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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
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第154話 甘え下手だからこそ、甘えたくなるときがある



 ――目が、覚めた。


 視界に入ったのは、見慣れた自分の部屋の天井――。




 ……って、あれ?




「あたし……確か……」



「お? やっとお目覚めか」




 あたしの声に反応して、ひょいっと視界に顔を覗かせたのは……お兄だ。




「……お兄……?

 ここ、あたしの部屋? 確か、あたし――」



 ベッドの中で、首だけ動かして周りを見る。



 ……間違いなく、あたしの部屋だ。



 確かあたしは、先生のお手伝いのあと、熱が出て……第2応接室のソファに横になって、そのまま……多分、寝ちゃって……。



「ああ。お前、先生の手伝いの後、熱が出て寝込んだんだよ。

 で、まあ、疲れが溜まってただけだったのか、熱はすぐに下がったみたいだけど……熟睡してるからって、そのまま先生がクルマでアガシーと一緒に送ってくれたってわけだ」



「……そう、なんだ……」



 うん……寝てたのは間違いない、と思う。


 なんだか、すごく苦しくて……本当に怖い夢を、見てたから。




 それは――具体的にこう、って映像があるわけじゃないけど……。


 でも、はっきり生々しく感じられた――まるで『闇』そのものに捕まって、命を少しずつ食べられていく、みたいな……最悪の夢。




「あの……なんかね、お兄……」


「ああ」


「すっごく苦しくて、怖い夢……見てた。

 あたし、このまま死んじゃうのかな、って……そんなこと、思った――」



 あたしが、何となくお布団から出した手を――。


 お兄はそっと取って、大丈夫って言うみたいに、優しくポンポンってしてくれた。




 ――もっと小さかった頃、怖い夢を見て泣いたときみたいに。


 そう、その頃みたいに……今のあたしも、それで、すごく安心出来た。




 ああ、もう大丈夫なんだ、って……。


 お兄の手の大きさと、あったかさに触れて。




「……心配すんな。相手が夢だろうが、バケモノだろうが……俺が絶対に助けてやるから。

 なんてったって、お前の兄貴は――ホンモノの〈勇者〉、やってたんだぜ?」




 あたしを安心させようと笑ってくれるお兄に釣られて……頬がゆるむ。




 そう言えば……あれは、どうしようもないぐらい『悪夢』だったけど。


 そんな中で、何度か……あたしを励ましてくれる声が……聞こえたっけ。



 その励ましが――助けがなかったら。

 あたしに力をくれた、その声がなかったら。


 本当に、命を食べられてたんじゃないか、って――そんな風にも思える。




 夢だって分かってるけど、現実に声を掛けてもらってたみたいな、あれは……。



 確か……そう。

 朝岡(あさおか)と、ハイリアさんの声だったような――。



 ――――って!




「〜〜〜っ!」



「……? なんだ、どうした?」


「な、なんでもない……っ!」



 あたしは急に気恥ずかしくなって、ずぼっとお布団に顔を隠した。




 ……だ、だって……!

 お兄とかアガシーが夢に出てくるのなら、まだ分かるけど……!



 ハイリアさんに――あ、朝岡って……っ!




 うう〜……!

 あ、あたし、ハイリアさんに告白されたこと、思った以上に気になってたのかなあ……?



 それに――それに、朝岡、だなんて……。




 ――あたし……。


 そんなに朝岡のこと、気にしてたの……かな……。




 …………って、ううん!?


 夢! あれは夢、そうだよ、夢だからね!

 だからそう、そういう、おかしなことだって起こるよね! うん!




「……おーい、窒息するぞー?」


「だだ、だいじょうぶ、なんでもないからっ!」



 がばっ、とお布団から顔を出す。



「……顔、赤くなってないか? 熱がぶり返してきたか?」


「だだ、だいじょうぶ、うん、だいじょうぶ!

