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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
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第148話 畏怖を刻むは、魔剣か魔王か――剣か魔法か



「斬リ裂イ、テ、クレル――ッ!」



 ――極限まで神経を研ぎ澄まし。


 目で見るのでなく、気配と――そこに乗るヤツの殺気だけを感じ取り。



 それが形になる前に……刹那を先んじて、足を、手を、打ち出す。



「ヌ!? グ! グゥ――ッ!」



 ――激しい火花と金属音が、断続的に空を震わせる。



 完全に斬りかかられてしまえば、今の余では、受けるかかわすかしか出来ない。


 しかし……機先を制し続ければ、話は別だ。



 徹底して速度を重視した拳と蹴りで――攻撃しようとするグライファンの出鼻を、挫き続ける。



「……す、すっげ……」



 背後から、アーサーの感嘆の言葉が聞こえる。



 ……そうだな、見ようによっては、余がヤツを圧倒しているようにも思えるだろう。



 だが――実際には、そう甘いものでもない。



 これはあくまで牽制だ。決定打にはなりえない。

 しかも、極限の集中を必要とする作業……そういつまでも続けてはいられない。



 つまるところ……相手を倒そうと思うなら、効率が悪い。

 それも、最悪なまでに。




 しかし…………()()()()()なのだ。




「……やはりキサマごとき、余の敵ではないな」



 鼻で笑いながら、集中力が限界にきていた余は、最後にもう一度――グライファンを大きく蹴り飛ばして、距離を開ける。



 さて、これで……(さか)しいヤツは『学習』してくれたことだろう。



「……オノレェ……ッ!」



「……アーサー」



 いかにも苛立たしげな声をもらすグライファンを見据えたまま……余は、アーサーを呼ぶ。



「お、おうっ!」



「……どうだ? まだやれるか?」


「ったりめーだろ……! まだまだだってーの……っ!」



 返答の雰囲気からして、強がりも相当に含まれているだろう。


 だが……逆に言えば、強がれるのならまだ大丈夫ということだ。




「……結構。

 ならばこの後は、先ほどまでのように前衛として、余が魔法を構築するだけの時間を稼げ。

 ただし――2つ、注意しておく。


 まず1つ……防御を重視して、決してムリに攻めようとするな。

 そしてもう1つ……余の指示には、絶対に、かつ即座に従え。悩むな。


 ――以上だ、分かったか?」




「……分かった。言う通りにやる!」


「よし、ならば任せる。

 ――大丈夫だ、お前ならやれる。恐れず、冷静にいけ」



「――おうっ!!」



 光の剣と化した宝剣を構え、突撃するアーサー。


 位置を入れ替わるように、余は後方に跳ぶ。



 そして、即座に……精神を集中し、魔法を構築するための魔力を体内で練り上げる。



「弱キ者、ガ――邪魔ヲ、スル、ナ……ッ!」


「へんっ、後でイタい目見んのは、そーゆーこと言ってるヤツの方だって知らねーのかよ!」



 ――アーサーは先の経験から、宝剣に込める力を高めたようだ。


 今度の光の刃は容易く砕けることなく……さすがに純粋なパワー勝負では押されるようだが、なんとか上手く受け流し、さばいてみせている。



 その合間を縫って、先と同じく、いわば中位の――アルタメアでは〈貴園(きえん)(くらい)〉と呼ばれるクラスの魔法を撃ち込むが……あまり効果は芳しくない。



 ヤツめ……聖霊の話から、頑丈であることは分かっていたが……。



 刀身の根元に埋め込まれた、大振りな〈魔石〉の影響であろうが――先ほどより感じていたことながら、魔法への耐性は殊更ことさらに高いようだ。


 いきおい、余のチカラをもってしても、ベースが〈貴園の位〉の魔法では、ヤツには大したダメージにはならぬだろう。



 やはり――〈帝宮(ていきゅう)(くらい)〉まで高めねばならぬか……。



 ……はっきり言えば、それでも、ヤツを破壊するほどの威力は得られまい。


 また、この馴染みきっていない〈人造生命(ホムンクルス)〉の身体が、その魔力に耐えられるのかも不明瞭だ。


 さらには、これでチカラを使い切ってしまえば、たとえグライファンを追い払ったとて、その後はタダの〈呪疫(ジュエキ)〉にさえ対抗出来なくなるかも知れん。




 これこそまさに下策だ――――()()()()()()()()




 そう、そもそも初めから、無謀と言えば無謀な挑戦ではあったわけだ。


 かつてのアルタメアの〈勇者〉ですら、次元の狭間に送るしかなかったようなもの――それがさらにチカラを増しているというのに、全盛時に遠く及ばぬ今の余が破壊しようなどとは。



 しかし――。


 それは、一矢を報いることすら出来ぬというわけではない。



 そして……ヤツの存在が即ち、そのまま亜里奈(ありな)の苦しみであるならば――。




 その研ぎ澄まし、狙い澄ました一矢を以て。


 命までは届かずとも、ヤツの心胆を寒からしめてくれよう――。



 決して許されぬ存在に手を出した愚行への……後悔とともに!




