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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第134話 其は聖霊宿る聖剣、彼は闇纏う凶魔の邪剣



 ――『強力な〈呪疫(ジュエキ)〉の気配が現れた』。



 ハイリアが俺にそう告げたのは――。


 天気が荒れそうだからと、放課後の集まりは取り止め、みんなと別れて家に帰りついたちょうどそのときだった。




「……くれぐれも油断するなよ勇者。

 これまでとは明確な『違い』を感じる」




 降り出した雨、強まる風の中、変身してその気配を追った俺たちが辿り着いたのは――4日前の夜と同じ場所、柚景川(ゆけがわ)の河川敷だった。



「……ああ。この間より、明らかに難易度上げてきてやがるもんな」



 ハイリアの言葉を受けて、俺は指の骨をパキンと鳴らして拳を握る。



 川から〈呪疫〉が湧いてきているような構図こそ変わらず……いやむしろ、数で言えば明らかに前回より少ないんだが……。



 今日は、色合いがもう明らかに『赤い』。


 そう……現れた〈呪疫〉のほぼすべてが、あの〈剣疫(ケンエキ)〉なのだ。




 しかも――今回は。


 それら〈剣疫〉の群れの向こうに、まったくの別物がいた。



 人型は人型だが、自らの腕を刃のように変えている〈剣疫〉とも違い……。




 濃密な闇のチカラがそのまま形を成したような――真っ黒な大剣を携えた〈呪疫〉が。




《………………。

 なにか、アイツ……妙な気配がするような……?》



 遠目に観察していると、頭の中でアガシーがぽつりとつぶやく。



(……妙な気配?)


《あ〜……すいません、近寄ればもう少し分かるのかも知れませんけど》



(……そうか。なら、そのことは後回しだな。

 ――それよりもアガシー、小学生のお前たちの方が先に帰ってると思ったんだが……家にいなかったな?

 まだ学校か? なにかあったのか?)



《あ、えっと、それはですね――》



 アガシーは、亜里奈(ありな)と一緒に、担任の先生の手伝いをしていて遅くなったこと――。


 そして天気が崩れたので、その先生が車で送ってくれることを簡潔に説明した。



《あと……アリナが、この間の七夕のイベント準備とかで疲れが溜まってたんでしょう、体調を崩しちゃって……》


(! 大丈夫なのか?)



 俺は思わず、〈呪疫〉どもをニラみ付ける。


 まさか、〈世壊呪(セカイジュ)〉として、コイツらの影響が出てるってことは……。



《わたしもその辺は警戒しましたけど……。

 アリナには闇のチカラの流入なんてゼンゼンなかったので、単なる過労だと思います》



(……そうか)



 ひとまず胸をなで下ろす。



 まあ……でも、体調が悪いのは確かなんだろうし。


 帰ったら、また、おかゆでも作ってやるか……。



「そうなると、今日は初めから飛ばして――ちゃっちゃと片付けないとな……!」


「ああ……行くぞ」



 俺はハイリアとうなずき合うと、〈呪疫〉どもへと突撃していく。



 その動きに呼応するように、結界内には――。


 シルキーベルと能丸(のうまる)、それに〈救国魔導団(きゅうこくまどうだん)〉のブラック無刀と、道化師(ピエロ)姿のポーン参謀が続けて飛び込んできて――。




 まさに4日前の再現のごとく、俺たちは誰言うともなく自然と、対〈呪疫〉共闘戦へとなだれ込むのだった。






「――1体でも厄介な赤いヤツが、こんなに来る、なんて……!

 いきなり、いくら何でもハードだよ……ねッ!」


「っ! 能丸さんっ!」


「ひひ、姫ぇ〜っ!」



 〈剣疫〉と斬り結ぶ能丸、その死角をカバーするように回り込むシルキーベル、それをさらにフォローしようと飛ぶ武者ロボのカネヒラ――。


 しかし、サポートが主な役目だろうカネヒラには、明らかに〈剣疫〉の相手は荷が重い。



 防御に徹してもさばききれず、2体の〈剣疫〉から、一気に押し込まれるところを――。



「貸しだぞ、武者ロボ!」



 俺は脇を駆け抜けざま、まず1体を斬り捨てる。


 続いて、反応した2体目の斬撃を、蹴りで弾き――その反動を利用した回転斬りで、胴から真っ二つにしてやった。



「かか、かたじけのうござるぅ〜!」


「お前は小さくて素早いんだ、防御に回るぐらいならかく乱に徹しろ!

