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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
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第153話 キズだらけの小さな勇者と、さびしがりやの聖霊と



 ……あのなんかヤベー剣が逃げてからも、黒いヤツとか赤いヤツが出てくるのは止まらなくて……。


 オレとクローナハトは、もう、必死にソイツらをやっつけまくってたんだけど……。




 ――あるとき、いきなりそれがピッタリ止んだ。




 同時に、壊れた窓の外も……紫みたいな黒みたいなヘンな色じゃなくって、普通に、いつもの景色が見えるようになってて。



 いつの間にか、台風みたいだった天気も治まって、日が差してて……。




「……やったか、勇者め」




 そんなクローナハトの一言で……。


 何となくオレにも、終わったんだ――ってことが、分かった。




「……終わっ、た……? 終わった?


 うひぃぃ〜……や、やぁぁーーっとかよぉ〜……!」




 思わず、ペタンと座り込む。


 それに合わせて……ティエンオーとしての装備が、光りながら消えていって……。



 オレは、いつもの制服姿に戻ってた。



 ただ……手の中にはちゃんと、宝剣ゼネアがある。


 そんで、頭の中でも……。



《……小僧、よく頑張ったな。

 (ワシ)の主としては……まあ、及第点をやってもいいぞ。ウム》



 ガルティエンの、年寄りみたいなしゃべり方の……子供みたいな声が響いてた。



「ちぇ、エっラそーだなあ……。

 ――ん、でも、ガルティエンも……助けてくれてサンキューな」



 ……そうだ!

 それで結局、アリーナーは大丈夫なのか……?



 オレが顔を上げると――。



 ちょうどクローナハトが、身体を折り曲げて、ソファで寝てるアリーナーを覗き込んでるところだった。



「クローナハト、アリーナーは……っ?」




「……ああ、大丈夫だ。

 さすがに疲れはあるだろうから、熟睡しているが……もう苦しんではいない。


 ――本当に、よく頑張ったな……亜里奈(ありな)




 クローナハトは、なんかスゲー優しい感じでアリーナーに声を掛けて……。


 で、なにかを拾い上げたかと思うと……オレに近付いて、それを手渡してきた。



 ……オレの、ハンカチだ。


 熱があるなら冷やした方がいいかな、って……そう思って、濡らしてアリーナーの額に乗っけてたやつ。



「お前の物だろう? 亜里奈に代わって、その気遣いに礼を言う」


「お、おう……別にいいけどさ」



 ――とりあえず、アリーナーが無事でホント良かった……。


 思わずまた、大きなタメ息をつきながら……オレは立ち上がる。



「それで、軍曹の方は――」


「なに、そちらはすぐにでも目が覚めるだろう。

 ……ともあれ、次の問題は――この状況をどう理由付けするか、だが……」



 言って、クローナハトは部屋の中を見回す。



 ――第2応接室は、はっきりいってメチャクチャだ。



 窓は割れちまってるし、ドアも壊れてるし……それこそ、部屋ン中で台風が吹き荒れたみたいになってる。



 ……まさか、ヘンなバケモノが現れて、オレもヒーローに変身して戦った――なんて、先生とかに言えるわけねーし、どうすりゃいいんだろうって思ったら。



 クローナハトは――多分魔法で、すぐ外、校庭の隅にある花壇のレンガを1つ、手もとに引き寄せると……床に転がす。


 で、同じく魔法で、小さな水の球をいくつか作って……それを部屋の床とか壁にぶつけて、濡らしてしまった。



「……なにやってんだよ?」


「教師が迎えに来たとき、この惨状を、ある程度は合理的に説明する理由がいるだろう?」



「えーっと……つまり、スゲー風でこのレンガが飛んできて窓が割れて、風とか雨が吹き込んできたからこうなった……ってなことにすんの?」



「まあ、そういうことだな。

 あとは、お前のケガも、そのとき亜里奈たちをかばったから、ということにしておけ。

 聖霊――いや、軍曹にも協力させれば、『信じさせる』のは難しくない」



 今の言い方……魔法とかも使って、うまくごまかすってことなのか?


 まあ……どっちにしてもオレだけじゃ、そんな説明とか、ちゃんと出来そうにねーしなー……。




「さて……では、余は行くが――アーサー。

 お前には、今一度礼を言いたい。


 ――ありがとう、最後までよく戦ってくれた」




「へへっ……まあ、いいってことさ!

