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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
14章 そして幕を開ける、勇者にとって一番長い夏休み
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第177話 それはアイドルでも魔法少女でもないけど、微妙に共通するもの



 ――夏休み初日の今日。



 昼前に起きてきた俺は、同じくダラダラしていたアガシーと……どうもハイリアが亜里奈(ありな)と2人きりで図書館に出かけているらしいことについて、グチ――じゃなくて心配を言い合いつつ、そうめんでカンタンに昼飯を済ませ……。


 そこから、何をするでもなくボーッと……いやいや、今の平和を噛み締めながら、来たるべき戦いのために身体を休めていたんだが。



 そこへかかってきた電話が、武尊(たける)からのものだった。




『――あ、師匠、今から修行に行っていいっ!?

 凛太郎(りんたろう)もいっしょに!』




 ……つーか、『遊びに行っていい?』と同レベルだなコレ……。



 若干呆れはするものの、まあ、慕われること自体は悪い気はしないし――。


 俺は俺で、ガヴァナードの扱いと、呪いの防具について……意識して見つめ直す必要がありそうだって分かったからな。こうした模擬戦の機会は大事かも知れない。



 ――と、いうわけで。



 今日は俺は、家の手伝い以外の予定も特にないし、武尊たちの『修行』に付き合ってやることにしたのだった。







 ――しばらくして、やってきた武尊と凛太郎を通したのは、前に腕試しをしたときと同じ、うちとじっちゃん家の間、縁側に面した庭だ。



 ここなら、もともと人目に付かない分、人払い程度の弱い結界を張るだけで事足りるからな。



「……あれ? 師匠、今日、リアニキと軍曹は?」



 周りをキョロキョロする武尊に、「ああ」と俺は……武尊がやって来るまでにあったことを答える。



「ハイリアなら、朝から図書館行ってるらしい。

 アガシーは……なんかさっき、見晴(みはる)ちゃんが来てな。

 約束があるからって、帰ってきたばっかりの亜里奈と3人で出かけてったよ」



「ふーん、そっか……」



「ま、そーゆーわけでな。今日、相手してやれるのは俺だけだ。

 ……出来れば、凛太郎にも身を守る術ぐらい教えてやりたいんだが……」



 俺は凛太郎をちらりと見やる。



 ……一応、すでに凛太郎にも、武尊と同じレベルでこちらの事情は教えてある。


 やっぱりというか、むしろこっちがビックリするぐらい平然と――それこそ当たり前みたいな顔で、すんなり受け入れてやがったが。



 ――ホント、なにがあったら驚くんだろうなあ、こいつは……。




「常人の凛太郎に今さら武術教えてもしょうがないし、身に付けるなら魔法なんだけど……俺より魔法が得意なヤツらが出払ってるし、今日は見学だな。


 一応、俺も多少魔法を使って戦ってみるから、そこにチカラの流れのようなものを感じ取れるか、注意して見ててくれ。


 まあ、分からなくてもそれが当たり前だから気落ちはしなくていいが……もし分かるようなら、カンタンな魔法ぐらいはすぐに使えるようになると思うぞ」




「……ん」



 俺の言葉に、いつもの無表情のまま素直にうなずく凛太郎。



 ……実際こいつだと、あっさり『魔力』を認識してしまいそうな気もするな。



 この世界の人間が根本的に魔法に向いてないのは、魔力がないと言うより、そもそもそれを認識出来ないからで。


 そしてその阻害の要因としては、先入観とか常識といったものが少なからず関わってると思うんだが……。



 なんせ凛太郎は、俺たちのトンデモ話をすんなり受け入れた、あるがままの大らかさを備えた不思議ちゃんだからなあ……。



「ん〜……魔法ってのも、かっけーよなー!

