表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
12章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (後編)
146/367

第144話 魔法少女シルキーベル、奮戦する!



 ――すごい勢いで振り回されるT字型定規を、職員室をぐるっと回って下がりながら……かわして、受け流して、さばき続ける。



 それ自体は……そこまで難しいことやない。


 人間離れした速さやし、当たるとかなり危なそうやけど……逆に言うたら、それだけやから。



 それよりも、問題は……!




「――先生! 気をしっかり持って! 正気に戻って下さい!」




 必死に呼びかけるけど、襲いかかってくる亜里奈(ありな)ちゃんたちの担任の先生――喜多嶋(きたじま)先生には、何の反応もない。



 やっぱり、〈呪疫(ジュエキ)〉に取り憑かれたってなったら、呼びかける程度やとあかんのかな……。



「ひひ、姫ェ! ここは一旦、戦略的撤退を計るべきでは〜っ!?」


「それじゃダメ!

 時間をかけると、魂への侵食が深くなって……きっと悪影響が出ちゃう!」



 ……でもそれは、逆に言えば。


 取り憑かれてすぐのところに遭遇出来たんは、無事に助け出すためにはむしろ幸運やった、いうわけなんやから……。



「……うん……!」



 ――覚悟を決めろ、鈴守(すずもり)千紗(ちさ)……!



 ウチは……適性無くても、未熟でも、〈呪〉を祓う〈鈴守の巫女〉!


 やらなあかんねん……!




「……カネヒラ、サポートして。

 純化した〈聖〉の力で、先生を撃ち抜いて――〈呪疫〉だけを祓います!」


「しし、しかし、姫ェ……!」



 ……カネヒラが心配するんも分かる。


 このやり方は、ヘタしたら先生に大ケガさせる危険があるんやから。



 でも――。

 この濃い〈呪〉に満ちた結界の中で、いつまでもこんな状態でおったら、それこそ危ない。



 だから、今……ウチが、やるしかない!



「――カネヒラっ!」


「いい、いえす、御意〜ッ!」



 ウチが強く言うと、その意を汲んでくれたカネヒラが、先生の牽制に向かう。



 その間にウチは、聖具〈織舌(シゼツ)〉に霊力を集中。


 そして――



「――〈清鈴(ティンクル)〉ッ!」



 霊力だけをぶつけるイメージで、織舌を突き出し――寸止め!



 ……よし、うまくいった――!


 人には基本、害が無い、純化した〈聖〉の力だけが先生を貫いて――



「〜〜〜ァァッ!!!」



 ……〈呪疫〉が消滅する――って思ったら。


 声にならへん声を上げて、先生はいきなり定規を逆袈裟に振り上げてきた!



「――ッ!?」



 虚を衝かれたウチは、かわしきれずにその一撃を――



「――あぅっ!」



 ガヅン!――って、頭にスゴい音と衝撃が響く。



 直撃やなかったけど……ヘルメットごと、思い切り頭が揺さぶられた。



「……う……ぁ……!」



 目の奥で星がちらついて……耳がキーンってする……!



 カネヒラが、棒立ちになったウチの周りを飛んで、必死に何か言うてるみたいやけど……それもはっきり見えへんし、聞き取られへん……!


 ――さらに、そこへ……!



「――あぐっ!?」



 鈍い音といっしょに、今度は左肩をすごい衝撃が襲う。


 上から、肩を殴られたみたい……!



 でもちゃんと狙ってないせいか、これも直撃やなくて――。


 脱臼したり、骨が折れたりってほどやなかったんは、ラッキーやった……!



 肩はすごい痛いし、まだ目が回ってるし、耳もおかしいけど……ウチは必死に、反射的に距離を取って、何とかそれ以上の追撃から逃れる。



「……はあ、はあ……!」




 一瞬……。


 やっぱり、ウチなんかにはムリなんや――って。



 そんな弱気が、脳裏を過ぎるけど――。




「……ッ、まだまだ……っ!」



 ウチは、歯を食いしばって、織舌を――気持ちを、構え直す。




 ――そう。

 ウチの大好きな人は……ホンマに心が強い人。


 その人が、ウチにも同じ強さがあるって言うてくれたんやから……。



 こんな程度で……弱気になんかなってられへんよ……っ!




「――カネヒラ、もう一回! お願いっ!」



 まだ耳がおかしいけど、必死に声を張り上げる。


 多分聞こえたんやろう、カネヒラはまた先生に立ち向かっていってくれた。



 あきらめへん……っ!


 一回でムリなんやったら、上手くいくまで、何回でもやるだけ……!




 ……さっきよりも強く、鋭く……純化した〈聖〉を練り上げて――。


 でも、先生に被害が出えへんように、落ち着いて、集中して――!




「今度こそ……! 〈清鈴〉――ッ!」



 もう一回、突き出した織舌を寸止めに――込めた〈聖〉の力だけで先生を撃ち抜く!




「……はあ、はあ……!」




 一拍の……間を置いて。


 先生の身体は、今度こそ動きを止めて、ヒザから崩れ落ちる……。




 ――やった、今度こそ……!




 そう思った……瞬間。


 最後の悪あがきみたいに振り回された定規が、ウチの織舌を弾き飛ばして――。



「――あっ……!?」



 続けて、先生の身体から飛び出した〈呪疫〉が……そのまま、無防備なウチに襲いかかってきた!



