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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
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第155話 悪役っぽい勇者を除く、〈勇者〉たちの夜に



「ええ、はい、そうなんです……すいません。

 ――いえ、とんでもないです……はい、お願いします」



 座椅子に座ったまま、ドクトルさんへの電話を終えて……僕は。


 スマホを、ぞんざいにテーブルに放り出す。




 ……とりあえず、今日の小学校での戦いについては――。


 『能丸(のうまる)は校舎内で〈呪疫(ジュエキ)〉と戦った際、スーツが壊れたので、一足先に離脱した』ということで報告しておいた。



 後日、修理のために、ドクトルさんが一旦変身アイテムごとスーツを引き取ってくれるってことで……そのときにまた詳しく話を聞かれるかも知れないけど、まあ、問題は無いだろう。



 僕がエクサリオであるという事実を示すような要素は、何も無いのだから。




「それにしても……失敗したなあ」




 僕は、グラスに注いでいたコーラを一口含んで、大きくタメ息をついた。



 クローリヒトが明言したことを信じるなら、やっぱりグライファンは〈世壊呪(セカイジュ)〉のチカラを奪い取っていたみたいだ。


 つまりは、充分なチカラを得た〈世壊呪〉が世に現出する――そうなるまでの時間を、いたずらに引き延ばす結果になってしまった、というわけで……。



 グライファンほどの呪物なら、〈世壊呪〉が得るチカラも増して、現出が早まるハズ――。


 ……なんて、そんな僕の考えは、まさに裏目に出たってことだ。




「まあ、でも……。

 その間に、クローリヒトたちが少しでもチカラを付けてくれるなら……意味もある、かな」




 そう――。

 やっぱり、弱者をいたぶるのは〈勇者〉の所業にふさわしくないからね。


 僕が〈勇者〉としての真の強さに至るためにも……戦うのは、相応の相手でないと。



 そのための時間だと思えば……悪いことばかりでもないか。



「……まったく、しっかり僕の期待に応えてよ……? クローリヒト」



 僕は、口の中で弾ける炭酸を楽しみながら……そういえば、と思い至る。



 ――彼は……クローリヒトは。

 どうやら、アルタメアを救ったことがあるようだ。


 かの世界に伝わる剣技……。

 それも、最高位にあたる〈絶剣(ぜっけん)〉を、カンペキに使いこなしていたことからしても間違いない。


 ……と、いうことは……。





「じゃあ……彼のあの剣は――。


 もしかして…………ガヴァナード……?」





 ――ピンポーン!

 ピポピポピポピンポーン!




 ……そのとき。


 いかにも考え事を邪魔するみたいに、部屋のチャイムが連打された。



 まったく、この鳴らし方は……きっとアイツだね。



「まったくもう……はいはい、っと」



 腰を上げた僕は、玄関口に出る。



 予想通り、そこに立っていたのは――。




「おっす、兄ちゃん!

 母ちゃんがコレ持ってけ、って!」




 小さなお鍋を手にしてニカッと笑う、従弟(いとこ)武尊(たける)だった。



「わざわざありがとう。

 ――で、それは嬉しいけど……武尊、チャイム連打しちゃダメだって言ったろ?

 ヘタするとご近所さんに怒られるんだからな?」



「へへ、ゴメンゴメン!」



 反省してるのかしてないのか、よく分からない武尊から、お鍋を受け取る。



「ロールキャベツだぜ! うちの晩メシのおすそ分け!」


「……あ〜……助かるよ。

 ちょうど、晩ご飯どうしようかって思ってたところだったんだ」



 ――正直に、本心からのお礼を言う。



 今日はあんまり自炊って気分でもないし、叔母さんの料理はおいしいしね……ホントに助かった。


 ヘタにコンビニでお弁当とか買ってなくて良かったよ。



「叔母さんにもお礼を言っておいて。

 ――あと……武尊。

 さっきから気になってるんだけど……それは? どうしたの?」



 そう言って僕が視線を向けたのは……武尊の右肩だ。



 そこには……多分、セキセイインコ――だと思うけど、青みがかったキレイな碧色をした鳥が、おすまししているみたいにチョンと乗っかっていた。



「――え? あ、コイツ?

