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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第135話 小さくても、予備軍でも、勇者は決して諦めない



「……センセー、早く戻ってこねーかな……」



 なんか台風でも来たみたいな、雨と風でスゲーことになってる窓の外を見てたオレは……。


 何となく様子が気になって、ソファで横になってるアリーナーを振り返った。



 軍曹が、メーソーだとかで、ソファに座ったまま動かなくなってすぐぐらいに、アリーナーは寝ちまったんだけど……。



 寝たらちょっとはマシになるのかと思ったら、息も荒くて……。


 だんだん、もっとツラそうになってきてた。



「おい、アリーナー、大丈夫か……?」



 声かけても、返事はない。


 フツーに寝てるからだと思うけど、オレは医者でも何でもないから、それ以上は分からない。



 軍曹は、熱が出てるって言ってたし、確かにそんな感じだけど……。



「……ちょっと待ってろよ」



 ズボンのポケットに、いらねーって言ってるのに、かーちゃんがいつもゴーインに押し込んでくるハンカチがあるのを確かめて……隣の給湯室の水道で濡らして戻ってくる。



 それを、気休めかもしれないけど、アリーナーの額に乗せてやった。



 あと、棚の中に膝掛けみたいなのを見つけたから、身体の上に掛けておく。


 カゼ引いたときとかは、身体は冷やしちゃダメだって言われるしなー。



 そこまでやって、オレも一つ息をつく。


 で……ふと見えた、ズボンのベルトに挟んであるものに手をやった。



 軍曹から預かった――〈風のチカラ〉があるとかいう、ナイフだ。



 これが普通のナイフじゃない、っていうのは……オレでも、なんとなく分かった。


 なんつーのかな、雰囲気……みたいなモンがあったから。



 でも正直、もし、あの〈黒いヤツ〉と戦うことになったら、って考えると。

 前に使わせてもらった『聖剣』に比べたら……。



「やっぱちょっと……頼りねーよなー……」



 多分、メーソーとかしてる軍曹は、良く分かんねーけどきっと、なんか悪いヤツと戦ってて……あの『聖剣』は、今、そっちの方で使ってるんだろう。


 だから、しょーがねーんだけど……。



 ナイフを握って、なんとなくタメ息をつくと……。


 なんか、ナイフがぼんやり光って……握る指にビリッて、静電気みたいなのが走った。



「うわわっ……!?」



 ……な、なんだよ今の?


 まさかコイツ、頼りねーって言われて、怒ってンのか……?




「そ、そーだよな……コレ、魔法のアイテムなんだもんな……。

 怒ったりしても、おかしくねー……のか?


 ――ンじゃ……。


 おい、あれで怒るぐらいなんだ、なんかあったらちゃんと役に立てよっ?」




 オレはナイフに向かって、一言言ってやる。




 ――『アリナとわたしを、守って下さい』……。



 そう、軍曹に言われたことを思い出しながら。




 答えるみたいに、ナイフはぼんやり光るけど……。


 それが『はい』なのか『いいえ』なのかは分かんなかった。



 まあ、なんとなく……『はい』のような気もすっけど。



「でも実際には、このまま何も起こらねーのが一番なんだよなー……」



 オレは、アリーナーの向かいのソファに座ったままの――人形みたいな軍曹を見た。



「………………」



 ――ヘタにしゃべらなきゃ、アイドルなんかよりずっとカワイイ――。



 軍曹のことをそんな風に言うヤツは、男子にも女子にもまあまあいる。


 ……で、そういうヤツらからしたら、今の軍曹なんて最高にカワイイってコトなんだと思う。



 でも、オレは……なんか違うって思った。



 軍曹は……何でもかんでも興味持って、バカみたいにやかましいのが……。


 どんなコトでも、ホント楽しそうにしてるのが、一番……その……良くて。



 だから、こんな人形みたいな軍曹見てるのは……カワイイとか言うよりも、なんか、あんまし良い気分じゃなかった。



「……って! ンだよもう、オレらしくねーなぁ……」



 ……ヘンなコト考えちまった。


 このままジッとしてるのも性に合わねーし、ちょっと外の様子でも見てくるか……。



 オレは頭をガシガシ掻きながら、廊下に出て、少し先――本校舎と繋がってる昇降口の方へ行ってみた。


 ――扉越しでも分かる……外はホントに、台風みたいに荒れまくりだ。



 これ、センセーがクルマで近くまで来てくれても、ずぶ濡れになりそうだなー……。



 ウンザリしながら、一応どんなもんか確認してみようって、扉に手をかけて――。



「――――っ!」



 ……オレは、違和感に気付いた。



 扉が――鍵がかかってるとかじゃなく、まるで『動くように出来てない』みたいに、まったく動かない。



 それに――。


 窓から見える、扉一枚向こうの外は、これだけ天気が荒れてるのに――。



 ……いつの間にか、まったく音がしなくなっていて――。



「なんか――ヤバいっ!」



 反射的に、扉の前から後ろに飛び退く。


 その瞬間――。



 あれだけ動く気配のなかった扉が、バンって、壊れそうなスゲー勢いで開いて……!



 その向こう、渡り廊下に続いてるだけのはずなのに――どう見たっておかしい、全体的に黒っぽい紫色に変色した『外』から――。



 あの、『影』そのものみたいな……〈黒いヤツ〉が現れた……!




「マジかよ……!? マジで……っ!」




 ……まさか、本当に出やがるなんて……!