 それが結局は主を守ることにもなる!」



 アドバイスついでに、側にいたもう1体を突きで消滅させ……俺は一番奥のボスキャラっぽいのに向かって、群れの中心へと突っ込んでいく。



 その背中に、さらにシルキーベルの律儀なお礼の言葉も飛んできたが……それには手を振って応じるに留めた。



 一方、〈救国魔導団〉の面々は……。



「ハッ、単なる澱み風情が……ナメてンじゃねーぞ!!」


「いいですよブラック、そのまま猪突猛進でお願いします……!」


「――おいコラ、誰がブタだ!」


「……イノシシですって。

 まったく、ウマとシカなんですから」


「ああ? ウマとシカとか何のキメラだっつーんだよ……!」


「まさしくキミのことですよ……」



 ……なんか、思い切り漫才やらかしてる気もするが……。


 そのくせ、戦闘行動そのものは、恐ろしく息が合っていて堅実だ。



 ブラックが、まさしく獣のごとき素早さで、1対1にこだわらず〈剣疫〉どもを翻弄しながら、縦横無尽に拳による一撃を加えていき――。


 同じく身軽な動きで適度に距離を保ちつつ、ポーンが火炎弾や短剣を使い分けて、弱った〈剣疫〉に確実にトドメを刺していく。



 しかも、確かハイリアによれば、ブラックは〈人狼(ワーウルフ)〉で……ポーンは〈夜の子(ヴァンパイア)〉って話だったな。


 どちらも、ただの人間に比べれば圧倒的に生命力が高いわけで……多少のダメージはものともせず動けるから、こういう乱戦にはめっぽう強いみたいだ。




「さて……それでは余も、今出せる微力を尽くすとするか……!」




 ――本来のチカラが出し切れない今の状態では、それが最善だからだろう。


 俺のサポートをするような形の立ち回りをしていたハイリアだが――。



 次の俺の動きを計算してやがるらしく、群れの中心に近付いたところで前に出た。



「……(ほむら)(その)(さい)にて(さい)()(つかさ)(やく)()きて()らう――」



 そして、呪文の詠唱とともに、手と指で印を描き、魔力を集積させていく。



 それは、本来のハイリアなら、そんな準備行動すら必要としないばかりか、複数同時展開すら可能だった中位の魔法だ。


 けど今の状態だと、安定して発動させるには正式な手順を踏む必要があるんだろう。




 それでも……さすが、って言うべきか。


 俺が同じレベルのものを使うときよりも圧倒的に早く――魔法を完成させる。




「其の名、聳焔(しょうえん)! 燔燎(かがり)(とりで)炮烙(ほうろく)(あぎと)(まがき)(くらい)……!

 ――〈火園(かえん)焚城(やしろ)〉!」



 バッと右手を突き出すハイリア。



 合わせて、業火の柱が幾つも噴き上がり、連なり、壁となって広がり――。


 逃げ遅れた〈剣疫〉たちを灼き尽くしながら、群れを後退させて空所を作り出す。



「――今だ、やれクローリヒト!」


「ああ――!」



 呼びかけに応えて、俺は生み出された空所に文字通り跳び込み――。


 地面に、聖剣を突き立てる。



 そして――。



「ぉぉおおおおお…………ッ!」



 大地のものと、自らのものと……その二つのチカラが溶け合うようなイメージで、内なる闘気を爆発的に練り上げていき……。


 それが頂点に達したところで――。



閃剣(せんけん)――」



 天をも両断する勢いで、一気に聖剣を振り上げる!



