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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
13章 さらに〈勇者〉が増えたら、それこそ勇者は悪役しかない
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第162話 すでに悪役っぽいから憎まれ役もひとまとめ



 うちの赤宮(あかみや)家と〈(あま)()〉の裏手には――ちょっとした空間がある。



 それは、じいちゃんとばあちゃんが住み、今はハイリアも居候している(はなぶさ)家の縁側に面した場所で……〈天の湯〉の裏口にも通じているため、庭ではあるものの、植え込みや装飾もあまりない、まさに開けた『空間』だ。


 しかも、家の敷地内だけに、塀やらの遮蔽物に囲まれていて人目にもつかない。



 つまり――『手合わせ』なんかをするにはうってつけの場所ってわけだ。



 そこに、俺と武尊(たける)――だけじゃなく。


 家の手伝いに一段落つけた亜里奈(ありな)にハイリア、アガシーも集まってきていた。



 ちなみにギャラリーには、とりあえず、『武尊の実力を確かめるための手合わせ』とだけ告げてある。



「……すまんハイリア。

 外にバレたりしないよう、この辺に結界を張っておいてくれるか?」



 俺が、近くに寄ってそう頼むと……。


 ハイリアは、「分かった」とうなずいてから、苦笑混じりに小声で続ける。



「……しかし、損な性分よな?

 わざわざ憎まれ役を買って出るか」



 ――さすが、コイツにはお見通しか。



 ……まあ、『手合わせ』に持っていったのはそういうことだ。


 俺も含めて、男ってのはこういうところでバカだからな。



 一度イタい目に遭わなきゃ分からない――ってヤツだ。




 はっきり言って、武尊は物分かりが悪いどころか、良い方だと思う。


 普段なら、キチンと諭せば――俺たちの戦いに関わらないって、聞き入れてくれたに違いない。



 だが……『チカラ』を得て、しかもそれを使ってピンチを乗り越えた今は。



 やっぱり、武尊自身がそうと自覚してなかったとしても、『何でも出来る』――そんな一種の万能感の方が強い感じがする。




 ……『何とかしてみせる』と『何でも出来る』は、似て非なるものだ。




 そして――『何でも出来る』は危険だ。


 それは、根っこの意識が浮ついてるからで……それゆえに、足をすくわれて思いもよらない失敗に繋がる。


 ……で、失敗してようやく、自分のバカさ加減に気が付くんだ。



 ――俺だって、そうした苦い経験があるから分かる。



 その『気付き』に至るのが、取り返しの利く小さな失敗ならいいが……むしろこういうときは、皮肉にもそうじゃない可能性の方が高い。



 だから……そうなる前に。


 誰かが一度、武尊の自信を叩き割っておく必要があるってわけだ――。




「……ま、しょーがねーだろ。

 その憎まれ役を誰がやる……ってなったら、やっぱり俺しかいないしな」



「――キサマらしい」




 フッ、と鼻で笑い――。


 俺が頼んだ通りに手早く結界を張ると、それ以上は何を言うでもやるでもなく、亜里奈やアガシーと同じく、縁側に腰掛けるハイリア。


 ……なんか、ちょうどいい観客席って感じだな。




「あたしには、戦いのことなんてよく分からないけど……。

 お兄も朝岡(あさおか)も、無茶なことはしちゃダメだからね?」



「安心しろ、加減は心得てる。

 ……さて――」



 俺は亜里奈に応えると――〈クローリヒト〉に変身してみせる。



 まあ、その必要もないんだけど……今の戦装束みたいなもんだからな。


 一応、正装をもって対する――礼儀ってやつだ。



 ……って、ん? 武尊のヤツ、なんか驚いたような顔をしてるな。


 正体を隠すためにも変身してる、って話はしたはずだけど……。



「……か――」


「……か?」



「か、かぁぁっけえぇぇ……っ!

 くっそ〜、それもかっけーなあ……っ!」



「お、おう……そうか?」



 そうか……この格好、小学生男児の心にゃ刺さるのか……。


 いやまあ、俺だって別にカッコ悪いとは思ってないんだけどね?



