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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第137話 魔剣の狙い、聖霊の誤算



「――はぁっ!」



 カネヒラが飛び回ってかく乱してくれている間に、聖なる力を込めた〈織舌(シゼツ)〉の一撃を繰り出して――。


 ウチは、赤い〈呪疫(ジュエキ)〉をなんとか討ち祓った。



「ふぅ……っ」



 息を整えながら、まずは能丸(のうまる)さんも無事なんを確認して、それから……。



 視線を、川べりで――なんか大きくて不気味な剣を持った、ボスっぽい雰囲気の〈呪疫〉と戦ってるクローリヒトの方に向ける。



 かなり強そうな相手やったけど……ちょうど、その瞬間。



 クローリヒトの、ホンマに剣を振ったんかどうか分からへんぐらいの――すごい速さの斬撃が、〈呪疫〉を斬り裂いて。


 飛ばされた剣だけが――宙を舞って、川の中に落ちる。



「…………」



 これまでよりも強いハズの〈呪疫〉たちを大量に、一気に殲滅した凄まじい剣技もやけど……さすがクローリヒト。


 やっぱりって言うか、ウチと戦うときとか、ゼンゼン本気出してなかったみたい。



 ウチも、初めて会ったときに比べたら、実戦経験も積んだし、おばあちゃんに変身セットをちょっとずつアップデートしてもらったりで、段違いに強くなったと思うんやけど……。



 まだまだ、真っ正面から戦って勝つのは……なかなかに難しそう。



 ……うんまあ……戦わんで済むんやったら、それが一番ええんやけど……。


 でも……。




 ――ウチには……さっきから、気になってることがあった。




 あの、〈呪疫〉が持ってた、赤黒く輝く不気味な剣……。


 〈呪疫〉なんか比べもんにならへんくらいの、すごく禍々しいチカラを感じた、あの剣。



 あれは……間違いなく、言葉を話してた。


 笑ってもいた。



 その声の雰囲気は、人間のものとは根本的になんかが違う――それこそ呪いそのものみたいな感じやったけど……。



 でも確かに、クローリヒトに向かって話しかけてた。


 それは……〈呪疫〉ではありえへんかったことで――。




 つまりあれは、『意思』を持ってるんちゃうかな、って……。




 それで……もし、そうやとしたら――



 ――『〈世壊呪(セカイジュ)〉には、意思がある。心がある。

    そしてそれは、決して破壊的なものなんかじゃない――』



 ……七夕の夜にも、クローリヒトはそんなことを言うてたけど……。


 あれが――あの禍々しい剣が、もし〈世壊呪〉の末端のような存在やとしたら。



 確かに『意思』はある、けど――。


 それに、今まさに敵対して戦ってもいた、けど――。




「……クローリヒト……あなたは……」




 クローリヒトのあの言葉を……。


 どこまで信じてええんやろうか、って――。












     *     *     *




「……王手、だな」



 俺は、ゆっくりと慎重に、グライファンが沈んだ場所に近付く。



 この大雨のせいで川の水が濁っていて、姿ははっきり見えないが……動いたりすればすぐ分かるはずだ。


 逃がしはしない――。




《……なんか……おかしい……》




 ……何か気になることでもあるのか。


 アガシーが、神妙な声でそうつぶやいた、その瞬間――。




《見事、ダ……強者、ヨ……。

 ダガ――大イナル『チカラ』、ヲ、手ニスルハ、コノ我――。

 ……勝ッタハ、我、ダ――ッ!》




 耳障りな思念が頭に響いてきたと思うと――。


 同時に、水の中から、なにかが――すさまじい勢いで俺に向かって飛んできた!




「――――!」




 だが……そんな不意打ちをむざむざ食らってやるほど、俺も甘くない。


 特攻してきたグライファンを――俺は逆に、思い切り上空に打ち上げてやった。



「……言っただろーが……ナメんな無機物」



 そして、落ちてくるところに強烈な一撃を加えてやろうと、力を溜め――。



《…………! 待って下さい勇者様!

 それ……グライファンじゃありません!》



(……なに?)



 アガシーの制止に従い、力を抜く。


 ……ややあって、目の前に落ちてきたのは――。





 あの魔剣ではなく、ただの小さな〈呪疫〉だった。





(これは……逃げられた、ってことか……?)