臥竜冥逆咆(がりょうめいげきほう)ッ!!!」



 ただの剣風ではなく、大地をそのまま引っこ抜いて振りかざすように、噴き上がる膨大なエネルギーをまとった聖剣の一閃は――。



 降りしきる雨を止め。


 空を覆う黒雲に一条を裂き。



 刹那、前方に群れていた〈剣疫〉たちを、その逆巻き天に昇るエネルギーの奔流に巻き込んで――文字通りに消し飛ばした。



「ふぅー……っ」



 大きく息を吐き出しつつ、剣を引き戻し――残心ざんしん



《……ひっさびさに、勇者らしい本気を出しましたね》



(ま……こういうときぐらいはな。

 ――しっかし、たまには技名とか思いっ切り叫んでみるもんだなあ。

 ちょっとこっぱずかしいけど、スカッとした)



 さて……まだザコも多少残ってるが、これでボス(っぽいヤツ)への道は開けた。


 俺はあらためて、一気にボスへと距離を詰める。




 近寄るとよく分かるが、ボスは色こそ〈呪疫〉らしく黒いものの……。


 〈剣疫〉よりも大柄で、さらにはっきりとした人型をしている。



 そして、その手には――闇そのもののような、一振りの漆黒の大剣があった。




 〈呪疫〉には意思がなくても、集まって巨大化したりと、学習能力みたいなものはありそうだってハイリアも言ってたしな……。


 この剣も、俺たちと戦う中で学んだものなのか……。


 それとも、この間アガシーが危惧していたように、〈霊脈(れいみゃく)〉の汚染に、これまでとは違う何かが関わっているってことなのか……。



「どちらにせよ……これ以上おイタはさせられないんでな!」



 様子見を兼ねて、速度重視で袈裟懸けに斬りかかる。


 当然というか、ボスは――常識的に考えれば鈍重そうな大剣を軽々と振るい、俺の一撃を打ち払った。



 まあ、剣の形をしただけの〈闇のチカラ〉だっていうなら、質量なんてロクにないだろうしなあ……。


 そのわりには、受けた聖剣を通して、しっかりと重みを感じるところが卑怯というかなんというか――。




 そんなことを考えていると、俺の頭の中で……アガシーが声を漏らした。


 それも――コイツにしては珍しい、本気で驚愕しているらしい声を。




《……!? ウソ、これ……この感覚……!》


(? どうしたアガシー、何か分かったのか?)



 俺が尋ねるも……。

 その答えを聞く前に、今度はボスの方から仕掛けてくる。


 舌打ち混じりにその連撃を受け止め、さばき……合間に蹴りを入れて、強引に一旦仕切り直した。



《――!! やっぱり……やっぱりだ! 間違いない……!》


(おい、アガシー! 一体何が――)



 俺の質問に答える代わりに、聖剣ガヴァナードは勝手に動き――その切っ先を、相手の大剣の方へと向けた。


 そして――



《……テメぇぇ……ッ!

 生きてやがったか、グライファン――ッ!!》



 アガシーは相手に、怒鳴るような思念を叩き付ける。



 すると――。


 意思などないはずの〈呪疫〉の顔、その口元のあたりが……。



 明らかな嘲笑の形に、ニヤリと裂けた。




 そして……まとわりついていたものが剥がれ落ちていくように。


 闇そのものだと思っていた大剣の、外を覆う闇の部分だけが滴り、消え落ちていき――。




 あとには、美しくも禍々しい装飾に飾り立てられた……。


 明らかに〈呪疫〉などとは一線を画す、確かな実体としての――赤黒く不気味に輝く大剣が姿を現した。




《……久シイ、ナ……アガシオーヌ……》




「――――ッ!?」



 コイツ……しゃべった!? 〈呪疫〉が!?



《……しゃべったのは〈呪疫〉じゃないですよ、勇者様――》



 アガシーの意思で、聖剣の切っ先は大剣を指し続ける。



 ――え、つまり……この〈剣〉……なのか?



《……そうです。ヤツは〈邪心剣(じゃしんけん)・グライファン〉……。

 勇者様より数代前の勇者が、次元の狭間に叩き落としてやったハズの――》



 そう答えるアガシーの声は――。


 ハイリア相手に憎まれ口を叩くときとは、まるで別物の――。



《……膨大な数の人の悪意・邪念を徹底的に凝縮して創られた――》



 明確なまでの嫌悪に、彩られていた。




《……最低最悪最凶の、『意思持つ魔剣』です……!》






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[良い点] なんかさいごでぞわっときた そんなもんつくるなやー そして微力といいつつ魔王様かっこいい [気になる点] >明らかな嘲笑の形に、ニヤリと裂けた。 きもちわるいよう…… [一言] >俺の…
[一言] わぁぁぁぁぁぁ!!!! 喋る無機物…………萌えっ 喋る無機物萌えぇぇぇぇぇ!!
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