 ああ、うん、その〜……うん。

 今日、学校の帰りに見つけて……なんか、妙に懐かれちゃったみたいでさ」



「へえ……珍しいこともあるもんだね。

 ――で、名前は?」


「え? 名前?」



 キョトン、とした顔で繰り返して……武尊は肩のインコを見やる。



「…………え〜…………うーん…………『トリ』?」



 ――ココココココッ!



「いだだだだだぁっ!」



 雑極まりない武尊の名付けが気に入らない――と言わんばかりに、インコは武尊のこめかみをクチバシで連打する。



 ……まさか、実はキツツキだった、ってことは……ないよね?


 鳥の種類なんて、あんまり詳しくないけど。



「あ、じゃ、じゃあ、『ガル』とか!

 ……お、これならカッコ良くて――」



 ――ココココ! コココココッ!



「いだだ! いだだだだだっ! 穴、穴空く! 頭に穴っ!

 ……あぁ〜、もう! じゃあ……『テン』でどーだ!」



 それじゃ別の動物だ……とか思ったけど。


 インコは、武尊のこめかみをつっつこうとしつつ……でも、途中で止めた。



 まるで、「まあいいか」って言わんばかりだ。


 芸達者だなあ……。


 もしかしたら、もとは誰かに飼われていて、芸とか仕込まれていたのかも。




 あるいは――。


 見た目通りのインコじゃなく、実は魔獣や精霊の類、という可能性もある――けど。




 とりあえず今のところ、それらしい気配は感じないなあ。



 まあ……そういうのってうまく隠されると、〈勇者〉と言ってももとが人間の僕じゃ、専用の道具でも使わない限り、なかなか察知しきれないんだけどね。


 もし、ただのインコじゃなかったとしても……少なくとも、すぐにそれと分かるような邪悪なモノでもないわけだし――気にしすぎ、かな。





 ――その後、しばらく立ち話をして……。


 晴れて『テン』と名付けられたインコを肩に乗せたまま、武尊は家に帰っていった。





 それから部屋に戻り、飲みかけだったコーラのグラスを手に、キッチンに立った僕は。


 せっかくのロールキャベツを早速いただこうと、鍋ごとコンロにかけてあたため直しながら……。




 武尊の訪問で中断させられた思考に、再び頭をもっていく。




 ――そう……クローリヒト。


 彼がアルタメアの勇者だったのなら、あれが聖剣ガヴァナードだった可能性はある。




 けれど……5年前。


 人生で初めて〈勇者〉となった僕が手にしたガヴァナードは……確か、あんな外見じゃなかった。




 それに――あれは、アルタメアから『持ち出せなかった』ハズだ。



 まあ……たまたま、僕のときがそうだったってだけかも知れない――けど。


 僕自身、〈勇者〉をやるのが初めてで、勝手が分からなかったって面もあるし。



 見た目が違うのも……そもそもガヴァナードは、世界創世に関わった――なんて話もあるぐらい古いものだったから、あらためて打ち直されたってことかも知れない。




「……ってことは、もしかしたら……」




 ふっと、僕の脳裏に――。


 蝶のような羽をもつ、妖精みたいに小さい……〈聖霊〉の姿が、おぼろげに蘇る。




「……打ち直し、となると……。

 キミのお役目も、次の聖霊に受け継がれたってことなのかな――」




 それは、長い金髪をなびかせた――


 芸術品のように美しいけれど、人形のように無表情で、無感情の……



 まさしく、聖剣のための『機能』の体現のような――〈聖霊〉。




「……ずいぶんと久しぶりに、キミのことを思い出したな――」




 僕はコンロを止め、コーラの残りを一気にあおる。


 すっかりぬるくなって、炭酸も抜けたそれは……ただただ、甘かった。





「…………アガシオーヌ…………」












     *     *     *




 ――カランカラン……。



 ドアに取り付けられたベルの、いつも通りの軽やかな音に……帰ってきたな、という実感が込み上げる。



「お嬢……悪ィ、遅くなっちまった」



 少し大きめの声で呼びかけながら、質草(しちぐさ)とともに、臨時休業中の〈常春(トコハル)〉店内に足を踏み入れる。



