第139話 孤軍奮闘、東奔西走きりきり舞い――それでも!
「……てえぇりゃあぁっ!!!」
〈風のナイフ〉をブン投げ――近付いて、刺さったナイフでもう一撃。
そのあと、他のヤツからの追い打ちを食らわないように、すぐに距離を取る。
……だいぶ慣れてきた、この〈ブン投げコンボ〉で黒いヤツをやっつけ続けて――どれぐらいになっただろ……。
ハッキリ言って――。
「つ、疲れた……」
――黒いヤツは、廊下の前と後ろ、両方から来てる。
動きはトロいけど、ほっとくとアリーナーたちがいる第2応接室に入られるから……。
それを防ぐために、オレは……。
あっちのヤツを倒したらこっち、こっちのヤツをやっつけたらあっち――って、廊下を行ったり来たりするハメになってた。
そうやって、黒いヤツを何体もやっつけたけど……。
次から次に増えてるみたいで、行列作って向かってくるから……ちょっとずつ、ちょっとずつ……オレは、応接室の入り口の方に追いやられてる感じだ。
あっちからとこっちからの、黒いヤツらの距離がどんどん縮まってて――。
このままじゃ、挟み撃ちにされるのはオレでも分かる。
「くっそ……ヤっバいよなあ、やっぱり……!」
でも……どうにか出来る方法がねーんだよな……。
ガチの必殺技とか、もっとラクに倒せる方法があれば、一気に何体もやっつけて押し返せるのかも知れねーけど、今より良い手も思いつかねーし……。
それに何よりも、まず……さすがにしんどくなってきた。
ナイフを投げるのも思いっ切りだし、そのあと近付くのも全力ダッシュ、トドメを刺して退がるのもすぐで……。
さらに続けて、逆方向のヤツらの方にもいかなきゃいけない。
なんつーか、サイっテーの反復横跳びって感じだ……!
「……くっそ……回復アイテムとか魔法とかねーのかよ……。
軍曹も、武器だけじゃなくて、ポーションとか薬草とか、なんかそれっぽいモンも一緒に置いてってくれれば良かったのになあ……!」
ぜーぜーやりながら、そう言えば――って思い出して、半ズボンのポケットを探ると……アメが1個出てきた。
……今日、軍曹から、「なっつん先生の手伝いするからツラ貸せ」って言われたとき……。
やるって答えたら、「配給だ!」とかなんとか言って、くれたヤツだ。
ときどき軍曹が出してくる、あのクソマズい謎のレーション――じゃなくて、ちゃんとした普通のオレンジのアメ。売ってるヤツ。
「……でも、こんなときだと、あの謎レーションの方が、もしかしたらスゲー回復アイテムかも!……って期待出来たかなあ……」
それでもオレは、軍曹からもらったアメを口に放り込んだ。
……やっぱり普通のアメだ。ちゃんとオレンジの味がしてウマい。
もちろん、いきなり元気になったりとかは、しない。
でも――。
「……ああクソ、文句言ってたってどうにもなんねー……。
しんどくっても、やるしかねーんだよな……!」
やる気は……ちょっと回復した。
「でも、こんだけ戦ってるんだし、レベルアップとかしねーのかなあ……っ!」
オレはまた、一番近付いてきてたヤツに狙いをつけて、〈ブン投げコンボ〉でやっつける。
――同じ方向のヤツを、続けて2体。
そうしてから、逆サイドの方へ走って、一番良い位置でナイフを投げようとして――
「……うわっ!?」
足がもつれて転んじまった。
しかも思いっ切り、黒いヤツの前に倒れ込んで――
「――ヤっベ――!」
すぐに起き上がろうとしたけど、間に合わなくて……。
黒いヤツの、ムチみたいに伸びた腕に弾き飛ばされる。
そのとき、ラッキーなのか、黒いヤツが狙ったのか、それとも――。
もしかしたら、このナイフが自分から『そうしてくれた』のか。
間に入ったナイフで防御するような形になって……直撃はさけられた。
そのぶん、ダメージは少なかったけど……吹っ飛ばされた先は、サイアクなことに、もう一方の黒いヤツらの前。
またすぐに距離を取ろうとして――でも逃げ切れなくて。
今度こそ背中に、あの伸びた腕の……多分先の方が命中した。
「あっづぅ……っ!!!」
吹っ飛ぶってほどじゃなくて、転がされるぐらいだったけど……メチャクチャ痛い。
ついでに、転がるとき頭を廊下でぶつけたのも痛い。
……ちっちゃい頃、転んでヒザ擦りむいて大泣きしたなあ……とか、なんかそんなことをつい思い出しちまった。
もちろん、そんなのよりよっぽど痛ぇし、それこそ泣きそうだけど……。
ここで痛ぇだの、もうイヤだのってあきらめたら……!
