最終話。開かれた道は、新たな絆に。 パート2。
「すごいな。本当になにも取らず、落ちることもなく攻略したのか」
俺が優勝したプラクトの大会の主催者にして、
プロギャムのギルドを仕切るギルドマスターが、
出発前とかわらない札の色を見て、
感心した雰囲気で、しみじみと言う。
「じゃ、拒否成立ってことで」
「しかし、それ以上にすごいのは、そこにいる宝物庫の番人だ」
「「「な?」」」
予想外の言葉に、俺達三人は同時に声を上げた。
誰もディアーレについて触れてないのに、
ギルドマスターは、ディアーレのことをあのダンジョンの
番人だって知ってるらしい。
「どういうことだ?」
「私も昔、あのダンジョンに挑んでな。
だが運が悪かったか、すぐに穴に落ちてしまって
なにかを得るどころか、あそこの仕組みを
理解するところにすら辿り着けなかった」
ハッハッハと、ギルドマスターは快活に笑った。
「そっかー。ごめん、ぜんぜん覚えてない」
こいつの「ごめん」って、ほんと軽いな。
「気にされるほど、とどまれなかった、と言うことだろうな。しかたないさ」
言われた側も、さして気にしてないみたいだな。
「さて、この場合。物品入手の可否、どう判定すべきだろうな」
俺の魔力判定を終えた札と、ディアーレを交互に見て、
ギルドマスターは考え始めた。
「わくわく」
期待するディアーレと、
「ソワソワ」
落ち着かないナビーエ、そして。
「ゲッソリ……」
半ば諦めてる俺、三者三様である。
なんで全員、信条を擬音で口に出したのかは謎だけど。
「やはり、番人だ。ダンジョンにいる者であり、
ダンジョンにある物だろうな」
「でも、俺の意志で連れて来たわけじゃないんですだぜ」
食い下がる。なんとかできないものかと。
……必死のあまり、変な口調になっちまった。
みんな笑ってっしっ、恥ずかしいな、くそ……!
「ビック君。逆を言えば、番人であるこの女性に
ここにいるに至らせるほどの影響を、君は与えた
と言うことにはならないか?」
「え?」
予想外に問いかけられて、困惑する。
「意識せず、誰かを変えるほどの影響を与えられる。
それは。魔力の強弱なんかよりも、よっぽど価値のあることだ。
私はそう思う」
「「「と、言うことは?」」」
問いかけ方は、勿論俺とそれ以外で、まったく雰囲気が違う。
「古の宝物庫の番人がここにいる。
それを、物品を取得した、と判定しよう」
喜びの笑みを浮かべる、ナビーエとディアーレ。
絶望の溜息をつく俺。
「ビック・リシター君。改めて、おめでとう。
君には、冒険者か騎士団か、
どちらかに所属する権利が与えられる。
プラクトの優勝トロフィーと、大会優勝賞金を受け取ると共に、
その所属先を示してくれ」
俺にとってはおめでたくねえんだよなぁ。皮肉かギルマス?
「「よしっ!」」
「だよなぁ」
すっと、ギルドの受付嬢が紙と筆記道具を差し出してきた。
見事なコンビネーションだなぁ。
「騎士団か冒険者か。所属したい方にまるを書いてくださいね」
頷きつつわかりましたと答えて、俺は冒険者の方にまるを書いた。
「少し待っててくれ。トロフィーを持って来る」
そう言うと、ギルドマスターはどこかへ歩いて行ってしまった。
「いつまでガックリしてるのビック。もう決まったことなんだから
諦めなさいよ」
幼馴染に、諭すように肩を叩かれる。
しかしそう言われたからと言って、簡単に立ち直れるものではない。
いくら、途中で予測できた結果とはいえ、な。
「一週間ズレてしまったが。ビック・リシター君。
プラクト大会の優勝おめでとう。そして、
ようこそ、我等冒険者の世界へ」
そう言って、ガラガラと鳴るなにか入ってるのがわかるトロフィーを、
ギルドマスターはこっちに差し出して来た。
それを俺は、どうもと頭を下げて、落とさないようにしっかりと受け取った。
拍手の広がるギルド内。更に、ギルドマスターの言葉が続いた。
「ナビーエ・フォン・ギッツァー君。そしてディアーレ君。
冒険者として、ビック君を支えてやってくれ」
「当然「勿論です」」
「お前らなぁ……。って言うかナビーエ。
お前、まさか?」
「うん。いつか、ビックが冒険者する時が来たら、
いっしょに始めようと思ってたんだ。
だから実は、既にテストは受けてたし、
それで合格って言われてたんだよね」
「いつのまにそんなことを……でもさナビーエ」
「ん?」
「俺が冒険者始めなかったらどうしてたんだよ」
じっとりと問いかける。
「その時は、ごねてむりやり始めさせるつもりだった」
「さらっと言いやがって……って言うかお前それはねえだろ!
結局俺に選択権がねえじゃねえかっ!」
「アッハハハッハッハ! やっぱり君たち楽しい~!」
「これが……番人を動かした理由……なんだろうか?」
大笑いするディアーレを見て、ギルドマスターが怪訝な顔をした。
戦わないために挑んだ古の宝物庫挑戦。
結局は俺の意地によって、ディアーレと言う
ダンジョン住民が付いて来たことで失敗に終わった。
こうなった以上、冒険者活動をするしかない。
だが。ナビーエとディアーレと言う、二人の力強い仲間がいれば、
ディアーレの言う通り、本当に戦う必要は、ないのかもしれない。
ーー命が危険にさらされることは、ないのかもしれない。
なら、大丈夫だろうと。
それなら、問題はない、と、そう信じて。
俺は、二人と共に、冒険者を始めよう。
「鍛錬。始めるか」
呟いた俺の声は、幸い、
二人には聞こえてなかった。
Fin