第168話 激突! 魔法少女センパイ VS 後輩魔法少女!
「……お前は……!」
「ただいま、お父さん。
でも……積もる話は、また後でね」
新しく現れた、ウチとは違う『いかにも』な魔法少女――〈魔法王女ハルモニア〉って名乗った、その三毛猫を連れた女の子は……。
サカン将軍を『お父さん』って呼んだかと思うと、ウチとクローナハトに……ううん、ウチと、真っ直ぐに視線を合わせる。
つまり、この子はやっぱり――〈救国魔導団〉の一員……!
「本当は、クローリヒトに一番興味があったんだけど。
あなたも……会ってみたかったんだよ、シルキーベル」
「……わたしに?」
「うん、そう。
世界に災いを為せる――そんなチカラを持っている存在は、いっそ滅ぼすのが一番だ、って……そんな極端な主義の、あなたに」
ハルモニアは、虹色に輝く籠手をはめた右手で、ウチを指差す。
「そんなのは間違ってるって教えて……懲らしめるためにね」
「わたしだって……そうすることが絶対に正しいなんて思ってません。
無為な争いをせずにすむなら、そうしたい」
「本心からそう思うなら……退けばいいんじゃないの?」
「……そうかも知れません。
でも……つい先日わたしは、幸いにも被害は出なかったとはいえ、強い〈呪〉のチカラが悪意をもって振るわれれば、どれだけ危険か――それを肌で感じました。
だから……守りたい人たちを、守り抜くために。
わたしは、最悪、そうしなければならないという可能性を……捨てるわけにはいきません。見切るわけにはいきません。
――今は……まだ」
「……そっか」
ハルモニアは小さく首を横に振って……肩に乗る、蝶ネクタイをした――多分、使い魔とかそんな感じの三毛猫の喉を、指でいじってあげる。
「うむっふぅ、良きかな良きかな。ワガハイ、ゴロゴロ言いまくり」
「だから、そこは普通にゴロゴロ鳴いてればいいんだって」
なんか可愛い見た目に反してカッコイイ声(こういうのイケボて言うたらええんかな)で応じる三毛猫に、呆れたようにツッコむハルモニア。
でも……改めてウチへ向ける視線は――厳しい。
「自分の大切なもののために、っていう信念には共感出来るけど。
――ううん、でも……だからこそ、なのかな。
もしかしたら、とも思ったけど……。
やっぱり、わたしたちは相容れないみたいだね」
ハルモニアが纏う霊力みたいなものが……高まって……!
思わずウチも、〈織舌〉を構え直す。
「――お父さん。クローナハトの方、お願いしていい?」
「ああ。もとより、そのつもりだった。
こちらは任せなさい」
ハルモニアの呼びかけに応じて……よりも早く、本人が言うてたみたいに将軍は、もうクローナハトと向き合ってた。
「ふむ……ハルモニアとやら、お前にも興味はあったのだがな」
泰然自若……まさにその言葉通りの落ち着き振りのクローナハトは、チラリと少しだけ首を回して、ハルモニアの方を見る。
でも……それを遮ろうとするみたいに、ばばっと将軍が動いた。
「くく、クローナハト君っ!?
いい、今の! きょきょ、興味があるとは、いったい――!」
「あ〜……お父さん?
強さとか、戦い方の話だから。そういうんじゃないから。
――状況、考えてくれる?」
なんかしどろもどろになってた将軍の肩を、ハルモニアが、大きなタメ息混じりに叩く。
「お、おお……?
そ、そうか、そうだな。うむ、すまん……」
ハッと我に返ったみたいな将軍は、ハルモニアに一言謝って、居住まいを正してた。
あ〜……これは……将軍が何を考えたんかは、ウチでも分かった。
――って言うか……。
ウチもちょっと、お父さん思い出してもうたな……。
………………。
お父さん、ウチが男の子とお付き合いしてるって知ったら、どうするんやろ……?
――って、あかんあかん!
そんなん考えてる場合ちゃうし!
ウチがふと、そんな横道にそれたこと考えてるうちに――
「――――っ!」
将軍とクローナハトは、いきなり、同時に。
同じ方向に大きく跳躍して、素早くこの場から離れながら――目には見えへんチカラをぶつけ合って、火花を散らし始める。
……将軍がこんだけ離れてくれたら、ハルモニアの脇を抜けて、一気に、向こうで静かにうずくまりながら〈霊脈〉の汚染を進めてる、虎型の魔獣を狙えそうやけど……。
「――そうはさせないよ?」
そんなウチの考えを見透かしたみたいに、ハルモニアが立ち塞がった。
そうして――。
「さて、じゃあ行くよ、キャリコ――〈執行〉!」
「ふむぅ……お呼びとあらば、かな。ワガハイ、応じまくり!」
キャリコって呼ばれた三毛猫が毛を逆立てると、そこから小さな光の玉が浮き上がって……それを掴んだハルモニアは、右手の籠手に――はめ込んだ?
