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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
13章 さらに〈勇者〉が増えたら、それこそ勇者は悪役しかない
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第157話 そのうら若き乙女は、しかし鳥系



 ――生命(いのち)をもたらし、生命を育み、生命を還す、大いなる風の王……。



 それが何者かと言えば、この(ワシ)、〈霊獣〉ガルティエンである。





 かつてアルタメアという世界で霊獣として生まれた儂は、あるとき、何の因果か、こちらの世界に迷い込むハメになってしまい――。


 ……で、まあ、しばらく世界を観察した結果、「こりゃどうしようもない」という結論に至り。


 それからは、ひっそりとフテ寝しておったのじゃが――そのうちに瘴気に蝕まれてしまったらしく、いつしか我を失っておって……。


 そして先日、朝岡(あさおか)武尊(たける)……通称アーサーなる小僧に救われたことをきっかけに、その守護を担うことになった――。




 ……そんな数奇な運命を辿ってきた、麗しき鳥系乙女である。


 じーさんはもちろん、ばーさんでもない。乙女である。



 そう――繰り返すが、『うら若き乙女』である。鳥系の。




 ……さて。


 そのように運命に翻弄されつつも、霊獣じゃからって傲岸不遜になることもなく、キチンと助けられた恩は返し――。


 アーサーのことも、小僧だからと侮ることもなく、主として認めてやったり、その戦いにチカラを貸してやったりと、いろいろと頑張った、実にエラい儂は――。




 今は正体がバレぬよう、小さな鳥(インコと呼ばれる種に似ているらしい)に擬態して、当の主、アーサーの家に居候しておるのだった。




 ちなみに……儂の愛称は、実にテキトーに、主によって『テン』と名付けられた。


 まあ、女子に対しての愛称なのに、まず『カッコイイ名前』とか考えやがるガキんちょにしては、まだマシな方じゃろう……と、寛大に妥協してやった結果じゃけどな。




「ぐ、おお〜……! う、動けねえぇ〜……!」




 ――でもって、今、ベッドの上で引きつった声を上げているのは、一応は我が主である、件のアーサーその人。



 ……そう、ここはアーサーの部屋なんである。



 ちなみに、マンガやらゲームやら各種ボールやら文房具やらなんやらかやらで、散らかりほーだいだ。


 よー分からんが、多分男子の部屋っつーのはそういうモンなんじゃろ。



 ま、どっちゃにしろ、儂にとってはどーでもいいことである。鳥じゃもん。




《……まったく、ヒマがあったらギャーギャーと……ガマンせんか。

 あのイケメンが、『明日は覚悟しろ』と言うておったじゃろが》



 ベッド側のラックの上に陣取った儂は、小僧の苦悶を聞き流しつつ……小僧の母君が儂のためにと、小さな皿に用意してくれた食事をいただく。


 メニューは、食べやすく細切れにしたカボチャと、軽く炒られたその種である。



 ……そう。カボチャとその種。



 ぶっちゃけ、『なんじゃこりゃ、儂は鳥系じゃが単なる鳥ではないのだぞ……』とか最初は思ったんじゃが。



 今、ハッキリと言おう――。




 ――美味い! 美味いぞ〜!


 やっぱカボチャは最高じゃな〜!

 なんせ女子じゃもん、儂!




「ぐぎぎ……。ち、ちくしょ……ぉ……!

 せ、せっかく休み、なんだから……ゲーム、しまくろうと、思ってたのにィ……!」



《……ま、世の中はそんなに甘くないっちゅーことじゃなあ》



 小僧のグチに、話半分に答える儂。



 それも当然、儂の意識は今、クチバシでカボチャの種の殻を剥き、中身を食べることに集中しているのじゃから。



 ……これがまた、美味しいばかりでなく楽しいんじゃよな〜。



 そう言えば、小僧の母君によると、インコは種の殻や皮を剥くのが好きで、それがストレス発散にもなるとかいう話じゃったな……。



 ………………。



 いや、儂、今はこんなナリじゃけど、インコではないからな?



 そう、その本質は……生命を運ぶ、大いなる風の――。



 …………っと、お、おお……?


 おおう、やったぞ儂! めっちゃキレイに剥けた――ッ!



 ウム〜、大満足……! ポリポリ。




 ――ハッ!?


 い、いかんいかん……つい我を忘れて夢中に……!



 うむむぅ、恐るべしはカボチャの魅力……さすがは女子御用達の食材よな……!


