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4度目も勇者!?  作者: 八刀皿 日音
11章 凶魔が影差す〈世壊呪〉と、闇払う勇者たち (前編)
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第131話 王たる星は、夜空にかつての〈星〉を見る



 ――今日は七夕、しかも日曜だったから、みんなで準備したイベントも盛況で……。


 〈(あま)()〉は、いつもより賑わって、忙しかった。



 〈呪疫(ジュエキ)〉が出現したとかで、お兄とハイリアさん、アガシーは、しばらくお手伝いから離れてたけど……。


 そんなに遅くならずに戻ってきてくれたから、ママたちに疑われたりってことも、こっちのお仕事に支障が出るようなこともなかった。



 それから、いつも通り23時過ぎにはお店を閉めて……残った片付けの手伝いとかは、お兄とハイリアさんに任せたあたしとアガシーは(一応小学生だし)、一足早くお布団に潜り込んだんだけど……。




「うぅ~……」




 ……何だか、寝付けなかった。



 いつもより忙しく働いたし、身体は疲れてるはずなのに……。


 それとも逆に、だから……なのかな、妙に頭が冴えちゃって……。



 ちょっとはウトウトしたんだけど、一回パッチリ目が開いちゃうと、ベッドの中でごろごろしてても、一向に眠くならない。


 寝なきゃ――って思うほど、目が冴えてくる。



 明日は月曜日で学校だし、あんまり夜更かしとかしてられないんだけど……。




 ――枕元のスマホで時間を確認すると、午前2時前。


 床に敷いたお布団で寝てるアガシーも、いつも通りに(ヘンな寝言言いながら)爆睡中。




 ……っていうか、家の中は静まり返ってるから……。


 お兄もパパもママも、みんな寝ちゃってると思う。




 ――ちょっとキッチンでお水だけ飲んできて、もう一回寝直してみよう――。




 そんな風に考えて、ベッドを降りたあたしは……。



「…………?」



 窓の向こう――月の青い光の中。


 おじいちゃんとおばあちゃんのお家の屋根に、珍しい姿を見つけて――。



 引き寄せられるように、玄関から外に出て、裏手へ……そっちの方へ、足を向けていた。




「……あ……」




 そうして近付いてみれば。


 星空を背景に、瓦屋根の上に腰掛けていたのは、やっぱり――。



 意外と似合いそうだし、部屋着にちょうどいいかな……って、ママとあたしが選んで買ってきた作務衣(さむえ)雪駄(せった)って組み合わせに、もとはお兄のものだった薄手のジャケットを羽織った……。



 そんなアンバランスな格好なのに、それでもやっぱり目を見張るほど美人な――ハイリアさんだった。




「……どうした、亜里奈(ありな)? こんな遅い時間に」




 ずっと星空を見上げていたのに、あたしのことには気付いてたみたいで。


 視線を下げてそう尋ねてくるハイリアさんに……あたしは正直に答える。



「……なんだか、寝付けなくって。

 それで……部屋から、ハイリアさんが屋根の上にいるのが見えて……」


「――そうか」



 答えるや否や、ハイリアさんは2階の屋根の上から――ひょい、とあたしの前に飛び降りてきた。


 本当に軽々と……それこそ、階段のたった一段目から跳ぶぐらいに。



「ハイリアさんは……何をしてたんですか?」


「ああ……せっかくの七夕とやらの夜だ、天気も良いことだし、星を――と思ってな」


「……もう、日付変わっちゃってますけどね」


「まあ、そう言うな」



 微苦笑混じりに言って、ハイリアさんはあたしに手を差し出してくる。



 あたしが、どういうことだろうってその手と顔を見比べていると……。



「……眠れぬのだろう? お前もどうだ?」


「え? あ、はい……」



 思わず反射的に、こくんとうなずくあたし。



「――うむ。では……抱えるが、いいか?」


「え? 抱える?」


「そうして屋根まで運んだ方が早いからな。

 ――触れられるのがイヤなら止めるが」


「えっと……いえ、別に大丈夫ですけど……」


「そうか。では――失礼する」



 丁寧にお辞儀してくれた……と思うと、ハイリアさんはあっという間に、ひょいとあたしを抱え上げた。



「――ひゃっ!?」



 ……それは、体育祭のとき、お兄が千紗(ちさ)さんにしたみたいな……いわゆる、お姫さま抱っこってやつで……!