すると、籠手が白く輝いて……。
「――〈力ある棘、マギアスタ〉!」
ハルモニアの右手の中に、光とともにシンプルな形をした槍が現れる。
「さあ……まずは、小手調べ!」
「――ッ!」
言うや否や、飛びかかってくるハルモニア。
――大上段から振り下ろされた槍を、ウチは織舌で受け止める。
その力は、決して弱くはないけど……強過ぎる、いうほどでもない。
「――カネヒラ!」
「いい、いえす御意〜っ!」
ウチの呼びかけに、カネヒラが横合いからハルモニアの不意を突こうとするけど――。
「キャリコも働く!」
「むぅ、致し方ない……ホント、ワガハイ、仕事しまくり」
三毛猫が、カネヒラに立ちはだかるみたいに宙に飛び出して……。
その長いシッポの一撃で、カネヒラを弾き返した!
「おお、おのれェ、この化け猫めが〜!」
「このラブリー寄りのダンディズムが分かりまくらないとは。
所詮は、落ちまくり武者?」
1体と1匹は、そのまま、刀とシッポの打ち合いになって……。
一方、ウチとハルモニアも、そっちをいちいち気にしてられへんぐらいに、互いの武器を何合も激しく打ち合わせる。
「思ってたよりも……ちゃんと強いんだね」
「……そっちこそ。こんな接近戦をするなんて思いませんでした」
――お互いに使ってるのは長柄の武器で、力や速さも同じぐらい。
全体的に拮抗してる――感じやけど。
落ち着いて見れば……ハルモニアは、動きに粗が多い。
実戦経験は積んでるみたいやけど、多分、ちゃんとした武術とかは修めてないん違うかな。
やから――。
ウチが優位に立つとすれば、突くのはその部分で……!
――敢えてスキを見せて、向こうが突きを繰り出してくるよう誘う。
「……そこっ!」
計算通り、空を裂いて襲ってきた槍。
ウチはそれを、巻き込み、絡め取るような軌道で織舌を振るって――。
そのまま、外側に弾き飛ばす。
「――あっ!?」
完全に予想外やったんやろう、その勢いに抗えず、槍を手放すハルモニア。
そこへ、ウチは踏み込みながら――織舌の反対側を振りだして。
この間、〈呪疫〉に取り憑かれた、亜里奈ちゃんたちの担任の先生相手にやったみたいに……ハルモニアのガラ空きの脇腹に、寸止めで、集中させた霊力だけを叩き付ける。
「――くっ……!」
衝撃をやわらげるために、自分から逆側に跳びつつ……さらに着地と同時にバク転で距離を開けるハルモニア。
ウチも、不用意な追撃は控えて、その間に構えを取り直す。
ハルモニアは……本気で余裕があるんか、自分を鼓舞するためか……それは分からへんけど、不敵に微笑んでた。
「……さすが、『魔法少女』としてセンパイなだけはあるよね。
歳は……うん、わたしより下……みたいだけど」
「…………」
……多分、ホンマは同い年ぐらいちゃうかなあ、って思うんやけど……。
ムキになって実年齢バラすほどウチもアホと違うから、そこは黙ってる。
――正体なんて、どこからバレるか分からへんし。
……でも、クローリヒトもそうやけど、ウチってそんなに子供っぽいんかなあ……。
高校生にもなって魔法少女なんかやってるわけない、ってことなんかなあ……。
それを言うなら、このハルモニアも、高校生ぐらいやと思うんやけどなあ……。
――って言うか、さっきの言い方。
向こうは、つい最近になってこのチカラを身に付けた、いうこと……?
「じゃあ、センパイ魔法少女に敬意を表して……ここからは本気でいくよ!
――お願い、〈炎狼フラマルプス〉!」
何かを呼びながら、腰に提げた、ポーチみたいなものをポンと叩くハルモニア。
そしたら――その中から、赤い光の玉が飛び出して。
「……〈執行〉!」
それを掴み取ると……さっきみたいに籠手にはめ込んだ。
途端、真っ白だった長い髪が、そして籠手が、今度は赤く燃えるように輝いて――同時に、彼女の足下からいきなり噴き上がった炎が、小さな馬ぐらいの大きさのオオカミを形取る。
「……イイ子だね、フラマルプス――よろしくね」
ハルモニアは、赤々と燃える炎のオオカミを、労るみたいにポンと叩くと……颯爽とその背中に飛び乗った。
そうして掲げた右手に――また炎が渦を巻いて集まって、今度は……。
「〈燃ゆる飛槌、ウォラレ・フェラレ〉!」
……って、え、なに、なんなんアレ……!
今度は槍やなくて、なんか――ごっついハンマーになった……!?
しかも……ただでっかいだけやなくて……。
叩くための頭の部分、反対側から、ジェット噴射みたいに火が出てるんやけど……!
……え、ちょっと待って?
あんな、叩くトコが直径30センチはありそうなハンマーを、さらにジェット噴射で加速させるって言うん!?
――なんなんソレ!?
ウチよりよっぽどちゃんと『魔法少女』してる感じやのに、その魔法の方向性がむしろ、うちの脳筋のおばあちゃんといっしょやん!
……っていうか、織舌、受け止めたら折れたりせえへんやんな……?
織舌を握る手に、汗がにじむ。
動きが大きくなる分、見切りやすくはなるはずやけど……さっきの槍に比べたら、威力がどれだけ上がってるか……。
ヘタしたら、一撃で終わるかも知れへん……!
しっかり、気ぃ張っとかな……!
「さあ……行くよ、シルキーベル! 第2ラウンド!」
ハルモニアが気勢を上げるのに応じるみたいに――。
彼女の乗る炎のオオカミも、高々と、夜空に吼えた。