「ひひ、姫ェ〜っ!?」


「っ! あんまり――」



 ああ、カネヒラの声が聞こえるようになったなぁ……とか、ふと、とぼけたことを思いつつ。



 ウチは、バク宙しながら――両足で、人に近い形をしたその〈呪疫〉の、首のあたりを挟み込む。


 そんで……。



「――ナメんといてっ!」



 そのまま、足に霊力を込めつつ、頭から床に叩き付ける!


 ――まずは1回!



 続けて、足で首をロックしたまま、相手の身体を飛び越えるように勢いをつけてもう1回バク転――ムリヤリ持ち上げた相手を、再度頭から叩き付ける!



 同じ動きを繰り返して……さらにもう1回!



「……〈マッド・フランケン――」



 最後に、もう一度同じ動きで、今度は持ち上げた相手をそのまま上空に放り投げ――。

 それを連続バク転で追いかけ、こっちも跳んでまた足でキャッチ。


 空中で2回転3回転と目一杯に勢いをつけて――



「――エクスキューション〉ッッ!!!」



 足にありったけの霊力を込めつつ、もう思いっっっ切り、ズドンと床に叩き付けた!!!



 瞬間、部屋が揺れた……ような気もする。




「おおおお、ひひ、姫ェ〜……!

 は、はしたなくも、お見事にござるぅ〜……!」


「ひ、一言……余計……」



 ウチは、必死になりすぎて乱れた呼吸を整えながら、カネヒラに応える。



 ……〈呪疫〉は……。


 足の、挟んでる感触がなくなったと思ったら、そのまますぐ……チリになって消滅した。



「……ふぅ〜……」



 なんとか……なった……。



 ――にしても、夢中やったからって……ちょ、ちょっとやり過ぎたかな……。



 おばあちゃんの現役時代の得意技、〈マッド・フランケン〉ファイナルバージョンのエクスキューション、勝手にアレンジしまくってもうたし……。



 あ〜……でもおばあちゃんのことやから、この戦闘データ見たら、めっちゃ楽しそうにスーツのOSにコレの補助機能とか組み込みそうやなあ……。



 魔法少女て言うてるのに、必殺技がプロレス技(っぽいの)とか、どーなんやろ……。




「……って、そんなことよりカネヒラ、先生は!?」


「おお、もちろん無事にござりますぞ〜。姫の、それはもう見事な冴えの技により!

 今は気を失っておられまするが、おケガなどはまったくありませぬようで……」



「そう…………良かった」



 ウチは、改めて思い切り息をつく。




 ……ホンマに、良かった……助けられた……!




 ウチは、もうへたりこみそうになるぐらい、心底安堵するけど……。


 でも、赤宮(あかみや)くんがこれを見てたらきっと……『出来るって分かってた』みたいに、余裕持って穏やかに笑ってくれるんやろうなあ。





 ああ……ウチは、ホンマに。


 ウチが、赤宮くんを守らなあかんのに……守ってるハズやのに。



 その赤宮くんに、支えられて……守られてるんやなあ――。





「……して姫……この後は、いかがいたしまする?」


「うん……先生には悪いけど、気絶してはるんやったら、催眠術とかかける必要なくてちょうどええし、このまま、とりあえず襲われへんように結界だけ張って――」



 弾き飛ばされた織舌を拾い直しながら、カネヒラに考えを伝えてたウチは……ふっと違和感に気付いて言葉を止めた。



 ……え……?

 今のなに、どうなってるんっ?



「! まさか……」



 思い至ったウチは……それを試すために、もう1回――ハッキリと口に出してしゃべってみる。



「――ヘルメットの自動変換機能、壊れてもうたんちゃう?」



「………………」


「………………」



 ウチは、カネヒラと顔を見合わせる。



「やっぱり……」



 ……間違いない。


 多分、さっきの先生の、ヘルメットに当たった強烈な一撃で……正体がバレへんように、ウチの関西弁と声を自動的に変換する機能が壊れたんやね……。



「ひひ、姫ェ……」


「うん……しゃあないよ。逆に言うたら、それだけで済んだわけやし……。

 あんまりしゃべらんようにしたら大丈夫。

 いざとなったら、自力で標準語変換するから!」



 情けない声を出すカネヒラには、努めて明るくそう言うてあげる。



 実際、困ったことなんは確かやけど……今はそんなん言うてる場合ちゃうしね。




 ……で、その後、ウチは……。


 気絶してる先生をひとまず、隅の方に置いてあった小さなソファに運んでから――結界を張って、職員室を出た。




「……ほんならカネヒラ、しっかり道順とか覚えてな?」


「いい、いえす御意〜!」




 そんで、カネヒラに改めてハッパをかけてから……。



 小学校をこんなんにしてる元凶がおるハズの屋上を目指して、駆け出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >魔法少女て言うてるのに、必殺技がプロレス技(っぽいの)とか、どーなんやろ シルキーベルがピクシブ百科に出ていたならば、下の方に絶対【魔法(物理)】なタグあるかもしれない(ォィ というか大丈…
[良い点] シルキーベルちゃん、頑張ってますね! もうひたすら応援したいです。 ……正体バレるフラグとしか思えないものが……っ! これは期待して良いんでしょうか……!?
[一言] KOFのバイスの超必みたいな技ですかね。 ノーマル呪疫には勿体ないというか、オーバーキルでしたね。 んで、関西圏の人って、標準語使っても訛りがあるからそっちの人だって分かるじゃないですか(…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