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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
14章 そして幕を開ける、勇者にとって一番長い夏休み
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第178話 それは声なき声、勇者に突きつけられる宿題か



「……っらあっ! 烈風閃光疾風(れっぷうせんこうしっぷう)けーーんっ!」



 光の刃を伸ばした宝剣で、高速の突きを繰り出してくる武尊(たける)――もとい、烈風鳥人(れっぷうちょうじん)ティエンオー。



 ――だがそれは、疲れのせいか、あまりに考えのない……良く言えばまっすぐ、悪く言えば雑な攻めだった。



 俺は見え見えのその一撃を寸前でかわしざま、宝剣を狙って叩き落とし――返す刃で、胴を薙ぎ払う。



 くぐもった呻きを上げて、吹っ飛んだ武尊は――さすがに限界が来たんだろう、受け身も取れず、そのまま背中から地面に転がった。



「いっででで〜……」



「……ここまで、だな。

 残念ながら、今日も俺への有効打はナシってわけだ」



「ちっきしょー……まだダメかぁ〜……」



 俺の完全勝利宣言に、倒れたまま悔しがる武尊。



「お前はそもそものセンスは良いんだが……今日はちょっと集中を欠いたな。

 特に、疲れてからの動きが雑だった。

 まあ、気持ちは分かるが……疲れてるとき、追い込まれてるときこそ、ますます冷静に、歯ぁ食いしばって踏ん張らないとな。

 ――それが、ヒーローってやつだろ?」



 俺は武尊の手を取り、起き上がらせてやる。



 その間に、武尊はティエンオーとしての変身を解いた。


 そして――



「あ、ありがとうございましたぁ〜……!」



 ダメージそのものはそれほどでもないはずだが、さすがに疲労があるんだろう、フラフラしながらも……律儀に深々と頭を下げる。


 で、そのまま、ヒザに手を突いて荒い息を整えていた。



「おう、なかなか殊勝じゃないか。

 ……やっぱりそういうところ、(まもる)が剣道やってた影響か?

 そう教えられたとか?」



「衛兄ちゃんが、っつーか……。

 ――あれ? 師匠、知らないんだっけ? 衛兄ちゃんの家、剣道の道場やってんだよ。

 で、じいちゃんが先生で……すっげー厳しくて、すっげー強えんだ!」



「へえ……そうなのか」



 ……つまり、むしろ祖父(じい)さんの影響ってわけか。


 衛が剣道強かったってのも、そんな祖父さんに鍛えられたから――なんだろうな。



「あ~……オレも、じいちゃんに剣道習っとけば良かったかなあ……」



「でも、衛だって強いんだろ?

 自主練もしてるんなら、衛に教えてもらったらどうだ?」



 事前に、ヒマなときは素振りとかしてる、と聞いていた俺は、そう提案するが……。


 武尊は、さして考えることもなく――うつむけた首を横に振った。



「ん~……やめとく。

 やっぱり衛兄ちゃん、あんまり剣道のこと話したりしたくないみたいだしさ」



「…………。

 そっか、それならしょうがないな」



 ……衛のヤツ……基本的に社交的だけど、逆に、だからこそっていうか――。


 思うことがあっても、誰かに打ち明けたりせず、一人で溜め込んで悩みそうなところがあるからな……。



 前、体育祭の打ち上げの――うちの風呂で話を聞いたときは、そこまで深刻そうでもなかったんだが……。



 今度機会があったら、その辺、また改めてちょっと聞いてみるか。


 本当に話したくないようならムリには聞けないけど……話すだけでラクになるって面もあるだろうし。


 ……やっぱり、放っとけないもんな。



「……ところで師匠、それ――変身、解かねーの?

 呪いで体力減っていく……とかじゃなかった?」


「ん? ああ……ちょっと、な」



 武尊の問いに、俺は曖昧な答えを返す。


 ――というか、曖昧な答えしか返せない。



 先日、ハイリアに言われたこと――この、もとは謎の魔剣士の装備だった〈クローリヒト変身セット〉の呪気が、純粋な悪意ではなく、『希望』の裏返しのようなもので……。


 それだけに、その『呪気を祓える』可能性があるのでは、という説。



 それを信じて、なにかしてみようとは思うものの……。


 そもそも何をしたらいいかが分からないので、とりあえず体力のギリギリまで装備したまま、精神集中でもしてみるつもりなのだった。


 そう……たとえるなら、対話でもするような心持ちで。




「……さて、と。それはともかくとして……」




 ――俺は視線を、縁側で見学していた凛太郎(りんたろう)の方に向ける。



 やっぱりというか、相変わらず無表情な凛太郎だが……。


 微妙に前のめりになってるような気がするのは、やっぱり俺たちの模擬戦に、男子として多少なりと盛り上がったから……だろうか?


