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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
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第152話 激戦の後――やっぱり最後に残った2人は



 ――小学校を覆っていた結界が、ゆったりとほどかれてゆく。



 それに伴い、瘴気も霧散して薄れていき……。



 季節柄、夕焼けにはまだ少し早い時間の――。


 雲間から射す、傾きかけた陽の光が、まぶしく屋上を照らす。





 気付けば、嵐のようだった風雨もまた……すっかりと、治まっていた。





「……エクサリオ。お前は――」


「――そこの2人。

 残念ながら、あの剣は〈世壊呪(セカイジュ)〉ではないようだが?」



 俺が、質問をしようとした矢先――。


 エクサリオは、俺の背後、給水塔の方へ振り向きつつ声を投げかける。




 すると……それに釣られるように。


 給水塔の陰から、ブラック無刀とポーン参謀――〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉の2人が姿を現した。




「ちっ……気付いてやがったか」



「大方、わたしやクローリヒトがあの剣と三つ巴で争っているところへ乱入して、漁夫の利を狙おうとでもしていたのだろう?」



「ええ、お察しの通りですよ。

 もっとも……その必要もなかったようですが」



 エクサリオの問いかけに、ポーンが答える。



 ……って言うか、コイツら知り合いだったんだな。


 まあ、この険悪な雰囲気と、エクサリオの主義主張からすれば……俺の知らない間に一戦やり合ったとか、そんなレベルだと思うけど。



「しかし、だ…………おい、クローリヒト」



 唐突に、ブラックが俺を呼んだ。



「あの剣が〈世壊呪〉そのものじゃなかったにしろ――だ。

 あれほどのチカラが、まったくの無関係だとも思えねえ。

 それに、そもそもあの剣はいったいなんだったのか――。

 ……クローリヒト。テメエはそこんトコ、どう説明するつもりだ?」



 ……難しいところを突いてきやがる。



 完全にまったく無関係だ、知らない、と言い張りたいところだが……さすがにムチャか。


 ヘタに強硬に否定すると、グライファンの存在自体、俺たちが関係あるんじゃないか――とか、邪推されかねないしな……。



「……無関係だ。

 〈世壊呪〉が、あの魔剣にチカラを吸い上げられていた――という以外は。

 それから、剣がどこからどうやって現れたかは俺たちも知らない。

 ……この世界のモノじゃないのは、確かなようだけどな」



 ……だから、ある意味、正直に答えるが……。



「それで『無関係』と言うのもムリがあると思うが?

 ――まあ、どちらにせよ……そして、あの剣が何であったにせよ。

 やはり〈世壊呪〉のチカラは、それ自体が危険だということが証明されたわけだ」



 予想した通りの反応を返してきたのは、エクサリオだ。



 だが――当然、それを『ハイそうですね』と素直に肯定するわけにはいかない。



「真に危険で、正されるべきは、他者のチカラを奪い破壊を行おうとした――あの魔剣そのものだろう?

 つまり、チカラだろうと奪われる側は被害者だろうに……それすら悪だと断罪するつもりか?」



「悪意を持った者に利用されれば、今回のように大きな被害を出しかねないというなら……そんなチカラは、やはり存在すべきではないと思わないか?」



「「 ………… 」」




 ――俺とエクサリオは、互いに視線をぶつけ合う。



 このまま、場合によっては剣を交えることにもなるか――と、思ったら。




「フフッ……まあ、そうだろうな」



 エクサリオは、あっさりと戦意を引っ込め、きびすを返した。



「……ひとまずの脅威は去ったようだし、今日のところは退こう。

 どのみちクローリヒト、わたしとキミは――いずれ、来たるべきそのときに、剣を以て互いの正義を示すしかないのだから」



「…………エクサリオ」



「ああ、それから……〈救国魔導団〉の諸君。キミたちもこの場は見逃そう。

 もし、自分たちに正義があると信じるのなら……せめてもう少し、それに見合うだけのチカラを身に付けておくことだ」



「あぁ?……ンだと、テメエ……!」



 即座に反応したブラックを、脇にいたポーンが冷静に押し止める。



「そして、シルキーベル。

 キミは……いい加減、覚悟を決めることだ。

 ――世界を守るのに、必要な覚悟を」



「…………」



 シルキーベルは答えない。首も、縦にも横にも振らずに。


 ただじっと、エクサリオを見据えていた。



 ……やがて、ヤツが屋上から飛び出し――その姿を消すまで。




「……チッ、いちいち鼻につくヤローだったな……。

 ――じゃあポーン、オレたちも行くか。さすがに疲れたぜ」



 ブラックの呼びかけに、「そうですね」と答えて……ポーンは俺の方を向いた。



「クローリヒト。

 たとえ正しいのがあなたであれ、エクサリオであれ――ボクらの取るべき道は変わりません。

 ……いずれ、〈世壊呪〉は頂戴しますので……そのつもりで」



「なにがあっても渡さねーから、そっちこそ、そのつもりでいろ」



 鼻を鳴らして返す俺に、ポーンも微笑みとともに大ゲサな一礼で応え――その後すぐ、ブラックとともに屋上から姿を消した。




 そうして、後に残ったのは……。


 いつぞやのように、俺とシルキーベルの2人だけ。



 今なら……話し合いもしやすいか……?



