田先生のグラスにビールを注いだ。

「あのさぁ、山本君ね、いつも言ってるけど、それ進路のひとつであって見本じゃないからな」

山本先生と本田先生はお酒のせいもあるのか、2人ともあきらかに職員室での会話とは違っていた。それでも本田先生は顔色を変えることなく、淡々と山本先生の注いだビールを飲みながら答えた。

「でも高校も、大学も公立教育は経済的にもリーズナブルだし、なにより経済的な不安が私立より少ないから、大学に長く在学できるという権利をいたずらに享受している学生もいると思いますね」

隼人が俺に言うともなく山本先生と本田先生の会話に入ってきた。俺は“いたずらに”という隼人の言葉に少し腹立たしさを感じた。

「確かに親の経済的負担の差は大きいよね、僕も進路に経済が無関係ではなかったし」

「えっ」

俺は本田先生の以外な事情に驚いた。

「僕は母子家庭だったから、高校の時に私立は受験できなかったし、大学も私立に魅力を感じなかった訳はないけど経済的にね・・・・・・」

「じゃあ高校は都立1本だったんですか?」

隼人も知らなかったのだろう、驚いた顔で本田先生を見た。

「そう、命知らずだろ?」

「落ちたらどうするつもりだったんですか?」

隼人は俺も思った躊躇なく疑問を聞いてくれた。

「ハハハァ、おそらく二次か定時か、過年度受験か、だったろうね」

本田先生の爽やかさに俺は少し違和感があった。

「でも、今となっては勝てば官軍だったってこと」

山本先生が迷いなく言い切った。

「・・・・・・、絶対安全圏の高校も考えたよ、でもそんなことをしたら母親に卑屈な思いをさせるみたいでね、合否が最優先でなかったことかな」

「自分より親のことを考えたってことですか?」

隼人はそんなことで選択をしたのか、と言わんばかりの質問だった。

「どうだろう、うーん、そうだなぁ、親はあくまで僕にとっては選択する条件のひとつではあったけど、それが条件ではなかったと思ってるよ」

「条件のひとつ・・・・・・」

隼人は考え込むようにつぶやいた。

「鵜飼先生は希望の都立合格だったんだから、親の希望も自分の希望も叶えた訳だよね」

山本先生の質問に隼人はハッと顔を上げた。

「そうですね・・・・・・」

気のせいか隼人が俺のほうをチラリと見た気がした。

「はーい、とんかつ、シソはさみ揚げでーす」

店員の勢いの良い声とともに、わらじのように大きいとんかつが俺たちの目の前に出された。

「きた、きた、名物わらじとんかつ、チーズもいいけどシソを挟んだのが大人の味だよな」

森先生がそう言いながらとんかつを一切れ取って食べた。

「チーズでもシソでも、何を挟んでもいいから、勝つ!ということで、3年生の合格を祈って食べましょうか!」

小島先生が一切れ取った箸を振り上げた。

山本先生はそれに続いて一切れ取ると、それを自分の皿に置いて呟いた。

「受験の日はカツだったな」

賑やかな店内で、山本先生の声は隣の俺にも聞こえるかどうかの小声だった。俺は聞こえなかったことにしてシソの入ったとんかつを一切れ食べた。

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