 ……むきむき、ポリポリ。



《……しかし、さすがに朝よりはだいぶマシになってきたんじゃろ?》



「ま、まあな……。アタマがガンガンに痛えのと、気持ちワリーのは治まってくれたからなー……。

 でも、まだ腕とか足がバキバキに痛ぇーし……マトモに動かねえー……」



《……ま、それぐらいで済んでラッキーと思っておくんじゃな》



 これは本音でもある。


 儂がチカラを貸したとは言え、昨日、こやつの置かれた状況は非常に厳しいものじゃったからな。



 結果として、無事に生きながらえたばかりか、負ったダメージもこの程度で済んだのは、本当に僥倖ぎょうこうと言わざるを得ん。――むきむき。



 ……そう言えば、あのイケメンによれば、後日詳しい話をしてくれるということじゃったが……。


 はてさて、いったい、儂と我が主はなにに巻き込まれておるのやら……。



 ――などと、ちょいとマジメなことを考えつつ、カボチャの種の殻を剥いていた儂は……この家のチャイムが鳴るのを聞いて、クチバシを止める。



 さらに続けて、訪問者への対応に出たらしい母君の声と、応えるいくつもの元気な声がしたかと思うと――。


 多くの足音が、階段を上がり、この部屋へと近付いてきた。



 むむ、これは――




「ヘイ、アーサー! 軟弱なキサマのお見舞いに来てやりましたよ!」




 威勢の良い声とともに、ドアを開けてなだれ込んできたのは……。


 儂にも見覚えのある聖霊を先頭に、昨日寝込んでいた娘と……他にはなんかぽやんとした娘に、無表情っぽいメガネの小僧という……。



 アーサーと同年代の、少年少女4人組であった。






 ……こやつらの目的は、その言葉通り、今日は学校を休んだアーサーの見舞いであったらしい。


 しかし、こやつらが思っていたよりずっと、アーサーの体調が良いということもあって……今は母君が出してくれたジュースとお菓子をお供に、フツーに談笑中である。



 ちなみに儂も、母君が小さな器に入れてきてくれた新鮮な水を楽しんでおる。



 ――まあ本音を言えば、同じくジュースがいいんじゃけども。

 メロンソーダとかベストな。儂みたいな色でキレーじゃし。



「……にしても朝岡、部屋、散らかりすぎ。

 もーちょっと片付けなよ、もう……」



 眉をひそめてそんなことを言うのは……アーサーがアリーナーと呼んでいた、赤宮(あかみや)亜里奈(ありな)という名らしい、あの寝込んでいた娘。



 この中では抜きん出てしっかり者らしく――最初、とても4人もの人間が座る場所などなかった部屋を、慣れた調子でささっと片付けて空間を確保していた。


 うむ……こーゆーのを、女子力が高い、とか言うんじゃろか。



 ――まあ、女子は女子でも鳥系じゃから関係無いけど儂。



「ん〜、でも、うちのイタダキお兄ちゃんの部屋と同じぐらいじゃないかなぁ〜?

 ……あ、わたしもいっしょかも〜」



 ほんわかとした、もンのスゴい清らかな笑顔を浮かべて……しかしなんかそのわりにダメな発言をしておる癒やし系の娘は、摩天楼(まてんろう)見晴(みはる)というようじゃ。



 そして――。



「………………」



 そもそも見舞いに来たはずじゃろうに、なんか、儂の存在に気付いてから、アーサーはそっちのけで儂をじーっと見つめる小僧が一人。



 確か……真殿(まどの)凛太郎(りんたろう)、とか言ったか。



 アーサーとはまた違ったタイプの、メガネの似合うなかなかに美々しい少年じゃが……いかんせん、表情が読めん……!



 な、なんじゃろこやつ、まさか儂のことをウマそう、とか思っとるんじゃなかろーなー……。


 いきなり噛み付いてこんじゃろーなー……。



 目を逸らしたら負けの気がして、こちらも必死に見返していると――。



「――お手」



 ……ひょい。



《――ンなぁ……っ!?》



 なんと、唐突に差し出してきた凛太郎の手の平に、儂は反射的に片足をちょんと乗っけてしまっておった……!



 な、なんたる屈辱……ッ!

 こやつ……タダ者ではない……!



「…………ん」



 あんまし表情変わっとらんが、さっきと比べて、どことなく満足そーなところもなんかムカつくぞ……!



 儂はこやつを天敵と判断した!


 ……おのれ〜……! いつか泣かしてくれる……!