 ――っと、その前に……。




《……勇者様……!》



(ああ、アガシー。もういいぞ。

 ――先に、亜里奈(ありな)たちのところに行ってやってくれ)



《――はいっ!》



 答えるや否や、ガヴァナードからアガシーの気配が消え……ガヴァナード自体も、光となってアイテム袋に戻る。


 ……アイツ、よっぽど心配だったんだな……。




 ――さて、それはそれとして。


 こっちはこっちで、シルキーベルと、立ち去られる前に話しておかなきゃいけないことがある――。




「……なあ、シルキーベル。

 お前、まさか――」



 改めて、俺がそう声を掛けると――。


 どうやってコッソリ立ち去ろうか……とか考えてるところだったのか、シルキーベルはビクッとなった。



「……そのヘルメット、壊れてるんじゃないか?」



 俺が、自分の頭を指でつつきながら聞くと……。


 ややあってから、シルキーベルは無言でおずおずと、静かにうなずく。






 ……やっぱりな、だからか……。






「そうか。だから…………。

 だからお前、関西弁になったりしてたんだな?」



 俺がズバリ指摘してやると……。



 ……ん?

 どうしてだか、一瞬、シルキーベルは怪訝そうに首を傾げて……?



「いや、だから……。

 ヘルメットの、身バレ防止用の音声変換機能みたいなのが壊れて、意図しない形に――そう、今だったらまさに、なぜか関西弁に変換されるようになっちまってる……そういうことなんだろ?」



 重ねて聞くと、シルキーベルは――。


 なんか、わずかの間を置いてから……必死に、「そうそう!」と言わんばかりに、ブンブンと首を縦に振った。



 ……うん、やっぱりそうだよな。



 ああ、もしかして……ヘルメットが壊れてるってことは、こっちの声を聞き取りづらくもなってるのかもな。


 さっきから微妙に反応がニブかったのはそのせいか。なるほど。



 しかし……それにしたって、そのおかしくなった変換機能の結果が、関西弁ってだけならともかく、鈴守すずもりそっくりの声とか、なんのイタズラだって感じだけど……。



 ――まあ、それは良い。そんなこともあるだろう。


 それよりも、今は他に言っておかないといけないことがある。



「でもな……だったら、一つ言わせてくれ。

 『関西弁はヘンに聞こえる』とか思うから、そうやって、なるべく話さないようにしよう、黙ってよう――ってしてるんだろうが、それは良くないぞ?

 そりゃ、自分のしゃべり方とか、特にそういうところが気になるだろうけどな……中学生だと」



「ちゅっ!? 中学生(ちゃ)う――!

 ……あ、ううん……そんなことも、ないこともないこともない、ような……」



 一瞬、猛烈な勢いで否定しかけたシルキーベルだが、次第に消え入りそうな声で、曖昧に濁してしまう。



 ……まさか、高校生とか言い張るつもりだったのか?



 いやまあ、確かに、現役高校生ながら小学生級のおキヌさんだっているし、体型的には鈴守と同じぐらいなわけだから、おかしくはないけど……。



 でも、そうやって背伸びしたがるあたり、いかにも中学生っぽいよな。



「……とにかく、だ。

 方言とか、話し方が、標準と違うからおかしい――って、そういうところを否定的に考えるのはいただけねーな。

 俺の知り合いの関西弁の女の子も、初めて会ったとき、そのことをからかわれてて……哀しそうだったからな」



「……関西弁を、からかわれて……。

 それで、あなたは……その場で、どうした――ん、ですか?」



 たどたどしい調子で、おずおずと聞いてくるシルキーベル。



「ムリに標準語にしようとしてたから……そんなことはしなくていいって言った。

 もとのまんまでいい、ってな。

 以来、その子はそのまんま。――自然な形で、自然に魅力的だ」



「………………。

 わたしの、知り合いの男の子も……そんなこと、言うてました」



「ほう?……そいつとは、話が合いそうだな」



「……そうですね。

 ――ホンマ、そんなところも似てるやなんて……」



 ぽつりと、小声でつぶやくシルキーベル。


 そうしてから……彼女は俺に、ペコリと頭を下げる。



「……今のお説教は、素直に受け取ります。ごめんなさい」



「いや、分かってくれたならいい。

 ――こっちこそ、エラそうなことを言って悪かったな」



 素直に謝られると、なんか急に恥ずかしくなってきたな……。


 そんなことを考えていると、シルキーベルは小さくクスリと笑った。



「……ホンマに、ヘンな人ですね。

 わたしたちは……一応、敵対してるのに」



「それだけ……その『敵対』ってのが、バカバカしい話だってことだろ」



「……そうですね……。

 ホンマに、バカバカしいことやった、って……そうなれたら――」



 シルキーベルは、改めてゆっくりと……俺に背中を向ける。


 そして――




「わたしの、一番大事なあの人と、あなたは……きっと、良い友達になれるのに」




 なんとか聞き取れるぐらいの声で、誰にともなくそう言って。



 それじゃあ、と挨拶を残し――。


 背中の翼のようなパーツを使って、飛び去っていった。






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― 新着の感想 ―
[一言] ここまでなってまだ気づかへんの(;゜Д゜) いやそれはともかく。 最近の戦闘美少女は、敵をも救うようなタイプやで。 御霊信仰を応用して世壊呪を世快呪に変えるとか……そういう道はないのかね…
[一言] 完結してるので最後まで読んでから感想書こうと思ってましたが……これだけはダメだ!! >>>「……そのヘルメット、壊れてるんじゃないか?」 ゆうま君ひどいよ、いくら何でもあんまりだよwww…
[良い点] >今だったらまさに、なぜか関西弁に変換されるようになっちまってる……そういうことなんだろ? そうくるとおもわなかったよ……でもらしい、めっちゃらしいよ!!! >「わたしの、一番大事なあ…
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