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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
14章 そして幕を開ける、勇者にとって一番長い夏休み
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第180話 男子どもの、男子どもによる、夏休みの過ごし方



 ――夏休み3日目。


 その過ごし方についての、心の底からの希望を言えば――近所の公園でまったりするだけでもいいから、鈴守(すずもり)と一緒にいたい俺だけど……。



 ここ数日は鈴守に予定があるとのことで、そうもいかず。


 夜にちょっと電話するぐらいでガマンして――。



 結局、初日は武尊(たける)たちの修行の付き合い、昨日の日曜日は家の手伝いと部屋に籠もってのゲーム三昧で過ごしていた。


 で、今日もすでに昼前だが……ベッドの上で何をするでもなく、ゴーロゴロ。




 ……まあ、ハッキリ言って平和だ――鈴守と逢えずにいることを除けば。




 ――いや、こういうダラ〜っとした生活も、いかにも俺が望んでいた普通の高校生っぽい過ごし方だし、実際、満喫してるわけだけど……。



 いかんせん、春からこっち……アルタメアで大冒険して、帰ってきたらきたで〈世壊呪(セカイジュ)〉を巡る戦いに巻き込まれて……と。


 ずっと何かしら忙しくしてたせいか、こうのんびりしてると、妙な罪悪感めいたものを感じなくもない。



 それなら宿題でもやってろって話になりそうだが……それはそれだ。



 そう――なにせ勇者は、追い込まれてからが本領発揮だからな!



 ……って、亜里奈(ありな)の前ではとても言えないセリフだけど。怒られるし。



 ――まあ、でも、アレだ……。

 宿題なら、鈴守に時間が出来たら、図書館とかで一緒にやればいいのさ!


 うん、鈴守って、ゼッタイ図書館の雰囲気に似合うと思うしな!



 いかにも知的な文学少女っぽく、図書館に映える鈴守の姿……。


 それを見ていれば、俺もやる気がみなぎって、宿題もバリバリガンガン進んで――!



 ………………。



 ……なワケねーよな。

 雑誌裏のアヤしい広告じゃあるまいし。



 大体、ンな状況になったら絶対、鈴守に見とれて宿題なんざ手に付かないに決まってる!

 ――ああ、大いに自信があるね!



 でもそれじゃ、鈴守にも怒られるな……。


 いやしかし、それはそれで、そんな表情がまた可愛らしくてたまらんと言うか……。




「……って、真っ昼間からゴロゴロしつつ何を妄想してるんだ俺は……」




 ベッドの上で大の字になりながら、ニヤけていた顔をぐにぐにとほぐしつつ……思わずタメ息をつく。



 ――枕元のスマホが鳴ったのは、そんなときだった。



 もしかして鈴守!?……と、期待を込めて手に取るも、表示された相手は――。









「……お〜、来た来た」



 〈(あま)()〉の前まで出てくると……そこには、俺を呼び出した連中が待っていた。


 それは、涼しげな服装で日傘を差した鈴守――なんかじゃ、もちろんなくて。




 毎度おなじみの野郎ども……イタダキと(まもる)である。




 さらに遅れて、俺の後ろからはハイリアもやって来る。


 最近、めっきり和装にハマってる感じのハイリアだが……今日は薄手のジャケットを基調にした、ラフな洋装だ。



 しかしラフと言えば、同じような格好の衛や、Tシャツにジーパンの俺とイタダキも同レベルのハズなのに……。


 なんか、いかにもワンランク差を付けられてるように感じるのは、やっぱりイケメン補正ってやつなんだろうか……。




 ……まあ、それはさておき。


 イタダキが、わざわざ俺たちを呼び出した理由はと言えば……。




「おう、これから〈嵐運動(ラウンド)(ザン)〉にでも行こーぜ!」


 ……と、いうことらしい。




 ――さて、〈嵐運動・斬〉というのは……。


 ボーリング場を基本に、様々なスポーツを手軽に楽しめる設備のほか、ゲーセンやらカラオケやらのアレコレも備えた、いわば複合アミューズメント施設ってやつだ。



 学割が利くし、何でもあるしで……俺たちみたいな高校生が遊びに行くにはもってこいの場所である。



「ほう……それは、どういうところなのだ?」


「ああ、ハイリア、行ったことないんだ?