 とっさに、ベルトからナイフを抜いて構える。



 あの『聖剣』なら、一撃で倒せたけど……!

 このナイフは……実際、どれぐらい強いんだ?



 ……いや、軍曹が預けてくれた武器なんだ、効かねーわけない――!



 でも……倒すのにどれぐらいかかる?


 それに……アイツ確か、腕伸ばしたり出来るのに、こんなリーチ短いナイフだけで……?


 オレの方は、一撃でもマトモに食らったらヤバいかも知れないのに……?

 軍曹の助けもねーのに……?




 ……本当に、オレ…………戦うのか……?


 一人で……?




 初めて遭ったときは、アレが何だか分からなかったから、ムチャも出来た。


 でも、アレがヤバいやつだって分かった今は――。




 ヤバい、ってより……怖い、と思った。




「ああもう、くっそ! なんでだよ、なんで……!」



 なんか、自然と文句が出た。

 ムショーに腹が立った。言わずにいられなかった。



 でも――。





 ――『アーサー、あなたに一つ、お願いをします』


 ――『アリナとわたしを、守って下さい』





「…………だよ、な…………。

 ンなコト言われて――」



 オレは――。


 ナイフの柄をグッと、思いっ切り握り締めて――。



「……怖えからって、逃げられるかよッ!!!」



 ビビらないよう、思いっ切り声を張り上げて――〈黒いヤツ〉に突撃した!



「ぅぅらああーーーっ!!!」



 それで、ある程度近付いたところで……ナイフを思い切りブン投げる!


 あの〈黒いヤツ〉が腕を伸ばしたりすんのは分かってるんだから――その前に先制攻撃だ!



 ブン投げたナイフは、ちゃんと〈黒いヤツ〉に突き刺さって――しかも、しっかり効いてるみたいで……フラフラって、後ろに下がりやがった。


 その間に、一気に近寄ってナイフを引き抜き――



「くらえぇっ! 疾風剣(しっぷーけん)ッ!!」



 昨日やったロープレに出て来た技名を叫びながら、もう一回……!

 体当たりするみたいに、全力で突き刺す!




 そうしたら――。


 〈黒いヤツ〉は、チリがぶわっと舞い上がるみたいに散って……消え去った。




「――っしゃぁ……! 倒したあっ!」



 ……ゼンゼンやれる! 戦える!



 手応えを感じて、嬉しくなったその瞬間――。



 オレは――



「――ぅがっ……!?」



 いきなり――ワケも分からず、廊下を何メートルも吹っ飛ばされていた。



「……い……ってぇ……!」



 なんとかナイフは手放さずに済んだけど、身体中がメチャクチャ痛い。


 でも、このままじゃヤバいと思って、必死に手と足に力を込めて立ち上がると……。




 ――オレが倒した〈黒いヤツ〉のあとから、新手が出てきているのが見えた。




 多分、アイツの伸ばした腕にブッ飛ばされたんだな、オレ……。



「くっそ……! もう次は食らったりなんて――」



 しない、って強がろうとしたオレは……けど、それを言い切れなかった。


 ……目の前の、サイアクの光景を見て。




 新手は、1体だけじゃなくて――。


 見ている間にも、2体、3体って……増えていたんだ。



 しかも――。




「…………ウソだろ…………」



 イヤな予感がして、第2応接室の方を振り返ったら……。


 そのずっと向こう、廊下の反対側からも……〈黒いヤツ〉がやって来ているのが見えた。




 こんなの……ヤバい。ヤバすぎる。


 いくらなんでもムチャクチャだ。


 バカのオレでも分かる、難易度ハードとかそんなレベルじゃねー……!




 ……………………。



 …………でも…………でも――――!





 ――『アリナとわたしを、守って下さい』





「…………っ!

 ぅぅらああああーーーっ!!!」



 オレは、さっきと同じように、一番手近なヤツに、駆け寄りながらナイフを投げつけて――。


 ひるんでる間にフトコロに潜り込んで、トドメの一撃を食らわせる。



 それで、今度は……。


 後ろのヤツが伸ばしてくる腕に当たらないよう、すぐに後ろに転がって――距離を開けてから、立ち上がった。




 ……そうだ、ムチャクチャだ、でも――!


 ムリだって投げ出したら、ゼンブ終わりじゃねーか!



 だから――――!




「あきらめて……たまるかぁっ!!!」




 ビビりそうになるのを、思いっ切り歯を噛んで、声を出して……抑え込んで。


 軍曹のことを、アリーナーのことを、考えて――やるしかないんだって、気合いを入れて……!




 オレは……頼みの綱のナイフを、力を込めて握り直した……!






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― 新着の感想 ―
[一言] アァァァサーーーーッッッッ!!!!(;゜Д゜) カッコいいぜ!!(;゜Д゜) 負けるな!! 負けるなアーサー!!(;゜Д゜)
[良い点] 二話続けて拝読しました。 戦闘シーンすごかったです! 技名叫ぶのとか、恥ずかしいけどスッキリ、ていうのが、なんかわかりみ深い(笑) そんな中で前話の 「おかゆを作ってやろう」 というお兄…
[一言] アーサーは格好いいのだけれどもね…… 超萌えるシーンなのだけれどもね…… アガシーとのフラグが明確になっていくのが……!(血涙) 亜里奈たんにはハイリアがいるけれども……! ハイリアがい…
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