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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
13章 さらに〈勇者〉が増えたら、それこそ勇者は悪役しかない
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第163話 それは小学生男子の憧れにして、ヒーローの必須



「……お兄……っ」



 さっきのお兄の、あたしに向けた視線は、『黙ってろ』って言わんばかりだった。


 だからあたしは、大丈夫かなって心配してても、それ以上なにも言えなくて……そうつぶやくしかなかったんだけど。



「……あれが、勇者なりの優しさだ」



 それが聞こえたのか、ハイリアさんが前を向いたまま、あたしにだけ聞こえるように応えてくれた。



 ……でも、優しさ、って……。



「――にしてもアーサー、想像よりもはるかに動きが良いですね。

 ガヴァナードが認めたとはいえ、ここまで適性が高いとは思いませんでした」



 さらに続けてアガシーが、マジメな顔で感想をもらす。


 それに応えたのも……やっぱりハイリアさん。



 だけど、その視線は――あたしの方を向いていた。




「……だからこそ、勇者も適当にあしらうわけにはいかぬのだ。

 真っ向から相手をし、その強さでもまだまだ未熟なのだと――教えるために。


 ――亜里奈(ありな)、お前には厳しすぎるように見えるかも知れんが……。


 これは、『チカラ』を持った者にとっての通過儀礼のようなものなのだ。

 ……この先、チカラに溺れ、取り返しのつかない失敗をしないための」




「ハイリアさん……」



「心優しいお前には酷かも知れんが、信じて見守ってやれ。

 ――どちらも、な」









     *     *     *




「――ぅぅらあーーっ!」



 再度宝剣の光の刃を延ばし、気合いとともに斬りかかってくる武尊(たける)



 本人が言うように、先の俺の一撃によるダメージは大してなさそうだ。

 動きはまったく鈍っている様子がない。



 だが……。



 俺は矢継ぎ早に襲ってくる斬撃を、先程のようにガヴァナードで受け、払いながら――様子を窺う。


 そして――



「おいおい……正々堂々はごリッパだが……。

 正面から力押しとか、ナメるなって言ったよな?」



 ちょっとキツい1発を食らわせてやろうと、まずは宝剣を弾いて体勢を崩すべく、ガヴァナードを強く薙ぎ払う――が。



「――っ!?」



 その瞬間――宝剣の光の刃が掻き消えた。



 目標をなくした俺の剣は、見事に空を切り――。


 同時に飛び退(すさ)っていた武尊が、ナイフに戻った宝剣を投げつけてくる!



 しかも、宝剣はその魔力で2つの分身を生み出し――都合3本のナイフが、近距離かつ多方向から、体勢を崩した俺に襲いかかってきた。



 刹那、俺に目に映ったのは……笑みが浮かんだ武尊の口もと。



 コイツ――俺の行動まで読んだ上で仕掛けやがったのか。


 まったく、大したヤローだ……やってくれる!



 思わず、俺も鏡に映したように笑い返す。


 そして――



「――ふっ!」



 呼気一つの間に――左手の手刀で1つを、ガヴァナードの柄でもう1つを叩き落とし、そして最後に本体の宝剣を、刀身で後方に弾き飛ばした。



「ッ! マジかよ――くっそ、ライトニングバレット!!」



 さらに距離を開けながら武尊は、立て続けに――背の翼から10を超える無数の光弾を放ち、それを一斉に俺に撃ち込んでくる。


 畳みかけてくるな…………だが!



「〈閃剣(せんけん)――竜熄(りゅうそく)〉!」



 瞬間的に闘気を乗せたガヴァナードを、大上段から一気に地面に叩き付ける。


 衝撃波となって放たれた闘気は、すべての光弾を巻き込み相殺、ともに消滅した。



 渾身の攻め手を防ぎきった俺、そこに投げかけられる武尊の声は――しかし、落胆の悪態などではなく。


 ――自信と、確信に満ちていた。




「――かかった、今だッ!」




 その一言に合わせ――俺は。


 ガヴァナードの柄を逆手に持ち替えつつ……その刀身を背中に回す。



 ――ギィンッ!



 瞬間、ガヴァナードを通じて走る衝撃と――響き渡る、鈍い金属音。


 合わせて、背後からクルクルと回転しながら頭上を飛び越えてきた物を――俺は、顔の前で掴み取る。



「ぅっそ――ッ!?」



 今度こそ……武尊は、本心からの驚愕を露わにした。



「この程度の奇襲、気付けなきゃ……勇者なんてやってられないんだよ」



 掴み取った宝剣を手の中でもてあそびながら、うそぶく俺。



 ……まあ、背後から宝剣で奇襲をかけるって作戦も、そこまでの流れも、悪くなかったけどな。




「そら、返すぞ――」



 俺は武尊に、ひょいと宝剣を投げ返し――。


 同時に、地を蹴って一気に肉薄する。



「――ッ!」



 武尊が、受け取った宝剣ですぐさま防御しようとするのを、先んじてガヴァナードの柄で外側に弾き飛ばし……続けざま手首を返し、同じく柄でアゴをカチ上げてやる。


 そして、浮き上がった武尊の襟首を捕まえると――。



「歯ぁ……食いしばれッ!!」



 ――ガヅン……ッ!