「……(そら)(みや)、星を(しとね)(ねむ)る王、(あまね)(かかずら)う珠の冠、(いとけな)御子(みこ)――」



 これまでよりも精密に、かつ急激に、ひたすら大きく――己の内なる魔力を限界まで絞り出し、練り上げていく。


 そうして、それを逃がさぬよう、指を、腕を使って――(くう)に印を結び、陣を刻む。



「――ヌ――ッ!?」



 グライファンを包むように、小さく強固な結界を張り巡らせ――。


 その中央に、徹底して圧縮に圧縮を重ねた魔力で――小さな火を灯す。



「……其の名、太陽! 無慈悲無辜(むこ)(さけ)び、呱々(ここ)の声――!」



 右手を突き出し――


「下がれアーサー!」


 呼びかけに素早く反応し、アーサーが動くのと同時に――




「――〈天宮(てんきゅう)陽嗣(ひつぎ)〉ッ!」




 その掌上、引き金となる魔力を――握り込む。



 ――刹那。



 グライファンを包む小結界の中央……。


 余が生み出した、小さな『太陽』が――炸裂した。




「――――ッ!?」




 閃光、衝撃、熱量――。


 あらゆる面において、圧倒的な威力を誇るそれはしかし……。




「……ク、クク……クカカカ……ッ!

 ソノ程度、デハ……我、ハ、砕ケヌ……!」




「う、ウソだろ……。

 すっげー強そうな魔法だったのに……!」



 アーサーの力無い声が表すように――。


 グライファンは、さしたるダメージを受けていないようだった。



 だが……()()()()()こともある。



「……やはり――か……っ」



 一気に、限界を超える魔力を行使したせいだろう。


 ほんの一瞬、全身から力が抜け、意識が飛びそうになるが――唇を、血が滲むほどに噛み締めて堪える。




 まだまだ…………()()()()だ……!




 残る魔力を掻き集めるようにして、再度身体の内で練り上げていく。



「アーサー、頼む!」


「……お、おうっ……でも――!」


《ただし、自分の身を守ることだけ考えろ。

 それ以外、ヤツが何をしようと……決して手を出すな》



 立て続けに、余が言葉では無く『思念』を使ってそう指示を出すと……。



 アーサーはすぐさま、『何か考えがある』ように察したらしく――。


 改めて、闘志を漲らせてグライファンに向かってくれた。




「……天の宮、星を褥に睡る王……」



 ムリヤリの魔力行使に、精神から締め付けられるような、出所不明の激痛に襲われるが――そんなものに気を取られている場合ではない。


 ひたすらに研ぎ澄ませた集中力で……決して違えぬよう、魔法を構築していく。



「……遍く拘う珠の冠……」


「――クカカッ! 甘イ、ワ――ッ!」



 そこへ――。


 防御に徹するアーサーを弾き飛ばし、そのままの勢いで……グライファンが肉薄してきた。



「終ワリ、ダ――!」



 そして――凄まじい速度で、余の頭を目がけて落下してくる。


 それはまさに、必殺の一撃――。



 戦闘の指揮を執っているのが、余であることを学び。

 その得意とする戦法が、魔法であることを学び。

 その魔法の威力を学び。

 その分、近接攻撃が弱いことを学び。

 余が、腹立たしい相手であることを学び――。



 真っ先に片付けるべき存在が余であると。


 不意を突いて接近戦に持ち込めば圧倒出来ると――結論付けた。



 それゆえの……奇襲。




 ……しかしそう、それは――――




 余は、自ら踏み込んで距離を詰めながら、頭部だけを斬撃の軸から右に外し――左肩で、敢えてヤツの一撃を食らう。



「ぐっ……!」



 そして左手で……逃げられないよう、肩に食い込んだその刀身を捕らえた。




 ……それは当然、余が()()()()()ということだ……!




「――食らえ、『クソヤロー』が……ッ!」



 そもそもの、二度目の〈帝宮の位〉の魔法詠唱はブラフでしかない。

 その裏で、無詠唱で強化魔法を同時構築していたからだ。


 そして、解き放たれたそれは――



 重力魔法は、自分自身の質量を圧倒的に増大し。

 防御魔法は、肉体の一点――『額』を、限界まで鋼化し。

 攻撃強化魔法も同じく一点に集中し――威力を底上げ。



 あとは――最も大事だという『気合い』をひたすらに乗せ……!


 これまでの魔法攻撃により、もっとも装甲が弱いと判明した、刀身根元の〈魔石〉目がけ――



「仁王立ち――パチキカウンター(魔改造)ッ!!!」



 ありったけの全力で……頭突きをブチかます!!