 目視はもちろん、気配が動くところも捉えられなかったが……。


 今のを目くらましに、自分から〈霊脈(れいみゃく)〉に沈んだとすればありえる話だ。



《そうみたい、ですが……。

 でも、それにしては、あのクソヤローの自信満々の言葉が妙に……。

 『大いなるチカラ』って、なにを――》



 何か考えをまとめているのか、ブツブツとつぶやくアガシー。



 その答えを待ちながら、後方を振り返ると……。



 ちょうど全滅したところなのか、グライファンが退くのに合わせて消えたのか……どちらにせよ、残っていた〈剣疫(ケンエキ)〉相手の戦闘も終了しているようだった。




(……どちらにしてもアガシー、今日は一度帰って――)



《――――ッ! まさか――ッ!!??》




 撤収を持ちかけようとした俺の頭に、いきなりのアガシーの大声が突き刺さる。



(な、なんだよいきなり……)



《しまった……! まさか、そんな……ッ!》



 アガシーらしくない、怯えたような声。


 その思念に合わせて、聖剣も震えているように感じる。



(――いいから落ち着け! どうした!)




《ア……アリナが、今日、体調不良を訴えたとき――『チカラが流れ込んでる』感じはありませんでした……。

 だから、関係ないんだと思ってました……!


 でも違う――違ったんですよ勇者様……!


 逆です……逆だったんです!


 アイツは……グライファンはきっと、〈霊脈〉の流れの中で、闇のチカラが集まる、〈世壊呪〉としてのアリナの存在に気付いて、知覚して――。

 そして、そのチカラを脇から奪い取っていたんです……!


 ――そう、アリナにチカラが流れ込んでくるわけがなかったんですよ……!

 アイツは、命を、チカラを吸う魔剣としての性質を利用して……その流れを自分の方へと逆転させていたんですから!


 ……だから勇者様、アリナは今、アイツに――!


 アイツに、闇のチカラどころか……〈世壊呪〉としての本質を、その命ごと根こそぎに奪われようとしてるんです!!!》




「「 何だと……ッ!!?? 」」




 アガシーの必死の訴えを受けて、俺とハイリアの声が見事に重なった。



 ――ヤツの本当の狙いが、亜里奈(ありな)だって……!?




(――くっそが……っ!

 とにかくアガシー、俺のことはいい!

 すぐに身体に戻って、亜里奈を――)


《……それが……!》



 アガシーが、今にも泣きそうな悲痛な声を上げた。



《……戻れないんですっ!

 この感じ――小学校に強力な結界が張られてるみたいで……!

 恐らくは……グライファンのヤツが……!》



彼奴(あやつ)め……自分の勝ちだとほざいていたな。

 つまりは――亜里奈を逃がさぬよう囲い込む、そのための強固な結界を邪魔されることなく完成させるべく、わざわざ自ら陽動に出ていたというわけだ……。

 ――やってくれる……!》



 ――思念による会話は、その性質上、感情が伝わりやすい。



 口調こそ冷静ながら……。

 ハイリアもまたヤツには珍しく、激昂しているのがはっきりと分かった。



「……じゃあ、アイツは今……!」



《間違いありません……! 〈霊脈〉を使って東祇(とうぎ)小学校へ……!

 ――今あそこにいるのは、アリナだけじゃないのに……っ!》



「――ッ!」



 ――俺は反射的に、小学校のある方角へ視線を向ける。



 それほど遠いわけじゃないが、一足飛びって距離でもなく――。

 どうしたって、遅れを取るのは間違いない……!



 あるいはそれすらも、グライファンは計算していたのかも知れない。


 だが――!



《……勇者!》


(ああ! 行くぞ!)



 ハイリアの思念にうなずいて答えると、俺たちは揃って地を蹴る。



「――あ! 待ってください、クローリヒト! あなたには――」



 瞬間、シルキーベルが俺を呼び止めようとしたようだが……残念ながら今、足を止めてやる余裕はない。


 悪いとは思いつつ、振り切って――その場を離れる。





(……亜里奈……待ってろ……!)





 ――雨足は地を穿つほどに強まり、風は激しく吹き荒れる。




 まだ夕暮れどきのはずの空は――。


 ドス黒い雲の下、いよいよ嵐の様相を呈していた。






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― 新着の感想 ―
[一言] くそっ!! なかなかタヌキな剣じゃないか!! やってくれる!! 最初はアリナちゃんの体乗っ取りとか予想してましたが命がヤベェ!? これは急がなければ!!
[良い点] んにゃーーっ! アリナちゃん……っっ! グライファンめ、なんということをっ! ゆるすまじー!!
[気になる点] なんちゅー終わり方をしてくれるんですか……つづき気になるじゃないですか……
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