 ほら、テレビでもCMやってると思うけど――」



 首を傾げるハイリアに、衛が丁寧に説明してくれる。



「……で、おキヌさんとかとも待ち合わせだったりするのか?」



 一方で、俺がイタダキに尋ねると……ヤツは「いんや?」と首を振る。



「一応、いつものヤツらには声をかけたんだけどな……女子勢はみんなして用事がある、ってよ。

 じゃあ見晴(みはる)でも連れてってやるかと思ったけど、こっちもなんか約束があるみたいでな」


「ああ……それ、うちの妹たちじゃないか?

 亜里奈とアガシーも朝から出かけてったからなあ」


「ふーん……案外、おキヌたちとも一緒になって女子会でもやってんじゃね?」


「まあ、無い、とは言い切れねーけど……それならそれでそう言うだろ」




「――おっ!

 おーい、ししょーっ! リアニキーっ!」




 俺たちが話してると……。

 そんな元気な声とともに、通りの方から誰かが駆け寄ってきた。



 ……テンテンを頭に乗っけた武尊と、凛太郎(りんたろう)のコンビだ。



「ん、武尊?

 ……って言うか、ししょー? リアニキ?」



 衛が武尊から視線を移し、俺とハイリアの顔を見比べて……頭上に疑問符を浮かべる。



「え? ああ――」



 ……そりゃまあ、従弟いとこがいきなりこんな呼び方してりゃ気になるよな。



 でも、さすがにここで『ヒーローの師匠やってます』なんてことは言えないので――。



「この間、遊びに来たときにレトロゲームに付き合ってたら、なんか俺たち2人、尊敬されちまってさ。

 武尊なりの敬意を込めて、師匠にリアニキ、って――な?」



 そんな風に適当にそれっぽいことを答えながら、武尊の方に視線を向ける。



 まさか、バカ正直な反応したりしないだろうな……と、ちょっと心配したものの――。



 頭の回転そのものは速い武尊は、俺の意図を察したらしく……。

 「おう!」と、勢いよくうなずいていた。



「師匠は、オレたちが知らねーようなレトロゲーもいっぱい知ってるしさ!

 リアニキは、とにかくゲームうめーしさ!

 ……2人とも、スゲーからな!」



 合わせて、隣で凛太郎もこくこくとうなずく。



「ああ、そう言えば裕真(ゆうま)のお父さん、筋金入りのレトロゲーマーだって言ってたっけ」


「そうなんだよ。ま、そのせいで俺も、そっちの方にはわりと詳しくてなー。

 ハイリアも同じく、父さんのゲームに付き合ってるうちに、あの運動神経と学習能力がもれなくレトロゲームの上達に向けられちまった……ってわけで」



 特に疑問に思う様子もなく衛が納得してくれたことに、ひとまず内心胸を撫で下ろす。



 別に呼び方が変わったからって、すぐにどうにかなるってわけでもないだろうけど……やっぱり、身内に妙に思われたりするのは極力避けた方がいいだろうしな。


 ……まあ、とりあえずは問題にならなかったようで、結果オーライってとこか。



「……で、武尊。

 こうやって師匠扱いしてる裕真のとこまで来るってことは――。

 『修行だ』とか言って、遊ぶのに付き合ってもらってたりするんじゃないの?」



 おお……さすが衛、お見事。

 従弟のことがよく分かってるなあ。



 いやまあ、一応は、ホントに修行ではあるんだけど……。



「ま、まあね〜……へへっ」



 はにかむ武尊。


 それを見て、衛はふう、と小さく一つタメ息をつく。



「まったく、しょうがないな……。

 ――裕真、もし武尊が迷惑をかけるようなことがあったら、いつでも僕に言って。

 僕の方から、叔母さんに報告するからさ」



「まあ、大丈夫とは思うけど……一応、分かった。

 ――にしても、仲良いよなあ、お前ら」



「お互い一人っ子だからかもね。従兄弟いとこってより弟みたいなものだし。

 ……でも、それを言うなら裕真、キミのところだって再従兄弟(はとこ)だけど、ホントの兄妹みたいだろ?」



 武尊の頭を適当にくしゃくしゃと撫でながらの衛の言葉に――。


 俺はハイリアと視線を交わし、苦笑する。



「……確かにな」



「――お、そうだ!

 ……なあ、お前ら、裕真んトコに遊びに来たってことは、ヒマなんだろ?