 オレだって、アンタが助けに来てくれなきゃヤバかったしさ!」


「フッ――そうか。

 ……ああ、礼と言えば、勇者もお前に直接礼を言いたがるだろうな」


「……そういや、さっきから何回も言ってるけど……勇者、って?」



 オレが聞くと……クローナハトは、なんかイタズラっぽく笑った。



「いずれ分かる。お前にはまた後日、詳しい話をせねばならぬのだからな。

 ――そのときの楽しみにしておけ」


「お、おう……分かった」


「近いうちに連絡しよう……もっとも、明日だけは絶対にないが」


「……なんで?」


「もう忘れたのか?

 ――明日は覚悟しておけ、と、そう言ったであろう?」



 あ、あぁ〜……アレかぁ。


 ムリヤリ身体動かしたから、明日はヒデーことになるぞ、っていう……。



「まあ……余も同様だがな。

 さすがに無茶をしすぎた、明日はグロッキーというやつだ」



 そんなこと言ってるのに、なんでか楽しそうに笑いながら……。

 クローナハトは、ひょいっと壊れた窓を飛び越える。


 それで――



「……ではな。また会おう」



 そう言い残して、風景に溶けていくみたいに……すぅっと姿を消した。




「……なんか……いろいろ、とんでもねーことになったなあ……」




《しかし、夢ではないぞ?》



「わーってるよ……」



 ガルティエンに答えながらオレは、ちょっと顔でも洗ってスッキリしようと思って、隣の給湯室に行く。



 それで、冷たい水で顔をバシャバシャやってると……なんか、妙にしみて痛い。


 なんだろうって思って、鏡を確かめようとしたら――隣の部屋で声がした。



 適当にソデで顔を拭いながら、応接室に戻ると……。





「……アリナ、アリナ、アリナぁ……!


 良かった――良かったぁ……っ!」





 ――目を覚ました軍曹が……寝たままのアリーナーにしがみついてた。



 もっと騒ぐかと思ったけど、いつもと違って、声が抑えてる感じなのは……。

 多分、アリーナーを起こさないようにしてるんだろう。



 でも――


 メチャメチャ嬉しそうなのは、よく分かった。




 で、そんな軍曹を見てると……。


 ――ああ……ちゃんと守れて、良かったな――って。


 オレも、そんな風に思えた。




 うん、まあ、めっちゃ頑張ったもんな――オレ!




 ――とか思いながら見てたオレに……軍曹が気が付いた。




「アーサー……」




 軍曹は――なんか、ぼうっとした感じでオレを見てる。



 ……な、なんだよ、なんかいつもと違うなあ……。




「へへっ……どーだよ、軍曹!

 ちゃーんと言われた通り、守ってやったぜ!」




 ――悪ガキのわりにはよくやったな!……って、そんな返しが来るって思ってたんだけど。



 オレの方に、フラフラって近付いてくる軍曹は……。


 なんか、初めて見る――今にも泣きそうな顔をしてた。



「なん……ですか、それ……。

 ケガだらけじゃないですか……ボロボロじゃないですか……」



「え? ああ……」



 軍曹に言われて、自分を見て、触って……確かにボロボロなことに気が付いた。



 さっき顔洗ったときにしみたのも、ほっぺたが切れてたからだし……身体も、色んなところに、結構大きなキズが出来てて……制服のシャツも、破れたり切れたりしてるし、血もにじんで汚れてる。



 なんか……こうやって気が付いちまうと、あらためて色んなところが痛くなってくるっていうか……。



 いや、でも、ここで痛がるのはやっぱしカッコわりーよな……!



「で、でもほら、生きてるしさ! 大したケガじゃねーって!

 ……ま、まあ、『うおおヤベー!』ってときも、何回かあったけどな!」



 オレは、ゼンゼン大丈夫だってことを、笑いながらポーズでアピールする。




 今度は、『へっぽこ新兵(ルーキー)が調子に乗るな!』って怒るかな……とか思ったら。


 軍曹は……マジメな顔のまま、なんか、鼻をすすりあげて――




「……バ、バカですか……! アホですか、大バカですか、ド阿呆ですか……ッ!

 なんでっ――なんで逃げなかったんですかっ!

 こんなボロボロになって……! ヤバいってときもあって! なんで!