「誰が、アリーナーと軍曹守るんだってなるもん、な……っ!」
オレは思いっ切り身体に力を込めて起き上がる。
……背中がスゲー痛くて、頭もちょっと痛いけど……ガマンだ、ガマン――!
《……け……きけ……》
……って。
なんか、結構勢いよくぶっつけたせいか、頭ン中にヘンな声が聞こえるような気がすんだけど……。
なんだよ……ゲンチョー、とかいうやつか?
それとも……まさか、この黒いヤツらが……オレに向かってしゃべってる……とか?
《……きけ……》
きけ……きけ? 聞け、って?
コイツら、何か言いたいことがあって……それを聞けってのか……?
「なんだよ、なにを……」
警戒しながら、黒いヤツに近付くと――。
――びゅんっ!
「――うぅわぁっ!?」
……あわてて飛び退く。
思いっ切り、あのムチみたいな腕で攻撃された。
「――ンだよ、どっちだよチクショー!」
ああもう、知らねー! こんなの頭打ったせいに決まってる!
アレだ、耳がキーンってなるみたいなモンだ、ゼッタイ!
……って言うか……それどころじゃなかった。
往復で攻撃食らったりしてるうちに……黒いヤツらはどっち側も応接室のすぐ近くだ。
もう、余裕なんて無い。
こうなったら……もうアレだ、籠城戦ってヤツだ!
その方が、入り口は一つなんだし、挟み撃ちされるよりマシだ、きっと!
――そうと決まれば、すぐに応接室の中に飛び込んで……一応、鍵を掛ける。
これで、ちょっとでも時間が稼げりゃいいんだけど……多分、ムリだろうなあ。
それか、もしかしたらって期待して軍曹を見るけど……。
やっぱり、まださっきまでと同じ姿勢でソファに座ってるだけだった。
アリーナーも……寝たままだ。
いや……息の仕方が、さっきよりもしんどそうになってるかも知れない。
「……おい、アリーナー、大丈夫か……!?
しっかりしろよ、お前、つえー悪魔だろーが!
軍曹だってすぐに戻ってきてくれるから、もうちょっとぐらい頑張れよ!」
近くまで寄って声をかけても……反応はない。
スゲーしんどそうなのは、見ててかわいそうになるけど……。
スゲー静かになっちまうよりは……間違いなく生きてて、きっとコイツなりに頑張ってるんだって思えて、まだマシなのかも……。
そんなことを考えてると――。
バンって、スゴい音を立てて、扉が倒れて……そこに、黒いヤツが姿を見せた。
「っくしょー……やっぱカギなんて意味ねーか……!
――ああもう、いいかアリーナー、頑張れよ!
オレが戦ってやるんだからな!
カゼだか他の病気だか知らねーけど、お前だってあきらめんなよ!」
オレは何度もアリーナーに言ってやって、あらためて黒いヤツに向かってナイフを振りかぶり、ブン投げようとしたところで――
「――――っ!!??」
ソイツの後ろから、するっと部屋に入り込んだ別のヤツが――軍曹の方に向かうのが見えた。
そっちに気を取られて、中途半端に手を離れたナイフは、あっさり弾き返されて床に転がって――。
「……っ! くっそ!」
でも、それを拾いに行ってるヒマもなくて。
オレは、黒いヤツの腕から軍曹を守ろうと――
「――軍曹っ!!!」
キャンプのとき――軍曹がオレを助けてくれたみたいに。
軍曹をかばうみたいに飛びついて、いっしょに床に倒れ込んだ。
伸びる腕が当たったみたいで、肩に痛みが走ったけど……そんな場合じゃない。
その黒いヤツは、すぐ間近まで迫ってきてて――。
でも、武器が――!
……いや、まだある!
オレは、いっしょになってソファから転がり落ちた軍曹のリュックを引き寄せて、中に手を突っ込んで……!
「――悪ィ軍曹、勝手に借りる!」
指が触れたソレを引っ張り出すと同時に――オレたちに覆い被さってくる黒いヤツに、思いっ切り押し付ける。
そして――
「くらえええっ!!!」
気合いを込めて、ひたすら引き金を引きまくった。
ホンモノじゃねーから、銃声――なんて、しなかったけど。
「はーっ……! はーっ……!」
目の前まで迫ってた黒いヤツは――。
軍曹のエアガンで、穴だらけになって……そのまま、消滅した。