 ――うん、そんなんじゃ、ないから……」


「……ふ~む。

 確かに、今の『大丈夫』は、大丈夫なときの『大丈夫』だな」



 お兄はしたり顔でうなずく。



 ……もう。基本的にはニブいくせに……こういうときは鋭いんだから。



「うん、だから……体調は大丈夫。ちょっとだけ熱っぽいぐらい。

 あ、でも――」


「……でも?」



「……お腹、空いた」



 あたしが正直に言うと、お兄はくすりと笑った。



「……だろうな。晩メシなら、俺たちはさっき済ませたけど……どうする?

 お前の分は残してあるけど……食べやすいやつの方がいいなら、またおかゆでも作ってきてやろうか?」



「ん――、と……」



 ……あたしは、ちょっと考える。



 えーと……今朝まで冷蔵庫に残ってたものと、買い物の予定からすると……。


 十中八九、今日の晩ご飯のメインはハンバーグだった……ハズ。



 あとは、それに……。


 お味噌はあんまり無いから、明日の朝ご飯のお味噌汁用に回して……。


 で、代わりに、コンソメならまだ残ってたから、そろそろ使い切っちゃいたいベーコン入れてスープにするでしょ……。


 他に……うん、サラダにするお野菜もあったはず……。



 ――うん。ママが作るならきっとこんな感じかな。



 献立としては好きな部類だし、体調も、ちょっと熱っぽいぐらいだから、ゼンゼン平気に食べられそうだけど――。



 でも、なんだか、今日は……。




「……お兄の作ったのが、いい」




 つい、思ったことをそのままポロッと口に出して、甘えちゃって――。


 それから、あっ、となってお兄を見るけど……。



 そんなあたしを、茶化すでも心配するでもなく――驚きもしないで。


 分かってる、って言わんばかりに。

 あたしの頭を優しくなでて……うなずいてくれた。



「――リクエスト、あるか?」


「……ん……それじゃあ、アレ……お兄流の中華雑炊」



 〇〇流、とかいうとなんだかご大層だけど……。


 それは……和風のおダシの代わりに、中華スープの素を使ったってだけの雑炊。



 ……ちっちゃい頃、あたしがカゼのとき……。


 ママたちが忙しいと、面倒を見てくれるのはお兄だった。

 でもそのお兄もまだ子供だったから、料理のレパートリーなんてほとんどなくて……。


 たまたま、お昼ご飯、2日続けてお兄が用意してくれることになって……連続で雑炊ってなったとき、「飽きた」ってあたしがワガママ言ったら……工夫して作ってくれたのが、お兄流の中華雑炊。