 オレも使えるようになれるかなっ!?」


《……通知表の国語の欄が、『もう少しがんばりましょう』でなくなったらな……》



 目を輝かせて訴える武尊に、肩に乗っていたテンテンが非情なツッコミを入れる。



 ……って言うか、『もう少しがんばりましょう』ってマジか武尊……。


 俺はその表記、イタダキの通知表でしか見たことないぞ……。



「ンだよ〜、テン! 成績なんかかんけーねーだろ!」



「ま、確かに成績はな。

 でもなー、武尊、ゲームの魔法使いが戦士より高いステータス、なにか分かるよな?」



「えっと…………『かしこさ』?」



 俺は、武尊の頭にぽんと手を置いた。



「ま、そーゆーこった。

 最低でも、魔法を使うのに詠唱する文言ぐらい、ほぼ暗記しなくちゃならないしなー。

 ……どうする?

 学校の宿題もあるのに、その上、ひたすら文章を頭に詰め込むような勉強もしてみるか?」



「うっげ〜……! いい! やっぱ魔法いい……!」



 一転して、しかめっ面で必死に手と首をブンブン振る武尊。



「……ま、それでいい。向き不向きってのもあるしな。

 だいたい武尊、お前――」



 俺は、武尊に軽くデコピンを食らわせると、一歩退がり……クローリヒトへと変身する。


 そして――



「そもそも、肉弾戦で俺に一撃入れることすら出来てないのに――。

 魔法に浮気してる余裕、あると思うのかよ?」



 ガヴァナードを実体化すると同時に、「かかってこい」とばかり、クイッと手招きしてやった。











     *     *     *




 ――〈(あま)()〉から、自転車でだいたい15分。


 北祇(ほくぎ)町の奥、賑やかな駅前から離れて坂を上っていくと、小高くなった丘に小さな神社がある。



 〈北宿八幡宮(きたやどりはちまんぐう)〉……そんな有名じゃないけど、結構歴史も古くって、お祭りとかでも規模のわりに盛り上がって、参拝する人もそれなりにいる……そんな神社だ。



