表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
151/367

第149話 暗がりより、現れ出でたるその者は



「ブラック……! 生きてますか、ブラック!」




 ……ああ……?


 うっせーな、生きてるか、って何だよ……。




「――ブラック!」



「ンだよテメー……何をそんなに慌てて――って!」



 意識がハッキリしたオレは、思わず跳ね起きようとして――。



 ――そうだ、あのエクサリオとかいうヤローが……!


 オレは戦っていて、ヤツの一撃で――!



「い――っづ……!」



 ……受け身も取れず、ブザマにまた倒れ込んじまう。


 全身にはビリビリとした痺れがまだ残っててマトモに動かねえし、両腕は……なんとか骨は無事みたいだが、ひたすらに痛ェ。



 何とか頭だけもたげて、視線を走らせつつ気配を探るが……。




 あれだけ強いエクサリオの気配は――キレイさっぱり、この場からは消えていた。




 代わりに視界に入ったのは、オレと同じく、床に這いつくばった質草(しちぐさ)の姿。



「これは……お前もやられた、ってことか?」


「……ええ、不甲斐ないことに、キミが気絶してすぐに。

 こちらの攻撃なんてまるで通用しなくて……まさに赤子の手を捻るかのように、一撃で行動不能にされましたよ」



 大きくタメ息をつきながら、質草はゴロリと寝返りを打って仰向けになる。



 満足に動けないオレよりはダメージが少ないみたいだな……いや、回復力の問題か。



 〈人狼〉のオレも、しぶとさには自信があるが……さすがは〈夜の子(ヴァンパイア)〉。

 実際は違うらしいが、『不死』とまで言われるだけのことはあるってわけだ。



「で……ヤツはどうした?」


「さっさと先に行きましたよ……そもそもボクらなんて眼中に無いみたいに、トドメを刺すまでもない――みたいなことを言い捨ててね」


「チッ……ナメやがって……!」



 ハッキリ言ってアタマに来る。


 アタマに来るが……命拾いした、っつったら事実そうだろう。



「しっかし、アイツ……本当にいったい、なんだったんだ……?」



「〈勇者〉、と言っていましたね……。

 そしてあの装備、あの強さ――。

 本当に、おやっさんのように異世界から帰ってきた〈勇者〉なのかも知れません」



「クローリヒトもそうかも知れねえって話だったのに、そこへさらに1人増えたわけかよ……ったく、メンドくせえ。

 しかも、あの主張からすると……」



「……そうですね。

 実際に繋がりがあるかは分かりませんが……味方をするなら、シルキーベルたちの側へつくでしょうね」



 やれやれ、とでも言いたげに首を振りつつ、質草は立ち上がった。



「さて……どうします? この後は」


「どう……って」


「このまま、あの剣……〈世壊呪(セカイジュ)〉かも知れない存在のもとを目指すかどうか、ってことです。

 あのエクサリオとやらも向かっているでしょうし……おやっさんがいないボクらは、どうしたって戦力的に不利なわけですが」


「チッ……やっぱ、ここに突入する前に、おやっさんに連絡しとくんだったか……」



 まだ痺れてる手足に必死に力を込めて、オレもなんとか立ち上がった。



「……けどよ……ここで退くって選択はねえだろ?

 あれがもし、マジに〈世壊呪〉で……オレたちが逃げてる間に破壊されちまったりしたら。

 〈救国魔導団(オレたち)〉の目的はどうなるんだ、って話じゃねえか」



「……まあ、キミのことですから、そう言うだろうと思ってましたけどね」



 質草は、大ゲサに肩をすくめてみせる。



「そういうテメーはどうなんだよ?」



「……そうですね……。

 まず、あれが本当に〈世壊呪〉なのかどうかを見極める必要があります。

 そして、もしアタリなら……。

 あくまで本人の言を信じるならですが、クローリヒトはそれを守る側、シルキーベルやエクサリオは破壊する側となります、つまり――」



「……つまり?」



「姑息な話ですが、上手くすれば、潰し合いの間に漁夫の利が狙えるかも知れないわけですよ。

 そしてもちろんそのためには、ボクらも近くにいる必要があるでしょう――」



「要は結局、オレにあんな質問しときながら、テメーも退く気なんざさらさらなかったってことじゃねーか。

 しかも……漁夫の利狙いとか、マジで姑息だな」



 正直、オレみたいな人間からすりゃ、気に入らねえ話だが……。



 何より重要なのは――目的を遂げること、だからな。


 卑怯だろうが姑息だろうが……この際、ちっぽけなオレのプライドなんざ気にしてられねえ。



「まあ、この状況じゃそれも仕方ねえが……いかにもテメーらしい考えだぜ」


「いや、実力行使でいけるならそれでもいいんですけどね?

 ……ほら、前衛を張る特攻隊長が、速攻で撃沈する可能性もあるわけですし?」


「あ、ありゃちょっと油断しただけだってンだよ!

