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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
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第146話 その数的有利は、戦力差を覆せるか?



「……ったく、どーなってやがンだよ、このガッコは……!」


「魔術式による結界の一種で、空間を歪めているようですね……。

 ヘタに単独行動はしないで下さいブラック、一旦離れると合流するのが難しそうです」




 ――廊下を進んでいたはずのオレたちが出たのは……体育館だった。


 こんな事態に直面すりゃ、結界の中に魔術的な力が作用しているのは、質草(しちぐさ)に言われるまでもなく……そのテの知識がロクにないオレでも分かる。





 ……河川敷での戦いの後、急な出現を感知した、この小学校を覆う結界――。



 あの『意思』を持っていたアヤしげな剣のことも気になるし……クローリヒトどもに続き、シルキーベルも向かったとなりゃムシ出来ねえってことで、オレたちも後を追ってきたわけだが……。



 まさか、こんな胸クソ悪ィ状態になってるなんてな。



 結界内の空気は邪悪に澱んでサイアクだし、多分あの剣のモンだろう、イヤな気配は段々と強くなってやがるしで――。


 ハッキリ言って、気に入らねえ。



 時間が時間ってことで、校内に人が残ってなさそうなところが、せめてもの救いってヤツか。


 さすがに、何も知らねえガキが巻き込まれたりするのは見過ごせねえからな……。



「……あの剣が、このままチカラを高めて〈世壊呪(セカイジュ)〉になる――ってのも、ありえるよな」



「ええ……クローリヒトが言っていたように、確かな意思がありましたからね。

 彼の言い分との齟齬が気になりますが……」



「アイツがウソをついてたのか、なんかの理由であの剣が変わっちまったのかは分からねえが……それについちゃ、どっちでもいいこったろ。

 むしろ邪悪なモンでいてくれる方が、ブッ飛ばしてオレたちの〈楽園〉を築く礎にするのに、良心が痛まなくてイイってモンじゃねーか」



 オレが手の平を拳で打ってそう言ってやると……質草のヤツは、呆れたようにタメ息をつきつつも、「そうですね」と同意する。



「――まあ、とにかくまずは、この迷宮を抜ける必要があるわけですけど」



「……こういうときにおやっさんがいねえってのは痛ェな。

 おやっさんならこのテの魔術的な仕掛けに強そうだし、戦力的にも、この後〈世壊呪〉を相手にする可能性があるとなるとな……」



「おや、弱音ですか? 珍しい」



(ちげ)ぇっつんだよ。

 けど、さすがに正念場となりゃオレだって――」



 慎重にもなる、と言いかけたのを飲み込み――オレは。


 さっきやって来た方向へ、戦闘態勢を取って向き直る。



 そのただならない様子に――いちいち言わなくても、質草もとっさに身構えた。



「――ブラック? なにが――」


「……来る。

 あの剣じゃねえが――とんでもねえ強さの気配が……!」



 ――全身の毛が、ぞわっと逆立つ。


 なんだこりゃ……いったい何モンだ……!?




 固唾を飲んで見守るオレたちの前に――歪んだ空間を抜けて、姿を現したのは。




 頭のてっぺんから爪先まで、全身を黄金に輝く鎧に包み、マントを翻す――。


 凧みたいな形の大きな盾と、異様なまでの存在感を放つ剣を手にした〈騎士〉だった。




「む……? キミたちは……〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉か。

 あの魔剣のチカラを手に入れようと、ここへやって来た……というところかな」



 そう言う〈騎士〉の声は、やや高めで、男のような女のような、ガキっぽいモンだったが……。


 オレの『鼻』はごまかせねえ。

 コイツ……男だな。



「そういうあなたは何者です?