「あ、あの……っ!」


「イヤなら降ろすぞ。正直に言って構わん」


「え、えっと、ううん、イヤってわけじゃ……ないです」



 あたしは正直に答える。


 そう……驚いたり、ちょっと恥ずかしかったりってだけで、イヤってわけじゃなくて。



 それどころか……。

 なんだろ、妙な安心感……みたいなものがあった。



 小さい頃、お兄におんぶとかしてもらったときみたいな――。



「――では、行くぞ?」



 そう言ってハイリアさんは、その場で地面を蹴って、ふわりと――。


 さっきいた屋根の上まで……文字通り、本当に……『飛び上がった』。



「うわわ……!」



 ……こういう芸当を見せられると……。


 改めて、この人が異世界の元・魔王っていうのは本当なんだなあ……なんて思ってしまう。



「余がついている、足を滑らせても大丈夫だが……一応、気を付けるようにな」



 そっとあたしを降ろしながらの気遣いに、はい、と素直にうなずく。


 そうして、座ろうとしたら……ハイリアさんが自分のジャケットを脱いで、あたしのパジャマの上から羽織らせてくれた。



「……夜風は意外に冷たいものだからな」


「あ、ありがとうございます……でも、ハイリアさんは――」


「余なら問題ない。――魔王だからな?」


「もう……魔王でも、カゼには気を付けて下さいね?」



 あたしは苦笑いしながら……好意には甘えて、ジャケットの襟元を握りながら座り込む。


 続けて、ハイリアさんも隣に腰を下ろした。





 そうして――あたしたちは揃って、星を見上げる。





 七夕って、微妙に梅雨の時期に重なってるから、晴れない日が多いって聞いたことあったけど……。


 今夜は――あ、まあ、日付はもう変わっちゃってるけど――本当に良く晴れてて、スゴいキレイに星が見えた。



「――それで亜里奈、織姫と彦星というのは、どれになる?」


「え? あ、ええっと……」



 観察するときは東の方の空に見える――って教えられたけど、あれは夜の早い時間の話だから……。


 星も太陽と同じで東から昇って西に沈むんだし……えーっと、って言うことは……今ぐらいの時間だと……。



 あたしは北の方――ちょうどほぼ真っ正面の空に一番明るい星を探す。



 それはすぐに見つかった。

 ――琴座のベガ、織姫だ。


 あとは、そこから……星座は回転してるはずだから――。



「……あ、あった!

