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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
14章 そして幕を開ける、勇者にとって一番長い夏休み
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第187話 ゆえに致し方なく……魔王、臨時クラスチェンジ



「ふむ……ここが宝物殿、か」



 同じ神社の敷地内であるはずだというのに、まるで祭りの熱気とは大きく隔絶しているような――そんな、ひっそりと奥まった場所に、(くだん)の小さな宝物殿はあった。



 ――周囲にはもちろん、人気は無い。




「……しかし、まったく……。

 この余に、盗賊の真似事をさせるとはな」




 ……とんだ『妹』もあったものだ――。



 余は、先程のやり取りを思い出し……つい、唇の端を持ち上げていた。








 ――神楽を舞い終えた女子の面々は、社務所の周辺で思い思いに休んでいた。



 休憩なら社務所の中で取ればいいと思ったのだが、どうやら我ら男子まで来ることを計算すると、さすがに狭いから……らしい。



 加えて、どうも今日の神楽は、1時間の休憩を挟んでもう2回あるらしく……。


 あまりじっくり休んでしまうと動けなくなりそうだから、と女子たちは口々に言っていた。



 神楽舞いそのものの時間は10分程度だったが……見物人を前にしての神事、かつ、あれほどの動きをするとなると、精神・身体の両面において、消耗は激しいことだろう。


 ――それをさらに2回もこなすというのだから、まったく恐れ入る。


 そうなると、この神社そのものが緑に包まれ、比較的涼しいのは幸いと言えば幸いだ。

 あまりに暑いと、倒れる者が出るやも知れんからな……。



 ……さて、そうしたなかなかに過酷なスケジュールのことを踏まえ、亜里奈(ありな)のもとへ向かった余が、改めて舞いの見事さを賞賛するとともに、体調を気遣うと……。



 社務所の横手――祭りの見物人からは見えない位置に敷かれた、神社側が用意してくれたらしい大きなビニールシートに座っていた亜里奈は。



 額に汗を浮かべながらも、実に涼やかで良い笑顔を見せてくれた。




「体調は……ゼンゼン大丈夫ですっ。

 こう見えてあたしだって、家の手伝いでケッコー鍛えられてますし!


 ……それに、その……。


 こうやって、ハイリアさんにも『素晴らしかった』って言ってもらえるぐらいの舞いがしっかり出来て……。

 何て言うか、こう、テンション上がっちゃってるみたい――なんですよね。

 だから……疲れた、よりも楽しいって感じで……まだまだ大丈夫です!


 ――って、まあ……。

 明日になったら、バテてぐでぐでになっちゃってるかも知れませんけどね」




「……ふむ、そうか。

 なら、今はしっかりと、悔いの無いよう一生懸命にチカラを出し切るといい。

 ……なに、仮にそれで明日寝込んだとて、今は夏休みだ。

 余でも勇者でも、好きなだけコキ使って、存分に身体を休めれば良いだけのことよ」



 余はそう言って、ちらりと勇者の方を見やる。



 勇者は――いかにもヤツらしいというか……。



 おスズだけでなく全員を(ねぎら)い、讃えねば気が済まないらしく、1人ずつ声を掛けていき――今はイタダキとともに、その妹の見晴(みはる)を褒めそやしているところだ。



 そんな勇者の態度に、てっきりおスズは恋人として不満なのではないかと思いきや……いたって良い表情で穏やかに笑っている。


 いの一番、真っ先に手放しの賞賛を受けたことで満足したのか……あるいは、そもそもが惚れたのが『そういう男』だからなのか……。



 その心底までは分からぬが、まあ……揃って『お人好し』の2人だ。


 きっと、『そういうもの』なのであろうよ。




 ――さておき、視線を戻すと……。


 亜里奈は珍しく、イタズラっぽい笑みを浮かべてこちらを見ている。



「いいんですか~、ハイリアさん? コキ使っても!