 振りかぶってからの頭突き(パチキ)を盛大に食らわせてやってから、手を放す。



「ぃっづぅぅぅ〜……ッ!?」



 目の奥で星でも散ってるんだろう、フラフラとたたらを踏んで後ずさる武尊。



 しかしもちろんそれも一瞬、そのままではマズいと、必死に体勢を整えようとするが――。


 そもそも、追撃する気のない俺は黙ってそれを待つ。



「……さあ、これで2機死んだぞ。

 ラスト1機……どうする?」


「――――っ!

 ……まっだまだぁぁっ!」



 武尊は、己を鼓舞するように声を上げ、今までで一番のスピードで突進しながら――再度、俺に宝剣を投げつけてくる。



「――――!」



 そして、突進の勢いが乗り、凄まじい速さになった宝剣を反射的に弾こうとガヴァナードを薙ぎ払った瞬間。



 武尊は――恐らくは意図して、宝剣を自らの手元に引き戻していた。



 同時に、光の刃を延ばし――瞬間的にガラ空きになった俺の胸元目がけて最短距離、一直線に突きを繰り出してくる!



 シンプルだが……それだけに確実性も高い、見事な必殺の一撃だ。




 ただし……あくまで戦いの初心者にしては、だけどな――!




 俺は、剣を薙いだ勢いをあえて殺さず、むしろ活かして身を翻し……背中をかすらせるように突きをかわして――さらにもう一回転。


 武尊の突きの下をくぐらせたガヴァナードで、無防備極まりないその胴に、カウンターの一撃を叩き込み……。



 あまつさえ、そのまま思い切り振り抜いて――小さな身体をハデに弾き飛ばした。



「ぅぐっ――! ごっ――! がっ――!」



 地面でバウンドするたびにうめきをもらしながら、大きく跳ね飛んだ武尊は。



 最後に、ゴロゴロと転がり……力無く大の字になって、ようやく止まる。




「……残機数ゼロ。

 ゲームオーバーだ、武尊」



「………………」



 気絶はしていないはずだが……仰向けのまま武尊は動かない。



 ややもすると、その〈ティエンオー〉の変身も解け……インコモードのテンテンが、頭の横の地面にちょんと舞い降りる。



 しかし、それでも……武尊は動こうとしない。



「……ちょ、ちょっと、朝岡(あさおか)……大丈夫なのっ!?

 ――ねえ、お兄っ……!」



 さすがにガマン出来なくなったらしい亜里奈が、声を張り上げるが――。




 ちょうどその瞬間、武尊は……いきなり、やたらと明るく大笑いを始めた。




 そして、ひとしきり笑ったあと、大の字のままつぶやく。


 なんか――嬉しそうに。




「すっげー……つぅええぇ〜……! メ〜ッチャメチャ、強えぇ〜……!

 うっひー、なにコレ、マジで強過ぎだろ……!」




 それから、急にむっくり上体を起こしたと思うと……晴れやかに俺に声を掛けてきた。



「……わーったよ、裕真(ゆうま)兄ちゃん……!

 オレ、結構やれるって思ってたんだけど……ホントに、まだまだゼンっゼン弱かったんだな……!

 ――うん、だから……。

 兄ちゃんの言うこと聞いて、勝手に変身したりしねーようにするよ――」



「……そっか。まあ、分かってくれたならいいんだ」



 やたら物分かりがいいな……とか思いつつ、でも、武尊らしいかも知れない……とも思いつつ、俺も変身を解く。



 ……で、結構ボコボコにしたことを一言詫びようかと考えていると――。




 ニカッと笑った武尊が、奇妙な一言を口にした。




「……うん、強くなるまでは!」



「…………は?」



 思わず、バカみたいな声を上げてしまう俺。



「だーかーら! 『もう大丈夫』って、裕真兄ちゃんからオスミツキもらえるぐらいに強くなるまでは、勝手に変身したりしない、ってこと!」



「いや、でもお前……強くなるっつってもだな――」



 ……筋トレとか木刀の素振りとかやりまくるつもりか?



 まあ、そうして基礎体力鍛えるのもそりゃ大事だけど。

 この場合の『強さ』は、それだけじゃどうにもならない領域っていうか……。



「分かってる。

 だから、兄ちゃんに鍛えてもらうんだ! 『修行』だよ!」



 目をキラッキラに輝かせながら……俺を見上げて。


 武尊は、とんでもないことを言い出した。



「へ? しゅぎょ――って、はああ!!??」




「なあ、頼む! オレがちゃんとしたヒーローになれるように、鍛えてくれよ!