 次はあんな醜態はさらさねえ……っつーか、次は負けねえ……!」



 オレは無意識に、拳の骨をゴキッと鳴らしていた。



 ――そう、油断してたのが一番悪ィんだ。


 アイツは確かに強えが……ハナからそのつもりでやれば、もっと食らいつけるハズだ……!




「……エクサリオ……!」




 絶好の機会に、オレをナメて見逃しやがったこと――。


 次にるときゃ、ゼッタイに後悔させてやるからな……!











     *     *     *




 ――東祇(とうぎ)小学校、校舎屋上。


 影さえ生み出すほどの一際ひときわ濃い瘴気に覆われ、風雨さえ届かぬそこに。



 床から染み出すようにして、姿を現した魔剣は――。



 まるで、大きく肩で息をしているかのように……呼吸を整えているかのように。


 ゆらゆらと、その威容に似合わない頼りなげな動きで、宙に揺れる。




 ……計画に狂いはない。勝利は揺るぎない。

 問題など、なにも無い――。




 自らに言い聞かせるように……落ち着かせるかのように。


 〈世壊呪〉という名こそ知らないものの、その大いなるチカラの『根源』と未だに繋がりが残っていることを――。


 そのチカラが、まだ自らに流れてきていることを。



 魔剣は、確認し直す。……何度も、何度も。



 そう――この繋がりがあり、チカラを吸い上げ続けている以上、大勢は変わらないと。


 それが分かっているからこそ、邪魔者の排除も適当に切り上げただけなのだと。


 遊びは遊び、そう割り切っただけなのだと。



 決して――クローナハトと呼ばれた男の言うように、『畏怖』などを感じたわけではないのだと。


 ましてや、逃げたわけではないのだと――。




「ク、カカ……ッ!」




 ――そう、そうだ。


 思ったよりも厄介な連中ではあったが、ただそれだけ。


 後は慌てずとも当初の予定通り、ここで時が満ちるのを待つだけ。




 今少しの時間、待つだけで――





「待つだけでいい……そんな風に考えてるのか?」





「――――ッ!」



 突然投げかけられた声に、『彼』はそちら――瘴気に覆われた屋上、その端にあった、暗がりの方へ意識を向ける。




 そこにはいつの間にか……熾火(おきび)のような赤い光が灯っていた。




 それはゆっくりと、尾を引いて暗がりから外へと流れ動き――。


 陰から滲み出、分かたれるように形を取る漆黒の人影……その真紅に輝く眼としての正体を見せる。



「――キサ、マ――!?」



 『彼』はその、漆黒の人影に見覚えがあった。



 まして、それが手にする――〈聖剣〉は。


 長い間、ひとときとして、『彼』が忘れたりはしなかったものだ。



「……ナゼ、ココ、ニ……!」



「……結界内に入りさえすれば、思念も何とか通じてくれてな」



 人影は、こめかみの辺りを指でコツコツと叩く。



「泣いて逃げたお前を追え、と……。

 イジワルなアイツに、この迷宮の解法ごと指示を受けたってわけだ」



「……オノレ……! ヤツ、メ、ガ……!

 (コトゴト)ク、我ヲ、虚仮(コケ)ニ、シテクレ、ル……ッ!」



 苦虫を噛みつぶしたような声を吐き出す『彼』に対し――。


 人影は、小さく鼻で笑ったようだった。



「ヤツは――魔王、だからな?

 その『大事なもの』に手を出して……タダで済むわけないだろ」



「オノレ……巫山戯(フザケ)タ、真似ヲ……!」





「――フザケたマネやらかしてるのはお前だろうが?」





 その、物静かながら恐ろしいまでの圧を放つ一言に――。


 『彼』は、それと意識する間もなく言葉を失う。




「だけどな……グライファン。

 正直、俺は――お前に、同情する面もないわけじゃない」



 落ち着き払った様子で、続けてそうつぶやく人影。



「お前がこんなことをやらかしてるのは――そうならざるを得なかったのは。

 そもそもが、そういう風に創られちまったせいだ、って……そのことはな。

 だが――」




 切っ先が――『彼』にとって因縁深い聖剣が。


 言葉通り、刺すような敵意をもって――突きつけられる。





 まさに今、このとき――因縁に決着をつけるべく。





「……だからこそ、容赦はしない。


 お前の憐れな存在理由は――ここで俺が、終わらせてやる」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] たとえそういう風に作られたとしても。 そんな自分に疑問を持ったりする時間はいつだってあったハズ。 なのにお前は、そのチャンスをフイにしさらには反省しない……しないだろうが一応言っておくぜ。 …
[良い点] とりあえずブラック達が無事で良かったです。 作風的に退場は無いとは思ってましたが、エクサリオの性格的に懸念材料は消す非情さも感じていたので、侮った風に見せかけて殺したくなかった、という捉え…
[良い点] >「……だからこそ、容赦はしない。 >お前の憐れな存在理由は――ここで俺が、終わらせてやる」 かあっこいいいいいいい [一言] 見せ場は勇者に譲るあたり魔王さまの立場わかってる感がすご…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