 でも、さすがに禍々しいからなあ。


 しかしそんなところがまたツボ、ってことなのかなあ。



 ……とりあえず、正直言って悪い気はしない。



 なんせ、魔法少女大好きっ子の亜里奈からは、『ビミョー』という評価を頂戴していたからな……。




「でも――いっちばんカッコイイのはオレの方だからな!

 いくぜ、テンっ!」


《うむ、心得た――。

 ……生命(いのち)運ぶ風のチカラを、我が主に!》




 一見するとオモチャのようにも見えるナイフ――〈宝剣ゼネア〉を掲げての武尊の声に、肩に止まっていたテンテンが応えたと思うと。



 その小さな身体が光に包まれ……一瞬の後、鳥人間のような姿へと変身した。



 そして――いかにも変身ヒーローらしく、まさに羽ばたく鳥をイメージするような、両手を大きく背中側に伸ばすポーズをキメる。




「……烈風鳥人(れっぷうちょうじん)――ティエンオーッ!」




 お、おお……言うだけあって、確かに、なかなかカッコイイぞ……!




 ――それに……。



 もっと、いかにも『付け焼き刃』なのかと思ったら……さすがに、死地をくぐっただけある。


 霊獣のチカラを持て余したりするでもなく、しっかり『馴染んでる』感じだ。



 まあ、でも――それぐらいでなくっちゃな……!




 ……しかし……ティエンオー、か。



 ………………。



 決めポーズはさすがに恥ずかしいから遠慮したいけど、名前……。


 なんちゃらオー、って、結構いいな。

 俺もそんな感じの名前にすりゃ良かったかなあ……。




「うわ……朝岡、ホントに変身してる……!」


「……ですね。

 わたしも、実際に見るのは初めてなんですけど……」



 縁側に座る亜里奈とアガシーが、ヒソヒソと囁き合う。



「でも、もっと驚くと思ったけど……。

 ネーミングとポーズが、いかにも『朝岡』で安心したっていうか」


「ですねえ。そのダサさとガキっぽさで妙にしっくりきてしまうと言うか……」



 ……女子たちは辛辣だな……。

 もうちょっとオブラートに包んでやれよ……。


 ――って言うか……。


 お前らが以前、俺のために――ってアレコレ考えてた決めゼリフとかポーズとかも、似たようなもんじゃなかったか?


 何がどう違うんだ……?


 いやまあ、それを口にしようものなら、とんでもない勢いの反論を食らいそうで怖いから言わんけど。



 それに、ネーミングの方も……。


 なんちゃらオーって、俺は悪くないと思うんだけどなあ……。




「……ンだよ、ったく!

 このカッコ良さが理解出来ねーとか、ホント、これだから女子はな〜!」




 まったく気にした様子もなく、ヘン、と鼻を鳴らす武尊。


 おお……それ、小学生男子ならではの強さだなー……。




「……で、勇者様、わたしはどうします?」


「ん? そのままギャラリーしてればいいさ。

 手合わせ程度で、お前のチカラまで宿す必要はねーだろ」



 俺はアガシーに答えながら、宙に実体化させたガヴァナードを掴み取る。



「さて……いいぞ武尊、いつでもかかってこい」


「! それ――あの『聖剣』!」



 武尊が、驚いた様子で俺――というより、ガヴァナードに釘付けになる。



 そう言えば……何度か使ったことがあるんだったな。



「――そっか、勇者ってことは、裕真(ゆうま)兄ちゃんがそれの本当の持ち主なんだよな……。

 で、だから、テンとオレみたいに、軍曹の主でもあって……」



 なにか、ブツブツとつぶやく武尊。



「……? どうした?」



「――な、なんでもねーよ!

 ……っしゃあ、いっくぜぇっ!」



 改めて俺が声をかけると――。


 威勢良い雄叫びを合図とばかりに、武尊が真っ直ぐ距離を詰めてきた。



 さて……コイツの戦い方についての前情報は仕入れていないが……。



 ガヴァナードに比べてリーチ差がありすぎるあの宝剣(ナイフ)で、しかも体格差まである俺を相手にするには、やはりスピードを活かした超接近戦だろう。



 ――と、思ったら。



「――烈風閃光剣(れっぷうせんこうけん)っ!」



 宝剣の刃を、魔力による光で伸ばして――中距離から鋭く斬りかかってきた!