 参道脇の空き地を利用した、舗装されてない駐車場の端っこ……そこに自転車を止めた、あたし、アガシー、見晴ちゃんの3人は……。


 境内に続く、そこそこ長い石段を上っていく。



「それにしても、ドクトルばーさんの用事ってなんでしょーね!」



 まるで疲れを感じさせず、軽やかに石段を上ったり下りたりしているアガシーが、さらにクルクル回りつつ楽しげに言う。



 ……そう、あたしたちが今日こんなところまで来たのは……先日、〈天の湯〉に来たドクトルさんにお願いされたからだった。



 ――今日から数日、ちょっと手伝ってほしいことがある……って。



 ママにもその話は通ってるのに、お兄やハイリアさんにはナイショだって言うし、なんか妙だとは思うけど……ドクトルさんのお願いとなると、放っておけないもんね。



「まあ、多分、夏祭り関係のお手伝いとかじゃないかなあ……」



 ……あたしは、下の駐車場にあった掲示板の張り紙を思い出して答える。



 それによれば、上の神社の夏祭りは数日後らしく――ドクトルさんが指定した期間ともピッタリだ。


 神事とかには詳しくないけど、きっと、子供じゃないとダメな仕事とかがあったりするんだろう。



 ……まあ、約1名、実は1000歳超えてる子がいるのは置いといて。



「おきゅーりょーとか、出るのかなあ〜?」



 表情はほんわかと……でもそんな現実的な疑問を口にする見晴ちゃん。



 のんびり穏やかマイペースな見晴ちゃんは、ついでに家がお金持ちだし、お金の使い方が無頓着そうだけど……。


 本人の金銭管理は意外に(ちょっとゴメン)しっかりしていて、お小遣いノートとかつけて、あんまり浪費しないように心がけてたりする。



 ……なんか、摩天楼(まてんろう)家の家訓とかで、お小遣いもあたしたち庶民と同じぐらいしかもらってないみたいなんだよね。


 だから、ちょっとでも臨時収入があるなら、それはやっぱり嬉しいってことになるみたい。



「……うん、多分ね。ちゃんとバイト代を出すって言ってたし」


「うひょー、マジですかっ! 戦車とか買えますかね!」


「買えない」



 うちの聖霊は、たかがお手伝いでどれだけせしめる気なんだか……もう。




 ……でも、臨時のお小遣いかあ……。



 ………………。



 〈聖鬼神姫(エンジェルオグリス)ラクシャ〉の公式設定資料集とか……買っちゃおっかな……。




「でもでもぉ~、かわいいお洋服ぐらいは買えるんじゃないかなあ〜。

 あ、今なら水着もいいよねえ〜」


「ん〜……水着かぁ……」



 そう言えば、アガシーは学校指定のやつ以外持ってないもんね……。



 いくら泳げないっていっても、水がイヤってわけじゃないんだし、遊びに行く用に一着あった方がいいんじゃないかな。



「うん……そうだね。

 アガシー、今度水着見に、〈雲丹栗(UNIQLI)〉に行こっか?」



「なな、なんと! アリナの水着ですかっ!?

 ぐへへ……そりゃもう、このわたしが責任をもって、アリナの愛らしさを100億万パーセント引き上げて世に知らしめるナイスチョイスをですねえ……!」



「なに、その『こども銀行』の紙幣みたいなうさん臭いケタは。

 ……そうじゃなくて、アガシー、あなたの分だよ。

 遊びに行ったりするとき用の水着、欲しいでしょ?」



「マニアックにスクール水着で押し通すというやり方もあると思うんですが」



「真顔でマニアックとか言うな。

 もう……せっかくなんだし、かわいいのがあった方がいいって思わない?」


「むしろアリナはどうなんです?」


「え、あたし? あたしは……別に……」



「うんうん、もう2人とも、かわいいのを買っちゃお〜!

 ――で、しっかりかわいいところを『見せて』あげなきゃだよ〜!」



 いきなり、あたしとアガシーの間にひょいと割り込んだ見晴ちゃんが……。


 やったれ〜、と、ニコニコしながら手を振り上げる。



「「 『見せて』――って、誰に!? 」」



 反射的に飛び出たあたしとアガシーのセリフが、ものの見事に重なった。



 けれど、そんな左右からの抗議めいた声に挟まれても……見晴ちゃんはまるで気にせず。


「それはもちろん、気になる人に、だよ〜」……なんて。


 うふふ〜、と、ほんわかした微笑みを浮かべて答えるのみ。




 う〜ん……なんせ見晴ちゃんだからなあ……。


 まーた、こんなところもマイペースに、なにか思い込んじゃってるのかなあ……。




 だって、別にあたしは……誰が好きとか…………そんなの、ないし。



 あ、でも……アガシーは…………どうなんだろ……。




 ……ふと、アガシーと目が合った。


 そうして……どちらからともなく、苦笑を浮かべる。



 ――どちらからともなく。




「まったく、しょーがないですねえ、ミハルは!」


「まったくね……ホントに、見晴ちゃんは〜」




 あたしたちがそんな風に言っても、やっぱり見晴ちゃんはうふふ〜、と楽しげに笑うだけだった。



 そんなとき――




「……うむうむ……!

 いたいけな美少女たちが仲睦まじくしとるさまは、実に癒やされるねい……」




 上の方から降ってきた声に、あたしたちは誰からともなく視線を上げる。



 ……石段の一番上に座った女の子が――頬杖を突きながら、あたしたちを見下ろしていた。




 あ、違う、女の子っていうか、あれって……おキヌさんだ。


 …………。




 ううん、『女の子』でも間違いじゃないんだけど、なんか……。


 その、うん……ゴメンナサイ。




 ……それはともかく、こんなところで会うなんて珍しい――ってよりも。


 おキヌさん、なんだか、あたしたちを待ってたみたいなんだけど……?




「え、あれ?

 まさか……おキヌさんも、ドクトルさんに呼ばれてるんですか?」



 石段を登り切りつつ尋ねると……おキヌさんはニヤリと笑いながら立ち上がる。



「ふふ、そのまさかってやつさ……。

 ――あ。いや、違うぞ? アタシが小学生級だから――ってわけじゃないぞ!?