 それは本当に、おダシを中華スープに換えただけ、ただそれだけだったけど――。



 そのときのあたしにとっては、ビックリするぐらい、すっごくおいしかったってこと……夢中になって、作ってくれた分を全部食べちゃったことを覚えてる。



 ――それ以来、あたしはちょくちょく……お兄にリクエストしてきた。


 あたしの……お兄が作ってくれる料理の、お気に入りの一つ。




「あんなのでいいのか?」


「……あんなのが、いい」




 そう……『あんなの』が、いいんだ。


 あくまで『夢』でも……本当に怖い思いをしたから。



 ……それで、今日は……お兄に甘えたくなったから。




 千紗(ちさ)さんに悪いけど、今日は――。


 お兄を、あたしのお兄として、独り占めしたくなったから。




 だから……『あんなの』が、いいんだ。




「……分かった。

 ん、思ったより元気そうだしな……具だくさんにしてやるよ」


「野菜多めがいい」


「へいへい。肉はトリとブタとどっちにする?」


「……トリさん」


「スタンダードな。了解。

 ――んじゃ、ちょっと待ってろよ」









     *     *     *




 ――裕真(ゆうま)が一人、妹の世話をしていたそのとき……。


 亜里奈(ありな)の部屋のドア脇にはそれぞれ、立ったままのハイリアと、座り込んだアガシーがいた。



「……そんなところに座り込んでどうした? キサマらしくもない」


「あなたこそ。立ちっぱなしでなにしてるんです」


「もちろん、亜里奈が心配だからな。少しでも側にいたかっただけだ」


「……わたしもですよ。

 ――っていうか、それなら中に入ればいいじゃないですか」


「キサマこそ」



 ハイリアの返しに、アガシーは……。


 立てたヒザに顔を埋めるようにして、モゴモゴと何事かをつぶやいた。



 その様子を、ハイリアはさらりと微苦笑で流し――。


 視線は前を向いたまま、口を開いた。



「……亜里奈は、しっかり者だが……やはりまだ子供だ。

 そんな亜里奈にとって、今、何より必要なのは……心から信頼し、気の休まる、本当の兄だろう。

 余の出る幕ではない――ゆえに、これで良いのだ」



「……ふん……殊勝じゃないですか」


「で、キサマの方はいいのか?」



「わたしだって……今はアリナには、子供らしく勇者様に甘えてほしいって……そう思ってるだけです」



「……そうか」



 スネたような口調のアガシーとは対称的に……フ、とハイリアは穏やかに笑う。



「……まあ、目元が泣き腫らしたようになっている今のキサマでは、何事かと心配させるだろうしな?」


「何でもありません。超突発性の一日限定花粉症のせいです」



「ほう……。では差し詰め、アーサーは巨大な花粉と言ったところか。

 接触したとなると、それはヒドい状態にもなるだろうな?」



「――ンなっ!? ど、どーしてそれを……!」



 がば、と顔を上げたアガシーに……。


 ハイリアは、ニヤリと笑ってみせた。



「……ほう、そうなのか?

 かけてみるものだな、カマというのも」


「――っ! んぎぎぃ……! こンの――!」



「フッ……魔王だからな、余は。

 ……大方キサマ、アーサーが無事だったことに感極まって抱きついたはいいが、後になって恥ずかしくなってきたと――そんなところか?」



「わ、悪いですか……っ!」



 ぷい、とそっぽを向くアガシー。



 対して、ハイリアは――ゆるやかに首を横に振った。



「……いいや? むしろ、それは――。

 そう、キサマがまた一歩『人間』に近付いたと……そういうことであろうよ」



「ふ、ふんっ……! 知ったふーなことをっ」



 口を尖らせたまま……アガシーはまた、立てたヒザに顔を埋めた。



 その様子に、ハイリアは苦笑をもらし――。

 そうかと思うと、やおら壁から背を離して階段の方へ向かう。



「……さて。では、こちらはこちらで、『妹』を世話してやるとしようか。

 ――付き合え。コーヒーでも煎れよう」



「……ふんっ……」



 これ見よがしに、一際大きく鼻を鳴らして――。


 いそいそと立ち上がったアガシーは、ハイリアの後を追った。




「ミルクだばだば、お砂糖どさどさの、あまあま仕様ですからねっ?

 ニガニガにしたらブッ飛ばしますからねっ?」



「……分かっている。『妹』殿の仰せのままに――な」






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― 新着の感想 ―
[一言] 甘えたってええんや。 恥ずかしがってええんや。 それぞれがちゃんと人間だって証明なのだから(`・ω・´) でも砂糖ダバダバは人体的にヤバいんでやめなさいリンディ茶ですか(;゜Д゜)
[一言] ダメだ……堪えきれぬ…… 私の大好きな亜里奈たん回ではござらんか…… ……なので感想書いちゃった!(๑´ڡ`๑)てへぺろ☆ なんだよー!なんだよもー!! 尊死させる気ですかぁぁぁぁぁ!!!…
[気になる点] 他の方に比べて感想がヘタレですみません <(_ _)> [一言] >おダシを中華スープ (;'∀') あ……あの品ですよね?ww ブタよりトリ派かぁ……。 やっぱりコーヒーは甘々で…
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