「へえ……さすがは、霊獣の宝剣――だな!」



 ガヴァナードで初撃を弾き返すが、負けじと、退がることなく連続で仕掛けてくる武尊。


 応じて、様子を見ながら斬り結ぶ俺。



 烈風で閃光とか、キッチリ屋の亜里奈なんかは、『どっちだよ!』ってツッコミたくてウズウズしてそうだが……。


 そんなネーミングはともかく、技としては見事なものだ。



 それに、動きもいい。


 思いっ切り我流だから、ひたすら荒削りではあるものの……実戦をこなしただけあって、瞬間瞬間の対応が早くて的確だ。



 いわば、初めて会ったときのシルキーベルの真逆、ってやつだろうか。


 ……で、どっちが厄介かと言えば――当然、こちらだ。



「――っ!」



 連撃の合間、スキを見つけて、こちらから牽制程度の攻撃を返してみるも、実戦経験者ならではの戦闘勘とでも言うか……『ヤバい気配』を敏感に察知して回避してくれやがる。


 まあ、その回避にムダが多すぎるあたり、まだまだ色々と足りないなあ……という感じではあるが。



「……どうした? まだまだこんなもんじゃないだろ?」


「ったりめーだろ……!

 ――っくぜ〜……! 烈風閃光ぉ――台、風、けーーーんッ!!!」



 再度斬りかかってくる武尊……だが、その動きは先よりも鋭く、速い。



 さらに、それは一気に勢いを増し――台風とは良く言ったもので、まさしく暴風雨のごとき手数で、激しく襲いかかってくる。


 烈風で台風とかどうなんだって感じだが……これはまた、なかなか――!



「うーりゃりゃりゃりゃりゃぁーーーッ!!!」



 怒濤の連続攻撃に、とにかく防御に徹する俺――。






 ……と、思っているだろうな、本人は。






「……しかし――正面から力押しとか、ナメてくれるよな?」


「え――――」



 急ブレーキをかけたように……武尊が動きを止める。

 いや――止まる。


 ……まあ、そうなるよな。




 いきなり、後ろから声を掛けられたら――な。




「え、な、これ、残――像……?」


「正確にはちょっと違うけどな。

 ――とりあえずお前、1機死んだぞ?」



 俺は背後から、武尊の首に、ガヴァナードの刃をぴたんと一度だけ当てる。


 そして、それを戻すのと引き換えに――



 素早く振り返ろうとした武尊を、後ろ回し蹴りで思い切り吹っ飛ばしてやった。



 地面で一度バウンドした武尊の身体は、結界の端に当たって跳ね返り――。


 そのまま倒れるかと思いきや、見事に受け身を取って足から降り立つ。



 ――ほう? なかなかやるじゃないか。




「ちょ――! お兄、やり過ぎっ!」


「……なんて意見が出てるが、どうする?」



 声を荒げた亜里奈をチラリと見ながら言うと……。


 武尊は、まったく効いてないとばかりに背筋を伸ばすばかりか、強気に胸を張ってみせた。



「――ヘンっ、ゼンっゼン大したことねーってんだよ!

 まだまだ、こっからだろ……!」



 そして、臆することなく構え直す。



「……いい返事だ」



 対する俺は――


 構えなど取らず、剣も下げたまま……手の平を上に向けて、手招きを返した。




「くれぐれも、ガッカリさせてくれるなよ?」






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― 新着の感想 ―
[一言] >いやまあ、それを口にしようものなら、とんでもない勢いの反論を食らいそうで怖いから言わんけど ほんで、女性陣からの台詞が一番ダメージ受けたってオチか(ぇ こういう男の勝負、大好き(´∀`*…
[良い点] 可愛くて素敵です☆彡 [一言] >一機死んだ こういう表現大好きです~♪
[良い点] 女の子の辛口を物ともしない! それでこそ小学生男子! アーサーくんの必死さが微笑ましいです。 がんばれー!!
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