 それとも、気のせい?



「おおっ!? 凛太郎、『だいこーふん』って感じだな!

 だよな〜、やっぱ師匠のスッゲー強さ見てっと、アツくなるよな〜!」


「……んっ。コーフン、大」



 武尊の言葉に、縁側に腰掛けたまま両手足を広げて『大』を表現しつつ、コクコクうなずく凛太郎。



 ……あ、やっぱり興奮してたのか。


 ――ってか、武尊のヤツ、良く分かるな……さすが付き合いが長いだけある。



「……じゃあ凛太郎、俺たちの戦い――というか、俺が魔法を使うのを見ていて、どうだった?

 魔力――そう、見えないチカラの流れ、みたいなもの……感じ取れたか?」



「……ん〜……」



 俺が問うと凛太郎は、ことんと首を傾げる。



「そこはかとなく、そうだったらいい……かも知れない?」



「…………。

 つまり、あんまり分からなかった――ってことだな」



 凛太郎ならもしかしたら……とも思ったが、さすがに、いきなり見ただけで『魔力』の流れを認識するってのは無茶な話か。



 だけどそれでも、何かしら引っかかるものを感じたとするなら、充分優秀だと言えるだろう。


 それこそ、ハイリアぐらいの巧者が教えれば、すぐにでもコツを掴みそうだな。



「まあ大丈夫だ、最初に言ったように気にしなくていい。

 いくら何でも、いきなりはムリ――」


「でも、聞こえた。『声』っぽいの」



「…………は?」


 凛太郎が平然と言ってのけた奇妙な言い回しに……俺は思わずヘンな声を出してしまう。



 ……なんだ? 『声』って……。



「ん。――コレ」



 俺が困惑してるのに気付いたのか、トコトコと近寄ってきた凛太郎は――。


 俺の身体を、ちょんちょん突っついた。



「コレ――って、まさか、この防具? 〈クローリヒト変身セット〉……?」




「……ん。聞こえた。


 泣いてる――みたいな。

 欲しがる――みたいな。

 憧れる――みたいな。


 ……そんな、多分、『声』。

 〈勇者〉って言ってた…………かも知れない」




「……マジか……」



 ……俺はもちろんのこと、これの呪気の性質に気付いたハイリアでさえ、そんなものは聞いていないのだ。


 だが、凛太郎はウソや冗談を言っている感じじゃない。



 どう判断したものかと考えていると……テンテンが、俺の肩に飛んできた。



《……凛太郎が、(ワシ)らの念話を聞き取れたのは、高い魔力の素養を持つからだと思っておったが……。

 あるいはこやつ、そもそもそういう『体質』なのではないか?》



「体質、って……」



《『声なき声を聞く』……つまりは一種の〈巫覡(シャーマン)〉としての特異な才能があるというか。

 単に魔力が高いだけではない、っつーことじゃな》



「……マジか……」



 俺はさっきと同じセリフをバカみたいに繰り返しつつ……改めて、凛太郎と目を合わせる。



「……なあ、凛太郎。

 これまでにも、こういう……普通の人には聞こえてないような『声』、聞いたことってあるのか?」



 ん、と凛太郎は素直にうなずく。



「多分、ゆーれーの声とか。

 でも、気にしないようにしてた。あんまり。

 ……その方がいいって、おじいさまが」




「――うっそ、マジでっ!?

 オレ、ゼンっゼン気付かなかったよ……!


 でも、さっすが凛太郎!