 ――これ持ってきて、あれをやって……って、めいっぱい使っちゃいますよっ?」



 ……なるほど、テンションが上がっている、というのは事実らしい。


 普段なら奥ゆかしく拒否しそうなところだが――今日の亜里奈は、いわゆるノリノリで、余の提案に乗っかってきた。



 意外、ではあるが……年齢相応というか、こうした子供っぽい面も愛らしいものだ。


 自然と、余も釣られて頬が緩む。



「……ああ、構わぬとも。魔王たる余に二言はない――」


「あ! じゃあ早速、わたしがコキ使わせてもらいましょーかねっ!」



 横合いから、いきなりそう割り込んできたのは……。


 つい先程、アーサーに露店まで買いに行かせていたかき氷――すでに半分以上なくなっているそれを手にした聖霊だ。



 ……まったく、神楽のすぐ後、皆してドクトル殿から冷たいものを差し入れてもらっておきながら、立て続けてこの食いっぷりか……腹を壊しても知らんぞ。



 そんな呆れもあって――。


 余はこれ見よがしのタメ息とともに、『妹』に向かい合う。



「……残念ながら我が妹よ。そもそもキサマの体力が、亜里奈と違ってこの程度ではまったく問題ないのは明白。ゆえに気遣ってなどおらん。

 つまり、キサマにコキ使われる所以(ゆえん)なぞ――」



「まーまーまーまー、それはそれってことで!

 今はちょいとばっか、このカワイイ妹のためにツラ貸せってんですよ、あ・に・う・え!

 ――つーわけで亜里奈、ちょーっとこのクソイケメン借りますねー!」



 言って、聖霊は――。


 余と腕を絡め、社務所裏手の物陰の方へと強引に引っ張っていく。




「まったく……何なのだ、いったい……」



「――じゃ、ハイリア、単刀直入にいきますよ。

 あなたは……さっきの神楽を見ていて、何か気付きませんでしたか?」




 この聖霊のことだ、またなにかバカな話でも持ってきたのかと、一瞬いぶかるも……。


 ――その表情は、珍しく真剣だ。




 ……ふむ……。


 では、此奴こやつが言いたいのは――余が見ていて感じた『あのこと』か。




「……〈世壊呪(セカイジュ)〉――か。

 あの神楽は、それを表したものではないか、と」



 余の答えに、聖霊は特に驚くでもなく……。


 生意気な笑みを浮かべて、うなずいてみせる。



「――ええ、そうです。

 あなたと同意見っつーのも虫酸が走るような話ですが……。

 わたしも、ドクトルばーさんが神楽の題材にしたって説話は、〈世壊呪〉のことを語ってるんだと思います――」



 そして、聖霊は……。

 その考えに基づき、思わぬところで新たな情報が得られそうだとの期待から――。


 なんとかその題材について書かれた古書を見せてもらえないかと、これまで宮司を相手に交渉を重ねていたのだという。



 ――が、まあ当然というか、ただの小学生に閲覧の許可など下りるはずもなく……。



「ですが、執念の勝利というヤツですね……!

 実は今朝、そこまで言うなら記念にと、宝物殿の中まで入れてもらえたのです。

 ――で、リッパな箱にしまわれた和綴じの古書を……これがそうだと、見るだけは見せてもらいました」



 聖霊は、ニヤッと――。


 聖霊どころかむしろ小悪魔のような笑みを浮かべる。




 ……なるほど。


 余を『コキ使う』とぬかした理由、見当がついたな……。




「つまり、キサマは――宮司の親切心につけ込んで、まんまとその古書に『しるし』を残してきた、というわけか」



「人聞きの悪いこと言ってんじゃねーってんですよ、魔王のクセに!