 ――うむまあ、それはさておき……その後。



 見舞いというか、一方的に小僧が(そして儂も凛太郎に)からかわれるような形で時間は過ぎ……。



 結局4人がここにおったのは、一時間ほどだったじゃろうか。


 やがて、来たときと同じようにぞろぞろと騒がしく帰って行った――と、思ったら。




 数分後――。


 「忘れ物をした」とかで、1人、戻ってきた者があった。




「……ちょっと、マリーンやミハルには聞かせられない話がありましたからね」



 それは……小僧が軍曹とか呼んでおる聖霊の娘、アガシーだ。



「お、おう……」



 んむ? なんか、小僧の方は……ちょっと緊張気味な感じじゃな。



 ……ああ、やっぱアレか。


 昨日この娘に、抱きつかれるわ泣かれるわ――だったのが、まだ尾を引いていて、こうして1対1になると気恥ずかしいっつーことか……。


 まあ、ガキんちょじゃからのう。



 とりあえず、凛太郎めの邪魔で中断していた、カボチャの種の殻むきに取りかかると……聖霊は、儂の方についと視線を向けてくる。



「で……あなたが、霊獣ガルティエン――ですね。

 わたしはアガシオーヌ……聖剣ガヴァナードを司る、剣の聖霊です」



《儂は……我が主から、『テン』という愛称を賜った。そう呼んでくれて構わんぞ。

 で、儂のことは――ああ、あの銀髪イケメンから聞いていたか》



「まあ、そーゆーことです。

 ……あなたの助力がなければ、あの場の誰もが危なかった――と、聞きました。

 あらためて、お礼を言わせてください」



《なあに……そもそも儂も、瘴気に侵されていたところを、お前さんらに助けられたわけじゃからな。

 それに、我らはアルタメアの同胞……水臭いことは言いっこなしってやつじゃろ》



 儂は、キレイに殻が剥けた種を、クチバシでひょいと宙に放り……ぱっくん。



《……で、まあ、儂としても、いろいろと聞きたいことがあるわけじゃが……そのあたりはまた後日改めて――っつーことじゃったな?》



「そうですね。当事者が直に顔を合わせた方がいいと思いますし。

 とりあえず今日は、あなたにちゃんと挨拶しておきたかったんですよ……『ガルガル』」



《うぉい、その法則でいくならむしろ『テンテン』じゃろ……ガルガルってなんじゃい、ケモノか――って、いやまあ、霊『獣』じゃけどもね、儂!》



「………………」


《………………》



「……フッ、なかなかやるじゃないですか、テンテン……」


《……なんの、おぬしのパスが良かったのよ、聖霊……》



 互いを認め合い、不敵に笑い合う儂と聖霊。



「…………。

 うっわ〜……なに、なんかこの2人、ウザい……」



「《 ジャリがウザい言うな 》」



 クッソ生意気なことをぬかす小僧を、儂らは揃ってニラみつけてやった。




「……あ〜……それから……アーサー?

 え〜……その――あれです。

 き、昨日のわたしの行動は、超突発性一日限定花粉症にやられていたせいですので、あんまし気にしないよーに!」



「昨日の、って……。

 あの、えっと……軍曹が大泣きした――」



「泣いてねーって言ったでしょーが! ありゃ花粉! 花粉のせいです!

 ――ったく、つまんねーコトにこだわってやがると、も一回、今度はキサマの布団で鼻かむぞ! がるる!」



「う、うわ、やめろって! 今オレ、マトモに動けねーんだからな!

 ――ち、近付くな、悪い顔して近付いてくるな……っ!

 わ、わかった、わーかったから――!」




 ……ポリポリ。


 儂は残り少なくなったカボチャの種をマイペースに味わいながら、2人のやり取りをのんびりと鑑賞する。



 ……ま、なんつーか……どっちもガキんちょっつーわけじゃな〜。うむ。


 あ、いや、かく言う儂もうら若き乙女じゃけどね?




《……しかし……》




 ……ポリン。


 カボチャの種を噛み締めながら……儂は、ふと抱いた疑問に首を傾げる。



 この聖霊の娘、自らを『ガヴァナードを司る剣の聖霊』と称したが……。





 〈創世の剣〉たるガヴァナードに……。


 そのチカラを司る聖霊なぞ、存在しなかったハズなんじゃがなあ……?






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― 新着の感想 ―
[一言] なぜか一話飛んでた(;゜Д゜) バグでも起こったんだろうか(;゜Д゜) それはともかく……ガルガル……いやそれ平成モスラ三部作に出てきたベルベラが乗ってる小型怪獣(;゜Д゜) もしくは今…
[良い点] テンテン可愛いです~! 『儂』 の破壊力が半端なくて、うら若き乙女の声が当てられないんですけど……www でも可愛い! 鳥のままでいい! ペット的に癒してほしいと思いましたwww [一言]…
[一言] 可愛いー!テンテン可愛いー!! >やっぱカボチャは最高じゃな〜! うんうん、カボチャ最高だよね! >なんせ女子じゃもん、儂! 女子関係ねぇぇぇぇぇ!!!
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