 スッゲーよなぁ、かーっけえぇ〜っ!」




 武尊が目をキラキラさせながら、凛太郎の前で大はしゃぎする。



 凛太郎はやっぱりいつもの調子で、「ん」とうなずいているが――。


 心なし、嬉しそうにも見えた。






 ――それから。



 汗もかいたんだし、うちの風呂入ってサッパリしていけって、小銭を渡して武尊たちを帰らせた俺は……。


 1人、その場に残り……変身したまま、どっかと地べたに座り込んでいた。



 ――結局あの後、凛太郎に改めて尋ねてみても、この呪われた防具について、先に聞いた以上のことは聞けないようだった。



 だけど、そうした『声』が実際にあるっていうのは、俺にとって大きな手掛かりだ。



 残念ながら、その後ずっと、それを意識してみても、俺にはまったく聞こえなかったけど……。


 方向性が見えたのだから、根気よく続けていれば、いずれは何か掴めるだろう。



 それにしても――




「……〈勇者〉っていう声……か」




 凛太郎が口にした、そのセリフから思い出されるのは……。


 この装備に身を固めていた、ハイリアによれば実は魔族ではなかったという――それでも、何度も俺の前に立ちはだかってきた、あの謎の魔剣士だ。



 ヤツは、ほとんど何も話さなかったが――唯一、〈勇者〉という単語だけは、はっきりと確かに口にしていた。



 それは、恨みがましいような、憎しみの籠もったものだったけど……改めて、ハイリアの解釈や凛太郎の言葉を聞いた今だと、何かを求めるような、願うような――そんな響きもあったような気もしてくる。



 ……そう言えば、ようやく倒したとき、この装備だけを残して、中身がまるっきり消滅していたのは……。


 そのときは、そういう実体の無い魔族で、さっさと逃げたからだと思ってたけど。



 もしかしたら……そもそも初めから、中身なんてなくて。


 この装備そのものが動いていただけなのかも知れない。



 そう……籠もりに籠もった、『希望』の裏返しだっていう呪気によって。




 そして――もう1つ。




 以前、テンテンが指摘してくれた、本来の〈創世の剣〉としてのガヴァナードについては……。


 なるほど、意識してチカラを引き出そうとすると――どこまでも深く、底が見えないような……そんなイメージを今回、感じ取れた。



 ――ちなみに、もしかしたらグライファンのように意志があるかと思って、凛太郎に聞いてみたけど、こっちの方からは『声』は聞こえなかったらしい。



 使う者を『選ぶ』以上、意志が無いってことはないだろうが……明確な意識ってのはないのか、それとも、ただ黙っているだけなのか――。



 とにかく、感じ取ったイメージからすれば、ガヴァナードは確かにこのままでも、俺の予想をはるかに超える、途方もないチカラを秘めていそうなんだが……。



 なにせそれは、はっきり把握出来ないほどのものだ。



 やろうと思えば、その一部を引き出すぐらいはすぐにでも何とかなりそうなものの、それを上手く制御出来るかと言えば……正直、分からない。



 少なくとも、武尊を相手にしての模擬戦で、おいそれと試すわけにはいかないだろう。


 もう少し、俺自身が慣れてからでないと……危なすぎる。




「……しっかし……」




 そもそもの〈世壊呪(セカイジュ)〉さえ、はっきりと分からないことだらけなのに。


 それを巡る戦いに決着がついたわけでもないのに。



 装備のことも……こうして糸口は見えたものの。


 なんだかそれは、アルタメアで勇者やったときからの宿題のようにも感じられて……。




「――って、ああ……。

 学校の宿題だってあるんだよなあ……」




 さらに、絶望的なことを思い出してしまった俺は。


 そのままごろりと大の字になって、まだまだ陽の高い夏空を見上げ――




「夏休みになっても、やっぱりお変わりなく前途多難ってやつか……」




 分かりきったことを、ついグチってしまうのだった。






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― 新着の感想 ―
その装備……まさか某灼眼小説で言うところの天目一個みたいなものだろうかねえ。 そしてそのシャーマンな素質……これからも絶対キーになるね(確信
[良い点] おお、凛太郎くんはそういう『体質』! おじいさまの方からの遺伝っぽい設定が……ツボです! 学校の宿題は、勇者でも大変ですよね……。
[一言] 私も何か役に立つような『体質』が欲しいです (*´▽`*) 小銭をあげてお風呂に行かせるシーンが好きです☆彡 もう少し渡してあげて!みたいな(*´艸`*)
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