 裕真兄ちゃん――ううん、『師匠』ッ!!」



 その場で座り直した武尊は、ガバッと、勢いよく俺に頭を下げる。




 ……お、おいおい、なんでそうなる!?


 さすがにこの反応は予想外だぞ……!?



「い――いやいや、ちょっと待て! 落ち着け! 俺は……」



 ただ、お前を諭したかっただけ――そう説明しようとしたら。


 いかにもそれを邪魔するように、ハイリアが縁側に座ったまま、魔王らしい高笑いを被せてきた。



「最後の最後、予想外の反撃で一本取られた――といったところだな、勇者よ。

 いいではないか、アーサーのその熱意に免じて相手をしてやれ。

 ……ここで頑なに断ると、それこそ此奴こやつ、何をしでかすか分からんぞ?」



 ハイリアの言葉に、改めてちらりと武尊の様子を窺うと……。


 ニッと、イタズラ坊主満開の笑みが浮かんだ顔を上げる。



 ……こ、こンのヤロ〜……!



「――おいハイリア。

 そう言うからには、お前も協力するんだろうなっ?」



「フム……まあ、良かろう。

 ――喜べアーサー。魔王たる余が直々に、キサマの『修行』とやらに手を貸してやる」



「え……マジでっ!?

 師匠――はややこしいな、うん、じゃあ……リアニキ! よろしくな!」



「しょーがないですねえ……じゃ、わたしも一枚噛みますか……」



 さらには、アガシーまでが……これ見よがしに盛大なタメ息をつきつつ、手を挙げた。



「――いいかアーサー、このわたしがシゴく以上、泣き言はゆるさんぞ!」



「い、イエシュ、マム!

 よろしくお願いするであります、軍曹!」



 座ったまま敬礼を返す武尊。


 ……って、エセ軍人相手が一番畏まってるってどういうわけだ……。




 そして――改めて。


 魔王に聖霊、そしてなりたてヒーローが、揃って俺に視線を集めてくる。




 ……ったく……。


 こうなっちまったら、返事なんてもう一択じゃねーか……。




「――武尊」


「お、おうっ!」



「俺の言いつけはちゃんと守れ。勝手なことはするな。

 もし、調子に乗ってそれを破るようなマネをすれば……宝剣とガルティエンに封印をかけてでも、お前からチカラを取り上げる。

 ――分かったな?」



 俺は真剣に、武尊の目を真っ直ぐに見据える。


 応じる武尊も、今なら素直にそれを受け止められるのだろう――。


 マジメな顔で、神妙にうなずいた。



「――よし。

 なら、俺も……お前の『修行』に付き合ってやるよ」



「おお……マジでっ!?

 やった! ありがとう、師匠っ!!

 ――オレ、頑張るからっ!」



「……まったく、調子のいい――」



 ニッコニコの笑顔になる武尊に、早速悪態をつきそうになるが――そのとき。



「…………」



 縁側に座っていた亜里奈が、それを有無を言わせぬ圧力で遮って……ツカツカと、無表情のまま武尊のところへ近付いたかと思うと。



 ――ゴンッ!



「いっでぇっ!?」



 いきなり、武尊の脳天に強烈なゲンコツを落とし――



「……あたし、お手伝いに戻るからっ」



 と、一言だけ言い捨てて、なんかプリプリしながら〈(あま)()〉の方に戻っていった。



「いぃ――ってえぇ〜……。

 ったく、なんなんだよ、アリーナーのヤツ〜……」



 俺にやられたときよりもよっぽど痛そうに、両手で頭をさすりながら口を尖らせる武尊。



 いや、俺としてもなにがなにやら……と、思っていたら。



 揃って疑問符を浮かべる俺たちに――なにやら愉快そうに喉の奥で笑うハイリアが、答えを示す。




「……仕方あるまい。

 あれだけ心配させておいて、結果がコレだ……バカバカしいと腹も立とうよ」




 そうして口に出したことで、なおさら面白くなったのか――。



 改めてハイリアは、今度は普通に声を上げて笑った。






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― 新着の感想 ―
[一言] パチキ……まさかあれは伝説の鬼族『覇魑鬼』が用いたという必殺技(違 それはそうとこういう言葉もあったんですねぇ。 ちなみに自分は映画『パッチギ!』は見ました。 >筋トレとか木刀の素振りと…
[一言] >インコモードのテンテン くぁわいい (*´▽`*) やっぱり南瓜の種をもっと食べないとダメですかね?w 雰囲気がとてもいいと思います ☆彡
[良い点] おお、これは爽やかですね! なんというか…… すごくイイです!!(語彙w) そりゃあ、男の子がこんな強さ見せつけられたら、『師匠!』 ってなりますよねーww それにしても、勇者ってやっぱり…
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