 お目にかかるのは初めて……だと思うのですが?」



 警戒を解くことなく問いかける質草。


 それに対して答える、黄金の〈騎士〉は――口元に、余裕たっぷりの微笑を浮かべていやがった。



「……わたしはエクサリオ。

 万難を排し、世界を守るのが役目の――〈勇者〉だ」



「〈勇者〉――だあ……?」



「一応、先を急いではいるのだけど……こうして出遭った以上、見逃すわけにもいかないか。

 邪悪なるチカラに魅せられた、キミたちのような愚か者には――」



 その、自称〈勇者〉――エクサリオは、剣の切っ先をオレたちに突きつけた。




「……早々に、退場してもらうとしよう」











     *     *     *




 霊獣ガルティエンとアーサーの漫才を打ち切った余は、ついでに、相も変わらず湧いてくる〈呪疫(ジュエキ)〉どもを、火球を放って焼却し――。


 改めて、アーサーへと向き直った。




「……さて、アーサー……。

 キサマには、このような危険に巻き込んでしまった詫びもある。こうなった以上は、改めて詳しい話をしてやるのが誠意なのだろうが……生憎あいにくと今は時間が無い。


 そして、残念ながら、事態はまだ終息していない。


 つまりキサマには、そのチカラをもって、今しばらく余とともに戦ってもらわねばならんわけだが……やれるか?」




「――ったりめーだろ!

 この烈風鳥人(れっぷうちょうじん)ティエンオーが、こんな程度で弱音なんか吐くかよ!」



 アーサーは気合いたっぷりに良い返事をしてみせる…………が。


 それは、気力体力ともに充実、というよりは――。



「……空元気からげんき、か」



《おう、さすが鋭いのう、イケメン。

 ……やる気だけはあるんじゃが、こやつ、さすがに限界が近くてのう……》



「ンなことねーよ! まだやれるっての!」



「ふむ……やる気はあるのだな? 良かろう。

 ――どれ、その宝剣とやら、しばし余に預けてみろ」



 言って、余が手を差し出すと……。


 アーサーは、その手と余の顔を何度か見比べた後、思ったよりは素直に宝剣を渡してきた。



 ふむ……なるほど。


 こうして直に手に取ると分かるが……思った以上にチカラのある剣のようだ。


 あるいは、今の……〈真の力〉を解放していないガヴァナードより強力かも知れん。



 もっともそれも、チカラをすべて引き出せれば、の話で……。



 いきおい、成り行きでひとまず使えるようになっただけのアーサーでは、さすがにまだまだムリというものだが。



 さておき……この剣に、余の魔力を拒むような要素はないようだな。


 ならば――。




「……………………」




「…………。

 お、おい……クローナハト? おい?」



「ふむ……こんなところか」



 余が宝剣を握ったまま押し黙っていたことで、不安になったらしいアーサーが声を掛けてきたところで……。


 ちょうどやろうとしていたことが終わった余は、「そら」と宝剣をアーサーに返してやった。



「いったい何やった――って、おお? おおおおっ……!?

 な、なんだコレ……!

 持ってるだけで……スゲーっ! なんか、力が出てくる……ッ!」



 宝剣を握ったアーサーは、さっきよりも明らかに元気にはしゃぎ始める。



《……体力活性の魔力付与(エンチャント)――じゃな。

 それも、これほどのものをこの短時間に、とは……恐るべきイケメンじゃのう》



 ……本来の力があれば、この倍以上の効果が出せたのだがな。


 まあ、成長途中の子供の身体には、むしろこれぐらいの方がいいとも言えるか……。



「――ちなみにだが……アーサー」


「おう、なんだよっ?」


「その剣にかけた魔法は、生命力をムリヤリ引き出し、活性化するものだ。

 決して、キサマの失った力を回復・補充するようなものではない。

 つまり――」


「つ、つまり……?」



 余は、唇を歪めてニヤリと笑ってやった。



「……明日は、覚悟しておけよ? 限界を超える以上、その反動が出る。

 酷いカゼのような倦怠感に加え、全身、相当な筋肉痛に見舞われるぞ。

 まあ……学校に行くどころではなくなるだろうな?」




「うっげ、マジかよ……っ!?


 ……あ〜、うん……でもまァ、いいや!

 ガッコ休む理由が出来るだけだし、ゲームでもやってりゃいいもんな!