 ……今回、エクサリオとの遭遇なんかで、力不足を思い知らされたオレたちは……バツが悪いってーか、すぐに帰る気にもならねえで。


 なんとなく、外でダラダラ晩メシを済ませたりと、夜まで時間を潰してやっと帰ってきたわけだが……。




 てっきり、「遅い!」と――。


 開口一番、説教に入るお嬢に遭遇すると覚悟してた……にも、かかわらず。



 ――店内には、誰の姿もなかった。




「……連絡も無しにこの時間まで遅れたのは、さすがにヤバかったかも知れませんね」


「まさか、ガチにキレて部屋に戻った――とか、か?

 うっわ……そうなるとマジでヤベえな……。質草、そンときゃ頼む」


「ボクだって、ボロクソに言われるのはカンベンですよ……。

 キミの方がお嬢との付き合いは長いんですから、そっちこそ頼みますよ」


「長いからこそ、遠慮が無くて怖えンじゃねえか――って、ん?」



 オレの『鼻』が、多分普通の人間じゃ気付かない、店内の残り香を嗅ぎ分ける。


 これは……。



「……どうやら、ついさっきおやっさんも帰ってきたみたいだな」


「そうなんですか?

 じゃあ、〈庭園〉の子たちに、夕食でも運んであげているのかも知れませんね」



 ――なるほど、質草の言う通りかも知れねえ。



 オレは、そうだったらお嬢に説教されずにすむな……とか考えながら、質草とともに地下の〈庭園〉に向かう。




 すると――




 ラッキーなことに、って言えばいいのか。


 予想通り、そこには……おやっさんがいた。




 だが……。

 一緒にいると思っていた、お嬢の姿が無い。


 ヤベえ、やっぱ部屋に戻ったのか……? なんて考えが、一瞬再浮上するも――




「……黒井(くろい)くん、質草くん――」



 オレたちに気付いて振り返ったおやっさんの、その真剣な顔に――そんな平和な思考はすぐさま吹き飛ぶ。



「どうしたんですか、おやっさん?

 ――まさか、お嬢に何か……?」



 質草が尋ねる間に、オレは感覚を総動員して周囲の気配を探る。




 ……こいつは……どういうこった?




 〈庭園〉の連中は、大なり小なり誰もが落ち着きがなくて――『何か』があったことがすぐに分かった。



 それに、なんつーか……奇妙な『匂い』が残ってる。



 その『匂い』は……。


 そう――言っちまえば、『この世界のものじゃない』ような……。



 オレが困惑して顔をしかめていると……おやっさんが、重々しく口を開いた。




「……この〈庭園〉は、君たちも周知の通り、限りなくこの世界と近いものの、一種の異世界だ。


 つまり、他の世界と次元的に『近く』て、『繋がりやすい』ということでもある。


 ……それは、ここの魔獣たちのように、異世界からの迷い子をいち早く保護するためでもあったわけだが――」




 話しながら、おやっさんはスマホを取り出した。



「……失念していたよ。

 それはつまり、こういう事態を引き寄せる可能性もあったということを……」



 そして――スマホの画面を見せてくれる。


 そこに表示されているのは……お嬢からの、短いメッセージだった。






 『わたしも、異世界で勇者になってきます。


  お父さんみたいな――


  お父さんたちを助けられる、勇者に』






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― 新着の感想 ―
[一言] エクセリオがン・ダグバ・ゼバに見えてきた(ォィ でもってお嬢……こいつぁパワーバランスが崩れるぞぉ。
[良い点] >ロールキャベツだぜ! (∩´∀`)∩ ひゃほぉ~どんどんぱふぱふ~♪ [一言] コーラって炭酸抜けるとめっちゃ甘く感じますよね (;'∀')ww なんでなんだろ (。´・ω・)? い…
[良い点] おっと、 エクサリオの思惑はグライファンを探知機変わりに使ったは良いが、思いの外暴れてくれたもんで、誤算だった。 というものだと思っていたのですが、違いましたね。 既に最強クラスのエクサ…
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