 死ぬかも――っ、死ぬかも知れなかったのに……っ!」




「な、なんでって、そんなの……」



 なんか……スゲーマジな軍曹の迫力に、押されそうになるけど――。




 オレは――オレのやったことが、間違いなんかじゃないって信じてる。


 だから……堂々と、言ってやった。




「そんなの――軍曹とアリーナーを守るために決まってんだろ」



「わたしが……そう頼んだから、ですか」



「それは……もちろんある、けど……。でも、それだけじゃねーよ。

 お前らが襲われてるのを……黙って見てるとか、出来るわけねーだろ」



「……死んでたかも、知れないのに――」





「――死なねーよ」





 軍曹が、なんか珍しくグズグズ言いやがるから……。


 オレはつい、ハッキリそう言っちまってた。




「……死んでたまるかよ、こんなので。


 だいたい、オレがやられちまったら、お前ら守れねーし……。

 もし、守れても……ほら、こんな風に……軍曹、めっちゃ気にしちまうじゃねーか。


 そんなの……なんつーか、その――イヤだからな。


 だから…………死なねー。ゼッタイ、こんなので」




「アー……サー……っ……」




 ……え? あれ?

 ちょっと……あれ、なんで?



 軍曹、なんでそんな顔……って、ヤベ、まさか……泣く?



 いやいや、なんで――!?




「…………ッ!?」




 そんな風に混乱してたら。


 軍曹は…………オレに、飛びついてきた。




「……ぐ、ぐぐ軍曹っ!?」




 ――え? は?

 ななな、なに? なんだコレ!!??



 オレ、今、女子に抱きつかれてんの? しかも、軍曹に!?




「……ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」




 あ、頭ン中が、真っ白になるぐらい大混乱してたオレだけど……。


 軍曹が、ベソをかきながら繰り返すその言葉で……ふっと、冷静になった。





 そっか……軍曹、オレが思ってたよりずっと、気にしてたのか。


 オレが死んじまうんじゃねーかって、気にしてくれてたのか。



 ――心配、してくれてたのか……。





「……べ、別に、謝らなくていいだろ。軍曹のせいじゃねーし!

 どっちにしてもほっとけなかった、って言ったじゃねーか」




「じゃあ、じゃあ……! ありがとうございます、アーサー……!

 アリナを守ってくれて――わたしを守ってくれて……!


 それで……それで……! それ、で……っ!


 生き、て――生ぎていで、ぐれで……っ!」




 オレの首に回った軍曹の腕が、ぎゅっと力を増して……。


 かと思ったら、ついでになんか、思い切り鼻をすすりあげて……。





「……よ、よがっだぁ――よがっだよおお……!


 生ぎでっ、生ぎででぐれで――っ!


 ほんっ、ホンドに、よがっだよおぉぉ――ッ……!!!」





「――うわわ、そ、そんなに泣くなよ軍曹……」



「泣いでまぜん……! 泣いでなんがいまぜん……っ!

 わたっ、わたじが、ごれぐらいで……!

 ごれぐらいで、泣ぐわげないじゃないでずがああ……っ!!!」




 オレに抱きついたまま……軍曹は大泣きし始めた。




 こ、困った……。

 だいたい、女子に泣かれるってだけでどーしよーもねーのに……!



 こんなの、それこそどうすりゃいいのかゼンゼン分かんねーぞ……。




 ……うん、でも……なんつーか。




 ヤバいことは何度もあったけど、あきらめないで良かったな、って……。


 それに、これからも……。

 どんなにヤバい状況でも、ゼッタイ、あきらめないでいようって。



 ――それだけは……実感した。




「……なあ、軍曹……」



「ずるずるずる〜、ちーん」



「……って、ぎゃあああ!!

 なな、なにやってんだよ! 人のシャツでゴーカイに鼻かんでンじゃねー!」



「おや、おやぐぞぐ、じゃ、ないでずがぁ〜……!」



「いらねーよ、そんなお約束!

 ――って、言ってるそばからもう一回!?


 ああもう、鼻をこすりつけんなぁ! はーなーせーーー!」



「へへ、えへへ……っ。ちーん」



「ぎゃあああ!! ベッタベタする〜ッ!!

 やーめーろーーーー!!」






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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん。 ホント生きててよかったぜよ。 そして最後のお約束……ウフフフフ(*´艸`*)
[良い点] サブタイトルで既にときめきのようなモノを感じたのですが、本編もその通りな内容でした! シャツで鼻をかもうが、全く気にならないときめき(笑) アーサーとクローナハトの関係もクールでときめき…
[良い点] アガシー……せっかくの感動シーンで、昔の少女漫画を再現とは……! やりおるなww いやーでも本当にみんな頑張りましたね! 良かったです!
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