 アタシの他に、ウタちゃんだっているんだからな!?」



 あたしたちに必死に弁解するおキヌさんは……そうかと思うと、



「――って、誰が小学生級だ!」



 というノリツッコミを……あたしたち子供相手にやるのは気が引けたのか、側の鳥居に向けていた。




 ――ツボにはまったらしく、アガシーがバカウケしてる……。




「……うぉっほん!

 ま、まあ、そんなわけでな。

 ドクトルさんの『バイト』に呼ばれてるのは、妹ちゃんたちだけじゃないんだ――」




 居住まいを正したおキヌさんは、「もうみんな集まってるから」と、あたしたちを奥へと案内していく。



 拝殿へ向かう方から、境内を脇へ逸れて……。



 その先、社務所の前には――ドクトルさんを中心に、女の人が4人集まっていた。



 千紗(ちさ)さんに、ウタさん――沢口(さわぐち)唄音(うたね)さんと……メガネの人はお兄の後輩の、確か白城(しらき)さんって言ったっけ。


 もう1人のお姉さんは……確か、体育祭のときに白城さんといっしょにいるのを見た気がするから……お友達かな?




「よーし、これで8人揃ったな!

 ――みんな、今日は来てくれてありがとう!」




 あたしたちが来たことを確認したドクトルさんが、力強い声を上げる。



「もしかして、アイドルデビューとかかなあ〜」


「いや、魔法少女チームの結成式ですね、これは!」



 見晴ちゃんとアガシーがコソコソと勝手な憶測を述べている。



 そんなバカな、って言いたくなるけど……ドクトルさんだからなあ。


 実際そうだったとしてもおかしくないって言うか……。



 …………。



 ま、魔法少女チームとかだったら、嬉しいかも……。


 あ、でもあたしは似合わないから……裏方で、見てる方がいいな。



 けど、魔法少女か……この中なら誰が似合うかなあ。



 うーん……。

 みんなそれぞれ特徴的で、面白そうだけど……。



 うん、やっぱりイチオシは――千紗さんだよね!



 普段の優しくて控えめな感じと、変身した後のギャップがスゴく良さそう!


 戦うヒロインにぴったりな凜々しさもあるし!



 それに……彼氏のお兄が勇者なんだから、最強のコンビになるもんね……!



 ……まあ、お兄の装備がアレだから、絵面的にはどうしたって悪役と正義の味方なんだけど……。




 ――なんて、ついあたしが妄想に耽ってるうちに。


 ドクトルさんは、肝心の『なにをやるのか』を切り出そうとしていた。




「――今回、キミたちうら若き乙女に集まってもらったのは他でもない!


 数日後に迫った、この神社の夏祭りで!


 神サマに捧げる舞い――『神楽舞い』を、みんなで舞ってもらうためだ!」




 …………え。


 ちょ、それって、つまり――




「よーするに、アタシらみんなで巫女さんをやろうってことさ!」




 あたしの戸惑いを見透かしたように……。


 ドクトルさんの言葉を継いだおキヌさんが、拳を突き上げ、高らかにそう宣言する。




 ……つまり、結局……。


 アイドルグループも、魔法少女チームも。




 人前に出る、普段と違う役になる……って意味で。


 ビミョーに、当たらずとも遠からずだった、ってことみたい――。






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― 新着の感想 ―
リンタローって、なんか既視感を覚えると思ったら……こっちの世界におけるボーちゃんじゃあるまいな(ォィ そんで魔法。 不確定性原理のようなものなのかしらねぇ。 カタカナでうたって書かれると……ルフィ…
[良い点] >この世界の人間が根本的に魔法に向いてないのは、魔力がないと言うより、そもそもそれを認識出来ないから >そしてその阻害の要因としては、先入観とか常識といったものが少なからず関わってる す…
[一言] 水着フラグも立ちましたか! おめでとうございます! ありがとうございます!
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