 ……まあでも、そういうことです。

 見せてもらったとき、古書に魔力を飛ばして、すぐにそれと分かるように『印』をつけておきました。

 ただ、簡易的なものですし、効果は今日1日保つかどうかってところでしょう。

 そこで――」



 余は、それ以上の聖霊の言葉を遮り――大ゲサにフンと鼻を鳴らしてみせた。




「……この後、2度目の神楽が行われる。

 1度目であれだけ盛況だったのだ、次はさらに多くの人間が集まるだろう。


 ――必然、見物人にしろ、神社の関係者にしろ、注意はそちらに集中する。


 そのときを狙って、余にその古書を盗み見てこいと――そういうわけだな?」








 ――宝物殿……と呼ぶにはいささか小さい、そう、蔵と言った方がしっくりきそうな建物の入り口に近付く。


 当然のように、その扉には鍵がかかっており……そればかりかさらに、がっしりとした造りの大きな南京錠さえぶら下がっていた。



 ……と言っても、そんなものは余にとって何の障害にもなりはしない。



 魔法で扉ごと吹き飛ばしてしまうという手もあるにはある――が。


 その下策によるデメリットがどれだけ大きいか、考えずとも分かるぐらいには余もこちらの世界に馴染んでいる。



 ――ゆえに、余が取る手段は一つだ。




「……こんな魔法を使うのは、さて、何年ぶりか……」




 ――幼少の頃、城を脱け出して遊びに出たとき以来ではないか――?



 そんな懐かしい思い出ごと、まとめて引っ張り出した記憶を頼りに……。


 余は最小限の魔力で、南京錠と扉の鍵、両方を一度に解錠する。



「……おっと」



 そのまま地面に落ちそうになった南京錠を受け止め、扉に引っ掛け直しながら……再度周囲の気配を探り、問題ないことを確認。


 素早く、宝物殿の中に身を滑り込ませた。



 中は暗いが、〈人造生命(ホムンクルス)〉のこの身体は、普通の人間よりも夜目が利く。

 その上、余自身も、魔力で視界を補うぐらいはお手の物だ。


 わざわざ明かりをつけて、外に知られる危険を冒す必要も無い。



 そういうわけで、改めて周囲を見回せば……ふむ。



 さして広くもない空間に、様々な道具とともに、多くの古書も収められているのが分かる。


 雑多……というわけではないが、これでは確かに、『印』がなければ目当てのものを探すのは骨が折れたことだろう。



「……これだな」



 棚に整然と並べられた、いくつもの小箱の1つを抜き取り……床に積まれた大箱の上で開ける。


 中に収められた和綴じの古書は、確かに、聖霊の魔力によって――こちらの世界の人間ではおよそ気付かないだろう、微かな光を放っていた。



 反射的にそれに伸ばした手を、しかし途中で止めた余は――。


 改めて、魔力だけでその古書を浮かせる。



 ……下手に触れると証拠が残る――というよりも、こうした古いものにはなるべく、直接手を触れたりはせぬ方がいいと聞いたからな……。


 こちらの都合で勝手に覗き見るのだ、そのうえで、貴重な古書を必要以上に劣化させるような真似をすべきではあるまい。



 しかも、そもそもが……相当に傷んでいるようだしな。


 野晒しにされていた、というほどではないだろうが、火災などに見舞われた経緯ぐらいはありそうだ。



「さて……新たに有用な情報があればいいのだが――」



 一応、先日図書館へ行ったときなどに、古い日本語も読めるよう勉強はしたつもりだが……直筆というのはどうしてもクセが出る。


 その辺り、まず『日本語』というものに対する経験が足りない余では、正しく読み解けない可能性もあるので……。


 保険として〈解読〉の魔法も使っておく。



 もちろんこちらも、別の世界の書物にどこまで通用するかが不明なのだが……最悪、ここで読めなくとも、内容をすべて頭に叩き込んでおけば後でどうとでもなる。


 スマホで写真を撮るよりは、その方が早い――のだが。



「……ふむ……」



 聖霊や勇者と情報を共有することを考えれば、一応、撮影もしておくべきか。




 余はスマホも取り出すと――。


 魔力でゆるやかに……古書のページをめくった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王様がスマホ!? Σ( ̄□ ̄|||)ww 流石私よりハイテクな魔王様♪ [一言] 宝物殿は良いですよね☆ 浪漫とロマンの塊(←語彙w)
[良い点] ハイリアさんの勇者カップルを見守る眼差しが温かくて良いですね! 古書解読の部分で、魔法とスマホを両方使う魔王さまが面白いです。 はてさて解読の成果はいかに……?
[一言] 亜里奈たそにコキ使ってもらえるなんて、完全にご褒美じゃねーかッ!!!!(開眼) そして遂に古書の中身が……!(ゴクリ) これで官能小説とかだったらどうしよう!(←)
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