 これからオレたちと一緒に〈嵐運動・斬〉に行こーぜ!」



 割り込んできたイタダキがそう提案すると、武尊と凛太郎は顔を見合わせた。



「――え、一緒に行っていいのっ!?」


「おう、構やしねーよ。人数多い方が面白いじゃねーか。

 ――お前らだって、別にいいよな?」



「俺もその気だったしな」

「もちろん、僕もいいよ」

「うむ。よかろう」



 こちらを振り返るイタダキに、俺たちは三者三様で賛成する。



「でも、お金ない。あんまり」



 一方、凛太郎がちょっと残念そう(多分)に、半ズボンのポケットを叩くが……。



 イタダキが、何言ってるんだ、といった顔で手を振った。



「あん? チビどもがンなこと気にすんじゃねーよ。

 ――コイツらの分は、オレら4人で分割負担だ、それも構わねーよな?」



 ……イタダキの提案に再度、俺たちは思い思いに了承の意志を見せる。



「だけどイタダキ、そこはお前、頂点に立つオトコとしては『オレ様に全部任せとけ!』じゃねーのかよ?」


「フッ……甘えぜ裕真。

 優しいオレ様は、たまには頂点たるオレ様と違ってザンネンで低標高のお前らにも、この頂点からの景色ってやつを拝ませてやろうと思ったのさ……!」


「……あ〜……分かった分かった、そーゆーことにしといてやるよ」



 俺は、降参、とばかりに両手を挙げて……。


 イタダキへのそれ以上のツッコミはやめておくことにする。



 俺たちの懐具合なんて、みんな似たようなモンなんだし……。

 ここであんまり『カネがない』的なやり取りをし過ぎると、武尊と凛太郎が気にしちまうかも知れないからな。



「――ぃよっし、ンじゃ、さっさと行こうぜ!

 このまま立ち話してても、あっちーだけだからな!」


「へいへい。……高稲(たかいな)の方だよな?」


「なんでもあるっつったらあそこだろ。

 ――さーて、行ったらなにすっかな……!」



 そうして、駅に向かって賑やかに動き出す俺たち6人。



 ――そんな中、俺はなんとなく、最後尾につくハイリアの隣に並ぶ。



「……顔、ニヤけてるぞ?」


「そうか?

 まあ、仕方あるまい。事実、楽しみだからな」



 実際は、ニヤけて……にはほど遠い、いかにもさわやかで自然な笑みを浮かべたまま、ハイリアは俺の指摘を素直に認める。



「そういや、お前、このテの場所に行くのは初めてだったか」



 ハイリアとは、亜里奈たちも連れての買い物でショッピングモールとかには行ったが……アミューズメント施設ってのは、家族・友人どちらともまだ行ってなかったな。



「ゆえに楽しみなのだ。

 ――せっかく『こちら』へ来たのだ、ならではのものを堪能せねば――な」


「なら、ちょうどいいじゃねーか。

 今は夏休みなんだ……アレもコレもと堪能する時間はめいっぱいあるぜ?」



 釣られて、つい俺も頬を緩める。



 そうして、前を行く連中も楽しそうに話しているのを見ていると。




 鈴守と逢えないのは残念だけど――。


 それとはまた関係なく、俄然、俺も気分が盛り上がってくる。




「よっし……!

 ひさびさに『勝負』といくか? ハイリア!」


「ほう……良かろう、受けて立ってやる」



 ……そうして、俺たちが不敵に笑い合っていると――それを聞きつけた他のヤツらも混ざってきて。



「お? なんだなんだ、夏休み初めにして、早くも勇者と魔王の最終決戦勃発か?」


「いいね、面白いね。

 ――じゃ、今日はなにをやるにしろ、勇者軍と魔王軍に分かれてのチーム戦にする?」


「え、なにそれ!

 はいはいっ、んじゃオレ、ゼッタイ勇者軍っ!」


「忠勤に励むのみ……どちらでも」




 まだ駅にもついてないのに――。


 俺たちはそんな風に、バカみたいに盛り上がり始めるのだった。






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― 新着の感想 ―
そんで繰り広げるはカラオケ点数対決で。 その中でまさかのハイリア君の、聴いた物を石化させるレヴェルの音痴発覚でさらにカラオケマシン破損オチ、と(ォィ
[良い点] 楽しそうに遊ぶ風景が素敵です☆彡 バカみたいに盛り上がることはとても良いことですよね? 年を食うとなかなか (;'∀')ww
[一言] ラウンドワンは大人になってから出来たんだよなあ…… 大人になってもガチで遊ぶので、タオルは必須!w 職場の人らと行った時、ガチなのは私ともう一人位でしたが……(大人げない) 次の日身体が痛く…
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