 ――そんなことより……。

 これで、まだまだ戦えるようになった――そっちの方が大事だろ!」




「――フッ、結構。良い心がけだ」



 まあ……ノベルゲームすらマトモに出来ん状態になると思うがな。




 しかし……だ。

 そもそもここからの戦いは、それぐらいやる気でなくては困るのだ。


 なぜなら――。




 ――余は、いきなりアーサーの頭を掴みざま、後ろに放り投げる。



「うわっ!?」



 何の説明もなくそんなことをされるなどとは、当然、まるで予想していなかったのだろう。


 抵抗なく軽々と吹き飛び――しかしクルリと身軽に、受け身を取って着地した。




 そう――『本番』は、これからなのだからな……!




「い、いきなりなにすんだ――よ……」



 アーサーの口を突いて飛び出る、当然の文句が……途中でしぼんで消えていく。



 ――アーサーも、理解したのだ。




 あそこで余が投げ飛ばさねば……。

 その場に立ったままだったなら……。


 今まさに、眼前の空間を割って姿を現しつつある、赤黒く輝く禍々しい大剣に――。



 ――その身を、容赦なく斬り裂かれていたであろうことを。




 そして……その『剣』が。


 〈呪疫〉などとは、まるで別格の存在であることを――。




《うぬぅっ……!? なんじゃ、この『剣』の禍々しさは……!》


「コイツ……なんだコレ、ヤベえ……!

 ぜってーヤベえよ……!」



「これが、この事態を引き起こしている元凶……邪心剣(じゃしんけん)グライファンだ。

 ――さて、どうする?

 とても戦えない……と判断するなら、下がっていて構わんぞ。

 分を弁え、敵わぬ相手との戦いを避けるのは、決して恥などでは無い」



「…………っ!」



 余の問いかけに、アーサーは亜里奈(ありな)たちの方を見、グライファンを見――。


 それから、激しく(かぶり)を振った。




「……冗談じゃ――冗談じゃねーよっ!!!

 元凶ってことは、アリーナーがあんなコトになってんのもコイツのせいってコトだろ!?

 軍曹だって……よく分かんねーけど、コイツと戦ってるんだろ!?


 なら……そんなヤツ、ほっとけるかよ!


 オレが――烈風鳥人ティエンオーが、ブッ飛ばしてやらぁ!!!」




「フン……その恐れを知ってなお、守るべきもののため、踏み止まるか。

 余の計算通りではある、が……。

 その心意気はやはり見事。褒めてやろう――!」




「……クカカッ……!」



 魔剣を携えた〈呪疫〉が――いや、グライファン自身が、耳障りなしわがれ声で笑う。




「…………」



 余は、そのいちいちシャクに障る様子を見据えつつ一歩退き……。


 苦しげに眠ったままの亜里奈に、顔を近付ける。



 そして――




「――亜里奈。大丈夫だ。

 その悪夢は、いかにつらくとも所詮は夢。お前を害することなど出来ぬ。


 させはせぬ、余が――この名に誓い、決して。


 ゆえに恐れることなく、心安らかにあれ――」




 聞こえずとも、それが言霊として僅かでも力になれ――と、語りかけた。


 あるいは――改めて、自らを奮い立たせんがために。




「――さて、では……覚悟は良いな? アーサー……いや、ティエンオー!

 この『クソヤロー』に、身の程を思い知らせる――行くぞ!」



「おうッ!!!」




 呼びかけると同時に、余は魔力を練る。


 それに合わせて――余が指示を出すまでもなく。




 光の剣と化した宝剣を振りかざし、アーサーはグライファンへ突撃した――!






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― 新着の感想 ―
[一言] 二ヶ所でヤベェエンカウント(;゜Д゜) 結界の許容量を超える威力で学校が半壊しないかめっちゃ不安です(;゜Д゜)
[一言] 実はムトーくん好き♪(/ω\*) ツンデレ好きとしては目が離せません。 そんなフツメンツンデレスキーで美形スパダリなんて以ての外の砂臥ですが…… ハイリアァァァ!!格好いいぃぃぃ!! …
[良い点] 恐るべきイケメン! なかなか見ない表現ですけど、気に入りました。 しかし、恐るべきイケメンってなんだろう? 恐るべきイケメンとしか説明しようがないところが良いですね(笑) [気になる点…
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