 あれが琴座のベガ、織姫で……それであっちが鷲座のアルタイル、彦星です」


「ふむ……なるほど。

 あれと…………こちらか」



 あたしが空に向かって伸ばした指、その動きを追って……ハイリアさんも同じく指を差して確認しながら、大きくうなずく。




「……さて……。彼らは、1年に一度しか逢えぬと、不幸を嘆くか……。

 それとも、1年に一度でも逢えると、幸福を喜ぶか……。


 ――どちらなのだろうな」




 ハイリアさんのその言葉は、あたしへの問いかけなのかな……って一瞬思ったけど。


 どうも、そういうわけじゃなかったみたい。



 でも、独り言って感じでもなくて……。


 空を見上げながら、誰かに語りかけてるみたいな……。



「……どうした?」



 ――なんとなく、あたしがぼーっと横顔を見ていたことに気付いたんだろう。



 ふっと強く吹いた風に煽られた、すごくキレイな……それこそ天の川みたいな長い銀髪を手で押さえて、ハイリアさんはこちらを見る。


 小さく首を傾げて……微笑みながら。



「あ、いいえ、なんでも……!」



 本当に何となくだったから、答えに詰まって……。


 漂った視線は、さらさらと宙に流れるハイリアさんの銀髪に止まる。



「その髪……束ねたりしないんですか?」


「ヘタをすると、聖霊と揃いになってしまうだろう?」



 髪を手ですくいながら、ハイリアさんは意地悪そうに笑った。



「だが、ふむ……長く伸ばすことにこだわりがあるわけでなし。

 見ていて鬱陶しいようなら、いっそバッサリといってみるのも――」


「そ、それはもったいないです!」



 思わず、あたしは身を乗り出していた。



 ……いや、男の人にとっては大した問題じゃないのかもだけど……。


 クセっ毛で、いまいち自分の髪が好きになれないあたしからしたら、こんなキレイな髪をバッサリとか、すごくもったいなく感じて……。



「あ、それじゃあ、三つ編みにしてあげます!

 それならアガシーと被らないし、似合うと思うし……!」


「……ふむ。では、お願いしようか」



 ハイリアさんの許可をもらったあたしは、後ろに回って……腰ぐらいまである、サラサラの髪を手に取った。



 うーん……きっちり全部三つ編みにしちゃうより、ちょっと余裕を持たせて、肩の下あたりから編むぐらいの方がカッコイイかも……。



 そんなことを考えながら、ときどき星空を見上げつつ、天の川みたいな髪を編み込んでいて、あたしは……。


 ふっ――と、ハイリアさんが短冊に書いたことを思い出していた。




 ――『()の星の願いが、永遠(とわ)に遍く照らし続けるように』




 あれは……どういう意味だったんだろう。


 織姫や彦星のことなら、あんな文字で書く必要もないはずだし……。



「そう言えば、ハイリアさん……。

 あの短冊に書いてたお願いって……?」



 つい……聞いてしまった。



 でも、金曜日に聞いたときははぐらかされたし、どうせ今回も同じだろうな……とか思ったら。


 ふむ、と一言うなったハイリアさんは――



「……余の、ハイリアという名は、古い言葉で〈王たる星〉という意味がある。

 そして……かつて、幼き頃より――。

 余の近くには、もう一人……同じように〈星〉の名をもつ者がいたのだ」



 星空を見上げたまま……話してくれた。



「魔法や技術の研究において、紛う方無き天才であった其奴そやつは――長い間争うのが当然と考えられていた魔族と人族の、和解を願う……変わり者だった。

 それこそが、双方にとって一番良い道だと信じて疑わなかった。

 ――そして、実際に……正しかった」



 あたしは、ただ……黙って、三つ編みを続ける。



「だが、余がその真意に気付けたのは、魔王となり、勇者に敗れてからだった。

 そのときになってようやく余は、その〈星〉の願い……真の輝きを知ったのだ。


 ゆえに、あの短冊に書いたのは――。


 その〈星〉の融和の光が……これからのアルタメアを永遠に照らし続けてくれるようにと、そういう願いだ」



「その〈星〉は――」


「…………ん?」



 ……今、どうしているんですか?

 ……女の人、なんですか?


 そんなことを、つい口にしそうになって……あたしは何とか思い止まった。



 ハイリアさんの態度とか、物言いとかで……なんとなく、分かっちゃったから。



「……いえ、なんでもないです」



 そして、これ以上は――。


 きっと、こっちから根掘り葉掘り聞くようなことじゃ……ないから。




「……そうか」




 そんなあたしの心のうちを察してかどうかは知らないけど……。


 それに、後ろにいるから見えないけど……。




 そうつぶやいたハイリアさんは――。



 優しく……とても優しく、笑っているような気がした。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] >七夕って、微妙に梅雨の時期に重なってるから、晴れない日が多いって聞いたことあったけど 織姫と彦星を引き離した奴、絶対確信犯だろ(ォィ [一言] ロマンチック( ´∀` ) こういう空…
[良い点] 控えめにいってめちゃくちゃ良かったです! 最近ハイリアさんの株が私の中で急上昇しておりますよー! 亜里奈ちゃんを嫁にやってもいい気がしてきましたww
[一言] こういう回があるからボンクラさんを女子だと信じて疑わなかった事を思い出した、素敵な回でした(笑)
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