 ――ガギィン――――ッ!!!




 ……今の余の魔力では、物理衝撃を無効にする魔法までは手が回らない。


 その分、徹底的に威力を高めた一撃は、こちらにもある程度返る。

 それは、仮面越しでも余の鋼化した額を割り、血が飛び散るが……。




「ギイイイィィィィィ――――ッッッ!!??」




 ヤツの絶叫が、すべてを物語っている。


 ……向こうの痛みは、それどころではないらしい――と。



 もちろん、これでヤツがへし折れたりするわけではないが……。

 間違いなく、想像以上の痛みだったことだろう。


 そもそも攻撃を受けづらく――またヤツ自身も、受けないようにと意識していた箇所への、予想外の一撃なのだからな。



 フン……〈魔石〉に、微かながらヒビを入れてやったわ……!




「いいぞ……その情けない悲鳴を聞きたかったのだ」




 したたり落ちてきた血を舐め取り、余は、挑発的に笑ってやる。



「ギ、ギィィ――! キサ、マァァァ!!!」



「フン……いかにも三下らしい怒声を上げている場合か?

 ――行けアーサー、そこだ!」



 察し良く、光の刃を構えて突っ込んできていたアーサーに――アゴで〈魔石〉を示してやる。



「っしゃあああっ!

 烈風閃光(れっぷうせんこう)ぉ――疾風(しっぷう)けーーーんッ!!!」



 アーサーは余の指した通り……突進の勢いを乗せた突きを、寸分違わず〈魔石〉に食らわせた。



 それは、残念ながら弾かれはするものの――。



 ピシリ――と。

 〈魔石〉のヒビがほんの僅か、しかし確かに……広がる。



「ギイイィィィッ!!?? アアアァァァッッ!!!」



 悲鳴を上げて暴れようとするグライファンを、食い込んだ左肩から解放する。


 その際、満身創痍のこの身体は上手く動かず、一撃をもらいそうになったが……アーサーがそれをとっさに弾いてくれた。



「……すまぬ、助かった」


「へへっ……!」



「……オ、オノレ、オノレ、オノレェェ……ッ!」



 一旦距離を取ったグライファンは、いかにもな怨嗟の声を上げるが……。




「フン……どうした? 先程までと違い、剣先がブレているぞ?


 最も弱い部分に、予想を超える一撃を入れられるのは、さぞかし『痛かった』だろう?

 さらに一撃をもらうような真似は『もう御免』だ……そう考えているのだろう?

 キサマの予測を覆した余を、『危険』だと……そう判断しているのだろう?

 その上で、『尻込み』しているのだろう?


 ――良かったな?

 今、心など無いはずのキサマが感じているそれが……。


 先に刻んでやると宣言した、余への『畏怖』だ。

 亜里奈を苦しめるという愚行への――代償の一つだ……!」




「……ク……クク……クカ、クカカ……ッ!

 ヌカ、セ……! 良イ、良イ、ワ……!

 後、少シ、デ、我ハスベテ、ノ『チカラ』ヲ、得ル……!

 キサマ、ラ、ニ……拘ル、必要モ、ナイ……!」



 グライファンは、切っ先を翻したと思うと――。



 そう捨て台詞を残し、空間を裂いて……その向こうへと、姿を消した。




「……アイツ、逃げた……のか?」



「そのようだな。

 ひとまずは、なんとか生き延びた……と、いうわけだ。

 もっとも――」



 余は、左肩のケガを、初歩的な治療魔法で応急処置しつつ……。


 また湧き出した〈呪疫〉どもをニラみ――アーサーに声を掛ける。



「……まだ、休ませてくれる気はないらしいが」


「どーせそんなこったろーと思ってたっての……!

 でも……それよりアイツ、元凶なんだろ? 追っかけなくていいのかよ?」



「――それなら問題ない」



 余は、ふん、と鼻を鳴らして笑ってみせた。




「ヤツに残る代償は……あとは、〈勇者〉が取り立てるであろうよ」






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初のアーサーへの長めの指示……よくグライファンが襲ってこなかっただなぁ(;゜Д゜) [一言] 頭突きも頭突きで最高ですよね( ´∀` ) さらにはナイスザマァで最高でした( ´∀` …
[一言] 魔王様流石! かっこいい!! 「余は……」の件が最高です ☆彡 頭突き痛そう Σ( ̄□ ̄|||) 大丈夫!? 魔王様好きなので、このシーンはもっと凝っていただいてもいいかも (*´▽`*…
[良い点] 魅せますねえ! アーサーに前衛を任せるのは、正直大丈夫か? と思いましたが、それはハイリアが彼を見所のある男と認めている証拠で、見事にその期待に答えたアーサーという展開でが充分に熱い上に…
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